転生仲間と潜入捜査
「『転生者』、だよね?」
「うん――そっちも、でしょ?」
覚悟を決めて、侍女がこくりと頷けば、
「はぁ~~っ」と、脱力したように従者は、階段の側面に寄り掛かる。
「良かった。やっと、会えた……」
『やっと』……?
少し首を傾げながら
「わたしも、他の転生者に会ったの、初めて」
伝えると、ミックが驚いたように、顔を上げて
「ほんと?」
「うん!」
「奇跡みたいだ。すごい……嬉しい」
噛みしめるように伝えた言葉を、ユナが受け止め
「わたしも」
と返す。
転生者同士、少しくすぐったそうに、顔を見合わせてから
「──でも」
「ゆっくり話してる場合じゃ、ないよね?」
「「くわしい話は、また後で!」」
「とりあえず、執事のミスター・アンダーソンに話して、何人か応援連れてくるから。ユナさんは、ここから見張ってて」
「わかった。あと、呼び捨てでいいから」
「じゃあ、こっちも『ミック』で」
「了解、ミック」
右手の親指を立てて見せれば、ふっと笑った後で
「もしゴート卿が、部屋から出てきても、後をつけたり――危ない事は、絶対しないように!」
びしっと人差し指で、釘をさしてから、足早に去っていく。
「……子供じゃないっつーの」
それでも、前世の友達同士のような、気の置けないやりとりに、自然と笑顔がこみ上げて来た。
この世界に転生したってことは――ミックも、『千バラ』ファンだよね?
誰推し、かな?
男子で乙女ゲームファンて、珍しい……はっ!もしや、前世では女子だったとか!?
あーっ、聞きたい事、たくさんあるのにーーっ‼
「とりあえず、『テリー伯父様双子事件』を解決しないと……でも」
しばらく見張っているのに、未だミックが戻る様子も、応援が到着する気配もない。
「よしっ――」
メイドの顔なんて、いちいち覚えてないだろうし、少しだけ様子を……。
午後の黒いドレスと真っ白なエプロンを、ぴしっと整えて、書斎のドアノブに、ユナは手をかけた。
ガチャッ……鍵が、かかっていると思った扉は、意外にも簡単に開く。
すうっと、深呼吸ひとつ。
「ハルーッ!ナツーッ‼ ……あらっ、失礼しました! どなたもいらっしゃらないと、思ったもので!」
大声で呼びながら、部屋に踏み込めば、奥にある大きな机の向こうで、テリー伯父様が固まっていた。
「『守り神』のウサギ達が、脱走してしまって――こちらに、入り込んでいませんか?」
さり気なく様子をうかがえば、机の引き出しや書類棚が開けられ、探し物でもしたかの様に、かき回されている。
ウィルフレッド様の書斎で、いったい何を?
伯父様とはいえ、あやしすぎる。
「い、いや――見とらんな」
おほんと咳き込みながら、早口で答えるゴート卿。
あれっ? いつもと声の感じが、違う……?
部屋の隅を探すふりをしながら、ちらちら、様子をうかがっていると、はたりと目が合った。
やばい――!
「こちらには、いないようですね――失礼しました」
早口で伝え、足早に扉に向かったところで
「待て! 見覚えあると思ったら――おまえ、シャーロットの侍女だな⁉」
後ろから、強く肩を掴まれ、薬品の匂いがする布を、口元に押し当てられる。
「うっ……」
とたんに、くらりと意識が遠くなり……ユナは、真っ暗な闇に、沈んで行った。
ミックの『やっと会えた』が、気になってくださった方は、番外編1『星月夜の誓い』をご覧ください。




