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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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転生仲間と潜入捜査

「『転生者てんせいしゃ』、だよね?」

「うん――そっちも、でしょ?」

 覚悟を決めて、侍女がこくりとうなずけば、

「はぁ~~っ」と、脱力したように従者は、階段の側面に寄り掛かる。

「良かった。やっと、会えた……」


『やっと』……?

 少し首をかしげながら

「わたしも、他の転生者に会ったの、初めて」

 伝えると、ミックが驚いたように、顔を上げて

「ほんと?」

「うん!」


「奇跡みたいだ。すごい……嬉しい」

 みしめるように伝えた言葉を、ユナが受け止め

「わたしも」

 と返す。


 転生者同士、少しくすぐったそうに、顔を見合わせてから

「──でも」

「ゆっくり話してる場合じゃ、ないよね?」

「「くわしい話は、また後で!」」



「とりあえず、執事のミスター・アンダーソンに話して、何人か応援連れてくるから。ユナさんは、ここから見張ってて」

「わかった。あと、呼び捨てでいいから」

「じゃあ、こっちも『ミック』で」

「了解、ミック」


 右手の親指を立てて見せれば、ふっと笑った後で

「もしゴート卿が、部屋から出てきても、後をつけたり――危ない事は、絶対しないように!」

 びしっと人差し指で、くぎをさしてから、足早に去っていく。


「……子供じゃないっつーの」

 それでも、前世の友達同士のような、気の置けないやりとりに、自然と笑顔がこみ上げて来た。



 この世界に転生したってことは――ミックも、『千バラ』ファンだよね?

 誰推し、かな?

 男子で乙女ゲームファンて、珍しい……はっ!もしや、前世では女子だったとか!?

 あーっ、聞きたい事、たくさんあるのにーーっ‼

「とりあえず、『テリー伯父様双子事件』を解決しないと……でも」

 しばらく見張っているのに、未だミックが戻る様子も、応援が到着する気配もない。



「よしっ――」

 メイドの顔なんて、いちいちおぼえてないだろうし、少しだけ様子を……。

 午後の黒いドレスと真っ白なエプロンを、ぴしっと整えて、書斎のドアノブに、ユナは手をかけた。


 ガチャッ……鍵が、かかっていると思った扉は、意外にも簡単に開く。

 すうっと、深呼吸ひとつ。

「ハルーッ!ナツーッ‼ ……あらっ、失礼しました! どなたもいらっしゃらないと、思ったもので!」

 大声で呼びながら、部屋に踏み込めば、奥にある大きな机の向こうで、テリー伯父様が固まっていた。



「『守り神』のウサギ達が、脱走してしまって――こちらに、入り込んでいませんか?」

 さり気なく様子をうかがえば、机の引き出しや書類棚が開けられ、探し物でもしたかの様に、かき回されている。

 ウィルフレッド様の書斎で、いったい何を?

 伯父様とはいえ、あやしすぎる。


「い、いや――見とらんな」

 おほんとき込みながら、早口で答えるゴート卿。

 あれっ? いつもと声の感じが、違う……?

 部屋の隅を探すふりをしながら、ちらちら、様子をうかがっていると、はたりと目が合った。


 やばい――!



「こちらには、いないようですね――失礼しました」

 早口で伝え、足早に扉に向かったところで

「待て! 見覚えあると思ったら――おまえ、シャーロットの侍女だな⁉」

 後ろから、強く肩をつかまれ、薬品の匂いがする布を、口元に押し当てられる。


「うっ……」

 とたんに、くらりと意識が遠くなり……ユナは、真っ暗な闇に、沈んで行った。


ミックの『やっと会えた』が、気になってくださった方は、番外編1『星月夜の誓い』をご覧ください。

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