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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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最高で特別な一日に2

 さて日にちは過ぎ、お誕生日当日。

 主役のウィルフレッドは、朝からみっちり組まれたスケジュールに追われて、あちこち走り回っていた。


「ミック……今日は何で、こんなに忙しいんだ?」

 昼食も兎穴に戻れず、ヘア村のパブで手早く済ませた領主。

 ぐったりと、馬車の座席にもたれながら、恨めしそうな顔で従者に問いかける。

「日頃あなたが、隙あらば奥方といちゃつくために、さぼっていたせいですよ!」

 ばっさりと切り捨てた、秘書兼従者のミカエルことミック。

「さて、次の予定は――陶器工房ですね!」



 最愛の奥方の実家が治めるウルフ領とここヘア領が、それぞれの名産を生かして、共同で作る事になった『ガラスドーム入り陶器のウサギの置物』。

 その試作品が出来たので明日、奥方の兄にあたるイーサン・ウルフ次代公爵が、工房を訪れる事になっていた。

 そのスケジュール等を、工房長達と細かく打ち合わせして。

 やっと兎穴に戻った時は、お茶の時間を少し過ぎていた。


「あーっ、疲れた! これで今日の予定は、全部消化したな?」

 組んだ両手をぐーっと、思い切り上に伸ばした領主に

「いえっ! まだ一つ、大事な予定が残っています」

 手帳を見ながら従者が、重々しく告げた。



「大事な予定? まだ何かあるのか……?」

 うんざりと顔をしかめる、ウィルフレッド。

「とにかく、行きますよ! こちらです」

 ミックに背中を押されて、連れて来られたのは

「温室……?」

「はい、どうぞ中に――!」

 いぶかしげな顔で扉を開け、一歩足を踏み入れた途端。


「サプラーイズ!」

 ぱあっと、目の前ではじけた、紙吹雪と薔薇の花びら。

「えっ……?」


「ハッピーバースデー!」

「ウィルフレッド様、おめでとうございます!」

 驚いて目を瞬かせるウィルフレッドに、温室の壁に沿って並んだ、使用人たちが拍手を送る。

 そして、その奥手にいるのは



「おめでとう、義弟殿! これでやっと、同い年だな?」

「主役も来たし――食べてもいいか?」

 にやりと笑う義理の兄イーサンと、そわっと料理が並ぶテーブルを見つめる、その従兄弟のジェラルド。

「乾杯の前に食べるのは、ノーグッドです!」

 ぴしりと『ステイ』を告げる、ジェラルドの婚約者、ヴァイオレット先生。


「ウィル兄様! おめでとう!」

 子ウサギの様に、ぴょんぴょん跳ねながら両手を振る、年下の従姉妹のアナベラ。

「「おめでとうございます!」」

 にっこりと告げる、その家庭教師とメイド。


「そうか、今日はわたしの誕生日か……!」

 ぽかんとしていた領主の顔に、照れたような笑みがこぼれる。

「本当に忘れてたんですか? でも、メインはこれから――あちらをご覧ください!」

 従者に促されて振り向いた時、温室の扉が開いた。



 侍女のユナが開けた扉から、ゆっくりと中に入って来たのは、

 濃いラベンダー色のドレスに映える、レースとフリルで飾られた真っ白なエプロンを付けて、白いバラを一輪刺した銀の髪をふわりと、背中に波立たせた奥方、シャーロット。

 両手でトレイを掲げ、頬を染めてにっこり。

「お誕生日おめでとう――ウィル!」


「ロッティ……!」

 思わずばっと、右手で口元を覆ったウィルフレッド。

「えっ、天使が見える――ここって天国? 天国なのか……?」

「安心してください。まだ、召されてませんから!」

 ぶつぶつと呟く領主の背中を、あきれ顔の従者がどんっと押した。


「ありがとうロッティ。そのエプロン、すっごく似合ってる……!

 えっと、そのトレイは?」

 奥方の前に歩みより、ほわーっと見惚れながら、うっとりとたずねたウィルフレッドに

「ささやかですけど――わたくしからの、プレゼントです」

 手首までの真っ白な手袋をした奥方の右手が、トレイに被せていた、ドーム型のおおいを外した。



 中から現れたのは、四角くカットされたお日様色のケーキ。

 上には真っ白なフロスティングと、小さなニンジンの飾りが乗っている。

「これは……?」

 問いかけるように、ウィルフレッドが顔を上げると、

「『キャロットケーキ』、ですわ。

 初めてここでお茶をした時に、一緒に食べた……思い出の」

 シャーロットが淡いバラ色の唇で、はにかみながら答えた。


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