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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編14】最高で特別な一日に1

今回は、全4話。

ウィルフレッドのお誕生日に向けて、頑張るシャーロットのお話。


こちらは、【番外編5】『Be my Valentine 』の少し後のお話になります。

合わせて読んで頂けたら嬉しいです♪


毎日更新します!


 思わずきゅっと、首をすくめるような冷たい風の中に、少しずつ感じるようになった、日差しのぬくもり。

 それに合わせてミモザや水仙の黄色い花が、ちらほらとほころび始めた3月の初め。

 兎穴(ヘア伯爵邸)は、シャーロットが嫁いで、最初の春を迎えようとしていた。


 領主夫人として、学校運営や病院への訪問やバザーの開催など、奉仕活動に精を出しながらも、心の片隅に居座る重大な悩み事がひとつ。

 それは、1週間後に迫った――ここヘア領の領主で、伯爵でもある夫――ウィルフレッドの誕生日。

「誕生日プレゼント、何を贈ったら喜んでくださるかしら?」



「狼城の公爵様に、奥方様が贈ってらしたのは確か――ネクタイにシガレットケース、懐中時計の鎖とかでしたね?」

「何だか、実用一点張りな物ばかりだわ」

 ばあやが思い出した、実家の母のプレゼントはどれも、ロマンティックの欠片もない。


「では、ハンカチはいかがでしょう? ウィルフレッド様のイニシャルを、奥様が刺繍されて!」

 家政婦のミセス・ジョーンズの思いつきに、

「刺繍……?」

 シャーロットの顔が、みるみる暗くなる。


 ご令嬢のたしなみでもあり、レディらしい趣味としても大人気の『刺繍』。

 もちろん、ウルフ公爵令嬢だった幼い頃から、日々はげんではいたのだが……

「可愛い黒ネコを刺繍したのに、イーサン兄様に見せたら、『すごいな、魔王か!?』って言われて。

『こいつは強そうだ!』って、ジェル兄様が魔除けとして、貰ってくださったわ」

 しょんぼりと告げられた、奥方の思い出話に、

「魔王……?」

「お嬢様はなぜか、刺繍とは相性が悪くてねぇ」

 家政婦と乳母が、揃ってため息を吐いた。



「『相性が悪い』といえば――お嬢、いえ奥様! リベンジはいかがでしょう!?」

 ピカリと名案がひらめいた侍女のユナが、キラリと瞳を輝かせる。

「リベンジ……?」

「はい、『バレンタインのリベンジ』です!」

「バレンタイン……分かったわ! 『ケーキ作り』ね!?」

 シャーロットが、弾んだ声を上げた。


『バレンタインのケーキ教室』で、チョコレートケーキ作りにチャレンジした結果――見事に惨敗した半月前を思い出して、領主夫人はぐっとこぶしを握る。

「良いアイデアだわ、ユナ! 今度こそ完璧な『バースデーケーキ』を作って、ウィルに喜んで頂きましょう!」


 美しくデコレートしてロウソクを刺した、見るからに美味しそうな、ケーキを差し出す自分と、

『すごいよ、ロッティ! ホントにきみが作ったの!?』

 目を丸くする、ウィルフレッドを思い浮かべて、

「うふっ……!」

 思わずほころんだ頬を、両手で押さえるシャーロット。


『はぁっ……尊い! 何て愛らしいお嬢、いえ奥様!』

 侍女は胸の前で、静かに両手を合わせた。



「なるほど、ウィルフレッド様の『バースデーケーキ作り』ですか!」

 バレンタインの時も先生役をしてくれた、デザート担当のキッチンメイド、マイラが深くうなずく。

「奥様のお気持ち、よ―く分かりました! リベンジ、ぜひお手伝いさせてください!」

「本当に? ありがとう、マイラ!」

「良かったですね、シャーロット様!」


 嬉しそうに笑う奥方と侍女に、マイラ先生が尋ねる。

「それではまず――奥様は、どんなケーキを作る予定ですか?」

「そうね……こう丸くて大きな、クリームとイチゴがたっぷり乗った、ふわふわのスポンジケーキかしら?」

「お誕生日のケーキと言ったら、それですよね!」

 両手で大きな円を作った奥方と、賛同する侍女の言葉を、

「あーっ、それは残念ながら、ムリですねっ……!」

 キッチンメイドは、ばっさりと切り捨てた。


「初心者がスポンジケーキを、ふっくらと美味しく作るのは、それはそれは難しいんですよ!」

「まぁっ……」

「そうなんですか?」

 困惑した顔の2人に、

「初めてでも比較的、失敗無く作れるのは――例えば、フルーツケーキとかいかがでしょう?」

 マイラが提案する。


「フルーツケーキ?」

「はい。丸い型より、長方形のブリキ製の型で焼く方が、火が通りやすいですし」

「長方形……?」

 何事かを思い付いたシャーロットが、はたと顔を上げた。

「だったら、作りたいケーキがあるわ!」

「お嬢、いえ奥様?」

「どんなケーキですか?」

「それはね……」



「良いと思います! それでしたら、ウィルフレッド様も大好物ですし!」

「さすがです、シャーロット様!」

 キッチンメイドと侍女の賛辞に、

「ありがとう、作るのが楽しみだわ……!」

 領主夫人はにっこり、楽しそうに微笑んだ。


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