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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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わたしの太陽4

「『先輩』って……弟と、お知り合いでしたの!?」

 紅茶色の瞳を見開いたソフィー先生に、

「うん、実は。バーナビーが入学したウィストン校が、たまたま、わたしの母校なんだ。

 クリケット部のOBとして時々、後輩たちの応援やアドバイスに行ってて」

 少し照れた顔で、イーサンが答える。


「イーサン先輩って、凄いんだよ!

 在校時は歴代最強のキャプテンで、ライバル校に連勝して。

 おまけに監督生だったって……みんな、めちゃめちゃ憧れてるんだ!」

 打って変わって、黒い瞳をキラキラさせながら、憧れの先輩を見つめるバニー。


「先輩……ソフィー姉様を、よろしくお願いします!」

「任せてくれ。姉上は絶対わたしが、幸せにするから!」

 がっちり握手をする、未来の義兄と義弟。


 ぽかんと眺める先生の後ろで、

「『詐欺師』とか、言ってたくせにぃ……」

「さすが『外堀から埋める』と、ウワサのイーサン様……」

「そうね――もし母校じゃなくても、何かしらツテをたどって、絶対仲良くなってそう!」

 元悪役令嬢とメイドは、『外堀埋め士』にこっそり、拍手を送った。



「さて、そろそろ品評会の、結果発表の時間だ」

 懐中時計を見たイーサンに促されて、会場に戻った一行。


「どのバラが1等かしら?」

「わたしはやっぱり、あのピンク色のがいいな!」

 小声で話していると、壇上の司会者が、手にした封筒を開いて。

「それでは発表します――第1位は鮮やかな色合いと、形の良さ、大きさが評価され、一般投票でも1番人気でした。

 オールドローズにシュラブ種を掛け合わせた新種、こちらの……『ソフィー』です!」

 中央のピンクのバラを、さっと右手で指し示した。


 拍手喝采が巻き起こる中、

「やっぱりあのバラでしたね! でも『ソフィー』って?」

「姉様と同じ名前……!?」

 目を見合わせた、ベティとバニーの横で

「驚いたわ……何て偶然」

 動揺して目をふらりと彷徨さまよわせる、ソフィー先生。

 ふと貴賓席にいた、バーリー子爵と目が合う。

 にやりと笑った子爵は、ばちーん!とウィンクを投げて来た。


「偶然――かしら? イーサンお兄様?」

 斜め上にある『すまし顔』を、元悪役令嬢がちらりと見上げると、

「はっはっは……鋭いな、アナベラ」

 次代公爵がにやりと笑って、銀色の前髪をかき上げた。



「ウルフ家が支援している『育種家』が、たまたま新種のバラの育成に成功してね。

『ぜひ、名前を付けて欲しい』って頼まれたんだ」

 発表と表彰式が終わり、人気の無くなった会場のベンチに、女性3人を座らせて。

 前に立ったイーサンが説明する。

「それであの時、バーリー子爵が、あんなにお笑いに……」

 両手で口元を覆い、恥ずかしそうに首をすくめるソフィー先生。


「へぇっ――『育種家』なんて職業があるんですね! 学校では習ってない事、まだまだたくさんあるなぁ」

 感心したように呟くのは、アナベラの脇に立つバニー。

「まだ、入学したばかりだろ? 後6年間、イヤって言うほど習えるぞ」

「うわぁ、確かに――!」

 からかうようなイーサン先輩の言葉に、わざとしかめっ面で答える。


 ふと顔を上げたアナベラが、バニーに尋ねた。

「ねぇ――学校って楽しい?」

「楽しいよ! 寮の同室の連中も、クラスメイトも、色んな奴がいて。

 あちこちから集まってるから、国中に友達出来るし。

 勉強はまぁ――ちょっとだけ、大変だけど」


「いいな~……私が行けるのは、社交界デビュー前の『仕上げ学校』くらいだもん! 習うのは礼儀作法にピアノ、ダンスとかだし」

 不満そうに、口をとがらしたアナベラに、

「そういえば、『クイーンローズ女学院』を、来年の9月から再開する予定なんだ」

 さり気なく、次代公爵が告げた。


「えっ――ホントですか!?」

 目を見開く、ソフィー先生の隣で、

「そこって、ソフィー先生とヴァイオレット先生が、教えていた学校でしょ?」

 アナベラが、ワクワクと声を上げる。


「その通り! 男子しか入学出来ない上流寄宿学校パブリックスクールに、負けない教育を目指して。

 外国語や数学、歴史に植物学、天文学まで。

 専門の教師陣が、最高レベルの授業を行う女学院だ」

 得意げに説明するイーサンに、

「へぇっ、凄いですね! そんな学校で教えていたなんて――さすが姉様!」

 バニーが、感心した声を上げた。


「『クイーンローズ女学院』……行ってみたい!

 私でも入学出来る? イーサンお兄様!?」

 弾んだ声で尋ねるアナベラに、

「もちろん! 向学心と、ご両親の承諾さえあれば」

 にっこりと答えるイーサン。

「帰ったら早速、お父様にお願いしてみるわ!」



 イーサンが取り出した、新しく刷ったばかりの学院のパンプレットを見ながら、わいわいと盛り上がる、アナベラとバニーとベティ。

 3人を見つめながら、何事かを考えている様子のソフィー先生。


 そっとかがんだイーサンが、求婚者の耳元でささやく。

「これで――あなたが、わたしとの結婚をためらう最大の理由――『アナベラの家庭教師を、途中で辞めたくないから』が、クリア出来そうですね?」



「まさか……そのために、学院の再開を!?」

『信じられない』と言う顔で、ふらりとベンチから立ち上がり。

 ソフィー・セロウは、イーサン・ウルフに。

 きっ!と、射るような視線を投げかけた。


新種のバラ『ソフィー』は、エリザベス女王の即位50年を記念して命名された『ジュビリー・セレブレーション』をモデルにしました。

ピンク色が鮮やかな、とても美しいバラです。

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