月夜のトラベリング・カーニバル2
今日は早めの投稿です。
明日からはいつも通り、13時過ぎ頃になりますので、よろしくお願いいたします。
結局、寮母さんに頼んで用意してもらった、パンとスープを大急ぎで食べて。
消灯の合図と同時に、なんとかベッドに滑り込んだ、イーサンとジェラルド。
「よし、二人共いるな――おやすみ!」
ドアを開けて覗き込んだ、監督生のチェックに、
「「はい、おやすみなさい!」」
と良い子の返事を返して、布団にくるまった。
『眠れない……』
いつもなら、横になった途端にやって来る眠りの妖精が、今夜は中々現れない。
『お腹すいたなぁ』
パンとスープだけで、食べ盛りの食欲が満足する訳もなく。
「はぁっ……」
イーサンがため息を吐いた時、隣のベッドからむくりと、ジェラルドが起き上がった。
『ジェルのヤツ……まさか狼城に帰るの、諦めてなかったのか!?』
布団の影からこっそり見張っていると、クローゼットから取り出したズボンをはき替え、頭にハンチング帽をかぶった従兄弟が
「ほらっ――お前も早く着替えろ」
潜めた声で言いながら、クラブ活動用の少しくたびれた、サスペンダー付きのズボンを、投げてよこした。
「着替えて、どーするんだよ?」
「イーサン、お前も腹が減って、眠れないんだろ?」
質問に質問で答えたジェラルドが、静かに窓を開けて
「夜食、食べに行こうぜ……!」
満月を背に、にかっと笑った。
窓から樫の木を伝って裏庭に降り立ち、寮の裏口から、こっそり抜け出した二人。
「2ブロック先に、『フィッシュアンドチップス』の屋台が出てるんだ。
いつも山盛りサービスしてくれるし、めっちゃ美味いぞ!」
先に立って、迷わず足を進める従兄弟に
「ジェル――お前、やけに慣れてるな?」
イーサンが、疑惑の眼差しで尋ねる。
「……そうか?」
「とぼけんなっ! 今までもしょっちゅう、抜け出してたんだろ!?」
「しょっちゅう――でもない。週一くらい、かな?」
けろりと答えるジェラルドに、
「週一ぃ? 何で今まで黙って……何で俺を、誘わなかったんだよ!」
むっとした顔で、イーサンが口を尖らせる。
「だってお前、『監督生』目指してるって言ったろ?
せっかく、勉強もクラブ活動も頑張ってるのに――もし誘って、それが理由でダメになったらどーする?
だからもし、今夜見つかっても、全部俺のせいにしろ」
未来の『ウルフ公爵』の黒い瞳をじっと見ながら、
「おまえの邪魔だけは、絶対にしない」
と、生真面目に答えるジェラルド。
しばし見つめ合った後で、
「ばーか……俺がそんな、ヘマするかよ?
もし見つかったとしても、先生や先輩達に信頼されてるイーサン・ウルフ様だぞ?
お前ごと、無罪放免を勝ち取ってやるよ」
次代ウルフ公爵が、にやりと笑った。
「あれっ――屋台しまってる」
「マジで? もう閉店かよ!?」
空腹を抱えてたどり着いた『フィッシュアンドチップスの屋台』はキレイに片付いて、ぽつんと台だけが残されていた。
「いつもは、もっと遅くまでやってるのに……」
「ほかに、開いてそうな食べ物屋は?」
きょろきょろと辺りを見回すも、ぽつりぽつりと街灯に照らされた通りは、静かに眠りについている。
「まいったな……んっ?」
ふと顔を上げたジェラルドが、鼻をくんっと鳴らす。
「何か、甘い匂いと揚げ物の匂い……あっちだ!」
駆け出した従兄弟を、慌てて追いかけながら
「おいっ! 何も匂いなんか……」
言いかけたイーサンの耳が、何やら楽しそうな音を捕らえた。
「音楽だっ――!」
先を争う様に、駆け出した二人の足が、裏通りの角を曲がったとたん、ぴたりと止まった。
そこに広がるのは、
手回しオルガンの少し寂し気な音が流れる、カラフルなテントや屋台が並ぶ広場。
中央では音楽に合わせて、回転木馬がゆっくりと回っている。
木馬の前には、いくつものボールを手に、ジャグリングをする道化師。
そしてネコ耳と尻尾を付けた、黒いドレス姿の少女二人が、『おいでよ、月夜のカーニャバル♪』と歌いながら、くるくる踊っている。
「サーカス……?」
「『カーニャバル』って、カーニバルの事か?」
目を丸くしてる二人に気付いた道化師が、ボールをぽーんと投げて、両手を広げた。
「『トラベリング・カーニバル』に、ようこそ――!」
「トラベリング?」
「そう! 月夜にだけ、サウザンド王国のどこかで開催する、一夜限りの『移動式遊園地』。
しかも、入場料は無料。
偶然出会えるなんて――お客さんたち、運がいいね!」
丸く赤い鼻を付け、ひだ襟の付いた、白黒の縞々衣装を着たピエロが、にんまり。
三日月のような、真っ赤な口で笑った。
『監督生』は各寮で、生徒達の指導やリーダーを担当する最上級生。
教師からも人望があり、成績優秀、スポーツ万能の生徒が、推薦で選ばれます。
とても名誉のある称号で、卒業後の人脈作り等にも役立つため、イーサンが目指しているのです。




