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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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悪役令嬢って何で出来てる?6

「わたしがいくら『イヤだ』って言っても、全然聞いてもらえないから。シャーロットお姉様に相談して、ウィル兄様か、ポートリアの伯母様――お母様のお姉様から、説得してもらおうと思ったのに……」

「ふうむ……ギボン子爵夫人はいささか、思い込みが、激し過ぎるようじゃな?」

 苦笑いしながらの、魔法使いの感想に


「そうそれっ! 『できるだけ身分の高い相手と結婚=娘と自分の幸せ』って、思い込んでるの! 大体イーサン様が、こんな子供と結婚なんて、考えるわけないでしょ⁉ それに、イーサンお兄様には、気になってる人が……」

「ほぉっ、誰じゃな?」

「あのね……ナイショよ?」


 ダンスの途中から、『アナベラ、さっき一緒にいた――しとやかな、蜂蜜みたいな髪のレデイは?』と、ちらちら気にしてて。

『よろしかったら、次のダンスを』とお誘いしたけど、『いえ! わたしは、ただの家庭教師ですから』ときっぱり断られて、密かにダメージを受けていた相手。

「わたしの新しい家庭教師、ソフィー・セロウ先生!」

 確信に満ちた声で、アナベラは答えた。



「イーサンお兄様は『一見(はかな)そうな美人で、実は自立した女性』がタイプ……って、シャーロットお姉様や、ユナが言ってたし。わたしとは全然違うけど、先生はぴったりでしょ?」

「なるほど、なるほど……それはますます、子爵夫人の計画を、阻止せんとな?」

 うむと腕を組んだ、魔法使いが

「ここはひとつ……『ギボン子爵にお願い』をしてみるのが、得策とくさくかと思うが?」


「『ギボン子爵』って……お父様⁉」

 びっくりして、目をまん丸にした、元悪役令嬢に

「その通り! 暴走した『お母様』を、いさめてもらう役目は、やはり『お父様』が、適任じゃろう?」

 にっこりと、魔法使いのトム・エバンズは、会心かいしんの笑みを見せた。



 魔法使いに、手招きされたアナベラは、部屋の隅にある、古い姿見の前に。

「よいか? 今からこのディスプレ――鏡を、『ギボン子爵の夢の中』に、繋げるからの?」

「夢の中⁉ そんなこと出来……あっ!」

 鏡の奥にぼんやりと、浮かんでくる顔。

「さぁ、話しかけてごらん?」

 とんっと背中を押されて、2、3歩進むといつの間にか、異国風の家具や置物で飾られた部屋の中で、父親と向かい合っていた。


「えっと……お父様? アナベラです」

 恐る恐る声をかけると、『ん?』と眉を上げ、ぱちくりと目をまたたいて、

「アナベラ⁉ おまえの夢を見るとは――初めてでは、ないかな?」

 今まで挨拶以外は、数える位しか話した事のない、いつも気難しい顔の父が珍しく、弾んだ声を上げる。

 それに助けられて


「お父様、わたし――そんなに早く、社交界デビューなんて、したくないの! まだやりたい事や、勉強したい事が、たくさんあって。今ソフィー先生に、異国の植物について習っていて――いつか、世界中を旅して、本物を見てみたいって、夢があるの! お願い……お父様からお母様に、『まだ早い』って、言ってください!」

 一息ひといきに思いを伝えると、父親は、驚いた顔で固まっている。


「……そうか。おまえは、『異国の植物』に、興味があるのか?」

「ええっ! アーモンドの花、つい先頃、満開だったでしょ? ずっと東の小さな島国に、そっくりのお花があるんですって! えっと、『さ』……」

「『サクラ』だろ?」

 さらりと答えた『お父様』は、初めて見る、楽しそうな笑顔だった。



「……分かった。お母様には、わたしから、よく話しておく」

「お父様! 分かってくださったのね⁉ ありがとう!」

「わたしも若い頃、異国を旅するのが、好きだったよ。サクラの島の手前、チャイナまで、行ったことも……」

 その時、懐かしそうに話していた、父の姿がぼんやりと、薄れ始めた。


「アナベラ……今度ゆっくり、話を……」

「わたしももっと、もっとお話聞きたいわ、お父様……!」

 思わず、手を差し伸べると

「アナベラッ! 触っちゃダメだっ!」

 後ろから、ナツの声が飛んだ。



「お父さんが夢から、覚めかけてるんだ。早くそこから、脱出しないと!」

「脱出って、どうやって⁉」

 隅の方から、家具や壁が、どんどん薄れて消えて行く、部屋の中。

 ぴーっ……!

 高らかに、一声鳴いて。

 舞い降りた、ふわふわの、真っ白な小鳥――いや、子供が乗れるサイズに、膨らんだ大鳥。

「えっ、アレックサ⁉」

 その背中の鞍から、ナツが手を伸ばす。


「アナベラ! 掴まって……‼」

 ナツに引っ張り上げられて、身体の前に座った瞬間、

「ぴーっ!」

 流れ星のように、アレックサは飛び立った。



 どこまでも真っ暗な、闇の中。ふわりと飛ぶ背中の上で

「トムおじいさん――ううん、魔法使いってすごいね! アレックサが、こんな大きくなるなんて! お父様の夢の中にも、入れたし……ずっと昔から、魔法を使えたのかな?」

 干し草の甘い香りのする、背後のナツにたずねると


「あのね……昔、まだ普通の人間だった時。トラ――何とか言う、大きな荷馬車を走らせてたら、急に具合が悪くなって……ひどい事故を、起こしちゃったんだって」

 少し沈んだ声で、返事が返って来た。


「えっ、じゃあ――その時に1度、死んじゃったの?」

「うん……。魔法使いだけじゃなくて、他にも事故に、巻き込まれた人がいて。その人達が今度こそ、幸せになれるように――『観察者オブザーバー』の魔法使いになって、見守ってるんだって……」



 穏やかな、ナツの声を聴きながら。

 ふわふわと揺れる、ゆりかごのような背中に座っていたら、だんだんとまぶたが、重たくなって。


「おやすみ、大好きなアナベラ」

 だれかに頬に、優しくキスされて、それから……。



読んでくださって、ありがとうございます。

魔法使いの過去は、番外編1『星月夜の誓い』とリンクしています。

合わせて読んで頂けると、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか庭師のトムさんが魔法使いで観察者で、前世のトラック運転手だったとは……!!情報の渋滞!!いやでもこれは、あくまでアナベラちゃんの夢で現実ではないんでしょうか? それとアレックサ笑いま…
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