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71話:抹殺指令とラーダの決意。

2021/12/18 16:00公開


2022/8/31 大幅改稿更新




 異世界にきてから十七日目の朝。

 

 全員目を覚ましたあと、昨日の残り物で朝飯を済ませた。

 

 ノームたちとはあっさり別れ、残ったのは従魔の仲間たちと、未だ帰れていないラーダを含む獣人たちだ。

 

 空は晴れているが、空気は乾燥している気がする。岩だらけの場所だけに、それも仕方ないか。


 それからラーダの指示で移動中、岩場を抜けて森に戻り、獣人の村があった場所を廻ったが……。




 ▽   ▽   ▽




 太陽が昇りきった昼過ぎに、俺たちはダークエルフの村に戻ってきた。


「まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかったぜ」

 ジェニスが困ったように笑っている。

 それも仕方ない。それなりの見送りをされて出て行ったのに、日帰りで帰ってきたんだ。恰好がつかないな。


「族長には戻ることは伝えてあるから、そんな気にすんな」

 帰る場所を失った獣人たちを引き受けてもらえるように、族長には予め話を通してある。


 あれから色々な場所を回ったが、全てが焼き払われていたり、村が破壊されていた。


 全ての目的地を回った結果、他の大精霊とは出会えず、生き残りとも出会わず、ラーダたち数名が残ってしまった。


 こうして、再び族長と会い、いつもの様に突然現れたツインディーネにそれまでの出来事を説明した。


「やっぱりほとんどの領域が襲われたのね……」


「今回の騒動の黒幕が、キョータロー殿と同じ異世界人で、憑き物を操っているというのが事実であれば、我らには手の施しようがありません」

 場所は族長の部屋。ツインディーネはやっぱりといった感じでイラつき、族長は諦めたように力がない。


 俺と同じ何かしらのチート染みた力を持っているなら、この世界の住人だけでは対処のしようがないだろうな。

 ここで意地を張って無理をしても、無駄死に増やすだけになるのは、今回の騒動を振り返れば一目瞭然だ。族長も理解しているのかもしれない。


 そうなると――


「……で、アンタはどうするつもりなの?」

 ツインディーネが俺を見据えている。


「とりあえずソイツを止める。人里に向かってるようだし、もしっ向かった先に帰る手段があった場合、ソイツの暴走で手段が消えるかもしれないからな」

 正直関わり合いになりたくないが、帰る手段がソイツに潰されるかもしれないなら、黙って見ている訳にはいかない。


「主はヤツの居場所が分かるのか?」


「多分なんだが、俺たちを召喚した国に向かってるんじゃないかと思ってる」

 霞の疑問に答えたが、自分でも半信半疑だ。

 だが俺だったら、復讐するために向かっていたかもしれない。

 実際向かうつもりだったしな。


「問題は、どこの国がお前さんたちを召喚していたかだなぁ」

 疾風の言う通り、どこのどんな国が召喚したのか、今現在ではなんの手がかりもない状態だ。

 

 ソイツが憑き物を使って暴れた場合、その情報を入手する場所もなくなってしまうかもしれない。

 そう考えると、今すぐにでも移動したほうがいいかもしれないな。


「……それを調べる為にも、急ぐか。族長、手筈通り獣人族たちを頼みます。俺はヤツを探しに行きます」

 立ち上がって族長に頭を下げる。ラーダたちをこの村において、急いで出るべきだな。


「……うむ。獣人族の件、了承しよう。気をつけていくのだぞ」

 事前に話は通してあるのでここはスムーズだ。これでラーダたちも大丈夫だろう。


「アタシの領域で好き勝手やってくれたヤツに、ちゃんと報いを与えておきなさいよ!」


「善処はする」

 ツインディーネから抹殺指令が出てしまった。

 仮に殺さなかったとしてもすぐにバレるだろうな。そうなると俺がヤバイかもしれない。

 

 同郷の者かもしれないやつを殺すのは躊躇われるが、ここは日本じゃない。

 日本じゃないが、殺しは犯罪なのはこの世界も変わらないだろう。


 黒幕に関しては、結果的に殺すことになると俺は確信している。

 アレだけの惨劇を起こしたヤツと、まともに話し合えるとは思っていないからな。


 ある程度の覚悟はしている……しているつもりだ。


「では行ってきます」

 再び族長に頭を下げ、外に出た。




 ▽   ▽   ▽




 獣人族たちをダークエルフたちに任せ、あとは出発――


「待ってください!」

 声のしたほうを見ると、ラーダが息を切らせている。何か忘れ物があったか?


「あ、あの!! 私もついて行っても良いでしょうか?!」

 ラーダは突然何を言い出すんだ? なんでわざわざ危険な旅路についてくるなんて言い出した?

 特にフラグを建てた覚えもない。俺がラーダに気に入られるイベントはなかったはずだ。


 であれば。ついてくる何かしらの目的があると見るべきか。


「……理由は?」


「あなたの行く先を見てみたいんです……」

 俺の行く先? 憑き物との激戦が待っているかもしれない――いや、ラーダはそのことを知らないか。それなら説明してやるべきだな。


「俺たちはこれから、今回の騒動を起こしたヤツを追う。護りきれずに死ぬかもしれないぞ」

 今更一人増えたところで構わないが、命の保証はできない。


「それでも! その先を見てみたいんです!!」


「その先って、俺の目的は元の世界に帰ることだ。まさか……一緒についてくるつもりか?」

 まさかそれはないだろう。森の外の世界を見てみたいのかもしれないが……いや、それもないか? 外は人族が獣人族を奴隷にしているようだしな、出るメリットがない。


「……はい!」


「ほう」


「ふむ」


「へぇ」


「ふぅん……」


「…………」

 まさかの反応に、霞、アスラ、疾風、アトラがそれぞれの反応を見せているが、俺は絶句だよ。

 本当に元の世界について行きたいとはな。


 空を見上げると、太陽の眩しい光が俺たちを照らしている。


 瞳を閉じ、大きく息を吸って、大きく吐いた。


「……別についてくるのは、多分、大丈夫だ。だが、一緒に向こうに世界に行けるとは限らない。元の世界に行けるのは俺だけかもしれない。それでもついてくるつもりか?」


「はい!」

 ラーダの決意は固いようだ。だがそうなると――


「主の世界か、当然私たちも行くぞ」


「当然だな。まさかわらわたちを置いて一人で帰ったりはするまい?」


「主さんの世界か。どんな場所か興味があるな」


「オレも行くぜ! 大将の世界にどんな料理があるか気になるしな!」


「当然、私も行くわよぉ?」

 そうなるよなぁ……。

 アトラの腕を抱きしめる力が強くなる。痛い。


 まだ帰れるとも、行けると決まったわけでもないのに、ジェニスも加わって行く気満々のようだ。


「わかった、わかった。とにかく今は急いで東に向かうぞ」

 黒幕もこの森を抜けるために東へ向かっているはずだ。俺たちも後を追う。


 まだ帰る手段も見つかっていない。

 その手段がヤツに消されるかもしれない。

 そうなると一刻も早くヤツを抑えないといけない。


 ヤツと一戦交えることになるかもしれない。


 俺は十億円のためにも絶対に元の世界に帰る。

 

 そのためにはどんな手段も厭わない。


 待ってろよ、十億円。


 じゃなかった。待ってろよ、黒幕。

 

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