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67話:ノームの少女

2021/12/14 16:00公開


2022/8/31 大幅改稿更新




「ねぇねぇ、キミタチって敵?」


 俺たちの前に現れたのは、褐色肌の小さな少女だった。


 パターン的に考えれば、あの子も大精霊なんだろうな。

 見た目の装飾が霞たちに似ていることからも予想できる。


「土の女神の眷属ノーム、私たちは敵ではない。ゴブリンに攫われていた獣人たちを、家元に送り届けている途中だ」

 サラマンダーのときに続いて、霞が事情を説明した。


 話を聞いたノーム……の少女はキョトンとしてるな。


「天災のヴリトラとウンディーネとシルフが、何で一緒にいるの?」

 ノームは首を傾げ不思議そうにしているが、その視線は俺を捉えているようだな……。


 全員身構えているし、アトラに至ってはいつ飛び出してもおかしくなさそうな雰囲気だ。

 ここは俺が出る方が話が早いか。


「……俺が話す」


「主」

 ウンディーネの霞ではなく人の俺を見ていたんだ、俺から話を聞きたそうにしてるからな。


「俺は京太郎。異世界から召喚された人間のテイマーだ。後ろの獣人たち以外は、全員俺がテイムした仲間だ!」


「仲間なのにテイムして、シモベにしたの?」


「……テイマーだからな」

 なかなか痛いところを突いてくるなあのノーム。

 さっきからノームの表情が変わっていない。というか、嫌な雰囲気がする。


 察したのか、霞とアトラ、更にエリザベスとアルがその前に出て、俺を庇ってくれているが……。


「……だが違うぞ!」


「何が違うの?」

 ノームの純粋な瞳が俺を見つめてくる。


「テイムはしたがシモベじゃない! 対等な仲間だ!」


「対等な仲間なら、テイムする必要はないよね?」

 チッ、見た目に反して厄介な奴だな……答えをミスれば殺し合いに発展しそうな感じだ。


「それは違うぞノーム! 私は主と共に行動する為に、進んでテイムされた! 主と一緒に旅をすることを私から求めたのだ! だから主は私たちをテイムする必要があった!」


「ふ~ん…………ウンディーネがそう言うならそうなんだね。うん、分かった!」

 重苦しい空気がなくなって楽になった気がする。なんとかノームを説得できたか。

 

 いや、説得できたと言えるのか? あんなアッサリと信じるなんて、それほどまでに霞の、大精霊の言葉は重いのか?

 それなら俺がでしゃばったのは間違いだったかもしれないな。大人しくしているべきだったか。余計なことしたかもしれない。


「それじゃ今日はもう暗くなるし、うちに寄ってきなよ!」

 ノームが両手を広げて無邪気に提案してきたが……正直あまり行きたくはない。

 ここで獣人たちを渡して別れたいが、下手に断ると面倒そうな予感がしている。


 相手は大精霊だ。地球人の俺と同じ価値観で物事を考えるべきではない。何が相手の逆鱗に触れるかわからない。

 

 シルフやサラマンダーは分かりやすかったからいいが、この小さな少女の姿をしたノームは読めない。

 面倒な相手に遭遇しちまったな……。


「どうしたの?」


「……いや、お言葉に甘えさせてもらいたいが、ベヒーモスたちは結界を通れない。ここに置き去りにするのは不安だから、この付近に住んでいた獣人たちを連れて行ってくれない?」

 エリザベスたちをお供にしておけば、不測の事態に対応しやすくなりそうだと思っているが、今は結界を通れないことを理由に辞退しておこう。


 ベヒーモスやレックスはともかく、メルルとモルダは比較的弱い魔物だ。見知らぬ土地に晒され続けるのもストレスが半端ないだろうな。これ以上あまり放置しておくのも避けたい。


「……うーーん」

 ノームは腕を組んで、目をつむって考えている。ジャッジはどうでる……?


「それじゃあ結界の前でご飯にしよっか! 色々お話とか聞きたいしね!」

 そうきたか……どうあって今日は逃げ切れないようだ。仕方ない、受け入れよう。

 これ以上拒否して勘繰られても困る。


「わかった。とりあえずここの獣人だけ、まず連れて行ってもらえるか?」


「うん、任せて! 連れてきてくれてありがとね!」


「それじゃ君と君と君と君と……君たちもだよね。帰ろっか」

 ノームに指名された四人の兎人族がアスラから降りていく。


 人間がコスプレしたような姿から、兎が人の体になったような姿と、獣人らしいラインナップだ。


「ここまでありがとうございました。助けてくれて本当に嬉しかったです」

 コスプレタイプの獣人に礼を言われ、頭を下げられた。

 まぁ救助はおまけみたいなものだったから、礼を言われるのは複雑な気分だ。が、今は素直に受け取っておこう。


「今度は捕まるなよ」


「はい!」

 笑顔でもう一度頭を下げ、軽快にアスラから降りていった。流石は兎と名が付くだけはあるか。


 残りはラーダを含めて五人か……このペースなら、次で終わりそうか?


「それじゃ行ってくるから、暫く待っててね!」


「ああ、わかった」

 そう言ってノームは兎人族たちと帰って行った。


 ……このまま逃げたら、地の果てでも追ってきそうだよな。


「それにしても、ここまで大精霊が出張ってくるとはな」

 霞がのぼやきから、ノームがやってきたことの異常性が伺える。

 

 まぁ大精霊とかああいう手合いは、滅多に人前に姿を現さないのがお約束みたいなものだと考えれば、こうやってバンバン人前に出てくるのは異常事態なんだろうな。


「そう、ですね……ウンディーネ様、シルフ様、サラマンダー様、そしてノーム様……短い間でこんなにたくさんの大精霊様たちと出会うなんて、本当なら考えられません」

 ラーダが霞に同意するように口にしたか。やはりそれだけの事が起きてるんだ。


「この憑き物騒動、やはりただごとではないな。裏に何かがあると見るべきかの」

 人型に変化したアスラが後ろにやってきた。


「今までも憑き物とは遭遇したことあったが、今回のは何かの意志を感じるんだよなぁ」

 疾風もアスラと似たようなことを言っている。黒幕の存在か……。


「考えすぎじゃないかしらぁ?」

 アトラの言う通り、アレを操れる存在なんて見当もつかないし、考えすぎている気もするが……。


「憑き物の襲撃って、過去にもよくあったことなのか?」


「……いや、こんな大規模なのは初めてだな」


「そうだな、たまに何かが襲われるくらいで、こんな規模の襲撃は初めてだろ」

 この森に長くいるであろう大精霊の霞と疾風がそう言うんだ、間違いはないだろ。


 いや、外部と接点がほとんど無さそうな二人だ、あまりアテにしすぎるのもよくないか……?


「そう言えば、そうか」


「なんだ?」

 藪から棒に霞が何かを言い出したが、俺には察することはできない。何を言おうとした?


「主と出会ったくらいから、憑き物の動きが活発になった気がするな」


「あ、言われてみればそうかもしれない!」

 霞の言うことに同意するように、ジェニスも思い当たるところがあるようだ。


「……」

 俺はその言葉だけで大体を察してしまった。


「霞と出会った時期か。俺が異世界に召喚されて、この森に棄てられた直後なんだよな」

 その時期に憑き物の動きが目立つようになったってことだ。

 

「……今回の事件なんだが、もし黒幕が存在するなら、そいつは実は俺と同じ異世界人じゃないか?」


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