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55話:ダークエルフをテイム

2021/12/3 16:00公開


2022/8/31 大幅改稿更新




 テイムできたブラウンゴート二匹には、メルルとモルダという名前を付けた。


 雌がメルルで雄がモルダだ。雄もモルルにしようと思ったが、人化して成長したとき、イカツイ見た目でモルルという名前はな……。

 

 二匹は結界を通れないので、ベヒーモス、レックスと一緒にお留守番だ。


 ベヒーモスとレックスを見た瞬間、慌ててアルの後ろに隠れたのは面白かったが、早く慣れるといいが……。



 そして今、素材を渡しに行っていたアスラと合流して、怪我人が収容されている建物までやってきている。

 相変わらず痛ましい惨状だ。


「あの、キョータロー様……」

 全員の意見を聞いてきてくれと頼んだダークエルフの女が戻ってきた。

 果たして何人が良しとするかだな……。


「結果はどうだった?」


「……全員、受け入れるとのことです」


「そうか……」

 霞に問いに、ダークエルフの女は全員が受け入れると答えた。


 全員受け入れるのか。一人くらいは反対するやつがいると思ったが、取り返しのつかない大怪我が完治するなら……俺も受け入れてるだろうな。

 別にダークエルフを悪く言うつもりじゃないが、これが誇り高い種族とかだったら、死を選ばれていたかもしれない。


「よし」

 なんにせよ、全員受け入れると決めたんだ。それならやることは決まっている。


「まずは……そうだな、そこのアンタ、食ってみてくれるか?」

 怪我人の中でも比較的元気そうなやつを選んで、用意していた物を試しに食べさせてみる。

 頭に包帯のような布を巻き、あちこちに擦り傷を負っている状態だな。

 見た目からして俺よりも年上に見える。人間的に見るなら三十後半か四十手前くらいか。


「……分かりました」

 ダークエルフの男は真剣な表情で頷いてくれたようだ。

 これは人体実験だ。何が起きてもおかしくない。その説明は既にしている。


 テーブルの上に置かれている木皿を手に取り、ダークエルフの男に手渡す。

 

 肉の方は、流石に味付け無しでは食べるのも辛いだろうから、とりあえず塩だけだが味付けはしてある。

 本当に上質な肉は、塩で食べるのが良いらしいが、そもそも良い肉と言う物を元の世界で食ったことがないから、真偽のほどは分からない。


「…………」

 無言の間が続いたが、やはり従魔化してしまうというのは躊躇うか。

 事が事だけに早くしろなんて言葉は――


「ちょっとぉ、早く食べなさいよぉ」

「……」

 早くしろなんて責めるようなことは言えない、と思っていた矢先に、アトラが威圧するように催促してしまった。


「アトラ、あまり焦らせるようなことは言わないでくれ。アンタも焦らなくていいから」


「……はい。いえ、いきます」

 覚悟を決めたダークエルフの男が木のフォークで恐る恐る肉を刺す。

 木のフォークでもすんなりと刺せた肉からは、僅かに肉汁が溢れだして、それだけでも食欲をそそられるな。


 その場の全員が注目する中、ダークエルフの男がサイコロ状の肉を口に運び、一回、二回と咀嚼を始めた。


 どうだ……? いけるか……?


 咀嚼を終えた男は肉を飲み込み――


「うっ……」


「う?」

 ダメだったのか? ダークエルフの男の体が震えている、マズイな、何か良くない症状が体に出てきたか?


「美味いッッッッ!!!!」


「……は?」

 なんだ……ガツガツと肉食ってるし、美味くて感動してたってことか……お約束過ぎるリアクションだろ。


「そんなに美味いなら、やはりあとで私にも作ってもらおうか」

 霞はどんだけ食べたいんだよ……。


 そうこうしている内にダークエルフの男が全ての肉を食べ終えたようだ。


 そして体が緑色に発光し、みるみる傷が治っていく。効果アリだな。


「おぉ……怪我が治った……」


「体に変なところとかないか? 気分が悪くなったりしてないか?」

 これで俺は、このダークエルフの男をテイムした状態になったわけだ。

 霞やアスラたちを見ている限りでは、洗脳やそういった類の症状は出ていないようだが、人である種族にテイムミートを食わせたんだ。どんな異常が出てもおかしくない。


「いえ、特に異常は感じられません。いつも通りです。いや、いつも以上に体に力の漲りを感じます。ただ――」

 特に異常も無いようだが、漲っているのか。まぁこれなら全員に食わせても問題なさそうだが、時間経過で何かが起こる可能性もある。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホォッ……!」


「しっかりして!」


「だ、だいじょうぶ……」

 咳き込んでいた一人が吐血した……!

 他の症状が重そうな奴らもいつどうなるかわからない。待っている時間はないってことだ。


「よし、手の空いている奴は肉を配ってくれ。一人で食えない奴には手を貸してやってくれ」

 手の空いている全員が顔を合わせ頷き合った。これでとりあえずは大丈夫だろう。

 ……このまま見てるのもな俺たちも手伝うか。



「霞、アスラ、お前たちも手伝ってくれ」


「了解した」


「うむ」

 この決断が正しいのか間違っているのか、考えるのはやめだ。

 俺の能力で誰かを助けられるなら助ける。


 責任は……取れるだけ取る。


「ふぅー…………」

 先々の事を考えると頭が痛くなってくるが、今はとにかく、この場にいる全員を回復させることに集中だ。


 そういえばさっき、ダークエルフの男が何か言いかけていた気がするが……あとで聞いておこう。

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[一言] テイムミートを1回で良いから食べてみたい
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