表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/74

32話:歓迎の宴

2021/10/10 17:00公開


2022/8/29 大幅改稿更新




 騒がしい理由は外に出たことで理解した。

 

 大勢のダークエルフたちが家の前にいるのがその理由だが、一体何しにきたんだ?

 特に殺気立った様子もないし、俺を倒しにきたというわけでもなさそうだ。


 周辺を警戒する為に、武装してるダークエルフがいるようだが、ダークエルフの目的が知りたい。


 ジェニスたちは少し離れた場所で料理をしてるようだが、本当に何し来たんだ?

 既に完成された料理が、丸い木のテーブルの上に並べられている。

 持ってきた料理か? 丸いテーブルも持ってきたのか??

 

「あれがウンディーネ様とヴリトラをテイムした人族のテイマーか……」

「人族だな……」

「隣にウンディーネ様がいるぞ……」

「グラットンスパイダーもいる……」

「あの腕が四本あるやつはなんなんだ?」

「アサルトヒポポタマスまで従魔にしてるのか……」

 気がつけばほぼ全員が俺たちに注目していた。


「主よ、注目の的だな」


「霞が隣にいるんだからそうだろうよ」

 ダークエルフたちが左右に分かれ、その中から族長が歩いてきた。

 ここにきた目的を聞けそうだな……まぁ大体察してしまったが。


「突然の来訪に驚かれたかもしれないが、許して欲しい」

 族長にそんなことを言われたが、俺はここを借りてる身なのだから、そんな気にすることではないと思うんだがな。


「いえ、それで来訪の目的をお聞きしても?」


「我が娘シーリアと、他二名の同胞を救っていただいた礼をさせてもらいたい」

 なるほど、それでジェニスたちが料理してるのか。俺が断ったらどうするつもりだったんだ。いや、先に始めることで断りにくくしたのか?


 まぁなんにせよ、ここで断る理由もない。だが安全は大丈夫か?


「歓迎してくれるのは嬉しいですが、ここは結界の外であり危険な場所です。そんなところで大丈夫ですか?」


「キョータロー殿がいるここが一番安全であろう。ウンディーネ様や天災のヴリトラまでいるのだ、これ以上恐れるものなどありはせんよ」

 族長は笑いながらそう言ってるが、周囲のダークエルフたちは緊張しっぱなしだろこれ。

 

 俺がいるから大丈夫という楽観視してる部分も気になるが、ここで怪我人を出してしまえば、きっと俺の定住に反対する派閥が付け入ってくるだろうな。


 歓迎会と言うものの、あのとき俺を睨んでいた奴らはいないようだしな。だからと言って、ここにいない全員が反対しているという訳でもないだろう。じっくり見定めていこう。


「ええ、可能な限り皆さんを護れるよう善処します」

 この空間にも結界があればいいんだがな……待てよ? 霞もツインテウンディーネと結界を張っていたよな?


「霞、この周辺に結界を張ったりできないのか?」


「できるぞ」


「できるのかよ……早く教えて欲しかったぜ」


「聞かれなかったからな」


「それもそうだな。てことだ、結界を張れるか?」


「張れるが、従魔たちは外に出られなくなるぞ?」


「今は出る必要もないし問題ない。二度と出られないってわけでもないだろ?」


「そうだな。主がそう言うのであれば、結界を張っておこう。終わったら解除しておく」

 そう言って霞が結界を張るために集中し始めた。


 ん? 結界張れるなら、アリのときも張っておけば良かったんじゃないか?

 アトラの成長のために、あえて張らなかったのか? ……まぁいいか。

 

「助かる。ということで族長、とりあえず安全は確保できたと思う」


「おぉ……流石はウンディーネ様ですな。ではキョータロー殿、こちらへついてきてくれるか」


「分かりました」

 族長についていくが、どこに連れて行かれるんだ?

 歩く先で人垣が割れて道ができ、その先には立派な椅子が二つ並んでいる。

 その後ろには、あのゴブリンキングの首が飾られていた……。

 もしかしてあの片方に俺が座るのか……?


 椅子の前までやってきてしまった。


「これをどうぞ」


「あ、あぁ……」

 椅子の後ろで控えていたダークエルフの男から、木彫りのコップを渡された。中には紫色の飲み物が入っている。

 こういう場で出される紫色の飲み物から察するに、もしかしてワインか? 酒はあまり好きじゃないんだが、ここで断るのは無粋だな。

 てか既に周囲からの視線が凄いぞ……。


 いつの間にか隣には霞が立っているし、もう結界を張り終えたのか。


「皆の者! 今日はゴブリンキングを倒し、我が娘シーリアたちを救ってくれた英雄に感謝の意を示すべく、盛大な歓迎を行いたいと思う! 周囲には既にウンディーネである霞様が結界を張られているので安心するがよい! それでは、キョータロー殿と霞様に!!」


「「「キョータロー殿と霞様に!!!!」」」


 どうやら霞の名は既に広まっているようだな。説明の手間が省けたか。

 みんながグラスを掲げているということは、乾杯の音頭だったのか。俺も流れで掲げておこう。そして一口。

 

 お、思っていたより美味いな。アルコールは確かにあるが、甘みが強く飲みやすい。これなら結構飲めそうだ。

 

 ダークエルフたちは打楽器や笛、弦楽器などを使って曲を奏でている。民族音楽ってやつか? ケルト音楽に似ている気がするな。

 

 さて、俺はこの椅子に座るべきかどうか。族長が座ってから座るべきか?


「キョータロー殿、座ってくれて構わない」


「……わかりました」

 族長に促されてしまったな。とりあえず座っておこう。


 座って一息。ふと人だかりができている場所を見ると、ベルカとシーリアがダークエルフたちに囲まれていた。

 今回の準主役みたいなもんだろうし、色々話を聞かれてるんだろう。


「我が村で作ったワインはいかがかな?」

 不意に族長に話しかけられた。話しかけられる分にはいいんだが、俺から話すことなんて何もないぞ……下手に話して不興を買うのもな。口は災いの元だ。


「ええ、とても美味しいです。これならいくらでの飲めそうですよ」

 とは言ったものの、正直不用意だったな。ワインに何か盛られてたらヤバイ。

 何かあれば霞がどうにかしてくれると思いたいが、まぁ今回は霞も特に何も言ってこないし、何もなかったんだろう。

 

 あまりこうやって人を疑うことはしたくないが、異世界で他人の出した物を口にするのは、正直かなり勇気がいる。

 自分の目の届く範囲で作られた物ならいいんだがな。まぁ俺の考え過ぎる悪い癖だなこれは。


「あぁ、初めて酒を飲んだがこれは美味いな。もう一杯貰えるか?」

 霞もワインは褒めて催促している。隣に控えていたダークエルフの男が霞のコップに注いでいる。


「ウンディーネ様にも喜んで頂けて光栄です」

 族長は村のワインをウンディーネに褒めてもらえて嬉しそうだな。

 だが、霞のことをウンディーネと言ったり霞と言ったりしてるのは、何か思惑があるのか?


「私のことは霞と呼べ。主にそう名付けてもらったからな」


「……それは失礼いたしました、霞様」


「うむ」

 自分の部下が他所のトップに命令口調で注意してると思うと、かなり俺の体に悪い。


 そうなる原因の元は、やはり俺に自信が足りないからだろうな……。

 どうにか自信をつけていかないと、プレッシャーでいざというときにヘマしそうだぜ。

 早くどうにかしたいが、今はどうにもできない。頭痛と悩みの種だ。


 ……あぁ、ワインが美味いな。今は素直にこの状況を楽しんでおこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ