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29話:知らせ

2021/10/09 17:00公開


2022/8/29 大幅改稿更新




 謁見も終わって出てきたが……どうするか。


「主よ、少し村を見て回ってみないか?」


「……そうだな」

 と言っても、ざっと村を見渡しても、特に目立つようなものはない。

 店や冒険者ギルドなんてものも無さそうだし、特に見るようなものはなさそうだが、せっかくの異世界だ。ちょっとした観光気分で見回ってみるのもいいかもしれない。




 ▽   ▽   ▽




 村を見て回った結果、魔物を解体しているところや、皮をなめしている作業など、なかなか面白いものが見られた。


 畑は各家庭に最低一か所はあったが、自給自足がメインなのか?

 どんな野菜があるのか興味はあるが……聞いてみようにも、みんな俺たちを恐れているのか、視線を向けると会釈してどこかに消えてしまう。多分、隣にいる霞のせいだろうな。


 外敵から村を守るための壁や柵がないが、結界があるから必要ないのだろう。

 だが結界を破壊されたときはどうするつもりなんだ? 現に結界を破壊してしまったわけだしな……。

 まぁほとんどの家は木の上にあるし、いざとなればそっちに逃げればいいのか。

 

 と、そんなことを俺が気にしても仕方ないか。


「ここは良い村だな」

 霞がどういう理由でそう言ったのかは分からないが、特に飢えた子供もいないし、荒れ果てた様子もなく、みんな健康そうに生きている。それだけでも良い村なのかもしれない。


「そうだな。じゃそろそろ戻るか」


「ああ」

 霞は満足そうだし、それだけでもきた甲斐はあったか。

 アトラたちにも何かしてやりたいところだが……美味い飯を食べさせるくらいしか分らないな。


 いや、あるな。繁殖のためのパートナー探しか。だが同種をテイムしたとしても、その相手を気に入るかどうかはわからない。なかなか難しい問題だな。


「おーい! たいしょーー!!」

 この声はジェニスか……ベルカも一緒みたいだが、どうしたんだ?


「大将! 族長が大将のために家を用意してくれるってよ!」


「それは本当か?!」


「オレたちを助けてくれたお礼だってさ」

 思わぬ知らせが降ってきたな。まさか家を用意してくれるなんて、これほどありがたいことはない。


「いや待てよ……俺は仲間がいるから結界の中では過ごせないぞ?」


「あっ、そういえばそうだな……どうすんだ?」


「……その問題は大丈夫だ。結界の外に小屋があっただろう」


「ベルカ、それは……」

 そういえばあったな。あそこを使っていいなら助かるが……ベルカとジェニスの様子が気になるな。


「あの家を使うと良いでしょう。中は掃除してあります。すぐにでも住めますよ」

 ベルカの愁いを帯びたような表情だ。あの家には何か特別な思いがありそうだが、あまり詮索するのもやめておこう。


「……分かった。ありがたく使わせてもらう」

 なんにせよだ、これでこの世界での住居を手に入れたことになる。

 番犬なら番従魔がいれば、この森でも普通に暮らすことはできるだろうな。と言っても、この世界に長居はするつもりはないがな。

 アトラたちを育成して進化させるための場所として、最大限利用させてもらう。


「そういえば、お前たちをハメた男は捕まったのか?」


「……カシウスの野郎、村にいなかったんだよ」


「逃げられたのか?」


「わからない……」

 ジェニスたちを罠にハメたダークエルフの男は消息不明か。

 こういうのは大抵あとで敵として現れるのがお約束だからなぁ。面倒なことにならなければいいが……。


「ま、なるようになるだろ。何かあれば可能な限り力になってやる」

 俺じゃなくて従魔たちが、だけどな。


 ジェニスたちを助けたおかげで、話もスムーズにいっただろうしな。ここで更に貸しを作れば、何かあっても優位に事が運べるだろうという下心がある。

 俺は誰かに借りを作るのは嫌いだが、誰かに貸しを作ったり、借りを作らせるのは好きなのだ。


「大将……」


「あまり過度な期待はするなよ」


「ああ! そうだ大将! あとで飯作りに行ってやるよ!」


「そいつは楽しみだな」


「じゃあ用意してくるから、また後でな!」

 そう言って駆け出して行ったな。じゃ、俺たちも行く――ん?


「キョータロー殿……」


「……どうしたベルカ」


「あの家は……どうか綺麗に使ってやってもらえないでしょうか」


「心配するな。こう見えて掃除は嫌いじゃないからな」


「ありがとうございます……呼び止めて失礼しました。では……」

 ベルカが頭を下げて去っていった。

 無理な笑顔ってのは簡単に分かる。あの口ぶりから、知り合いが使っていた家なのかもしれないな。

 親兄弟か、あるいは恋人か。なんにせよ、その人物が死んで空き家になったということだろう。

 死因は気になるが、好奇心で聞いて良い事でもなさそうだ。


「俺も死なないように気をつけないとだな」


「何を言う。我らがいるのだから主が死ぬはずもないだろう」

 確かに霞の言う通り、憑き物以外なら今のところ相手にならない。

 だが慢心はしない。霞を凌ぐ魔物が現れないとも限らないしな。

 ゆめゆめ忘れないようにすべし。


「頼もしいことだ。それじゃあ俺たちの新しい家に帰るぞ」

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[一言] 「キョータロー殿……」「……どうしたベルカ」 「あの家は……綺麗に使ってやってもらえないでしょうか」「心配するな。こう見えて掃除は嫌いじゃないからな」 命を助けて貰った人にここまで言うには…
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