25話:名付けの問題
2021/10/08 16:00公開
2022/8/29 大幅改稿更新
「キョータロー様、ここで暫くお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
呼び止めてきたのはベルカか。察するに、もう村が近いから先に話をつけてくるってところか?
「この先に村があるのか?」
「はい。混乱を防ぐ為にも、先に族長に話をつけておきまます」
「分かった、それじゃあベルカたちは先に行ってくれ」
「「「はっ!!」」」
シュタタタタと駆けていく姿は流石だな。
周囲は背の高い樹木に囲まれてるし、まだ村は見えないが……近いのか?
まぁ走って行けるくらいなら、そんな遠くはないか。
「よし、それじゃあ俺たちはベルカたちが戻るまでここで待機だ!」
ふぅ……やっと着いたようだが、問題がなければいいがな。
と言っても、俺の従魔たちが問題だらけだからな……敵対まではいかなくとも、あまり良い目で見られることはないかもしれない。覚悟しておくか。
まだ日は暮れていない。昼は過ぎているが、思ったよりも早く到着できたな。
これもヴリトラ改め、アスラのおかげだろう。
ヴリトラにはアスラと名付けたが、ヴリトラの別名だったような気もする。まぁ細かいことは気にしないぞ。
名付けたあとにアトラと名前が似てることに気づいたが、気にしない。
だがしかしだ。一つ気になることがある。
例えば、もし俺が蛇を従魔にしていた場合、ヴリトラと名付けていたかもしれない。
しかしこうして本物のヴリトラが存在する以上、ヴリトラではない蛇にヴリトラの名前を与えてしまうというのは、少し気まずい。
つまりだ。俺はアトラにアトラク=ナクアと名付けてしまった。
もし本物のアトラク=ナクアがいたら…………これから名付けは慎重に行っていこう。
そしてアトラを紹介するときは、フルネームではなく愛称で紹介しておくべきか。
「悪いなアトラ……」
「キ?」
ぽんぽんと尻部分を叩いて誤魔化す、迂闊な俺を許してくれ……。
ベヒーモスもそうだな。既にベヘモスという存在がいるらしいが、地球だったら同一の存在として見られてもおかしくない。
この世界では違うようだが、もしベヘモスと名付けていたら、霞はどういう反応をしただろうか?
ともかく、これからは固有名詞で名づけるのはやめておこう。
まぁそれは置いといて。あのアスラの輸送能力は面白い。
二十人以上いる獣人たちを背中に乗せ、あの巨体で樹木を倒すことなくスルスルと進む姿は、もはや一種の芸術だった。
その移動のおかげで進行ペースが速くなり、予定よりも早い到着となったわけだ。
アスラの上にいる獣人の子たちも、だいぶアスラに慣れたようだな。
最初は真っ青な顔で怯えていたが、アスラに護ってもらったり、乗り心地がよくて気も緩んできたか。良いことだ。
あとはダークエルフの村が俺たちを受け入れてくれれば、肩の荷が下りるんだが……。
「そういえば霞、この森ってかなり危険だろ? 村なんて作って維持できるのか?」
今のところそんな大型の魔物は見かけていないが、小型でも村からすれば厄介な存在だろ。
進化前のアトラが良い例だ。
防壁とかあれば防ぐのも楽だろうが、それでも完全に安全だとは言い難い。
そもそもなんでダークエルフはこんな危険な森に村を作っているんだ?
「ダークエルフの村には結界を張って、外部からの侵入を防いでいると、ほかのウンディーネから聞いたことがあったな」
「結界か……俺たち入れるのか?」
「どうだろうな?」
霞は興味無さそうだが、一時的にでも拠点にできる場所が欲しい俺からすれば死活問題だ。
アスラを防衛に回したり、アルたちで食力調達することで滞在料として払っていくつもりだったが、アスラの防衛作戦はダメそうだな……。
そうなるとアルの狩猟能力に頼らざるを得ないか。
近くにエリザベスの巣を作らせてもらえれば、ハチミチも提供できそうだが、そもそも働き蜂がいないのに蜜を集めるのは無理か……。
エリザベス――クイーンノーブルビーの巣ってどんな巣だ?
「霞、ノーブルビーの巣ってどんな形をしてるんだ?」
「山型で、主に木の上にドロや繊維で作られているのを見かけるな」
「なるほどな……」
大人の俺が大の字になっても問題なかった、あの木の枝の上か。
エリザベスは人型に進化しているが、そもそも巣を作れるのか……?
繁殖するにしても、ノーブルビーを連れてきても無理なんじゃないか?
連れてきても、ノーブルビーを進化させて、エリザベスと同じ人型にしないとダメなんじゃ……。
繁殖といえば、霞を除く全員がそうだよなぁ。
蜘蛛のアトラ、カバのベヒーモス、大鳥のアル、蛇のアスラ……いや、アスラも例外か?
なんにせよだ。アトラ、エリザベス、アルの繁殖相手を探さないといけないか。
自由行動にして、繁殖相手を探させれば問題ないか?
いや、空に逃げられるアルはともかく、あまり単独行動させるのも危険だな。
憑き物と遭遇したら危険すぎる。ここも頭を抱える部分だ……。
「ふぅ……」
ベルカたち、遅いな。




