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20話:コンプレックス?

2021/10/06 16:00公開 1/2


2022/8/29 大幅改稿更新




 異世界に召喚されて三日目の早朝。


「起きたか主」


「キ」


「……あぁ、二人ともおはよう」

 アトラの背中は高級布団並みに寝心地が良い。ずっと寝ていたいくらいだが、アトラに迷惑だな。


 昨日ジェニスに貰った木グシで歯を磨き、霞の生成した水で洗面とうがいを済ませる。


「それ便利だな。スキルなのか?」


「これはスキルでも魔法でもない。そうだな、種族特技のようなものだな」


「種族特技?」


「アトラ殿が糸を出したり、エリザベスやアルが空を飛ぶのと同じようなものだ」


「……なるほど。スキルや魔法と種族特技の差ってなんかあるのか?」


「魔法やスキルだったものを、進化して種族特技として使えるようになったものもある。アトラ殿の網吐きは種族特技であり、エリザベスのスピアレインはスキルだが、進化すれば種族特技として使えるようになるだろう。そうやって意のまま使うことができるのが種族特技だ。スキルなら消費魔力が減少したり、魔法は詠唱が必要なくなることだな」


「なるほどなぁ」

 水魔法と思ったあれも種族特技だったのか……まぁ霞はウンディーネだし、水を作り出すのも息をするのと同じくらい簡単なんだろう。


「アトラ、洞窟の外まで頼む」


「キキ」

 まだみんなは寝てるからな、起こさないよう静かに行こう。




 ▽   ▽   ▽




 外は……まだ薄暗いか。雨は降ってないな。雨の降る気配もなさそうだし、今日出発しても大丈夫そうか。


「すぅーー……はぁーー……」

 異世界でも早朝の空気はやっぱ美味いな。


 ……そういえば、宝くじの換金期限って何時までだったか……? 一年だったか?


 この異世界から日本に戻った場合、時間の進みはどうなる? 同等なのか? それともあっちでは時間は経過していないパターンか?


 どちらにせよだ、タイムリミットは一年と考えて動くべきだな。それ以上は宝くじが紙屑になってしまう恐れがある。

 幸い家賃や光熱費は銀行引き落としにしてある。それも一年くらいまでならなんとかなる貯えがある。その辺も含めて一年……いや、なるべく早く戻りたいな。


 と考えると、アトラたちとは長くても、一年だけの付き合いってことになるのか……。

 色々問題はあるが、なんとかできることを祈ろう。


「中に戻るか」

「キ」




 ▽   ▽   ▽




「お、みんな起き始めたか」


「戻ったか主。今支度をさせている、もう暫く待っていてくれ」


「わかった……俺はここにいないほうがいいな。先に外で待ってる」


「そうか、早めに支度させよう」

 女たちの朝自宅をしているところに、男の俺がいるのは気まずい。

 化粧とかそういう支度はないだろうが、気分的な問題だ。


「あぁそうだ、昨日の肉と果物がまだ残ってるだろ。まずはそれを朝飯にして補給させてくれ」


「主はどうするんだ?」


「外で待ってるよ」


「そうか。アトラ殿、任せたぞ」


「キ」

 女たちを動かす前にまずはエネルギーを補給だ。

 俺も適当に肉と果物を貰って外で食ってるか。

 ここにいたら委縮させそうだしな。


「アトラ、せっかく戻ってきたのに悪い。また外に頼む」


「キ」


「クェッ」

「おっと、お前らも外に行くか」

 アルとエリザベスもついてくるか。そうだな、周囲の索敵でもしてもらうか。


「……」

 ベヒーモスはすやすやと眠っている。

 まぁ起きていても特にやれることはないだろうし、今の内にしっかり休ませておこう。


 しかし、女たちは何人いるんだ? 結構な数が捕まっていたようだが……ざっと見て二十人くらいか?

 無事に護りきれるといいがな……。




 ▽   ▽   ▽


 朝飯や諸々の支度を終えて、全員洞窟の外に出てきたな。


「よし、全員準備できたか」


「ああ、いつでも出発できるぞ」


「それじゃあ陣形だが、ベヒーモスが先頭、その後ろに俺とアトラとベルカ、続いてジェニスたちを入れて、殿は霞、アルは上を、エリザベスは横の警戒を頼む」


「ブモ」


「キ」


「クェ」


「任せてもらおう」

 横の守りが不安だが、エリザベスが見逃しても霞がなんとかしてくれるだろ。


「ベルカは悪いが道案内を頼む」


「りょ、了解いたしました!」


「武器があればオレたちも戦えたのになー」


「無い物は仕方ないわ。魔法で援護しましょう。でもジェニスは首を落とさないようにね」

 ジェニスとシーリアも一応戦えるようだしな、獣人の女たちも護りはとりあえず大丈夫か。

 ここに来るときは数が多いだけで、対処は楽だった。同じくらいの数がきても余裕で対処はできるはずだ。

 

 だがイレギュラーはあるかもしれない。


「ベルカ、ここからベルカ達の住処まで行く場合、気を付ける魔物や注意することはあるか?」

 わからないときは知ったぶりせずに、現地人に直接聞く。これ大事。


「武器があれば我らでも対処可能な魔物ばかりですが、憑き物が出てきた場合が……」


「ツキモノ?」


「あの黒い靄をまとった魔物のことです」

 ベルカの視線の先はジェニスの持つ首――ゴブリンキングか。なるほど、アレは黒い靄に憑かれたってことで、憑き物なのか。


「……そうだな。出た場合は俺たちが全力で相手をする。そのときは獣人の女たちを任せてもいいか?」


「はっ! この命に代えても護り通してみせますッ!!」


「あ、あぁ、任せたぞ……」

 アトラや霞たちをテイムしているから、ベルカたちは俺に対してこういう態度だが、もし俺一人だったらこうはなっていないだろうな。

 運よくアトラと霞をテイムできただけに過ぎない俺が、ベルカたちにここまで敬意を持って接されるような存在ではないと思うんだがな……。


 運も実力の内といえばそうだし、そう思っている部分もあると言えばある。

 だが今回は場合が場合だ。素直にそう思えないのが心苦しい、が、これは心の問題だ。


 俺の価値感と、この異世界の価値観のズレもある。

 俺自身がもっとこの世界に慣れて、自信をつけていかないとダメだな……。


 ――いや、こんなことを考えるなんて俺らしくないな。少し感傷的になりすぎたか。


 全員無事に目的地に到着させるために集中だ。切り替えていくぞ。


「……よし、出発だ!」

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