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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(56)「撮影現場のルーティン」その1 早朝ロケ出発~到着まで

★「撮影現場のルーティン」その1

早朝ロケ出発~到着まで


今回は、いつものパターンを崩して、撮影現場をメイキングカメラで追う様にして撮影現場で行われているルーティンを説明していこうと思っています。


尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。


●ロケの朝

東映大泉撮影所への通勤手段はマチマチです。

電車、バス、自動車、バイク、自転車、徒歩。

これはスタッフであってもキャストであっても同じです。

自動車の場合は、駐車場の申請が要りました。

因みに、私はバイクでした。

撮影所に通って2年程で大泉学園の駅の側にアパートを越して来たので、徒歩でも自転車でも通勤出来たのですが、急な買い出しとか帰宅途中の買い物とか深夜の帰宅を考えるとバイクという足は必要でしたw

若いキャストは、ほとんどが電車通勤でした。

有名俳優さんになると自動車通勤で、専用の駐車場が確保されていたりもしました。

ロケ先が他府県に及ぶ場合は、出発時間が朝の早い時間になります。

電車やバスが動いていても始発に乗ってギリギリの時間にロケバスの出発時間が設定されていたりもしました。


撮影所には西門と正門があります。

40年以上前には正門は、今のT・ジョイ大泉の位置にありました。

今は東側にあります。

本来は、この正門をくぐるのが正式なのですが、駅から歩いてくると西門の方が近いために、ほとんどのスタッフやキャストは西門から出入りしていました。

今では、西門から出入りするのには暗証番号を打ち込まなければならない程のセキュリティが施されています。

正門には守衛さんが居て、入出を監視しています。

昔は「おはようございま~す」と挨拶する程度で通れていましたが、今では関係者にはセキュリティカード(名札)が渡されていて入出を厳しく制限しています。

登録された関係者以外は「GUEST」のセキュリティカード(名札)になります。

勿論、京都の事件がキッカケです。


ロケバスは、既にエンジンをかけて待機しています。

スタッフやキャストが乗り込む前に、冬にはエアコンで暖房をかけ、夏にはクーラーをかけて車内を涼しくしてくれていました。

ロケバスの運転手さんは、車輌部さんと呼ばれていましたが、実際には東映外部の協力会社の社員さんです。

早朝出発としても6時~6時30分出発という時間が多かったと思います。

そして、ロケバスに乗り込む際には伊藤園の190mlのウーロン茶の黒い缶が1缶と、お弁当のポパイのおにぎり2個入りロケ弁当が配られていました。

ポパイのおにぎりの具は、鮭、昆布、おかか、梅辺りが定番で、2種類の具が制作進行さんの手配で決められていました。

現在では30種類から選択できるそうですが、年齢層高めのスタッフのことを考えて定番の具がチョイスされるのが日常でした。

そして、このおにぎり弁当にはタクアンとおかずが1品付きました。

30年前には唐揚げ2個かゆで卵1個の2種類の選択しかありませんでした。現在は6種類から選べるようですが、それでもこの唐揚げとゆで卵の2種類は定番で、大体が唐揚げ率多めに制作進行さんから発注されていました。

そんな「お弁当のポパイ」さんの早朝のおにぎり弁当も、令和元年の10月ぐらいから諸般の事情で中止となってしまっている撮影現場もある様です。

尚、「お弁当のポパイ」の配達先は東映だけではなく、各映画会社をはじめ、各テレビ局の制作部にも納品されていたりします。


ロケバスの座る席は決まっていませんが、特に長年続いているシリーズものの場合等では、年配のスタッフの多くは定番の席を決めてしまっている方もあり、若手スタッフやキャスト等は年配スタッフが選んでいない後ろの方の席になる場合が多かったです。

そのロケバスも通常は1台ぐらいなのですが、キャストやJAC(現JAE)さんの人数によっては2台や3台になる場合もありました。

ロケバスの台数が少ない場合は、基本的にスタッフとキャストは同じロケバスでの移動でした。


若手のキャスト等は、ロケバスに乗り込む前に衣装さんから衣装を着さされて、メイクさんにメイクや髪をセットして貰う場合も多く、そんなキャストや衣装、メイクさんは何時から撮影所に来ているのか?大変です。

尚、この場合のキャストとメイク、衣装さんとの段取りは前日等の事前の打ち合わせをした上で決められていました。


早朝出発のロケ先迄は、大体2時間程度の道のりの場合が多く、大抵のスタッフやキャストは移動中のロケバスの中で寝てしまいます。

おしゃべりをして過ごす方もいましたが、周りが寝ている場合の多い状況でははしゃぐことも無くて静かなものでした。

30年前では携帯ゲーム機を持ち込んで時間を潰す方もいましたが、今ではスマホゲームでしょうか。


ロケバスは、マイクロバスです。

昔は、車載公衆電話付きのモノもありました。

更に、少し大型のバスになればトイレ付きというモノまでありました。

ロケ先に建築物が無い等で、メイク用の部屋や着替え部屋が確保出来ない場合は、このロケバスがメイクルームであり着替え場所でした。

ロケバスの屋根の部分にはキャリーが付いていて、レールドリー用の梯子状のレールを何本か積んでいたり、イントレ(=イントレランス=俯瞰台)を折り畳んだモノを積んでいたりする場合もありました。

また、イントレよりも高い場所だからという理由で、ロケバスの屋根に登ってそこから俯瞰撮影をする場合もありました。

尚、ロケバス後方には屋根にあがれる梯子が付いていました。


●ロケ現場到着

ロケ現場に到着すると、その時点から仕事開始です。

ですが、ロケ先が建築物を借りているのか、採石場等の建築物が無い場所か、長居する場所か短時間で切り上げる場所かによっても各部署(=パート)の動き自体が変わってきます。


短時間で撮影を終えて次のロケ場所に移動等というロケは余りありませんでしたが、そういう場合は、必要最小限の機材を下ろしての撮影でした。

とは言っても撮影部パートはカメラは必須ですし、カメラマン用の椅子もしくは箱馬も必須の場合もありましたw

後は、三脚なのか手持ちなのかゴトク(=ハイハット)なのかの脚の選択でした。

但し、ロケ先に到着するとカメラマンは監督と記録さんと共に真っ先に撮影現場に行ってしまいますから、撮影部パートの準備は撮影助手だけの仕事になります。


照明部パートは、撮影場所が暗部なのか光量的に撮影可能かどうかを判断して、反射版や照明機材をセッティングします。

時には工事等で使用されているガソリン式の発電機を用意する場合もありました。


メイク、衣装の各パートと出番のキャストは、少しでも早く撮影可能な状態へセッティングします。


小道具部パートは、各キャスト毎にセッティングされている小道具を各キャストへ渡して行きます。


制作部パートは、撮影状況に合わせてロケ先の管理先に挨拶をして、ロケバスや機材運搬車輌の駐車場への誘導、撮影現場へのテント、テーブル、椅子等の設営等と共に、必ず飲み物の用意をします。

この制作部パートの仕事も、定番のロケ先であれば格段に楽になります。

各スタッフへの説明も要らず、勝手知ったる何とやらとばかりに慣れ親しんだロケ先程、古いスタッフの方が制作部パートの若手よりも良く知っていたりします。


録音部パートは、車椅子等を改造した録音機材を運搬する手押し車を撮影現場に持ち込み、撮影場所は見えるが自分達は映らない場所に輿を降ろしますw

ビデオ撮影(デジタルビデオ撮影を含む)であれば、録音部パートさんはカメラとケーブルを繋ぎます。

これは、ビデオ撮影時の基本で、撮影部がカメラで撮影した映像と録音部が拾った音声を同期させる為ですが、同時に録音部の機材にあるモニターにカメラで映した映像を投影する為でもありました。

尚、このモニターは監督用のモノが用意されていたりして、何ヵ所かに分配されていました。

但し、現在ではケーブルが複雑になる場合等ではカメラに設置された無線式の通信装置で分配していたりもします。


アクションシーンの撮影であれば、拳銃等の発砲を担当するガンエフェクトさんや、ワイヤーワークや爆発を担当する操演さん。そして、CGの担当さんも現場入りする場合もあります。


スーツアクションの撮影の場合は、スーツのセッティングとスーツ用の小道具の準備、スーツアクターさん達は全身タイツに素面が基本でしたから、その着替え準備等が必要となります。


たまに、大道具さんがロケ先に付くことがあります。そんな場合の多くはロケ先に何かを建て込まなければならないか、既に建て込まれている撮影用のハリボテ等を解体する為だったりします。


●段取り説明

ロケ先到着後直ぐのスタッフやキャストの動きは、如何に丁寧に早くセッティングし、撮影に移れる状態を作り出すかの一点に向かって行きます。

そして、定番のセッティングを終えると注目は監督とカメラマンに集まります。

そこにキャストが撮影現場に連れて来られます。

メインキャストで初めての撮影現場入りの場合は「それでは、紹介させて下さい。○○役の○○さんです!」と、チーフかセカンドの助監督(本来はセカンド助監督の仕事)がスタッフやキャストに紹介します。「宜しくお願いします!」とキャストが言って頭を下げるのが定番になっています。


そして、「段取りの説明」が始まります。

これは、監督がキャストを交えてこれから撮影するシーンやカットの撮影プランとしての正に「撮影の段取り」を説明して伝えることで、カメラマンは真横でいて監督の狙う画角やカメラの入り位置を確認します。

この「段取りの説明」は重要で、「キャストの動き」「セリフの発声場所」「カット割」「背景」「小道具」等が細かく示されますので、各パートは準備してきたモノを微調整していきます。

ですから、「段取りの説明」の間は、各パートの技師クラスは聞き耳をたて、分からなければ質問します。

撮影部パートは三脚をはじめとした機材をセッティングし始め、照明部パートはライティングを調整します。

背景に映してはいけないものがある場合等では、撤去や隠しを制作部を交えてお願いするのですが、どうしても映ってしまう場合は、監督との協議後にカメラの方向を調整して貰うなんていうこともあって、段取りで決まったからといっても注意は必要です。


「段取りの説明」は、監督がキャストの感情や動きの説明をシーン毎にすることで、キャストに芝居の流れを把握して貰うことを主軸におきながら、スタッフがその芝居をカメラで撮影することを考えてセッティングをしていきます。

尚、撮影は通常一方向の背景だけを撮る「バック押し」で行われます。

これは、照明やカメラのセッティング時間を考えて、同じような背景(=バック)をまとめて撮影するという時間節約方法なのですが、新米の役者さんでは芝居の流れが飛び飛びになるので、戸惑う方もいらっしゃいます。

そして、一方向からの撮影が終わればカメラを「切り返し」て、もう一方の側からの撮影をする訳です。

因みに本来の「切り返し」は、「カットバック」と同じで芝居を順番に交互撮影することなのです。更に「どんでん返し」という言葉があります。これは、「イマジナリーライン(=想定線)」を越えた「切り返し」のことで、単に「どんでん」とも呼ばれます。

「イマジナリーライン(=想定線)」は、例えば2人の対話者の間を結ぶ仮想の線のことで、相対する車輌や物品間に引かれた仮想の線のことも言います。

この線を超えたカメラの移動やカット繋ぎをすると、対話している者同士が同じ方向を向いているといった様に視聴者が理解しにくくなるとして、余りしてはいけないとされている映像撮影の基本原則です。

基本なので「どんでん返し」の様に基本を崩すことで生まれるモノも存在します。多用するのは禁物ですがw


●後書き

とあるロケの日の早朝出発から現場に到着までのルーティンを、流れにそって説明してみました。

先日、メイキング動画を見ていて撮影現場を改めて観ると、撮影という流れが楽しいと感じました。

いままで行為や品物を単独で説明していただけだったので、流れを意識して説明を加えてみました。


余りにも長くなりそうなので、今回はこれぐらいで…

次回は、この続きの予定ですw

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