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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(192) 「プロに対する『仕事とプライベート』への理解」

余り語られない撮影所のあれこれ(192)

「プロに対する『仕事とプライベート』への理解」


●無料で求める仕事

ここ数年来、プロに無償で仕事を求め、応じなければ「ケチ」だと言う常識を持ち合わせていない方が散見される様になって来ました。

画家に「そんな絵ならば簡単に描けるでしょうから、安くして下さいよ」「社会貢献事業だから無償で良いですよね」と言ったり、有名人のプライベート中にサインを強要し、書いて頂けなければ本人に対して悪態をついたり、悪口や誹謗中傷をSNSにアップするといった逆恨みの様な態度をとる方もいらっしゃる様です。

今回は、「才能に基づく対価」を中心に、プロに対する「敬意」と「依頼」について語って行きたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約35年前です。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。

また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。

その点を予めご理解ご了承下さい。


●ギャラ

先ずは「ギャラ」に対して考えてみたいと思います。

英語で「保証」「担保」を意味する「guaranty=ギャランティ」を縮めて「ギャラ」と言われています。

しかし、日本では和製英語として英語の本来の意味から派生して「契約上の仕事に対する対価」として使用する事が一般的になっています。

つまり、ギャラは仕事に対する「対価」を意味し、仕事として対する場合に支払われるべき金銭やその他の報酬を意味する事になるのです。


ギャラは、「相場」というモノが存在します。

俳優やタレントや芸人等の人物を主とするプロや画家、イラストレーター、漫画家、文筆家、書家

その人物の「受賞歴等の経歴」「世間の人気」「同種の前例」「拘束時間」等が元となって決まります。

一例を挙げてみます。


◯CM出演料

トップクラス:5,000万円~1億円以上

人気俳優・女優:1,000万円~4,000万円

中堅クラス:500万円~2,000万円

新人・若手:100万円~500万円


◯テレビ出演料:

 ゴールデンタイム出演(1時間あたり):

女優: 50万円~200万円

俳優: 100万円~300万円

 連続ドラマ(1話あたり):100万円~200万円


◯ライブ・イベント出演料:

若手芸人:数万円~10万円

中堅芸人:50万円

大御所芸人:150万円~300万円


◯ラジオパーソナリティ:

声優:5万円

芸人:10万円~30万円

女優・俳優:20万円~40万円


◯CM以外のタレント出演料:

モデル:5万円~50万円(有名モデルは100万円~500万円)

芸人:10万円~30万円

文化人・専門家:30万円~150万円


◯イラストレーター

ストックイラストサイト:600円〜1,000円

フリーランス:3,000円〜10,000円

プロイラストレーター:5,000円〜10,000円

デザイン・イラスト制作会社:5,000円〜20,000円

 イラストの種類別のギャラ相場

挿絵:3,000円〜

一枚絵:数万円〜

キービジュアル:35万円〜

漫画:8,000円〜

キャラクター等の立ち絵:3万〜30万円程度


この中には、「サイン」や「挨拶」「握手」「おしゃべり」などといったものは入っていませんが、本来であれば仕事の一環として「相場」が存在するものなのです。

しかし、「サービス」の一環として無料でサイン会や握手会が行われたり、何かを購入した特典としてのサインだったり握手だったりおしゃべり時間だったり、イベント等に参加した特典としてサイン・握手・おしゃべりを「サービス」として無償提供する場合がもあります。

勿論、サインされた色紙などを物販として販売していたり、その場でのサインを「別料金」として物販扱いにする場合もあったりします。

これら「無料サービス」を「仕事の一環ではない」と勘違いされている方々がいらっしゃるのが問題となっているのです。


また、幾らクライアントからの「仕事」であり「対価」である「ギャラ」が支払われる案件であっても、「相場」に見合わない安い報酬での依頼は、「依頼相手への侮辱」に他なりません。

「仕事をして貰う」という依頼を「仕事をさせてやる」という「カスタマーハラスメント」な気持ちで対応しているのではないかと受け取られかねないという事なのです。


●プロとは

では、「プロ」とは何でしょうか?

「専門的な仕事」と訳される場合が多い「professional=プロフェッショナル」の、短縮形が「プロ」です。

この「プロフェッショナル」という言葉には「賃金が支払われる生業」という意味もあり、その中でも特にトレーニングを要したり何らかの資格を要するような生業を指します。

つまり、一般的な「専門的な仕事」だけでなく、「職業的な人に相応しい」という意味でも使用され、一般的には「能力が高く、技に優れ、仕事に対する確かさ」が求められます。

また、対義語の「アマチュア」とは異なり「主たる収入を得るために特定の分野に従事している人」も意味しています。

まとめれば、「専門的な仕事」に従事している人や、専門的な仕事で評価を得ている人で、特定の活動に関して能力が高く、技能に優れる人を意味します。

類義語に「エキスパート=expert=熟練者」や、「スペシャリスト=specialist」があります。


この様に、「プロ」とは「ギャラ」を得て「特定の卓越した技術を提供」している人の事になります。

そこには、世間的に有名な人もいらっしゃれば、一部の方しか知られていない様な方もいらっしゃいます。

また、その「特別性」や「有名性」に「価値観」を見出す方々に対して、その「プロ」の人物の写真やサインなどを提供するといった、「特定の卓越した技術者」との「繋がり」に「価値」を付けて提供することもあります。


●仕事とプライベート

「プロ」には、一般に「有名人」と呼ばれる方や一般には余り知られてはいないが、一部の方々からは有名な人、有名ではないが「プロ」として活躍されている方々がいらっしゃいます。

そんな「プロ」の中でも、世間的にも「有名人」として認識されている方々や一部ではあっても「有名人」として認識されいる方々は、仕事中は勿論プライベートでも仕事の延長線上のように一般の方々と接する場面が出てきます。

流石に「有名人」でも仕事中は余り一般人に接する機会が有りませんし、接しても「関係者」という名前の一般人です。

しかし、反対に一般人のプライベートの場合は、余り周囲の一般人に話しかけらたりする事はありませんが、「有名人」となれば違ってきます。

「有名人」は、「有名人」であるがゆえにプライベートでも「関係者」以外の一般人と接する難しさがあります。

そして、一般人も「有名人」と接する際には様々な難しさを抱えているのですが、相手が「有名人」ともなれば「何時も観る顔」という「親近感」も相まって「顔馴染みの友人や親戚」の感覚で接してしまうという傾向がある様です。


しかし、「有名人」のプライベートは、一般人と同じように法律で保護されており、「プライバシー権(個人の私生活をみだりに覗かれたり、公表されたりしない権利)」や「肖像権(自分の姿を無断で撮影されたり、公表されたりしない権利)」があります。

特に、住居の情報や、個人的な事柄など、私的な空間や生活に関わる情報は法的に保護され、許可なく撮影したり公表したりすることは「プライバシーの侵害」にあたります。


特に「有名人」のプライベートに関する注意点を挙げておきます。

◯盗撮・無断撮影

許可なく有名人を撮影する行為は「肖像権の侵害」にあたります。

特に、公共の場でも、本人が嫌がっている素振りを見せた場合は、許可を得る必要があります。


◯住所や私生活の公表

芸能人の自宅の住所や、実家の情報など、個人的な住居に関する情報を無断で公表することは、「プライバシー権の侵害」とみなされます。

裁判例でも、実家の写真や地図の掲載が「プライバシーの侵害」と認められたケースがあります。


◯営利目的での利用

許可なく有名人の写真を商業目的で利用することは、「パブリシティー権(自分の肖像から生み出される経済的価値をコントロールする権利)の侵害」にあたります。


◯公人としての「公」と「私」のバランス

芸能人といっても、プライバシー権は一般人と同程度に認められるという考え方が一般的です。

一方で、公人であるため、プライベートに関わる一部の情報であっても、公共性が高いと判断されれば、プライバシー権の制限を受ける可能性もあります。

ただし、個別の状況に応じて判断されます。


◯過剰報道への配慮

芸能人のプライベートに関する過剰な報道は、本人への配慮に欠けるという問題も指摘されています。

社会全体でプライバシーへの意識が高まる中、メディアは「公」と「私」のバランスを考えて情報を発信していく姿勢が求められています。


そして、これら「有名人」の「プライベート」にも「仕事」として認識されるモノが含まれているのならば、「プライバシー権」や「肖像権」等の見返りという形ではないにしても「報酬=ギャラ」が発生してしまう場合も考えられるのです。


●有名税

「有名税」という言葉があります。

「有名人」であるがゆえに受ける、好奇の目やプライバシーの侵害、誹謗中傷などの「精神的・金銭的な負担」を、税金に例えて言われている言葉です。

実際にはそのような「税」が存在する訳ではありませんが、有名であることの代償として「仕方がない」と半ば諦めを込めて使われることが多い表現なのです。

具体的には以下のような負担を指します。

街中や公共の場での視線

プライベートでの写真撮影

サインを求められることによる精神的な負担

ゴシップ誌やインターネット上での根も葉もない噂、心ない誹謗中傷

注目される立場であるがゆえに、私生活や行動が制限されること

常に世間から品行方正であることを求められるプレッシャー


この言葉は、「有名人」という立場から生じるデメリットを、国民の義務である「税金」になぞらえることで、「有名人ならば避けられないもの」として捉えようとするニュアンスが含まれているのです。

ただし近年では、インターネット上の誹謗中傷などが社会問題化しており、「有名税だから仕方ない」という考え方自体が否定的に捉えられることも増えてきています。

つまり、「有名人」であっても個人の権利は守られるべきだという意識が高まっています。

2015年の世論調査では「有名人なので仕方がない」が63.2%、「有名人であっても許されない」29.4%であった意識が、2022年の調査では「有名人なので仕方がない」が9.4%、「有名人であっても許されない」46.6%と、逆転してしまっています。

これは、「有名人」に対する接し方が「一般人と同等」に下りてきたのではなく、「有名人だからといって何でも許される訳ではない」という意識が世論の中心へと移ってきたという事なのです。

近年、「お客様は神様です」という考えから「お客様は王様だが、王様には首をはねられた者も多く居る」という「カスタマーハラスメント」の考えが定着して来たのではないかと思っています。


●善意

では、「有名人」に対して全てに「対価」を支払うべきなのかと言うと、そうではありません。

しかし、全てが「無償」という訳でもありません。

そこには「有名人」の「善意」が介在しています。

つまり、本来は些細な事に迄も「対価」を支払うべき案件であっても「有名人」側からの「善意」に期待することにより「対価」を「譲歩」してもらえる「かも」しれないということなのです。


「有名人」だから「愛想を振りまくのが当たり前」とか、「サインして当たり前」とか、例えそれが「プライベート」であったとしても「有名人だから無償であって当たり前」とか、いや「プライベートだからこそ無償であって当たり前」とかという考えは、本来の「プロへの対価」の観点からいえば「善意を当たり前」と捉えてしまっているという、厳しく言えば「プロ」を蔑ろにしてしまっている考えだと言えるでしょう。

これこそが「カスタマーハラスメント」なのです。


「有名人」に何かをして貰いたいと主張することはできると思います。

それが「対価」が支払われる「仕事」であれば、その内容と「対価」の兼ね合いが発生しますが、「して貰いたい」と主張することの殆どは叶えて貰える可能性があります。

そこには「事務所」の方針や「本人の気持ち」などが介在はします。

しかし、「プライベート」となると違ってきます。

基本的に「プライベート」は「仕事外」ですから「対価」は発生しません。

ですから、そこには「本人の気持ち」が優先されます。

でも、「プライベート」なのですから「して貰いたい」という主張が通らなくても、「善意が無い」として否定することは間違っています。

「有名人」といっても基本的には「他人」ですから、「して貰いたい」と「お願い」する立場だということを忘れてはいけません。

友達や家族に対しても「して貰えて当たり前」と思っている行動でも、「他人」や「(自分は知っていても向こうはこちらのことを)知らない人」にモノを頼む際には気をつけるかと思います。

そういった「配慮」が必要となり、その「配慮」が「善意」へと繋がってくるのですから。


●事務所

いくら「有名人」が「本人の気持ち」的に「善意」によって対応しようとしている場合でも、「事務所」に所属している「有名人」ならば、「事務所」の意向ということが介在してきます。

「事務所」は、所属している「有名人」を守る事や「正統で正規の報酬」を交渉する「有名人」の「盾」なのです。

だからこそ「有名人」が「事務所」に所属している場合は、できるだけ「事務所」の意向やルールに従っているのが一般的です。


それでは「事務所」に所属していない「有名人」はどうしているのでしょうか?

基本的には「個人の判断」ということになります。

そこに「事務所」が介在していないのですから、その「有名人」自身の判断意外にはないのですが、それだけに「仕事と対価」と「プライベートと善意」が大事になってきます。


●神対応

「事務所」に所属している「有名人」であっても「プライベート」中にも、所謂「神対応」で一般人に接している方々もいらっしゃいます。

これは、その「有名人」の「善意」の幅が大きいことが起因しているのです。

「神対応」は、一般人の方々にはありがたいことに他なりません。

しかし、その「神対応」が一般人にとって「良いこと」であり、それが他の「有名人」も「当たり前」に行うべき「善意」として捉えられている事が問題なのです。

「神対応」は、称賛されることではありますが、あくまでも「一個人の善意」であり、他の「有名人」全体に一方的に求めるということは「押し付け」でしかないのです。

このような「善意の強制を押し付ける」考えも「カスタマーハラスメント」でしかないという事を私たち一般人は気にかけて「有名人」と接しなければならないと思っています。


●一般人への対応と人気職

「有名人」は、「人気職」である場合が多い職業でもあります。

だからこそ「一般人」への「善意」に関しても「仕方なく対応せざる得ない」状況というのもあります。

また、「人気職」であるがゆえに「神対応」であれば「好感」を持ってくれますし、そうでなければ「炎上」したりもします。

しかし、「有名人」は反論できないのです。

「有名人」による一般人への反論は、「有名人」への反論と違い大きな影響力を持っていたりしますから、迂闊に反論できないという状況でもあるのです。

その状況があるからこそ「有名人」に対して執拗に「反論」や「誹謗中傷」、「まことしやかに虚偽を広める」といった「炎上」させようとする一般人の対応を見ることがあります。

「有名人だから何を言っても許される」という考え自体は、考え直してほしいと思う次第なのです。


●あとがき

私自身は「有名人」ではありません。

勿論、私は「一般人」なのですが、普通の「一般人」とは違い「有名人」と「一般人」の狭間に居て脚のつま先の爪程に「有名人」側に重心を掛けている「一般人」という位置づけだということも認識しています。

それは「自意識過剰」でもありますが、そういう位置づけだと思って接しているからこそ見える立ち位置もあるのです。


私が35年ほど前に京都撮影所や大泉撮影所に居た事実を知る人間は、そう多くはありません。

コチラは覚えていても向こうは忘れてしまっている程度の人間です。

映像に名前を遺した作品も、そう多くはありませんから尚更です。


だからこそ、「(自分は覚えている)有名人」に再会した時の対応が微妙になってきますし、またそんな「有名人」と接している一般人を見ても微妙に心が動いてしまいます。

「半分関係者」という立場になってしまうのです。

「有名人」ではないけれど、その立場も裏側も現在どんな気持ちもおおよそは分かり、一般人の気持ちも分かるという立場なのです。


イベントなどでトークショーやゲスト出演をこなす「有名人」の方々を見て、その姿に瞳を輝かせている一般の方々を見て、私はまるでスタッフのような気持ちで進行に対して心の中で想い、勝手に「有名人」の前に補助の手を差し伸べようと考え、一般の方々の想いに目頭を熱くするという、未だに「助監督の立ち位置」のような妄想じみたことを考えずにはいられないのです。

それだけに、「有名人」に対する『仕事とプライベート』への理解を多くの方々にお願いしたいと思う次第です。

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