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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(191)リテイクT-10 「『プロップ』とその他の遺物のその後」

余り語られない撮影所のあれこれ(191)

リテイクT-10 「『プロップ』とその他の遺物のその後」


●小道具やプロップたちのその後

「プロップって何?」

「終了した作品で必要でなくなった小道具やプロップ達はどうするのだろうか?」

そういう疑問が湧くのは、ファンならば至極当然だと思います。

今回は、過去に「プロップ」や「遺物」を語った話をおさらいしてまとめ、更には加筆してリテイクしたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約35年前です。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が35年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●プロップとは?

演劇の財産「THEATRICAL PROPERTY」が省略され「PROPERTY」つまり「財産」のみのとなり、更に綴りとして「PROP」と省略されたことから生まれた言葉です。

映画や演劇で扱う物品全般のことを指す業界用語です。

しかし、演者が手に触れるもので建物やロケセット、ロケ先に最初からあった物品は指さないようです。

特に映画用の「プロップ」のことを「ムービープロップ」や「フィルムプロップ」と呼ぶ場合があります。

日本では「プロップ」=「財産」という単語が一般的に浸透していないからなのか「プロップ」とだけ呼ばれますが、海外では「財産、動産」と混同してしまうために「ムービープロップ」や「フィルムプロップ」と呼称するのが一般的となっています。


小道具さんの扱うものには、演者が身に付ける「持ち道具」と持ち道具以外を含めた「装飾」があります。

これらは全て「プロップ」という事になります。

それ以外に「劇用車輌」も「プロップ」と呼称する場合があるようですが、私の記憶にはありません。

このような映像や演劇業界で演者が使う為に用意された物品全てを指すのが「プロップ」です。

セットの装飾品も演者が触れる可能性があるものは「プロップ」となる訳です。

しかし、これだけ多くの物を指す言葉なのにも関わらず、撮影の現場では「プロップ」という言葉はあまり聞きません。

多分ですが、多くの物が「プロップ」呼称の対象過ぎて返って混同してしまう事が原因ではないかと思っています。


●プロップガン

この様に「プロップ」の定義がありながら、現場ではなぜか「プロップ」と呼称するものは本当に限られていました。

撮影現場で「プロップ」と呼ばれる代表が「プロップガン」と言われる撮影用の銃です。

これは、殺傷を目的としない弾丸の発射されない銃のことで、そもそも「撮影用」の弾丸も音も出ない銃を「プロップガン」や「プロップ銃」と言っていました。

撮影用には音だけが出る「プロップガン」が基本でしたが、単発式の運動会のスターターガンと同じ紙火薬を撃鉄で打ち付けて音を鳴らすタイプから、電気発火式の連発式へと進化していったという歴史があります。

電気発火式の「プロップ銃」のことを「電着銃」とも呼んでいました。

少なくとも35年前の「電着銃」では、基本的にリボルバー式の銃の出番はほとんど無く自動式拳銃などの「オートマチック式銃」をモデルとして形作られているものが多かったっと記憶しています。

これは単純に「リボルバー式電着銃」よりも「オートマチック式電着銃」の方が「ガンエフェクト」を担当する方々に一般的に広まっていたということもあるのかもしれません。

ですから、後々「発泡」=「発火」する撮影カットが予定されていれば、予め「オートマチック式銃」の形の「プロップ」を持たせるという事前準備をしていたことを見た記憶もあります。


「リボルバー式電着銃」は、その構造上「シリンダーが動かない」という特徴がありました。

「オートマチック式電着銃」も構造上「スライドが動かない」=「ブローバックしない」という特徴がありました。

このように、実銃に似せて作られている「電着銃」ではありましたが、「電着」という構造を仕込む必要から実銃とは違った大きさや形、機構になってしまうモノもありました。

一般的には大きさは大きくなりがちですが、機構がシンプルであれば返って小さくなってしまう「電着銃」もありました。

このようなことから、「リボルバー式銃」も「オートマチック式銃」も、市販のモデルガンを「プロップガン」として使用する事すらありました。

この場合は、「モデルガン」の「カートリッジ」に仕掛けを施したりしますから「カートリッジ式プロップガン」とも呼ばれていました。

「モデルガン」の「カートリッジ式プロップガン」は、構造的には実銃に近い為にシリンダーも回りますしスライドしてブローバックもしますが、「電着銃」よりも機構が複雑になるために故障を起こす原因もありました。

故障の割合の少なさや発火時の銃口からの火花などの派手さから、「リボルバー式プロップガン」の多くは、「モデルガン」で行われる場合が多かったように思います。

また、「モデルガン」の多くには実銃とは違い銃口近くに金属製の突起物「インサート」が鋳造されています。

「リボルバー式モデルガン」では、シリンダー内の前部に「インサート」が鋳造されている場合もあります。

これらは日本国内における「モデルガン」の規制によるもので、弾丸を発射できないようにしている部分のひとつでり、バレル内に一体彫像されていますから抜けません。

だからこそ、撮影時には一発で「モデルガン」ということがバレてしまいます。

クローズアップ撮影の為に本物に見せようとして「モデルガン」を持たせても、これでは興ざめです。

ですから、銃口やシリンダーの前面の側で光らないように「インサート」に艶消しの黒色塗料を塗るなどの涙ぐましい努力をしていました。

要は「インサート」が画面に「なんだこの棒は?」と思われないように、光ったり目だったりしなければ良かった訳です。


日本では全くもってありませんが、海外の実銃が一般的に手に入る撮影現場では、実銃に「空砲」を入れて「プロップガン」として用いる場合もあるようです。


因みに「プロップガン」は、かつては「ステージガン」とも呼ばれていました。

しかし、これは日本独特の呼称のようで、1980年代後半からは海外で呼称される「プロップガン」の呼び方が一般的に浸透していきました。


●ヒーロプロップ

銃以外でも「ヒーロプロップ」はありますが、例として銃で説明します。

同じ形の銃がたくさん撮影用プロップとして用意されていたとしても、「形だけの銃」以外の”ギミック”が仕込まれたプロップ全てを特に「ヒーロプロップ」と呼びます。

中にはクローズアップ用に精巧に作られた「プロップ」も「ヒーロプロップ」と呼ばれます。

そういう意味では、日本の時代劇の「アルミ箔張りの竹光」は「アクション用プロップ」だとしても「ジュラルミン刀」などは「ヒーロプロップ」と呼べるかもしれません。

別にヒーローが持っているモノだから「ヒーロープロップ」という訳ではありません。

英語で綴れば「HERO」となり、日本語で一般的に「英雄」を指す「ヒーロー」と同じなのですが、この場合は「特に優れた逸品」という意味の「HERO」ということになります。


銃の場合は、前途の様に「形だけの銃」「一部が動く銃」「電着銃」等のプロップの種類があります。

このようなギミックの仕込まれた「ヒーロプロップ」には、一般的な撮影用プロップ以外に「特撮番組特有のプロップ」が存在します。

ある種、本当の意味での「ヒーロープロップ」かもしれません。


●ワイヤープロップ

特撮番組には、現実には存在しない銃や装備やマスクやスーツが存在します。

それらは全て「プロップ」として特別に造形製作されますが、実在しないものだけに動きやギミックに関しては、現在ならばCGで表現しなければならないようなものも存在します。

しかし、そのCGや合成撮影にバカ高い費用がかかっていた35年程前には、そんな特異な動きやギミックも、その殆どが実写で撮影するしかありませんでした。

そんな時代には「ワイヤープロップ」が造形されます。

文字通り金属製のワイヤーがギミック部分に何本も飛び出した「プロップ」で、このワイヤーを押したり引いたりしながらギミックを操作します。


例えば、「特警ウインスペクター」の場合は、マスクの開閉ギミックが「ワイヤープロップ」です。

この為、主役の「ファイヤー」のマスクには「アクション用」「アップ用」「電飾アップ用」「ワイヤーギミック(アップ)用」の4種類のマスクが最初に製作されました。

つまり、第1話の撮影時に後々「バンク映像」として使用されるギミック映像を撮影する為だけに製作された、ワイヤーのいっぱい付いた「ファイヤー」のアップ用マスクというものが存在していたのです。

目の部分の開閉、ゴーグルの開閉、顎側面の開閉、後頭部の開閉の為の4本のワイヤーが組み込まれ、そのワイヤーの飛び出し位置も撮影の際には一定の角度からは映らない位置でなければならず、尚且つ主演俳優が実際に装着出来るマスクでなければならなかったので、造形的には大変だったと思います。


他の作品ではマスクだけではなくて、腕の「ワイヤープロップ」、足だけの「ワイヤープロップ」をはじめ武器や装備品にも「ワイヤープロップ」は存在しました。


中には、「仮面ライダーZO」のマスクのようにマネキンの上半身を中身として制作され、装着者を気にすることなく「ワイヤープロップ」と「電飾プロップ」を複合的に組み合わせ、更に炭酸ガスを噴き出すためのホースまで仕込まれたギミックのオンパレードの様な「ヒーロプロップ」というものも存在しました。


●アクション用プロップ

マスクやスーツに「アクション用」と「アップ用」が存在する様に、武器や装備品にすらアクション用の内部をウレタン製で製作された「プロップ」が存在していました。

海外では、武器や装備品の「プロップ」は人や物に対する打撃や重さを考慮してゴム製の「ダミープロップ」が用いられる場合があります。

これらを総称して「ラバープロップ」や「ラバー○○」といった呼び方をするようです。


例えば、「特警ウインスペクター」の場合。

デイトリックM-2と呼ばれる専用銃には、「ウレタン製のアクション用のバスターモード(=銃形態)」「ウレタン製のアクション用のパイルモード(=警棒形態)」「FRP製のアップ用のバスターモード」「FRP製のアップ用のパイルモード」「FRP製のバスターモードとパイルモード」に相互変換可能な「ギミックプロップ」が存在していました。

この銃はレーザーを発射する設定でしたから存在しませんでしたが、実弾設定ならば「発砲ギミックのFRP製or一部鋳造製のバスターモード」があったのでしょう。


これらの「ウレタン製アクションプロップ」は、海外製の「ラバープロップ」と同じく重量の問題や落下や打撃時の衝撃によっても破損しにくいという利点から作られていました。

前途した「特警ウインスペクター」の場合も「FRP製アップ用スーツ」であってもホルスターに装着されているのは、全身を写して大きな動きが無い場合を除いては通常「ウレタン製アクション用バスターモードプロップ」でした。

これは、ホルスターに「FRP製アップ用バスターモードプロップ」を装着していては、もしもホルスターから飛び出てしまった際に破損する危険性があったためと、「ウレタン製プロップ」の方が格段に軽かったためでもありました。


また、玩具が発売されて実際の現場で使用されている「プロップ」と遜色がなければ、アップ用だったり、壊れても代替えが存在する理由から「撮影用プロップ」として使用する場合もありました。

中には、玩具の方が「撮影用プロップ」よりも扱いやすく、画面映りが綺麗として玩具自体に「撮影用プロップ」の座を奪われるモノも存在しました。


例えば、「特警ウインスペクター」の「特警手帳」は、プロップよりも玩具の方が開閉がスムーズだし、電飾までされていると現場では喜ばれました。

しかし、玩具ですから子供の手のサイズを考慮して、実際のプロップより若干小さかったと記憶しています。

それでも、この「特警手帳」の玩具は「撮影用プロップ」としての地位を本来の「FRP製アップ用ギミックプロップ」と「ウレタン製アクション用プロップ」の両方から奪い取りました。

使い勝手が良く、壊れたり破損したり傷が入ったり色が剥げても「プロップ」制作の業者さんへ「修理」をいちいち掛けないでも、市販品の玩具を買ってきた方が早いし綺麗だという利点があったのでしょう。

同じように「特捜エクシードラフト」では「アクセスロックS」と呼ばれる通信機器件スーツの格納庫のロックを解くキーにもなっているアイテムは、「撮影用プロップ」も作成されましたが、基本的に撮影開始時には既に玩具が作られていて、撮影現場の経験上そちらの方を使用していました。


日本の時代劇に於いて多用されている「アルミ箔張りの竹光」は「アクション用プロップ」と言えるでしょう。

日本刀以外の形状のナイフや特殊な形状の刀剣類では、木製やバルサ材製の「アクション用プロップ」が使用されていました。

近年では、よりアクションがし易く破損もし難い「ラバー製の刀」や「ラバー製ナイフ」などが「アクション用プロップ」として登場してきているようです。


●劣化する撮影用プロップ

現在のCG全盛期の撮影現場においては、特に演者に危険が伴う可能性のある武器や銃の「プロップ」の場合、形だけで何のギミックもなく危険性もない単なる「トイガン」=「おもちゃの銃」や武器を用いる場合が出て来ています。

3Dプリンターで作成された一色の武器や銃の様な形だけの「プロップ」で撮影し、ギミックや発火などはCGで追加処理する方法が取られているのです。

撮影はできますが、「プロップ」自体はそのままでは単なる一色のプラスチックの塊であり、CGを加えて貰えなければ画面上には、粗悪なおもちゃを持った人物が真剣な顔をして立っているというシュールな映像になってしまうだけのなです。

ある種、「撮影用プロップ」としては「劣化」していることになります。

しかし、そこには今までの映像では見ることの出来なかった迫力ある映像と、あたかも実物と見紛う「プロップ」が、画面上だけとはいえ存在することになるのです。

まあ、この方法はまだまだハリウッドなどの海外の撮影現場が主で、日本国内ではCGの追加処理で発火やエフェクトを作る程度で、「プロップ」自体は画面にそのまま映っても大丈夫な形状と装飾があるものが「プロップ」として使用されています。


●プロップの流用

一般のドラマの撮影では余り存在しませんが、作品中に登場する番組固有の「プロップ」というのも存在します。

刑事ドラマでも捜査チームが特殊であればお揃いのジャケットを作成したりしていますし、ヒーロー番組ではヒーローキャラクターそのもののスーツや武器といったモノ、ヴィランのスーツやアイテム、また、バイクや車輌なんていう大きな「プロップ」も存在します。

そんな番組固有の「プロップ」も、35年も昔では番組が終了すれば基本的には廃棄対象でした。

しかし、番組がシリーズ化しているのであれば、必要になる可能性があるということから少なくとも次のシリーズが撮影開始されるまでは保管ということになっていました。


私が撮影所に居た35年前は、「仮面ライダー」はシリーズではなくて、「スーパー戦隊」シリーズと「メタルヒーロー」シリーズが制作されていましたし、刑事ドラマでは「はぐれ刑事」がシリーズ化していました。

基本的には刑事ドラマのシリーズの方は、番組固有の「プロップ」である主人公やその周囲のレギュラー登場人物の服や持ち物を対象として、撮影が終了したとしても廃棄することはありませんでした。

むしろ、分けられて保管されていました。

コレは主人公や他のレギュラー登場人物が次のシリーズ作品でも同一人物である場合が殆どである為に、前作からの「繋がり」を重視していたからに他なりません。

また、一般的なドラマである以上、「特殊なプロップ」ではない為に、他の作品に「流用可能なプロップ」ということになりますから、そう易々とは廃棄されませんでした。


それに対して「スーパー戦隊」シリーズには、当時は明確な繋がりは無く、作品が撮影終了前に次の番組と映画等で共演するぐらいでしたが、撮影が終了すればヒーロースーツや武器等は保管となりました。

しかし、ヴィランのキグルミや衣装などの「プロップ」においては廃棄対象であったと思います。

ましてや、作品中にゲスト出演しただけのアイテム等の「プロップ」は、流石に同じ作品中では保管されていますが、撮影終了後には今後に必要になる「特殊なアイテム」や「特殊なプロップ」のベースとなって改造されたり、流用されたりしていました。

「特殊なアイテム」や「特殊なプロップ」は、作成や購入に費用がかかってしまっているモノも多く、「使い捨て」では勿体無いからでもありました。


「スーパー戦隊」シリーズよりももっと作品間の「繋がり」があったりなかったりと曖昧な状態であったのが「メタルヒーロー」シリーズでした。

「メタルヒーロー」という呼称のない時代の「宇宙刑事シリーズ」の3部作や「特警ウインスペクター」から始まる「レスキューポリスシリーズ」と呼称される3部作、そして「重甲ビーファイター」「ビーファイターカブト」の2作品には続編としての「繋がり」が存在していましたが、その連作を除いた他の作品間には作品としての「繋がり」は皆無でした。

ですから、次の作品の製作内容が決定して、本式に撮影に取り掛かる際に現在製作中の作品と「繋がり」が有るとされると衣装や小道具などの「プロップ」達は念の為に残されました。

しかし、余り多くの「プロップ」は再利用されず、新規に作成された「プロップ」に変更になるのが通例でした。


このように一般的なドラマ等の作品の「プロップ」が他の作品へ流用されることは多々あります。

同じ番組の中や同じ系列のシリーズ作品ならば「プロップ」を共有する場合も普通にあります。

しかし、一般的な作品と違って特撮作品のような「特殊なプロップ」を使用している作品の場合は、特徴的過ぎて「特殊なプロップ」をそのまま流用することが困難な場合があります。

そんな場合は、色を塗り替えたり別の何かをつけ足したり削ったりして「違う何か」という「プロップ」を新たに作り出して流用していました。



●プロップの所有権と転用

ヒーローのスーツやマスク、装備品や武器、怪獣や怪人のキグルミ、ミニチュアなどの「特殊なプロップ」の場合、本来の所有権は制作会社にあります。

しかし、昔はそれほど「特殊なプロップ」に対しても大切に扱われていませんでした。

一般的な作品の「プロップ」であれば、他の作品に流用可能なモノも多々ありますが、「特殊なプロップ」になれば流用と言っても無改造のままでは流用も難しいものがありました。


通常の衣装や小道具としての「プロップ」は、基本的に小道具を用意・管理する装飾会社や衣装を用意・管理する衣装会社からの「貸し出し」ということで成り立っています。

中には破損することが予測されるもしくは確定的な「プロップ」に関しては、制作会社の「買い取り」ということになります。

これらの場合、「プロップ」の所有権は装飾会社や衣装会社にあります。

制作会社にはありません。


ヒーロー番組の「特殊なプロップ」は、レインボー造形さんやエキスプロさん、モンスターズさんなどの「プロップの製造会社」に制作会社が依頼し、制作会社に納品されますので、制作会社に所有権があります。

昔は、これら「特殊なプロップ」の用意・管理を他の小道具と同じく装飾会社が請け負っていました。

そして、昔は作品が終わるとスーツやマスクなどの主要な「プロップ」以外は基本的に廃棄となりましたから、制作会社が所有権を破棄したことになりました。

「もったいない」と今では思われますが、使用しないモノを永遠に置いておくのは費用的に問題があったのも事実ですから、当時としては仕方ない処置だったのかと思われます。

大抵は、その「プロップ」を用意・管理する装飾会社が、他の作品に利用できそうな「プロップ」だけを残して、制作会社の費用で廃棄する訳です。


所有権のなくなった「プロップ」は、他の用途に流用・転用されます。

特殊な形状をした「プロップ」ならば、色を塗り替えたり作り変えたりして流用します。

また、装飾会社が同じで制作会社が違う番組への転用もされていました。

この場合も色の塗り替えや作り変えが為され、できるだけ「特殊なプロップ」から「特殊なプロップ」へ転用していたようです。


現在では、昔よりは制作会社の所有権がしっかりしていて、廃棄にまわされる「プロップ」に厳選が行われいるようです。

後世に残す「遺産」としての「プロップ」が見直されて来たともいえると思います。


●記念品

シリーズ作品の主役を含むレギュラーキャストは、大抵の場合は最終回まで出演していますし、いくら次回作に「繋がり」があっても作品としてはオールアップ(=撮影終了)と共に一度区切りがつけられます。

次回作が続編であったとしても再利用される訳もない事が明白なアイテムや装飾品などの「プロップ」は、レギュラーキャストへ「記念品」としてプレゼントされる場合が、35年前には往々にしてありました。

大抵は、思い入れが残りながらも余りかさ張らないモノを1点選んで小道具さんが渡していました。

レギュラーキャストがお揃いで持っている銃や電子手帳等が選ばれるのが通常でした。

中には「どれが良い?」とキャスト達に選んで貰う場合もありました。


撮影終了迄の長丁場をレギュラーキャストと同じ様に駆け抜け、キズや塗装剥がれもある「プロップ」達は、それだけで作品の撮影終了に対する「記念品」でした。

「特殊なプロップ」を持たないレギュラーキャストには、メガネや装飾品といった身に付けていた小道具が対象になる場合もありました。


現在はどうしているのかもわかりません。

「特殊なプロップ」は、それだけに製作費は高額でしたし、表立って「記念品」といって渡せる訳ではなくて小道具さんの御厚意という名のナイショの様な行為でした。

どうせ廃棄となる可能性が高いモノならば、若いレギュラーキャスト陣に思い出として渡して、明日からの糧にして貰おうという気持ちであったと思います。

現在では、前途したように「特殊なプロップ」を含めて管理しているキャラクター管理のお仕事が独立して存在していますし、制作会社の所有権などもしっかりしていますので、そんな事は無くなってしまっていると思っています。


但し、コレらは「特撮作品」で行われていた行為であって、他のドラマではレギュラーキャストからのオネダリでも無い限りは、余り行われていませんでした。


●断捨離

では、「プロップ」を含めた「廃棄」としての部分にもう少し光を当ててみたいと思います。

作品は、映画であってもテレビ作品であっても、シリーズ作品であっても単発スペシャル作品であっても、いつかは終了してしまいます。

そして、終了した作品には多くの「後に遺されたモノ=遺物」が存在します。

「台本」「資料」「キグルミ」「小道具」等などの「捨てる」のか「残す」のかが迫られる「遺物」達はどうしているのでしょうか?

これら「遺物」の「廃棄」と「保存」に焦点を当ててみましょう。


●お片付け

シリーズ作品で無い限りは、作品の撮影が全て終われば撮影に関わったスタッフは解散しますし、スタッフルームも明け渡さなければなりませんでした。

明け渡すといっても、机やイス等の備品類はそのままでしたが……

スタッフの私物は持ち帰らせますし、忘れ物は連絡を取って制作部まで引き取りに来てもらいます。

それでも置いて行かれたモノは廃棄でした。

ですから、本来であればオールアップ(=撮影終了)数日後のスタッフルームには、個人的な小さな忘れ物と机やイスやコーヒーメーカーという様な次の撮影隊(=組)も使用する共用設備とゴミだけが遺される訳です。

本来であれば……


●台本

台本は、基本的にスタッフやキャストに一人一冊配られます。

撮影する作品の情報の殆どが記入されていて、撮影中にも書き足されていく大切な本です。

そして、その作品の為だけに印刷されて撮影関係者にしか配られないという貴重品でもあります。

どんな本屋に行っても売っていません。

それでも失くす、破れる、水に濡れる、様々な要因で欠損する場合はあります。

だからこそ、予備の部数も印刷されています。

しかし、撮影中では余程のことが無い限りは追加印刷はしませんし、撮影が終了してしまえば改めて印刷する事もありませんから、台本は基本的に初版しか存在しないという事になります。


さて、撮影が終了した後はと言うと、各人に配られた台本は各人が自分で持ち帰ります。

個人的に持ち帰った台本の「廃棄」と「保存」は、各個人に一任されます。

問題は予備の台本です。

この予備の台本達は一時的には保管されます。

しかし、保管と言っても冊数が溜まってくれば置き場も無くなり、「廃棄」となります。

年間で数百本以上の作品が撮影され、同じ数だけの台本が印刷されているのですから、その予備の台本だけでも大変な冊数になるのは想像に難くないでしょう。

更に、予備の台本はスタッフやキャストの数が多かった作品では数十冊単位で余ってしまっていましたから、年に一度位には「廃棄」されないと保管場所(階段下とか制作部の部屋の隅とか)に入り切らない程の冊数の「廃棄対象」の台本があった訳です。


35年前には東映動画(=現:東映アニメーション)では年に一度バザーが開催されていて、その際に在庫になっているセル画や台本や設定資料などを販売していました。

バザーのお客様は、スマホやネットオークションどころかインターネットも無い時代でしたから、チラシ、貼り紙、口コミでの参加でしたが、それでも毎回盛況でした。

尚、現在では行われていないようです。


残った台本は、今では表に出てくることは殆どない状態ですので、きちんと「廃棄」されているのだと思われます。

たまにネットオークションなどで見かけることもありますが、個人所有の台本だと思われます。

ただし、個人所有の台本ではキャストはキャストとしてスタッフは部署によって何かの書き込みがされている台本というのが殆どですから、綺麗な折り曲げてもいない書き込みのない台本が出回ることは、余程仕事をしていなかったスタッフかキャストか、前途のような過去のバザーで販売されたものか、記念でもらった台本か、「廃棄」された新品台本が流出したものかと思われます。


私は35年前に、東映東京撮影所本館の階段下のスペースに置いてあった大量の台本の束を「廃棄」する手伝いをしました。

「興味がある本(=台本)があったら持って行って良いよ」とは言われていましたから、数冊お駄賃代わりに頂きました。

その際にも同じ台本が数十冊単位で束にされているモノもありましたし、一冊や二冊程度の台本を十冊や二十冊単位で束ねているモノもありました。

テレビプロの台本ならば「はぐれ刑事」「スーパー戦隊」「メタルヒーロー」などのシリーズモノの台本でしょうが、本館の階段下には「ドラマスペシャル」「土曜ワイド」「火曜サスペンス」といった単発ドラマの台本が大半でした。

保存されていた台本の大部分は「廃棄」する為に、撮影所内に置いてあるリヤカーに一時的に集められ、古紙回収等の業者に引き取りに出されていました。

しかし、それは大量に「廃棄」に出される場合であって、1冊や2冊程度の廃棄ならば、破り捨てる制作部さんもいました。


台本自体を「保存」して置くというのは、制作部の仕事でしたし、台本が製本された際に「保存用」は制作部によって取り置かれていた様ですから、撮影後に遺された台本は、基本的に「廃棄」という事になる訳なのです。


●資料

作品作りには、台本だけが資料ではありませんでした。

「イメージイラスト」「設定集」「絵コンテ」などの台本には入らないコピー用紙の資料が配付されることがありましたから、それが作品の撮影終了とともにスタッフルームに遺される場合もありました。

枚数のある資料はホッチキス止めされたものでしたし、一枚物の資料は折り畳まれているほどの大きさのB4やA3の用紙でしたから、数があれば容積的もかさ張りました。

そんな資料の殆どは、台本などのように個人名を記入しているわけでもありませんでしたから、仮に書き込みが残っているような資料でも個人を特定しにくい状態でした。

これら忘れ物の紙資料は、過剰在庫になってしまったモノも含めて「廃棄処分」が通常でした。

但し、台本と違い古紙回収等に回される場合は殆ど無く、紙ゴミとしての「廃棄処分」をしていました。


資料達は基本がコピーでしたから、撮影途中でも追加印刷がされていました。

ですから、余剰の資料は普通に存在しましたし、台本以上に過剰在庫になってしまう資料も大量に存在していました。


この紙媒体の資料の「保存」に関しては、どうされていたかは定かではありません。

「イメージイラスト」や「設定集」は、番組が始まる前や新たに登場した車輌や武器等があった場合に制作部より配布されていましたから、原本となるモノは制作部が所持していたと思います。

ですから、「原本の保存」という形で保管されていたと思います。


「絵コンテ」は、現在では絵コンテを切る専門のスタッフが居る程ですが、35年前の場合は監督自らがコンテを切ったり助監督が監督の指示で切ったりもしていました。

ですが、アニメーション製作の様に必ず切るというモノでもありませんでした。

そして、切られるのであれば大量でした。

それだけに、「廃棄」も多かった紙資料の筆頭でした。

ですから、イメージが伝わりにくいシーンに対してだけ「絵コンテ」を切るという監督もいました。


●機密

基本的に「台本」「資料」「プロップ」は、どれを含めても製作会社の「機密」に属するモノです。

ですから、世間一般に公開されたりするモノではないのです。

35年前では、そこら辺の「機密情報」や「個人情報」等の「コンプライアンス」が希薄であったこともあり、流出してしまっているモノも存在します。

何せ「台本」の中にはスタッフやキャストの連絡先と称して自宅の電話番号が印刷されていたモノもたまに存在していましたから、個人情報も何も無い時代でもありました。


だからこそ現在では様々な「コンプライアンス」の基に、「保管」と「廃棄」が徹底され、遺すべきモノは残し、廃棄したりリサイクルしたり出来るモノは、そこで役目を終えるという区切りが持たされていると思っています。


作品は「撮影終了」と共に完成に向けて編集され、世間へ公開されるという空へと飛び立って行くものです。

そして、「飛ぶ鳥跡を濁さず」の言葉にあるように「整理」し「分別」し「保管」と「廃棄」と「リサイクル」へと「遺された」モノは散って行くのも又必然なのです。


●あとがき

様々な「プロップ」や、撮影所以外には殆ど存在しない貴重なモノだし、金額もそこそこ掛かってしまっているけれども、その場に延々と置いておく訳にはいかず「廃棄」されるモノ、そして「保管」や「保存」されるモノと、撮影には様々な「遺物」が出てきます。

過去には、「置き場に困るから」「どうせ使わない」「捨ててしまえば、後は知らない」といった考えから、貴重な「プロップ」を含めた「遺物」達が「廃棄」されてきました。


昔の「プロップ」や「台本」や「資料」などの「遺物」達は「貴重な存在」です。

それだけに、「オークションサイト」等で販売されてしまうモノも少なくありません。

20年も30年も前ならば、公式すら「廃棄」するくらいならばと販売されていましたが、現在では「遺産」として「保存」されていっていると思われます。

しかし、如何せん大量に在るモノは一部を「保存」して、「転売」の可能性がある為に「廃棄」されている可能性があるのです。


たまにSNSで見かける「ヒーローのバイクや車両が打ち捨てられている画像」を見ると「勿体無い」と思ってしまいます。

しかし、それは今は昔のお話で、現在では過去の作品の「遺物」の展示会が日本各所で開かれる程になり、「遺物」が「廃棄物」ではなく「かけがえの無い作品の一部」となったのです。

昔に「廃棄」されてしまったり「作り替え」られたりしてしまった「プロップ」や「貴重な資料」は、もう返っては来ません。

だからこそ、失われた「プロップ」を「遺物」ではなく、新たな「遺産」として再生する取り組みも行われている様です。

流石に「ワイヤープロップ」や「ギミックプロップ」を再生する訳には行きませんが、綺麗なスーツやマスクといった「ヒーロプロップ」が新たに作られたり、残存している「ヒーロプロップ」を修繕したりして「遺産」として後世に遺す取り組みが行われ、大型ショッピングモールなどで撮影会が開かれる程になっています。


現在では「プロップ」自体も多くは合成やCG処理に変わってしまっていますから、「廃棄」する「遺物」自体も減って来ていると言えるでしょう。

それは、「遺産」が減っている訳ではありません。

寧ろ「遺産」として遺る「プロップ」達が増えていると言っても過言ではないのです。

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