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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(179) 「見慣れた映像『バンク映像』」

余り語られない撮影所のあれこれ(179)

「見慣れた映像『バンク映像』」


●バンクシステム

映画ではあまり観ませんが、テレビ作品等を視聴していると「何度も繰り返し観たことのある見慣れた映像」を目にする事があります。

これは「バンクシステム」と呼ばれるもので、映像作品、中でもアニメや特撮において特定のシーンの動画、あるいは背景を"バンク(=銀行)”のように保存して置いて、別の部分で引き出す(=流用)するというシステムの総称です。

撮影した作品自体に使用するのは勿論のこと、全く違う作品にも使われることがあります。

実は近年、一部の漫画家も「バンクシステム」を活用しているのです。


今回は、この「バンクシステム」の特に「バンク映像」に関して語ってみたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが30年以上前のことです。

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。

また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在します。

その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●バンク映像とは?

前途した様に「(以前撮影した)映像を銀行(=バンク)の様に保管して置いて、再び使用したい時に引き出す(=再使用、流用)」した映像を「バンク映像」、もしくは単に「バンク」と呼びます。

簡単に言えば「映像のコピー(=複製)」を再度使用した映像を言い、フィルム時代の呼称の名残から「バンクフィルム」とも呼ばれます。

撮影現場では単に「バンク」と呼ぶのが一般的でした。


呼び方としては「ライブラリー(=図書館)ストック(=在庫、たくわえ)」とも呼ばれていましたし、この場合は単に「ライブラリー(映像)」と呼ばれていました。

「ライブラリー」を「ライブ」と略して話す場合もありますが、「生放送」や「生演奏」を表したりする場合にも使用される事から会話上で「ライブ」が「ライブラリー」の事を指し示している事が明白な場合にのみ使用されていました。

まぁ、話の内容的に間違える事の方が稀有でした。

私は聞いたことはありませんでしたが「デュープ(=複製)」という呼び方もあるようです。

いずれにしても「映像を再利用する」という点では何ら変わりなく、呼び方が変わっているだけという状況のようです。

余談ですが、こういった「業界用語」は、他の場合でもそうですが各々の会社や東西の地域などによっても広まり方が違っていて、中には言葉の内容も微妙に違っている場合すらありました。

ある種の「方言」のようなところもあり、同じ業界でも全く通じない「業界用語」というものも存在しますから、そのひとつなのかもしれません。


「バンク映像」は、元来はアニメ制作の過程で使用されたのが初めてでした。

基本的には、同じシチュエーションのシーンが複数回登場する様な作品で、そのシーンを毎回作製し撮影するとコスト(=費用)が高くついてしまいます。

この様な場合にコストダウンとして用いることが多いのが「バンク映像」です。

そのため、連続しない(実写)映画などの作品の場合は「バンクシステム」を用いる必然性が低く、その例も少ないのが実状です。

アニメとは違い実写の演技は何度でも繰り返せば良いし、焼き回しする費用よりも生のフィルムに焼き付けてしまった方がずっと安上がりだからです。

だから、連続ドラマやテレビドラマに於いても現代劇では「バンクシステム」を使用する場面は殆どありません。


一方、テレビアニメの場合、人物、背景、物体が全く同じ反応や動きをする場合は、本来ならば新規に作画し直すこととなります。

しかし、それでは手間や時間やコストがかかってしまいます。

したがって一度作画した動画の中でよく使われるものは「バンクフィルム」として保存し、再活用されるのが一般的です。

つまりはフィルムの焼き回しの費用が、再度の動画作成と撮影の手間と時間と費用を安く出来るという事に他ならないからなのです。


特にアニメや特撮番組の場合は、変身シーンやロボットの合体シーン、必殺技の使用場面などの毎回使われるシーンは、制作コスト削減のために最初から流用を前提に作成や撮影されることが多いのが一般的です。

これは短い「カット」や「シーン」の「バンク」映像なので、「バンクシーン」とも呼ばれます。

また、一般的にヒーローやロボットアニメや特撮ヒーロー作品の場合、スポンサー(特に玩具メーカー)は当然ながら自社商品の販売拡大を望んでいて、商品アピールに直接つながる格好良い「バンクシーン」を必要不可欠とされているため、特にそれらのシーンの動画枚数やカットを増やして制作することで、費用対効果との一石二鳥にも繋がるという利点にもなるのです。


●バンク映像の命名

「バンクシステム」が本格的に使われたのは、日本初の30分テレビアニメシリーズ「鉄腕アトム(1963年〜1966年)」においてだと言われています。

必要に応じて預金を引き出せる銀行に例え、手塚治虫が命名したとされています。

この「バンクシステム」が、アニメーションをテレビ番組として毎週放送することが可能になったひとつの要因とも言われています。


この様に「バンクシステム」は日本由来の言葉である為に海外では使用される事は殆ど無く、海外では「ライブラリー」や「デュープ」と呼ばれているようです。


●データはオタクに聞け

現在の映像データはパソコン等から簡単に検索出来てしまいますが、30年も前となるとパソコンも高額で庶民ではWindowsの登場以前では普及率は多くはありませんでした。

その点からも、30年以上前では同じ番組内で「バンク」用に撮影された映像はいざ知らず、他の番組の映像からの「流用」としての「バンク」であれば、膨大な過去の映像をビデオ画面でひとつひとつ確認するか、人の記憶しか頼るものがありませんでした。

そこで当時から絶大な情報力と記憶力を持つ「オタク」のスタッフの力が有効に活用されていました。


私が居たメタルヒーローのスタッフには制作進行にAさんという特撮大好きな方がいらしゃいました。

普段は物静かで、少し目つきの悪い方で、オタクのようには全然見えない方でした。

制作進行としては優秀ではありましたが、周囲のスタッフとのコミュニケーション的には上手くいっているとはお世辞には言える状況ではありませんでした。

だからと言って嫌われている訳でもなく、普段が無口ということもあって仕事以外の付き合いがないために他のスタッフとの親密度がなかっただけという状況でした。

それでも他のスタッフはおろか監督さえも一目置く「特撮オタク」でしたから、「バンク映像」に関してはその知識力が大いに活躍していました。

「ガソリンスタンドが爆発する映像ってなかったかなぁ?」

「〇〇戦隊の〇〇話のCパートにありましたよ。あとは〇〇の〇〇話にあったかと思います」

突然の質問にもメモやノートを見ることもなく的確に答えられる方でした。

流石にビデオ等で過去の作品の映像を確認するのですが、Aさんの記憶に間違いがあったことはありませんでした。


●バンクするつもりのなかったバンク映像

「バンク映像」は、本来は「バンク」をすることを前提として撮影さるのが一般的です。

しかし、本来「バンク映像」として撮影していた訳ではないにも関わらず、後に「バンク映像」として多用される映像というのも存在します。


前述の通りアニメや特撮作品以外での実写番組での使用例は少ないのですが、NHKの大河ドラマなどでは合戦シーンのフィルムなどを一部使いまわすことがありましす。

つまり、大がかりな関ヶ原の戦いのシーンは、その後の作品でも一部が流用されているのです。

これは、合戦シーンにかかる多くの費用(エキストラやアクション俳優さんの出演料や武具や馬のレンタル料金、撮影スタッフのギャラなど)とそれに対してかかる準備段階を含めての時間を、複製代金だけでカットできるという利点に他なりません。

だからこそ大河ドラマの映像は、同じくNHKの歴史情報番組などでも一部加工を施した形で流用されることが多いのです。

つまり、予算の少ない歴史情報番組でも既に多くの費用を使った映像を少ない費用で使用できるという利点となる訳なのです。


これらの「合戦シーン」をはじめとして、本来「バンク映像」として撮影していた訳ではないにも関わらず、後に「バンク映像」として多用されるシーンの多くは、「多くの費用」が掛かっていることは勿論のことですですが、「何度見ても時代を感じさせない凄さがある」「映像的に他にはない魅力がある」という特徴もあります。

だからこそ他の作品で「バンク」として多用される映像とは、「バンク映像にしたい称賛される映像」であったという証明でもあるのです。


●現在のバンク映像

映画や特撮作品では、基本的に光学合成やCG、ミニチュアの変形シークエンスなどのコストが高いシーンで「バンク」が用いられ、アニメ同様に変身や合体、必殺技のシーンが多いのが特徴です。

しかし、近年ではフィルム時代とは違いデジタル化が進んだお陰で複製がコストの高い状態ではなくなっています。


だからといって、見せ場以外で何度も「バンク」を使うと作品が単調になるため、視聴者を飽きさせてしまうことに繋がりかねません。

そのため、途中で新しいバージョンの「バンク」を作成する場合もあります。

また、「バンク」映像の中にはその場の状況や時系列的に矛盾した場面が存在している場合もあり、視聴者等から指摘されることも実際しばしばありますから、新しい「バンク」映像の作成は必要不可欠と言えるでしょう。

昨今は、録画や映像ソフトなどで繰り返し見ることが当たり前になったこともあり、ここぞという場面以外での使用を避け、使用する場合でも多少手を加えて「バンク」と気づかせなくさせたりと、以前のものとは違う場面を作り出すなどの工夫が必要になってきています。


●マンガにもある「バンク」

マンガにも「バンク」は存在します。

単純に「バンク」したいコマや画像をコピーし貼り付けるのです。

本当の意味での「バンク=コピー」と言えます。

実は松本零士先生等でもコピーを多用しており有名なのです。

勿論、作画の時間を短縮する為の「バンク」ですが、コピー機のなかった時代やコピー機はあってもコピーそのものの画質が荒々しくて原稿には使用出来なかった時代では、流石に行われていなかった技術ではあります。


しかし、パソコンが一般的になった現在では、寺沢武一先生など多くの漫画家がCGを導入しており、パソコン上でコピーペーストする手軽さから、マンガ製作における「バンク」も一般的なものとなりつつあります。


●あとがき

フィルム時代には、パソコンという神の機器が無いか性能が良くなかった為に「バンク」の作成と言えども容易な作業ではありませんでした。

しかし、近年のデジタル化の躍進は、そんな「バンク」作成作業も容易に行える様になって来ています。

だからといって、過去の膨大なフィルム時代の映像を現在のデジタル映像作品の「バンク」として簡単に使えるものではありません。

画質の差は言うに及ばず、撮り方や写り込んでいる被写体の時代感も違ったりして、フィルムをデジタル化しても画像的に繋がらないと思えるモノが殆どなのです。


だからこそ、「バンク」として使用出来る様にデジタル的に撮影し直したり、過去の画像をブラッシュアップをしたりして使用されたりもしています。

例えば、役者の若かりし頃の過去の画像等がどうしても必要で、デジタル画像と融合したい場合等は、ブラッシュアップを繰り返して現在のデジタル映像へと昇華するといった映像も作成可能となっています。


映像業界には膨大な過去の映像が「ライブラリー」として存在します。

フィルム時代ならば、その中から「バンク」映像

を探し、「コピー」していたのでしょう。

今やその膨大な「ライブラリー」は、デジタル映像への進化に伴い直接的に「バンク」として使用出来る事はなくなっています。

しかしながら、過去の映像に似せた映像をフィルム時代よりも安価で効果的に創り出せる時代になっているのも事実です。


そこには、「バンク」として何度も観てきた過去の映像達のエッセンスを取り込んで、新たな「バンク」として他作品からも引き合いが来る程に何度も使用されるような映像を作製すると言うまでの気概はないのでしょうが、「バンク」として繰り返される為の「ベース」映像ぐらいにはなって行っていると思うのです。


「バンクシステム」は、日本の連続テレビアニメの先駆「鉄腕アトム」のアニメ制作の現場から予算を削れ、制作時間も短縮出来る方法として作られました。

アニメのセル画の口元だけを別のセル画にして差し替えて口元だけ動いている様にするといった、動く部分だけ別セル画といったのも「鉄腕アトム」からです。

その頃のアメリカのアニメはフルアニメ(1秒間に24コマのフィルムに24枚全て手描きのセル画が作られる、めちゃくちゃ時間と労力と予算がかかる制作方法)でしたから、コマ数を落とし描くセル画枚数を減らし、それでも動いている様に見せられる限界を模索し、時間と労力と予算を削って制作していたのです。

そんな苦肉の策ではあるが画期的な「バンクシステム」は、映像業界全体へと拡がっていきます。


部分的な「バンク」は、画像全体へ、そしてカット全体やシーン全体へと拡がり、映像制作の助けへと繋がっているのです。

繰り返し観ることになる「見慣れた映像」は、映像制作の都合で生まれた映像ではあるが、その内容が「必要不可欠な映像」である事に他ならないのです。

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