余り語られない撮影所のあれこれ(162) 「『暗黙の了解』と『守秘義務』」
余り語られない撮影所のあれこれ(162) 「『暗黙の了解』と『守秘義務』」
●どんな会社にもある
どんな会社でも、組織でも明文化された「守秘義務」と、明文化されていないがルールとして存在する「暗黙の了解」というのはあります。
それは撮影所内でも存在し、特に「守秘義務」は明文化されていて、私の様な契約社員であっても入所の際にはサインと押印を求められていました。
今回は、そんな「守秘義務」と「暗黙の了解」について語らせて貰おうと思います。
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●守秘義務
一般的な会社の「守秘義務」は、退職後も続きます。
それは撮影所でも同じです。
ですから、私もこの「余り語られない撮影所のあれこれ」で書かせて頂いている内容に於いても「守秘義務」を守りながら、語らせて貰える範囲で書かせて頂いています。
先ず、どんな事が「守秘義務」にあたるのかという事ですが、基本的には「知り得た情報」を口外しないという事なのですが、それではこのコラム自体が「守秘義務違反」をしている事になってしまいますし、宣伝活動であっても「守秘義務違反」な抵触してしまいます。
具体的には、「制作会社」や「スポンサー」そして「出演者」や「スタッフ」等の関係者に対して不利益になる可能性がある言動、映像、文章等を発言もしくは発信する事が対象となります。
曖昧な様ですが、範囲を大きく裁量は細やかにする事で、個人的な事から会社単位の事まで「守る」事が出来る訳です。
●写真撮影
写真や動画といったモノは、近年のスマホの進化によって誰でも簡単に撮影する事が可能となりました。
30年前にはインスタントカメラは有ったもののまだまだフィルム写真でしたし、「レンズ付きカメラ」所謂「写ルンです」が手軽なフィルムカメラとして主流になっている時期でした。
「デジカメ」なんてありませんから、複製=焼き回しが出来ない「インスタントカメラ(現在のチェキ)」でもなければ写して直ぐに画像を見るといった事も出来ないでした。
ですから、写しても現像後にならないと何を写したのか?どう写っているのか?は判らない状態でした。
こんな状態でしたから、撮影の時には撮られている事は分かっていても、現像後の写真を見たことがないという事も度々でした。
だから、自分が写真を撮っても写っている人たちに見せた事もないというのも“また”当たり前でした。
撮影後の数十年後になった最近になってSNSとかにスナップ写真が載る事も度々あり、関係者から「懐かしい!」というコメントが寄せられる事も散見される様になって来ました。
実は、「守秘義務」や「暗黙の了解」は、こんなスナップ写真にも存在します。
特に画面上に表さない平常なキャストの姿や表情や仕草は、人によっては「公表して欲しくない」と思っている場合もあるのです。
それは「守秘義務」や「暗黙の了解」とは少し違いますが、個々人の「秘匿の公開」は、ひいては「会社の守秘義務違反」として扱われてしまう事すらあるのです。
大抵は、「共通の想い出」の範囲として「懐かしむ」事として「秘匿する」事ではなくなっています。
勿論、制作会社が掲載・発行を承諾した書籍に使用された記事内容や使用写真は、「守秘義務」から外れる事になります。
●動画撮影
写真と同様に動画も「秘匿」する事ではなく「共通の想い出」とする内容となっていますが、写真も動画も「世に出せないモノ」も存在します。
事故や不祥事に繋がる写真や動画は、「暗黙の了解」として、その状況や状態を語ったり記したりする事と共に「守秘義務」として扱われる事となります。
まさに「お蔵入り」の写真や動画となる訳です。
勿論、制作会社が掲載・投稿・販売を承諾した動画や映像媒体に使用された記事内容や使用動画は、「守秘義務」から外れる事になります。
●制作会社による考えの違い
制作会社によって「暗黙の了解」として「秘匿」している情報というのがあります。
例えば、東映では特撮ヒーロー作品の変身後のヒーローの所謂「中の人」と呼ばれるスーツアクターやスーツアクトレスがキャストテロップされますが、どの役名なのかは肩書きされていません。
これは「子供の夢を壊さない」という観点からの処置で、あくまでもメインキャストが変身しているのであって「中の人」なんていないというスタンスなのです。
その事は写真や動画も同様で、メイキング写真や動画で東映が認めたモノ以外で「中の人=スーツアクター・スーツアクトレス」の顔出しスーツ姿は「暗黙の了解」として「公開をしない方が良い」という風潮があります。
その際には、顔出しの「顔だけ」にして「スーツにモザイク」をかけるとか、顔出しの「顔だけをモザイク」をかけるといった処置が取られます。
まぁ、大抵は前者の「スーツにモザイク」という表現になりますが…
円谷さんの作品は違う様です。
最近のウルトラマンシリーズのキャストテロップには、スーツアクターやスーツアクトレスにキャラクターの名前が役名として肩書きされています。
制作会社の考えの違いなのでしょうが、テロップの表記にはかくも違いが出るのです。
しかし、ゴジラシリーズにしてもウルトラマンシリーズにしても、写真や動画でスーツを半分脱いだ「中の人」の顔出し映像は余り見かけません。
特に近年の作品では見かけません。
これらには、東映と同じ考えがあっての事かどうかは分かりません。
でも、そもそも円谷作品では、スーツアクターやスーツアクトレスを必要とする怪獣や星人は、ステージセット内での撮影が中心ですから、余り外部の出入りは少なく、写真や動画を撮影する者も限られていますから、世に出る事も少ない映像なのかもしれません。
●エキストラの守秘義務
撮影現場には通常のキャストやエキストラとは別に「ボランティアエキストラ」という方々が参加する場合があります。
「ボランティア」としてギャラを支払う事ない「エキストラ」を募集して撮影に参加して貰うのです。
映画の場合が多く、エキストラが多人数必要とするシーンがある場合に良く募集されています。
流石に30年前には、この「ボランティアエキストラ」は殆どありませんでした。
30年前には、せいぜい地方ロケに行って地元の方々に撮影に参加して貰う程度でした。
さて、撮影自体は放送時期や公開時期よりも数ヶ月程前になりますから、「情報公開」までの期間の情報漏洩に関しての「守秘義務」契約が為されています。
これは、前途した「ボランティアエキストラ」にも同様の明文化された「守秘義務」契約が義務付けされていると思われます。
その内容としては、撮影の内容の口外、掲載、投稿といった「外部への発信」を規制するものであると思われます。
●SNS
近年情報網が発達し、スマホやパソコン等から「書き込み」や「写真」や「動画」が簡単にSNS等に公表出来る世の中になってしまっています。
それは、特別にフィルムカメラやデジカメやビデオカメラやデジタルビデオカメラ等を用意しなくとも、目の前の状況や状態を直ぐ様記録出来るスマホという機材がある環境が大きく関わっています。
そして、その記録映像はSNSに簡単に投稿され、評価や時として収入に繋がる世の中になっている状況というのが当たり前であり、周囲が引け目無く行なっていれば盗撮まがいの映像ですら「拡散対象」として見てしまう風潮にも繋がっています。
スタッフやキャストの「守秘義務」には、近年SNSの取り扱いも規定化している様で、「情報公開前の映像や文章の拡散行為」や「ロケ地の撮影場所の特定が容易な投稿やその時期」もSNS上で確認出来ます。
これは、予告にも流れていない新たな情報を投稿する事による所謂「ネタバレ」の禁止であったり、ロケ地が特定されて撮影現場に人が集まり過ぎて「撮影困難」な状況の回避といった目的があると想像に難くありません。
ですから、「ボランティアエキストラ」の「守秘義務」規約を破っての「情報漏洩及び拡散」やスタッフやキャストによる「守秘義務違反」は、流石に少ないものの、一般人が撮影現場を不意に目撃し、撮影し「拡散」するという行為も少なからず発生します。
この様な「守秘義務」の外側で為される行為であっても「不利益」は発生しますから、その個人に対して法的に「情報漏洩」として訴える事すらできるのですが、個人への投稿の「削除要請」と共にSNSの管理運営を行っている会社へも「削除要請」を伝える事での「投稿の差し止め及び削除」を行って貰い「情報漏洩」の早期解決をしている様です。
前途したかつてのキャストやスタッフによる昔の「写真」や「動画」が、SNSへ投稿される場合もあります。
例えば30年前の「守秘義務」には当時無かったSNSに関する規定はありませんでしが、「知り得た情報の無許可の漏洩」には変わりありませんから、厳密には昔の「写真」や「動画」の流出は「守秘義務違反」にあたります。
しかし、その内容が「公開以前の情報漏洩」でも「他の不利益行為」と受け取られない様な内容であるのならば「暗黙の了解」として黙認されているのが現状の様です。
●資料漏洩
「資料漏洩」も立派な「守秘義務違反」です。
「台本の流出」「設定資料の流出」といった制作会社に権利のある資料を「無断転載」した事になるのですから「守秘義務違反」だけでは済まない場合もあります。
SNSでの「拡散」はもとより「コピー」を配る事も「情報漏洩」にあたります。
勿論、制作会社が掲載・発行を承諾した書籍や配信行為上での「資料」や「情報」は、「守秘義務」から外れる事となります。
●あとがき
私は撮影所時代の「写真」や「動画」を殆ど持ち合わせていません。
もしも有ったとしても「劇中写真」や「撮影用資料写真」、そして「設定資料」や「台本」ぐらいです。
それは、映像記録行為が被写体から迷惑と捉えられたり「情報漏洩」へと繋がる事を懸念した厳しい先輩スタッフが「良い顔をしなかった」事が原因です。
多分に「撮影の迷惑」という側面があったのだとも思いますが、私の撮影所時代の「写真」は、他の助監督に比べても極端に少ないと思われます。
「勝手に写真を撮らない」「一緒に撮って貰わない」「サインを貰わない」といったスタンスで撮影所の仕事をしていたからでしょう。
そういった意味では、常にキャストに近い位置に居る助監督=演出部というよりも美術部や大道具さんに近い精神的立ち位置だったのかもしれません。
数年前そんな「呪縛」を、撮影所OBという立場になって改めて撮影所へ足を踏み入れた際に振り払い、スマホで写真や動画を撮りました。
大好きだった30年前にお仕事をご一緒したレジェンドスタッフさんとも、ツーショットやスリーショットの写真を撮らせて頂きました。
流石にステージセットでグリーンバック前に立つキャラクターや顔出しスーツアクターやスーツアクトレスの写真は「守秘義務」として「秘匿」し続けます。
しかし、自分の耳や眼でまさに見聞きした事まではシャットアウト出来ません。
様々なキャストやスタッフとご一緒出来た「記録」は殆ど残っていませんが、「記憶」はしっかりとあります。
だからこそ、私はSNSへ投稿する際にも注意を払っているつもりです。
それは「守秘義務」として口外出来ない事もたくさん「記憶」があるからです。
「キャスト同士の揉め事」「キャストとスタッフの揉め事」「キャストやスタッフの裏話」「他の制作会社の裏話」等など…本当の「秘密」の話が…
多くを拡散しない「閉じられた場所」では、「ココだけの話」として語る事もあるかもしれませんが、その際には聞き手に「守秘義務」規約のサインを頂く事になるのでしょうね。




