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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(155) 「撮影所の『刀』と『ナイフ』」

余り語られない撮影所のあれこれ(155) 「撮影所の『刀』と『ナイフ』」


●撮影所の刃物

撮影で使用する刃物は、基本的には「模造刀」です。

「模擬刀」は、刃の付いていない「切れない刃物」の総称です。

形状や材質は様々ですが、撮影で使用される刃物は、ハサミやカッターナイフの様な日用品は別として、「切れない」様になっています。

今回は、時代劇や現代劇などにおける「刀」や「ナイフ」などの所謂「武器」として使用されている「刃物」に関して語らせて頂きたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●時代劇の模造刀たち

「模擬刀」の素材や作り方は、京都と東京の撮影所で大きく違っています。

先ずは京都は時代劇を中心に撮影していますから「日本刀」の「模擬」に長けています。

「日本刀」に特化しているのではないかと思えるくらいに、その技術力は高く、現在では撮影所内の小道具さんによる「模擬刀」だけではなくて、撮影所の外部にも「模擬刀」作家さんがいらっしゃる程になっています。


通常、時代劇における「刃物」は、人物や動物に対して振るわれない「ハサミ」「包丁」を除けば「模擬刀」となります。

大刀、脇差し、小刀、槍、薙刀などといったモノは勿論、「模擬刀」になっています。

しかし、その「模擬刀」と呼ばれる種類は、多くの方達が考えているよりも様々に別れているのです。


●タケミツ

時代劇で貧乏侍が刀身を金銭に換えてしまった代わりに腰に差しているというイメージのある「タケミツ」ですが、撮影所内では将軍様も諸大名も街行く侍達も、ほぼ「タケミツ」です。


「タケミツ」は「竹光」と書くと判る様に本来は「竹」で出来ています。

「竹」をまっすぐに刀身状に削って作られます。

しかし、ある程度の硬さもありながら何処でも手に入り加工もし易い「竹」ですが、左右へのしなり具合や耐久性の低さから撮影用の「殺陣」に使われる「タケミツ」は「竹」の刀身ではありません。


一般的な撮影用の日本刀の形状の「タケミツ」には「樫」の刀身が使われます。

その「樫」を刀状に削って成型し、アルミ箔を貼り付けるのです。

このアルミ箔の貼り付けの際は、ノリ等の接着剤ではなくて「卵白」が使用されます。

「卵白」に水を加えて、接着剤の代わりにするのです。

コレは、アルミ箔に気泡やシワが生じても直ぐには固まらないだけに、貼り直し等の修整が容易である事があげられます。

「卵白」は、乾くと天然糊と同じ様に固まってしまいますから、剥がれる事はありません。


但し、この撮影用の「タケミツ」は「殺陣」と呼ばれる剣撃のアクションにも使用されますから「故障」と「修繕」が引っ切り無しで、「アルミ箔」が剥がれる事は序ノ口でした。

「アルミ箔」は貼り替えなければフィルムに写る危険性もありますし、剥がれた「アルミ箔」が眼に入る危険性もありますから、撮影中でも「持道具」さんに言って取り替えて貰っていました。

中には硬い「樫」の刀身が折れてしまう場合もありました。

本番撮影中ならば完全にNGです。

酷い場合は、根元から折れる場合すらありました。


●ジュラトウ

正式には「ジュラルミン刀」という名前ですが、撮影現場では「ジュラ刀」と呼ばれていました。

名前通り「ジュラルミン」や他の金属で作られた刀で、磨きの効果もあり「刃」こそ付いていませんでしたが、本当の刀身の様に見えました。


勿論、「殺陣」には使用しません。

「殺陣」に使用するのは余りにも危険ですから、「殺陣」があったとしても「ジュラ刀」と「ジュラ刀」の合わせ等の一太刀ぐらいのモノでした。

つまり、通常はカメラ前でのポーズの際やカメラ前での刀の素振りぐらいでした。


単なる「アルミ箔」よりも「ジュラ刀」は「画面の見栄え」が良いですし、「樫のタケミツ」よりも「殺陣」の際に壊れたり傷付いたりする可能性が低いですから、通常から「ジュラ刀」でも良い様におもわれますが、「殺陣」の際の危険性は格段に跳ね上がります。

幾ら「刃」が付いていない「ジュラ刀」とはいえ、金属製の薄い板状の物体ですから生身の腕や顔を簡単に傷付けてしまえるのですから、「コンプライアンス」等という言葉が世に出回っていなかった頃からも、「映像への利点」や「効率」よりも「安全」を選択していたのだと思います。


●ホンミ

危険な「ジュラ刀」。

それよりももっと危険なのが「ホンミ」です。

「本身」=「真剣」です。

常時は鍵の掛かったロッカーに、更に鍵の掛かったケースに入れられて厳重に保管されていました。

勿論、「殺陣」に使うなど以ての外でしたが、とある映画で「ジュラ刀」と間違えて「ホンミ」で「殺陣」をやってしまって…といった痛ましい事故もありました。

そんな事故以前でも「ホンミ」が撮影現場に出される際には「ホンミです!危険ですから近寄らないで下さい!」と制作部や助監督や担当持道具さんが大声で注意を促していました。


「ホンミ」での撮影は、役者が刀を持ってからの「ホンミ」へのアップといった場合のみで、振り回す事も厳禁でした。

やはり「ジュラ刀」とは輝きや美しさが違いますから、じっくり刀身を見せる際には「ホンミ」が使用されていました。


刀剣所持の届け出もされていましたし、使わない時にも「持道具」さんがたまに刀身を手入れしていました。

尚、保管時には鞘も柄も無く刀身だけだったと記憶しています。

シーンに合わせて鞘も柄も鍔も換える事が前提だったからでしょう。

勿論、「大刀」だけではなくて「脇差し」等の「ホンミ」もありましたが、刃渡り15cm以上の「ホンミ」は全て管理対象でした。


尚、「槍先」や「薙刀」等の「ホンミ」がある可能性も捨てきれませんが、「槍」「薙刀」等の「ジュラ刀」さえも見たことがありません。

少なくとも私は、これらは「タケミツ」での使用しか見ていませんので、何とも言えません。


●ラバートウ

近年になって「殺陣」に使用される様になった「タケミツ」よりも「安全」な刀身を持った「殺陣用の刀」という位置付けの刀が「ラバー刀」です。

「るろうに剣心」の実写映画の立ち回りに使用されて一躍有名になりました。


刀身の中心は、形状保持の為にグラスファイバーが使用されていますが、それでも折れます。

刀身はウレタン素材のラバー製でそこに「アルミ箔」が貼られています。

ウレタン素材なので、「殺陣」の際に相手に当てても痛さはあまりありません。

スポーツチャンバラのスポンジ状の刀身をスリムにして少し硬くしたイメージだと思います。

勿論、鞘にも収まります。


基本的には「樫」の「タケミツ」に似ていますが、激しく当てる事が出来たり、激しく振り回す事が出来た上に耐久性がある事が利点ですが、欠点もあります。

材質的に「ブレ」や「しなり」が「樫」よりも大きいという点です。

硬い金属であるハズの「刀剣」が、しかも「日本刀」が「ブレ」たり「しなる」事は殆どありませんから、よほど激しくてソコに目が行かないくらいの「殺陣」でもなければ「ブレ」が目立ってしまうでしょう。


この「ラバー刀」は、技術的に進化した結果として生まれて来たモノであり、似たようなモノは何十年も前から眼にしているモノなのですが、ソレはまた後でお話しします。


●現代劇のナイフたち

時代劇では「刀剣」が中心の世界ですから「模擬刀」の技術の継承や革新が日々研鑽されています。

東京では時代劇が殆ど無く、現代劇が中心であり、「模擬刀」よりも撮影用の「銃」の技術が中心となってきます。

だからこそ、「模擬刀」の技術は京都からの継承が中心であり、「日本刀の模擬刀」は京都から買ったモノが中心でした。


しかし、現代劇では「長物」や「ドス」と呼ばれる「日本刀」だけではなくて「文化包丁」や「ナイフ」といった現代劇特有の「刃物」が登場します。

そんな京都の技術では在庫が殆どない「ナイフ」達はどの様にして「撮影用」として登場させられるのかが問題となってきます。


●木製・おもちゃ

一番に思い付くのは「タケミツ」の「ナイフ」化です。

「木」や「プラスチック」を使って「ナイフのタケミツ」を作り、「日本刀のタケミツ」と同様に「アルミ箔」を貼り付けるのです。


しかし、この方法は手間がかかります。

ですから、初めから製品化されているプラスチック製の「オモチャのナイフ」等を加工して「タケミツ」を作るのです。

ですが、プラスチックに「アルミ箔」を接着剤で貼り付けるよりも「塗装」する方が簡単でしたから、「タケミツのナイフ」の殆どは「塗装されたプラスチック製のオモチャのナイフ」という事になってしまっていました。


●刃を落とす

そんな苦労をして製作される現代劇における「刃物の模擬刀」で一番多いのは、他ならない「本物のナイフの加工品」でした。


流石に「本物のナイフ」では「ホンミ」と代わりありませんから、撮影で使用するにはとても「危険」なモノになってしまいます。

ですから、「刃を落とす」加工が施されていました。


「刃を落とす」とは、「砥石」や「紙ヤスリ」等を使って文字通り「切れる刃」を「落としてしまう」という事です。

つまり、「切れる刃物」を「切れない刃物」にしてしまうのです。

一番簡単に「切れない刃物」でありながらも「形状は本物の刃物」という「模擬刀」が出来るのです。

しかし、これら「切れない刃物」は「ジュラ刀」と同じ様な扱いになりますから、「アクション」には向いていませんでした。

「アクション用」には、似たような形状の「安全」な刃物が必要となりました。


実際、私も自前のナイフの形状を監督に気に入られ、ドラマの中で使用するナイフとして「刃を落とす」加工をして使用したという例もありました。

尚、そのナイフは小道具さんの買い取りという形となり、同形状のナイフの購入費で買い取って貰えました。


●特撮の刃物たち

特撮作品の刃物は、ヒーローや怪人等のヴィランが使用するモノが中心です。

それらの「刃物」は、「殺陣」に使う事が多い為と「形状が特異」である為に最初から「模擬刀」として製作されて用意されるのが通常でした。

基本的にはプラスチック製や木製の「模擬刀」や、前途した「ラバー刀」の前身となった「ウレタン製」の「模擬刀」が多かったと思われます。

特にヴィラン側の「模擬刀」は「ウレタン製」が多く、細い「鉄パイプ」を芯にして「発泡ウレタン」を纏わせて、刃物状に加工し、シルバーに塗装した「ラバー」を貼り付けて、刃物に見える様にしていました。


「ウレタン製模擬刀」は、流石に思いっきり叩かれたりしたら痛い代物でした。

それでも「ウレタン製」の分厚い「刃の様に見えるだけ」の形状という代物でしたから、撫で斬りなんかは痛くも何ともありませんでした。

それでいて、芯となっている鉄パイプのお陰で、振り回しても折れてしまう様な事は殆どありませんでした。

つまりは、しっかりとした「アクション用模擬刀」という造りをしていました。

因みに「ウレタン製模擬刀」の殆どは、「レインボー造形」さんの作製でした。


「ウレタン製模擬刀」以外にも「バルサ材」や「合板」を使って作られた「木製模擬刀」も存在していました。

刀身は「アルミ箔」ではなくて、シルバースプレーの吹き付け状でした。

中には芯に「鉄パイプ」を入れた耐久性を向上させた「模擬刀」も存在していました。

流石に「ウレタン製模擬刀」よりは耐久性は低かったのですが、軽くて取り回しが良く刀身も薄くて形状的には「らしい」代物でした。

「ウレタン製模擬刀」と同じく「レインボー造形」さんの作製されたモノが、殆どでした。


撮影の役目を終えたこれら「レインボー造形」さん作製の「模擬刀」たちは保管されて、他の作品の時に使用される場合もありました。

また、特異過ぎる形状の場合は、改造するベースとして使用され、他の作品で違った形の「模擬刀」として撮影に使用される事もありました。


実物が存在する形状の刃物であれば、「刃を落として」から「ジュラ刀」の様に使用される事もありました。

但し、「ジュラ刀」と同じくアクションには使用せず、同じ形に作られた「アクション用」の「模擬刀」が使用されるのが通例でした。


近年、芯に使われる鉄パイプが「グラスファイバー」に変わった「ウレタン製模擬刀」や「ラバー刀」の様な造りになった「特撮の模擬刀」も製作されている様です。

ある種、東京における「模擬刀」は、貪欲に「技術革新」を取り込んで「新たな映像」を創り出そうとする「柔軟性」があるのではないかと思われます。


●あとがき

撮影所で使用される「模擬刀」は、基本的には「殺陣」や「アクション」で使用されるモノですから「安全」でなければなりません。

それでいて「撮影に耐えられる『見た目』」と「耐久性」も必要でした。

特に「日本刀」は、一般的に「あの様な形状」というイメージが出来上がっているモノですから、木や金属で作製された「模擬刀」が長年使われて来ましたし、新しい技術革新からも取り残されているというか、「完成されたモノ」として取り扱われて来ました。


それだけに「ラバー刀」の出現は衝撃的でした。

技術的には特撮作品で使用されていた「ウレタン製模擬刀」の応用でしたが、それを「時代劇」に持ち込んだ事が革新的だったのです。

前途した様に時代劇の「タケミツ」は、撮影用の日本刀として時代劇の中心である京都で「特化」された技術で作られた、ある種「完成された模擬刀」でした。

そこに東京のしかも「子供向けの特撮」で「特化」してきた「ウレタン製模擬刀」の技術が「逆輸入」されて「新たな模擬刀」を生み、「認められた」という事は凄い事なのです。


長い年月をかけて蓄積された「技術力」と、「新素材」や「新技術」が合わさる事で「新たなモノ」が創り出され、それが「新たな映像」を創り出す「糧」として我々の前に現れてくれる事は、嬉しい限りです。

そしてそれは、今後も時代劇という長年決まり事が「当たり前」として見せられてきた映像の中で「新たな映像」を観た時に、「模擬刀」の「技術革新」が成されている可能性があるという事なのです。


京都が「日本刀による殺陣の映像」に「試行錯誤」して来たように、東京では「銃の映像」に「試行錯誤」してきました。

そして、特撮は「安価」で「安全」な「アクション」を基本に「派手な映像」に「試行錯誤」して来ました。

だからこそ、「模索」し「試行錯誤」する事は、「特化」したからこそ見えてくる「必然」であり、それらを新たに「取り込む」事や「練り合わせる」事のできる寛容さこそが「新たな映像」を生むのだと思いたいのです。

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