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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(153) 「『ウエス』〜工業界でも常識の使い捨て布〜」

余り語られない撮影所のあれこれ(153) 「『ウエス』〜工業界でも常識の使い捨て布〜」


●別に撮影所専用ではありません

私の個人的な感覚として撮影所という現場世界は、職場的には建設業に似ていると思っています。

しかし、随処に工業界的な部分や他の業界の部分を垣間見る事もあります。

それは、スピードとクオリティが求められる撮影所という世界では、効率的でありながらクオリティを欠かない事は率先して取り入れられていて、以前から当たり前に定着していたかのように撮影所に根付いている様に感じられるからです。


今回は、工業界等では当たり前の備品「ウエス」について、撮影所の現場目線で語ってみようと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●ウエスとは

「ウエス」の語源は、英語のWaste(ウェイスト)で「無駄・くず・ぼろ・廃棄物」を意味します。

これが訛って「ウエス」と呼ばれるようになったらしいです。

一般的には「ウエス」は機械器具類の油汚れ等の清掃に用いられる布切れを指しますが、一口にウエスといっても用途、素材、色、厚み、大きさなどによって様々な種類があります。


●バージンウエスとリサイクルウエス

「ウエス」には、「ウエス」の状態によって大きく「バージンウエス(新品ウエスとも言われる)」と「リサイクルウエス」に分けられます。


◯バージンウエス

「バージンウエス」は、布を製造した際に裁断した端切れを一定の形に更に裁断する事で使用するウエスを指します。

勿論、本来のバージンウエスとはウエスの為に糸を紡ぎ布を編んで作られたモノを指しますが、コスト等の面からも現在では未使用の度合いによって「バージンウエス」と「リサイクルウエス」の呼称を使い分けている様です。

尚、製造工程にて布を漂白する場合がありますが、新品ウエスとしての吸水性をなくし撥水する可能性が高いために、漂白後に必ず洗浄が必要となります。


また、「バージンウエス」としてはメリヤス生地やスムス生地を指す事が大半ですが、「ペーパーウエス」や「不織布ウエス」を含めるのが一般的です。

一般的には「ワイパー」「ワスプ」「クロス」という名称を付けて市販されています。

「ペーパーウエス」は、天然パルプ繊維生地で植物繊維を主体として作られます。

通常1組が3~4枚重ねになっていて、布製のウエスと違い、使い捨てを前提として使用されています。

未晒しと呼ばれる木材本来の茶色もしくはクリーム色をしたウエスと、脱色加工(晒し)を施した白いウエスがあります。

精密機械用に用いられる吸水力が高いウエスです。

「不織布ウエス」は、紙オムツや衛生用品などのために作られた不織布を有効利用したモノで、素材はコットン、レーヨン、テンセルの混合または各単体で作られています。

こちらも使い捨てを前提として作られています。

「ペーパーウエス」と比べて耐久性に優れ、糸くず等のほつれも殆ど無く、更には肌触りも良い為に医療用や研究施設等で使用されています。


◯リサイクルウエス

主としては、一般の家庭から回収された衣料の中からウエスに適したものを選別して作られています。

つまり、古着や古布を再利用(再使用)して生産されています。

基本的には綿素材のものが選ばれる傾向が多い様です。

古着や古布を用いるのは、古布の方が水や油をよく吸う性質があるからに他なりません。


原材料が布から出てくることまでは同じなのですが、既に使用した衣料で、布として再利用して原料としています。

また、一旦ウエスとして使用されたものを再収集し、再利用して原料とする場合すらもあります。


浴衣、ガウン、枕カバー、シーツなどを洗浄、殺菌、消毒して原料とする平織り生地。

タオルを洗浄、殺菌、消毒して原料とするタオル生地。

スウェットをそのまま洗浄、殺菌、消毒して原料とするスウェット生地。

バージンメリヤスの中古を洗浄、殺菌、消毒して原料とするメリヤス生地。

リネンサプライの払い下げ品など。

再生パルプ生地。

などなど、原料の選別は多様です。

尚、原料が古着等の中古品であることから、洗浄、殺菌、消毒は必然であり、金属探知機での検針も行われています。


古着などを原料とするウエスは、適当な大きさに裁断されたものが袋詰めされた状態で流通・販売されているのが一般的です。

その多くは生地の種類もバラバラな状態なのですが、選別の手間がかからない事から単価的には安くなっています。

専用のものや単体のものは、選別のない状態のものよりも少し販売単価が高くなりますが、一定数を束ねた状態ないし包装されたものが流通しています。


●撮影所のウエス

撮影所内で流通していた「ウエス」は、大道具さんや小道具さん、そして制作部さんが購入していたモノで、「リサイクルウエス」がビニール袋に袋詰めされていた安価なモノでした。

私は、そんな「ウエス」を個人的に1枚〜2枚貰って使っていました。


撮影所での通常の「ウエス」の使用方法は、簡単に言えば「使い捨て雑巾」という位置付けでした。

勿論、通常の雑巾も使用されていましたが、水に濡らして拭き取る時には「雑巾」、濡らさずに拭き取る時には「ウエス」という使い分けが良く見られました。

勿論、「ウエス」を水に濡らして使用する場合もありましたし、「雑巾」の乾拭きもありました。

しかし、拭き取った汚れを水に濡らして水に洗い流せる事ができる汚れなどには「雑巾」を使い、汚れを拭き取る事で「雑巾」が使用不可能になる場合の汚れなどには、使い捨ての「ウエス」を使用するといった感じで使い分けがされていました。

そして、多くの場合では拭き取った汚れが洗い落とせるモノの場合でも、「ウエス」は使い捨てにしていました。


●大道具とウエス

大道具さんは、乾拭きや水拭きなどの「ウエス」を文字通り「雑巾」として使っていました。

それは床や壁の汚れや埃を拭うのが主だった用途なのですが、「ウエス」の本領は木材の艶出しにこそ発揮しました。

つまり、木製の床にワックスを部分的に塗り拡げたり、木製の柱に艶出し用の油を塗布する際に、使用していました。

この様なワックスや艶出し剤を「雑巾」で塗り拡げると、「雑巾」を水洗いするだけでは洗い落とせず、後で直ぐに廃棄しなければなりません。

ですから、使い捨てのできる安価な「ウエス」が有用になってくるのです。


●小道具とウエス

小道具さんも「ウエス」を「雑巾」的に使うのは大道具さんと代わりはないのですが、小道具さんとしての使い方がありました。

それは、「ウエス」を布地のハギレとして簡易的に加工して撮影現場で急遽必要となった小道具を創り上げる為の材料として使用する場合があったということです。

「ウエス」は、基本的に白いハギレで作られていましたし、1枚のサイズもまちまちでした。

大きなモノでは1メートル以上の四方の「ウエス」も存在していました。

ですから、大きいサイズだと織り込んで使うとか引き裂いて使用していました。

流石にシーツ並のサイズのモノはありませんでしたが、その半分や3分の1のモノはありました。

勿論、1メートル四方以下のサイズのモノもありました。

それでもハンカチ以下のサイズというモノは、流石に入っていませんでしたから、世間一般的な「ハギレ」と呼ばれているサイズよりは大きなモノが中心であったと言えるかと思います。

「リサイクルウエス」では、このサイズ違いの布地がまちまちに入っていたので、ある種宝探しの様なところがありました。


●助監督とウエス

助監督というか私は、小道具さんの持っている「ウエス」の袋詰めの中から私の好きな材質の生地の「ウエス」を選んで頂いて使っていました。

私の好きな生地は、アンダーシャツの様な柔らかくて水分を吸いやすい材質のモノでした。

それを40〜50センチ四方ぐらいに裂いて、撮影現場では何時も持ち歩いていました。

使用方法としては「雑巾」と同じ使い方は勿論ですが、サード助監督としてはカチンコの黒板のチョークを消す「黒板消し」としても使用していました。


●特撮作品とウエス

特撮作品の場合は、特に「ウエス」が必要でした。

ヒーローのスーツを磨いたり、ヒーローマスクの眼のクリアパーツに曇止めコーティングを施す際にも使用されていました。

更に「ウエス」を水で濡らして、火薬で発火させた後にできるススを拭い去る為にも使用されていました。


更には、「ウエス」を折り畳んで「クッション材」としても使用されていました。

それは、「ウエス」を折り畳んでガムテープで留めて、簡易的な小さな「クッション材」としてスーツアクターなどのアクションアクターの膝や肘や背中などに充てがって、使用するといった方法で利用されていました。

勿論、アクションだけでなく単なる「緩衝材」として利用する場合もありました。


また、「ウエス」を丸めたり木の棒に巻き付けて「火種」や「松明」の芯として使用する場合もありました。

油などの引火物を染み込ませ安いのと、「ウエス」そのモノが燃やせる事が利点となって、カメラ前に「陽炎」を作り出したり、被写体の前やバックに小さな炎を作り出す為に利用されていました。


●ウエスの利点と欠点

「雑巾」という1枚が数十円を有するモノに対して、「ウエス」は1枚が数円以下ととても安価なモノである為に「使い捨て」には持って来いでした。

更に、何度も再利用しているが為にほつれた糸くずが出てきてしまう「雑巾」に対して、糸くずが殆ど出ない「ウエス」は、撮影現場で使用する「拭き取る」布地としては理想的でした。

「糸くず」は、フィルム時代の解像度では映像に残る事は殆どありませんが、それでも残らない方が良い事には他なりません。


さて、「雑巾」は基本的には再利用可能な掃除道具です。

これに対して「ウエス」は再利用不可能な状態での使用が主だっていた為に、多くの廃棄(=ゴミ)が出てきてしまいます。

また、撮影現場では安価な「リサイクルウエス」を使用する事が多い為に、その材質が一定しておらず、「塗布」や「拭き取り」にそぐわない材質の布地も多くありました。


●あとがき

「ウエス」は工業界で多く利用されている事は冒頭に書きましたが、一般的には特殊なモノとなっているかと思います。

だから、その本題となる「ウエス」自体を見たこともない方々もいらっしゃるかと思いますが、端的には「ハギレ」です。

多くは白いモノが一般的なのですが、色とりどりの古着等の「ハギレ」で作られた「ウエス」も存在します。

まぁ、撮影現場ではこんな色とりどりの「ウエス」は使い勝手が悪く使用されていませんでした。

中には白いモノではあるものの「レース地」の「ハギレ」も混ざっていました。

勿論「レース地」は水分の吸い取りも悪く拭き取りにも向きませんでしたので、色とりどりの「ウエス」と相まって、最後まで使用されずに廃棄されてしまうという状態でした。

まぁ、どうしても残りが無くて最後の手段というのであれば、使わないこともありませんでした。


更に「ウエス」は「ハギレ」ではありますが、天然繊維が入っている事は無く「合成繊維」ばかりでした。

そういった事からも安価だったと思われます。


「ウエス」との比較という事もあり「雑巾」の事も色々と書いてきましたが、撮影現場では「雑巾」を見た記憶は殆どありません。

寧ろその役目を担っていた「ウエス」の方が、本当に良く眼にしていました。

勿論、東京撮影所でも京都撮影所でも同じでした。

それだけ「雑巾」以上に使い勝手のある布地が「ウエス」という存在でした。

それは多分、今でも変わっていないのではないかと思っています。

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