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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(122) 「『フライアッシュ』と『はったい粉』」

余り語られない撮影所のあれこれ(122) 「『フライアッシュ』と『はったい粉』」


●派手さの調味料

特撮では、モノが壊れるシーンが多く出てきます。

そのまま壊れても何も問題はありません。

しかし、映像としては「壊れるモノは出来るだけ派手に」と思うのは、特撮作品の好きなファンの心理だけではなくて、スタッフの観る人を楽しませたいと思う気持ちからも生まれていると思うのです。

その「派手さ」の演出に欠かせない「調味料」が「フライアッシュ」と「はったい粉」なのです。

そもそも「フライアッシュ」とは何なのか?

「はったい粉」と「フライアッシュ」の使い分けとは?

今回は、そんなお話を語ってみたいと思います。


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●フライアッシュとは

先ずは「フライアッシュ」というモノ自体から考察してみましょう。

フライアッシュ は英語表記ではFly ashで、直訳すれば「飛ぶ灰」であり、石炭を燃焼する際に生じる灰の一種のことです。

ですので、日本語では「石炭灰」と言い表す場合もありますが、基本的には「フライアッシュ」の名前で運搬車両の積載内容物表示もされている為に、「石炭灰」よりも「フライアッシュ」の方が一般的な認識は高いようです。

かつては再利用する用途もなく、産業廃棄物として処理されてきましたが、耐久性や施工性、流動性を向上させることが着目されたことからコンクリートの骨材としての用途が確立され、工業製品の扱いを受けています。

また、吸水性が高いために様々な汚泥処理の処理材としても活用されています。

2000年以降の現在では、石炭を燃料とする火力発電所からの大量の発生量に対して国内のセメントの需要が極端に減り始め、再資源化先が無い為に電力会社などでは産業廃棄物へと逆戻りするかの様な状態となっていました。

ですが、大韓民国をはじめとする海外のセメント需要がまだまだ衰えていない為に、輸出を開始しています。


色は黒っぽいグレーで、形状は非常に細かく、通常の灰と変わりない極細微粒子と呼んでも差し支えのない大きさです。

ですから風等によって簡単に舞い上がります。

余り多くを吸い込むと咳き込むのも灰と同じです。

害としては、良質の極細微粒子なモノ程、目や口に入り過ぎると吸水性が災いして粘膜等に裂傷を起こす場合がありますが、撮影所で使用するモノは細かさが余り小さく無いので、余程の事が無ければ咳き込むか鼻の穴の中が黒くなる程度の被害に留まります。

色が黒っぽく通常の白いセメントの粉とは違う色彩が手に入れられるという点と、粒子の大きさによって粗灰と呼ばれる飛散し難い状態のモノも存在する点と、1kg換算で10円しない程の非常に安価で手に入れられるという点がフライアッシュの特徴と言えます。


●撮影所での使用方法

フライアッシュの撮影所での主な使用方法は、破壊されるモノの上に振り掛けて、破壊された際に派手に煙状の粉塵を撒き散らす画像を創り出す事になります。

また、地面に撒く事で、その上を通過する車両などによって土埃や砂埃の代用として土埃以上の派手な粉塵を撒き散らしたり、大型送風機やジェットファンと呼ばれる手持ち送風機などの風で撒き散らす事で、派手な土埃や砂埃の代用としての煙状の粉塵を作って見せるのです。


では、フライアッシュが使用される以前などでは、どのようにしていたかなのですが、それには幾つかの方法がありました。


○単純に、近くにある適当な土や砂を使用する。

コレが1番古い方法でしょう。

本当の意味での土埃や砂埃だし、何よりリアルです。

しかし、いくらリアルでもカメラに移り映像として創られた場合は、物足りなさを感じてしまうのもまたリアルの宿命です。

ですから、本来の土や砂によって土埃や砂埃を演出する以上の派手さを創り出す代用品が必要となります。


○セメントの粉を利用する。

土や砂よりも圧倒的に粒子が小さく、派手に舞い上がります。

映像的にも演出的にも申し分ない代用品です。

しかし、余りにも粒子が小さく演出意図以上に舞い上がり、なかなか煙が晴れてくれない場合もありました。

また、セメントの粉の白さが時には似合わない場合がありました。

セメントに色を着ける等の方法もあるのでしょうが、余りにも時間や労力がかかり過ぎます。

更に、車両や人物に付着した場合、明らかに白いセメントの付着感が出てしまいます。

そして、少しの水と周りの土や砂などを骨材にして簡単に固まってしまい、場所や場合によっては後処理が大変になります。

乾いているうちに取り除こうにも粒子が細か過ぎて、キレイに取り除く事が困難な場所もありました。


そこで注目されたのがフライアッシュでした。

誰が映像業界へ持ち込んだのかは今となっては分かりませんが、セメントの様に撮影所内に簡単にあったモノでもありませんでしたから、意図を持って持ち込まれたモノに違いはありません。

何故ならば、撮影所でのフライアッシュは、この粉塵の代用品以外の用途では使用していないからです。

たまに、メイクさんがキャストの顔や手足を汚す材料に使用したり、衣装部さんが衣装を汚す材料に使用したりしますが、撮影現場での苦肉の策ですので、主要な用途ではありません。


フライアッシュは、土や砂より細かく、セメントと同等かそれ以下の粒子の細かさで、セメントよりも黒っぽくて、粉塵としての滞留時間もセメント程ではありませんでした。

更に、付着した場合も黒っぽくなる為に、セメントよりも映像には映りにくくなります。

そして、水に触れても簡単には硬化はしません。


●足し算効果

フライアッシュは単独で使用される場合が殆どですが、粉塵の滞留時間の追加や破壊されるモノの材質によっては、フライアッシュに様々なモノを足して演出が成されました。


○セメントの足し算。

一番多いのがこのセメントの足し算です。

フライアッシュよりも少量で広範囲に飛び散り、滞留時間も多少長いという特徴を利用しました。


○土や砂の足し算。

粉塵以外のバラバラとした大きめの粒子が必要な場合に足されましたが、車両やキャラクターがぶつかって破壊される演出の時ぐらいで、爆発が起きる場所には使用されませんでした。

それは、爆発によって石つぶての様な状態で、周囲に予測不能に広範囲に飛んでくる危険な状態を防ぐ為でもありました。


○木材や木っ端、おが屑の足し算

破壊されるモノが木材を含んでいる場合は、コレらの撒き散らされるモノが追加されました。

しかし、コレにも石つぶての様に木材や木っ端が飛んでくる場合が考えられる為に、爆発に使用されてはいませんでした。


○発泡スチロール(カポック)の足し算

コンクリートの塊が飛び散るのを演出する方法として使用されました。

勿論、周囲への危険回避が目的の代用品ではありますが、映像的には十分でした。


●フライアッシュは使わない

東映東京撮影所では、当たり前の様に使用するフライアッシュですが、京都撮影所では殆ど使用しませんでした。

フライアッシュというモノを知らない訳ではありませんでしたし、それどころかセメントの粉も使用していませんでした。

理由は幾つかありますが、先ずは時代劇にコンクリートやアスファルトの様な人工的な建材や路盤材がなく、使用する事で違和感を生じさせるという点があります。

ですから、本来の土や砂、そしておが屑や木材や木っ端が、主な飛び散る材料でした。

たまに石に見立てた発泡スチロール(カポック)が飛ばされる場合はありました。


そして、撮影現場で使用する馬や動物への配慮と自然への配慮からも、フライアッシュやセメントは使用していませんでした。

人間は、状況を理解していれば最初から警戒して行動しますが、馬や動物が急に異物を吸い込んだ場合、最悪は騎乗しているキャストを振り落とす危険性もあります。

また、フライアッシュやセメントを馬や動物が吸い込んだ場合、警戒心から簡単には取らせて貰えませんし、大きく吸い込んだ場合には身体への悪影響が出る危険性も無視できません。

更に、時代劇でお借りするロケ地の殆どは現代の様な鉄やコンクリートやアスファルトではなく、自然のままを残されている場所ですから、フライアッシュやセメントといった人工的なモノを持ち込んで自然への影響が出るのを防いでいるのです。


●はったい粉

では、時代劇の現場では土埃や砂埃は全て本来の土や砂だけが全てかというと、否ということになります。

やはりフライアッシュやセメントの様に舞い散り滞留する微粒子の演出物は必要なのです。

しかも馬や動物たちにも影響が少なく、自然への影響も少ないモノでなくてはいけません。

そこで最初は細かなおが屑が考えられましたが粒子が粗過ぎる上に後始末が大変でした。

その次に「きな粉」が用いられました。

動物にも影響がなく自然にも還るモノですし、微粒子ですから演出上も良い物でした。

しかし、特に必要な場合が「合戦シーン」の足元に撒き、土埃を演出するという状況でしたから、フライアッシュやセメントの代用品とするには大量の品物を用意せねばならず、安価な食料品とはいえフライアッシュやセメントよりは値段が高く費用がかさみました。

そこで、「きな粉」と同じ様な微粒子であり土色をした「きな粉」よりも安価で大量に揃えられるモノとして「はったい粉」が用意される様になりました。


因みに「きな粉」と「はったい粉」の違いは原料の違いです。「きな粉」が大豆を原料としているのに対して、「はったい粉」は麦を原料としています。

そして、「きな粉」と違い「灰褐色」をしています。

更に、「はったい粉」は、フライアッシュやセメントに比べれば高価ではありますが、「きな粉」よりは安価でした。


以上の理由から時代劇では「はったい粉」が使用される事が定番となっています。

勿論、足し算の原理は働きますが、それでも土、砂、木屑、木っ端などの自然物が中心となります。


●あとがき

映像の演出とは、常に「派手さ」というか「過剰さ」を要求されます。

それは、我々視聴者の脳内にある「こうあるモノだ」という感覚が、誇張されて記憶されているからに他なりません。

更に「こうあるモノだ」よりも「派手な」演出が成される事によって、視聴者の中には「凄い」という感情が生まれます。

だからこそ、通常以上の「派手さ」とか「過剰さ」が要求されるのです。


そこには、常識的ではない演出を要求されながらも常識的なモノの延長線上にある上位互換でなければならないというジレンマがあります。

つまりは、あくまでも常識的なモノで常識的なモノ以上の演出を施さなければならないのです。


その為に、撮影現場にかかわる者達は、常に新しい演出方法を探し、常に新しい素材を探しています。

今よりも「より良い表現」の為に……

「フライアッシュ」も「はったい粉」も、そういった中から生まれた撮影の為の撮影機材のひとつなのです。


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