余り語られない撮影所のあれこれ(120) 「参加作品のメイキングvol.5『特警ウインスペクター OP・ED』」
★余り語られない撮影所のあれこれ(120) 「参加作品のメイキングvol.5 『特警ウインスペクター OP・ED』」
●レスキューポリス30周年
先日は、30周年として「特捜エクシードラフト」のオープニングとエンディングと第一話「死の幼稚園バス」のメイキングをお届けしました。
その「エクシードラフト」の30周年は、レスキューポリスシリーズの30周年が終わる年でもあります。
今回は、レスキューポリスシリーズ(当時はそんな呼び方はありませんでした)の第一作を飾った「特警ウインスペクター」のオープニングとエンディングのメイキングを語らせて頂こうと思います。
常套句になりましたが、
「誰も語らないから、いつまでも伝わらない事があるのは、特撮ファンとして悲しい事です。
では、サード助監督というペーペーで申し訳ありませんが、当時のスタッフとしてその殆どの撮影に参加した私が、僭越ながらメイキングを語らせて頂きます。
さて、今回も語られて来なかったメイキングを語らせて頂こうと思います。
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●作品データ
タイトル「特警ウインスペクター」
サブタイトル 第1話「赤ちゃん暴走!」
放送日 1990年2月4日
放送時間 テレビ朝日系 日曜朝8:00〜8:30
東映制作
主演 山下優
監督 東條昭平
●オープニング
○タイトルまで
ウインスペクターのマークがアップで迫ってくる。
このマークは1枚の絵でした。
それを現場に持ち込んでフィルムで撮影し、クローズアップしていくように見える状態に合成し、枠もキラキラと光学合成で光らせています。
ですから、撮影したものはあくまでも「合成素材」だったのだと思われます。
爆発の中からトレーラーが飛び出して来るのは、第1話でも存在するカットですが、微妙にカメラアングルが違います。
フィルムを焼き回す方法もあるのですが、ココは複数台のカメラで撮った別のフィルムを使用してオープニング用に使用しました。
ファイヤーの窓割りとウォルターとバイクルの壁割りのカット。
窓のある壁を木枠とカポック板(発泡スチロール板)で作り、亀裂を裏から入れています。
窓ガラスは透明のプラスチック板で、予めカットしてあります。
窓割りも壁割りも上部よりも足元を入念に亀裂をいれます。コレはスーツアクターさんが足元が見えにくいからに他なりません。
但し、幾ら亀裂を入れていてもキレイに割れてくれるのかどうかは、本番一発勝負でした。
手前とバックの炎は、実際にガスを使って出しています。
手前の炎は、3人が壁を越えたタイミングでカメラ前に出したいので、カメラ前で着火していたと思います。
ファイヤー、ウォルター、バイクルの各マルチパックからの消火剤の噴射カット。
勿論、炭酸ガスによる噴射です。
この炭酸ガスは、勢いが無いと直線が短くなってしまうので、少し身体が後ろに持って行かれるぐらいの圧力で噴射しています。
炭酸ガスがかかるカットも第1話のカットの別バージョンから使用しています。
赤ちゃんを抱くファイヤーと、寄り添うウォルターとバイクル。
第1話ではスロー(倍速)カットになっているファイヤーの通常コマ数バージョンです。
この時の赤ちゃんも今では30歳を超えているかと思うと、時間の流れを感じます。
ウォルターとバイクルのそれぞれの腕の振りは、各スーツアクターさんと山岡アクション監督との話し合いで決められました。
ウォルターは岩田さん(通称:ガンちゃん)、バイクルは菊池さんでした。後でバイクルのアップ用に入る事になる金田さん(通称:カネゴンさん)は、この1〜2話の撮影時には「機動刑事ジバン」のジバンに入って最終回辺りを撮影いましたから、まだ合流していませんでした。
また、ウインスペクターのマーク。
そこにタイトルが回転しながら被さります。
マークは前途の様に素材撮影しました。そしてタイトルロゴも絵で描かれたモノを合成素材撮影をしています。
タイトルまで約17秒。17カット。1秒未満のカットも含めて畳み掛ける様なカット数です。
冒頭ナレーションとイントロに合っていて、ワクワクして来ます。
東條監督の編集の妙です。
○空撮
横浜ベイブリッジでの空撮です。
ウインスコードには、タケシレーシングチームのテルさんと私が乗り込んでいます。
劇用車の運転は、基本的にタケシレーシングチームでした。
空撮等で監督の指示が演者(この場合は、運転手のテルさん)に届かない場合は、助監督がトランシーバーを持って側に付いていました。
勿論、携帯電話など高価過ぎて庶民が持っていない時代でしたから、トランシーバーが必須でした。
テルさんは、竜馬と同じ様に黒いジャンパーにドライバーズグローブでした。
映る可能性があるのであれば、極力似たような出で立ちにするのが通常でした。
私は、映る危険性がある為に助手席に座ることも出来ず、後部座席でそれも極力足元で寝そべってトランシーバーから聞こえてくる監督の指示をテルさんに伝えていました。
当時は空撮といえばヘリコプターでの撮影でしたし、空撮の費用も高額でした。
しかし、航空燃料にも限りがありますし、ヘリコプターが飛び立つ空港からの出発と帰還という制限もありましたから、撮影時間としては限られた時間しか取れないというのが一般的でした。ですから、空撮は余程の事が無ければ使用しない撮影方法でした。
しかし、現在ではドローンという便利なモノが出来ていますから、頻繁に空撮を使用出来るようになった様です。
しかも、ヘリコプターよりも低空が飛べて、ヘリコプターよりも低額での撮影が可能な様です。
○竜馬
ウインスコードを停めるカットは横浜美術館の裏でした。
車内で無線機を取る竜馬の紹介カットも、そのまま横浜美術館裏で撮影したと思います。
ファイヤーへの着化カットは、撮影所のセット内で撮影されました。
着化カットでは、山下さんが白地に赤いタイツを着込み、その上からアップ用のスーツを徐々に着込んでいきます。
オープニングでは、マスクを装着するカットからの数カットだけですが、光学合成を入れ込んで短いカットでマスクを装着するまでを見せています。
本来は装着ギミックの動きが収められている着化カットなのですが、オープニングではギミックが動くカットはわずかに2カットのみで、後は光学合成でカットを短くしています。
着化の完了したファイヤーの立ちカットは、横浜美術館の正面で撮影されています。
○純子
純子の赤いRX-7の走りも横浜美術館前です。
現在は車両の通行が出来る場所ではありませんが、当時も同じ様に車両通行禁止で、特別に走らせて頂けたのかどうかは、はっきりとは覚えていません。
勿論、運転は白いシャツに赤いベストを着て長髪のウィッグまで着けたタケシレーシングチームのテルさんです。
純子の車のフロントガラスに着弾するカットは、流石にRX-7ではありませんし、撮影場所も横浜ではなくて撮影所内での別撮りでした。
着弾は、パチンコ玉をスリングショット(=ゴムパチンコ)で打ち出してフロントガラスに傷を付けています。こんなカットも現在ではCGなのでしょうねぇ。
純子の銃がオートマグというのは凶悪ですが、そこにスコープまで着けています。
射撃の名手という設定からのチョイスなのでしょうが、チグハグな様な気がします。
○本部長とウォルター、バイクル
我等が正木本部長こと宮内洋氏の紹介カットは、ウインスペクターの本部基地内です。
第1話の横浜ロケの際には服が間に合っていませんでしたから、このカットの撮影は後日に制服が到着してからになりました。
流石に長期に渡って毎回毎回何回も見せる紹介カットに使用するのに仮衣装では問題ですからねぇ。
それも宮内洋さんの紹介カットとなれば尚更です。
ウォルターとバイクルの紹介カット。
勿論、第1話用に撮影したモノを流用したバンクショット(何回も使用する事を前提としたカット)でもあります。
実は台から降りるのは難しいカットです。
視界の悪いアップ用のマスクで、しかも下を覗き込むことも出来ず、腕の構え方まで決まっていて、明らかに段差のある位置から床へ降りなければならないのですから、基本的には恐怖が先に立ちます。
それをやってのけるのがスーツアクターさんでした。
ファイヤー、ウォルター、バイクルの初期段階での装備品のフル装着カットです。
ウォルターの羽根は、閉じた状態では左右に明らかに差が有ります。長さは同じなので開閉の支点がズレているのだろうと思うのですが、流石に現場では修正は無理でした。
その上に、開閉の硬さも左右で差がありましたから、自然に開くと画像の用に右の羽根が左の羽根よりも後に開く事になってしまいます。
かと言って、ピアノ線で引っ張るにしてもバレバレの位置にピアノ線を取り付けなければならず、開閉出来れば良いという結果になりました。
○新施設
3体の並び歩きも横浜美術館です。
横浜ベイブリッジと横浜美術館は、撮影時には出来て間もない施設でした。
この様に開業間もない施設に撮影許可を取るのは、施設側にとっては良い宣伝なのですが、開業間もない施設が全てが好意的とは限りませんし、初めて使用させて頂くロケ先は、今後の他の番組を含めた再使用の際に支障をきたす可能性があるので特に気を使いました。
勿論、新しい施設では発火物は使用できません。
まぁ、普通は発火物の使用許可も降りません。
●エンディング
○自転車
竜馬とバイクルが自転車に乗って…
竜馬は良いでしょう。
でもバイクルは大変です。
よく動けないスーツスタイルで、ウォルターを載せて、スケボーに乗った良太まで引っ張っています。
バイクルの腰のプロテクター(通称オムツ)だけは、流石にアクション用のと取り替えてあります。
でなければ太ももが上がりません。
幸いなのは二人乗り自転車で二馬力という点で、立ち漕ぎですがウォルターもペダルを踏んでいるという事でしょうか。
流石にウォルターは前傾姿勢が取りにくいので、バイクルの背中のハンドルを掴んでいます。
勿論、何回かスタートに失敗しました。
今では問題のある乗り方です。特に良太はw
○洋服
洋服屋さん。
必見は、見て分かる通りウォルターの服です。
このトレーナーは、衣装部さんの用意したもので、犬のアップリケは後から貼り付けられています。
勿論、ウォルターが本当に着ています。
ウォルターのスーツの上から着込んで、後からマスクを装着しています。
衣装部さんに感謝です。
本当に良く探して来てくれました。
○ピンボール
ピンボールは、当時としてもあまり置いてある場所がありませんでしたから、見つけるのに苦労をした様です。
得点表示のデジタルが上がって行くのは、ピンボールのガラス面を外して貰って強制的に作りました。
壊してしまうピンボールの部品は、プラスチックによる作り物です。
○街中と本屋
街なかは大泉学園の駅前だったと思います。
本屋は、当時の西友OZ大泉(現:リビィンOZ大泉)の中の店舗をお借りしたロケだったと思います。
○標準語はこう話せ
CDの試聴コーナーも同じく西友OZ大泉の店舗の一画であったと思います。
但し、流石に「標準語はこう話せ!」のCDジャケットはありませんでしたから、小道具さんの作り物です。
○エキストラ達と
ウォルターやバイクルを含めたレギュラー陣と一般の人々の交流は、エキストラを入れての撮影でした。
第一話のウォルターにキスをする女の子などの街なかのシーンの際に用意されたエキストラを流用しています。
○チャコ
久子が営む喫茶店「チャコ」は、撮影所の近くにあった喫茶コーナー付きのバイク屋さんをお借りしてのロケセットでの撮影でした。
週に一度の店休日を利用して、小道具さんと大道具さんが、足りないテーブルや椅子を足したり、看板を付け替えたりして撮影していました。
歳の離れた姉と弟の仲睦まじさを出すのに、腕相撲をしていますが、わざと弟に負けてあげる久子さんがいじらしいです。
本来ならば、秘密捜査官が小学生相手に負ける訳はありませんからねぇ。
○乾杯
ジュースとモーターオイルで乾杯。
スポンサーの関係という訳ではありませんが、メーカー名や商品名をそのまま使う訳にはいきませんから、モーターオイルの缶も「らしい」ラベルにした作り物となっています。
○花園
竜馬の妹の優子が栽培している花の農場の側にある花園という設定の場所。
場所は千葉の九十九里浜に近い場所でしたが、撮影時は12月前後であった為に時期的にも流石に色とりどりの花が咲き乱れている訳はありません。
ですから手前の花の殆どは造花で、纏めて発泡スチロールに刺した造花の束や一本一本手刺しするなど、スタッフが刺してカメラの画角内を花で埋めていました。
この撮影の日には美術トラックが造花でいっぱいになっていて華やかだったのを覚えています。
○九十九里浜
海岸での撮影は九十九里浜です。
京都撮影所での海岸の撮影が琵琶湖の畔なのが定番の様に、東京撮影所での海岸の撮影の定番は九十九里浜でした。
少し遠いですが、周りに撮影の邪魔になる建物が余り無いのと、シーズンオフには人もあまり居ませんでしたから、ロケ先としては良い場所でした。
正木本部長の服は、まだ間に合っていませんでした。
バイクルが砂浜に顔を突っ込むカットでは、予め砂浜を掘ってその中に頭をすっぽり埋めていました。
いくら予め掘ってあるといっても砂の中に顔を埋めるのですから何らかの処置はしてあったと思います。
良く覚えていませんが、少なくとも口はマスクで覆っていたでしょう。
それとも、バイクルのマスクを着けていた可能性もあると思います。
●あとがき
流石に30年以上前の撮影ですから、うろ覚えや忘れている場面もあります。
しかし、私が携わった初めてのオープニングやエンディングの撮影ということもあり、興味深かった事は覚えています。
因みに、カチンコに書くカットナンバーには、オープニングには「OP」、エンディングには「ED」という文字を入れてからカットナンバーを書いていました。
勿論、オープニングやエンディング専用のカットに限ってでした。
現在の様なデジタルでの撮影ではありませんし、ビデオ撮影でもありませんでしたから、撮影した画像をダビングする事は余りありませんでした。
フィルムのダビングが高価だったというのもあります。
ですから、本編用に撮影したフィルムをそのまま流用するのにも切り貼りしなければならずに尺(=時間)的に限界もありました。
尚、オープニングの文字テロップは出演者が変われば変更される部分もありますが、エンディングの文字テロップは基本的に変更していません。
撮影協力等の追加ぐらいでしょう。
ですから余り変更のないスタッフの名前がエンディングにテロップされていました。
まぁ、テロップ出しは文字数によって金額がかかりましたし、他の文字テロップを含んだ部分の一部変更でも、その画面全ての文字テロップの文字数の費用がかかりましたから、おいそれとは変更出来ないという事情が反映されているのですがね…




