余り語られない撮影所のあれこれ(118) 「映像業界への憧れとキッカケの書籍たち」
★余り語られない撮影所のあれこれ(118) 「映像業界への憧れとキッカケの書籍たち」
●映像業界
一般の人々には、映像業界の内情を知る機会は殆どありません。
SNSが発達した現代に於いても、まことしやかな「噂話」や業界の人間によって語られる断片的なモノが全てと言っても過言ではないくらいに、実情は表に出てきません。
私としても短い期間に様々な映像業界の様々な作品に触れさせて頂きましたが、その経験をもって映像業界の全てを知った訳でもなく、断片的な意見をもって正論と出来る訳でもありません。
ある業界ではとてもブラックだと思われる事も、他の業界では生ぬるい場合だってありますし、とてもクリーンな場合だってあるのですから、「一概に言えない」というのが実情です。
今回は、そんな映像業界の内情の断片を、SNSなどなかった時代に、自らの憧れを持って知ろうとした私が、映像業界に入る前後に読んだ書籍類をご紹介し、その一端を知って頂くキッカケにして頂きたいと思います。
勿論、現在となっては廃版になっていたり、入手困難になっている書籍もありますが、ご容赦下さい。
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●24年目の復讐 上原正三シナリオ傑作集
出版社:朝日ソノラマ(宇宙船文庫)
刊行年:1985
著者:上原正三
内容:怪奇大作戦やウルトラQをはじめ、帰ってきたウルトラマン、ウルトラセブン等のシナリオ17編を集めた1冊。
私が高校時代に、帰ってきたウルトラマンの「怪獣使いと少年」の準備稿が掲載されているという事だけがキッカケで購入した1冊でした。
目的の1編以外も読み込んで、当時未視聴だった「怪奇大作戦」をレンタルし始めたことを思い出します。
特撮作品に対して視聴だけだった少年時代から、ストーリー好きもあってシナリオへと興味を加えて行った当時の逸品です。
自分でもストーリーを書きたいと想い出すキッカケの1冊でもありました。
結果として、初めて名前を覚えた特撮作品の脚本家が「上原正三」となりました。
そして、その名前をウルトラシリーズや円谷プロ作品だけではなく、東映のスーパー戦隊シリーズやメタルヒーローシリーズをはじめとする他の特撮作品にみつける事ができる様になった時に、「上原正三」という名前は尊敬を通り越していました。
監督だけではなく、他のスタッフの名前や活躍を考える事ができるようになったキッカケの書籍であったともいえます。
●円谷英二の映像世界
出版社:実業之日本社
刊行年:1983年
著者:山本眞吾 編
内容:“特撮の神様”円谷英二の作品に関する解説本
特撮好きが映像作品に関する著書を読めるのは全集や写真集が中心であり、作品は勿論撮影方法にまで詳しく解説してある本が余りなかった時代において、貴重な本でした。
当時の多くの特撮好きが買い求めた1冊だと思います。
私にとっては、視聴から内容や裏側を詳しく知りたいという想いへ深く掘り下げ始めた頃に読んだ1冊です。
前途したシナリオへの関心と共に、特撮の撮影技術に関心を向けて撮影がしてみたいと想うキッカケの1冊でもありました。
先ずは「円谷英二」その人について、円谷英二氏の側に居た方々に語って貰うページを入れて、その後に「円谷英二」が関わった特撮映画の数々を紹介していく。そして、最後に特撮の撮影技法へとページは進みます。
私は、特にこの最後の項目が読みたいが為に購入したと言っても過言ではありませんでした。
「飛行機」や「船」からはじまり「噴火」「洪水」といった自然現象や、「怪人」や「怪獣」といった架空の存在まで、特撮でリアルに表現する技法が紹介されています。
しかも、撮影現場のメイキングの様なスチル写真が掲載され、ワクワクが止まりませんでした。
2001年には円谷英二生誕100年を記念して「完全・増補版」も刊行されています。
●映像制作ハンドブック
同名の著書の新版でも旧版でもなく、1980年代に刊行されていた本です。
タイトルも違っていたかもしれません。
誰かに貸したままなのか、何処かに仕舞い込んでしまっているのか、今回捜索したのですが見つかりませんでした。
内容は、撮影の初歩から技術的な事まで図解入りで解説した1冊です。
高校時代に自主制作映画を撮影するにあたって、撮影の初歩を学ぶ為に購入した1冊でした。
大学に入って映像を学ぶ様になりましたが、撮影技術が1冊に纏まっているという点に於いても非常に有用な1冊で、私が撮影所に入ってからも読み返していた記憶の多い著書でした。
●あどりぶシネ倶楽部
出版社:小学館( ビッグコミックス )
刊行年:1986年
著者:細野不二彦
内容:とある大学の映像制作サークルが舞台の漫画です。
全1巻なのでサクサクと読める上に、商業映画の映像制作における心構えとかウンチクが語られています。
高校時代に購入した本でしたから、純粋な田舎の思春期青年にとっては、嘘の様な本当のことや本当の様に語られる嘘の様な本当の様な心構えやウンチクを全て丸呑みしていました。
しかし、映像制作に対する所々の心構えに関しては悪い事は言っていません。
至極マトモで、大切な言葉で語られています。
私の通った芸術大学は映像制作を学べる大学でしたが、実験的な映像やアニメーションが中心でしたから、商業映画を目指す生徒は1割にも満たない人数でした。
私は、その中でSFや特撮の映画を目指す少数派でした。
それだけに、この漫画の商業映画に対する考えや心構えには励まされました。
●夢工場
出版社:双葉社(別冊漫画アクション)
刊行年:1983年
著者:やまさき十三原作・弘兼憲史作画
内容:主人公が映画会社の助監督となって仕事をしていく中で、組合闘争に巻き込まれていくようになるという原作者の自伝的漫画。
実際に東映東京撮影所で助監督をしていた原作者のやまさき十三氏(代表作は釣りバカ日誌)が、1960年代半ばから10年間の助監督の仕事や組合闘争を経験しながら夢を見て夢に敗れて行く話が弘兼憲史氏の劇画タッチで描かれる全6巻のコミックです。
私が大学時代にアルバイトをしていた古本屋にあった漫画を何の気なく読んだのがキッカケで、全巻購入をしてしまった漫画です。
助監督の仕事がリアルに描かれ、しかも私が憧れる東映東京撮影所の事が描かれている漫画なんてそれまで読んだ事がなかったし、私が知らない東映東京撮影所の組合闘争という歴史を知るキッカケとなった漫画でした。
まぁ、漫画の作中では「東映」ではなくて「東都」でしたが……
ガチ袋にカチンコを差して、台本を丸めてジーンズズボンの後ろポケットやガチ袋に入れ、ジャンパー姿やTシャツ姿、そして何時も走っている主人公。
主人公に憧れていた訳ではありませんが、奇しくも私も同じ様な姿で助監督の仕事をしていたのだなぁと今となって改めて思います。
夢の敗れ方は違いますが、夢に敗れたところまで一緒になるとは、最初に読んでいた時には思ってもいませんでした。
それどころか、助監督に成れるとも思ってもいませんでした。
しかも憧れの特撮番組の助監督に……
●ショッカーO野の熱血ヒーロー日記
出版社:ラポート
刊行年:1989年
著者:小野敏洋(ショッカーO野)
内容:原作者がスーツアクター等として特撮番組やアトラクションショー等のアクション俳優をされていた経験を紹介する形で描かれた漫画。
原作者は、1988年に勁文社から発行された特撮ファンには伝説的な本「ライダーキックは痛かった」の著書であるショッカーO野氏。
特撮番組の撮影現場を、JAC(=ジャパンアクションクラブ)=現JAE(=ジャパンアクションエンタープライズ)の一員であったショッカーO野氏の目線で描かれる漫画。
撮影現場を楽しく紹介する様な内容なので、少し誇張する場面があったりしますが、実際の東映東京撮影所の特撮番組でのJACの皆さんの活躍が垣間見える漫画は他にはありませんでしたから、とても興味深く読むことが出来ました。
お陰様で、東映東京撮影所でJACの皆さんとお会いして実際にお仕事をご一緒する度に、読み返しては漫画の中のキャラクターの特徴の捉え方に妙に納得してしまっていると共に、深く知らない方々にも親近感が湧いてしまうというヲタクに有りがちな浅墓なミスをやらかしてしまっていました。
実際、石垣アクション監督の事を「イカ太郎さん」とか「イカさん」と呼びそうになって、他のJACの方々に「石垣さんの前で『イカ太郎さん』とか『イカさん』なんて呼んだら、めちゃくちゃ怒られるぞ」と注意されたぐらいでした。
実は奇しくも著者のショッカーO野さんとは、お仕事をご一緒する機会に恵まれました。
しかもショッカーO野さん扮する白バイ警官のバイク搭乗の吹き替えとして……
ショッカーO野さんは、バイクの免許をお持ちではなかったとお聞きしましたが、真相は分かりません。
勿論、その作品である岡元次郎主演・國米修市監督の「クローンカプセル」での私の仕事は、助監督がメインであった事は明記しておきますw
●ビニテとニッパー 特撮ウーマンの現場奮闘記
出版社:新風舎
刊行年:1999年
著者:みうらさとみ
内容:特撮番組や映画やVシネマの特別なスタッフである「操演」。その助手として働く著者が撮影現場や撮影所で起こった様々な出来事を操演助手の視点と当時は少なかった女性スタッフの感性でマンガとエッセイで綴った本。
これこそ珍しい「操演」の仕事をエッセイマンガとして描いた逸品です。
今やレジェンド操演技師であり、スーパー戦隊をはじめとするCGクリエイターであり、監督でもある國米修市氏の美人操演助手として実際にお仕事をされていた著者が、東映東京撮影所で仕事を通して見聞きした事を綴ったエッセイマンガです。
ですから、実際の現場スタッフからでなければ語れない視点やエピソードを交えたエッセイマンガなのです。
実は、私は著者のみうらちゃんとは面識はあります。
しかし、まだその当時は操演助手の助手という感じで、本当に猫の手を貸している程度の女性でした。
それが、著書の中では「人造人間ハカイダー」をはじめとする様々な撮影現場の操演助手をこなしている事が見て取れます。
今やこの著書も絶版の上に、出版社も無くなってしまっています。
そして、今や彼女も某監督の奥様だと風のうわさに聞きました。
そして、この著書の再販が難しいという事こそが、この「余り語られない撮影所のあれこれ」の執筆の原点のひとつでもあるのです。
●空想流行通信 スーパーヒロインのファッションセンス
出版社:メディアワークス
刊行年:1997年(完全版:1999年)
著者:香坂真帆
内容:特撮ヒーローやヒロインをはじめとしたバンダイの広告雑誌の様な伝説の雑誌「B-CLUB」に掲載されていた作品を纏めたムック本です。特撮業界にいた著者が「ファッション」という観点から特撮のキャラクターを見つめた本です。
これも珍しい本です。
ヒロインのイラスト目当てで購入した様に思われそうですが、正直に言えば、イラストのヒロイン達が非常に凛々しかったというのもあるのですが、特撮という虚構の世界にも関わらず、現実的な「ファッション」という考察の観点で特撮作品やヒーローやヒロインを見るという点が目から鱗が落ちる感覚だったからなのです。
勿論、最初の無印版も完全版も2冊とも初版で購入しました。
虚構を現実の世界で愉しむ為に、解釈の大切さや考えの楽しさを気付かさせて頂いた本でもありました。
著者とは近年になってTwitterでお知り合いになり、何故か迷惑なくらいに頻繁に絡ませて頂いていますw
私としては好きな著書の著者であるだけに、まさかまさかの有り難さであり、Twitter様々な状況でもあります。
●各種全集
写真集や○○大全集といったものまで、特にメイキング写真を目当てに多くの書籍を購入しました。
映像作品の保存というか脳内補完用という側面もあって購入していましたが、映像作品からは見ることの出来ない裏側の写真を見たいという想いが募っての購入でもありました。
当時は、まさか自分が特撮作品の裏側を直に見ることの出来る場所に立てるとは思ってもいなかったのです。
撮影所に入る前に見た1枚のスチル写真から読み取ろうとする情報量に比べて、直接見聞きした情報量は勿論膨大です。
しかし、あまりにも膨大である為に1枚のスチル写真に凝縮して記憶を閉じ込めて置かなければ忘却してしまうのもまた確かです。
ですから、自分が関わった作品であっても全集は購入していました。
現在の様にデジカメやスマホ等がなかった30年前では、フィルムによるカメラやインスタントカメラはありましたが、気軽に撮影現場でスナップ写真を撮るなんて事は殆どありませんでした。
そういう意味では映像として外部に露出し難い時代ではありました。
だからこそ、自分の眼の前で撮影している作品は勿論、隣で撮影している作品でも直接網膜というフィルムに焼き付ける以外での記録方法は、スチルカメラマンを除いては行われていませんでした。
「特捜エクシードラフト」の撮影の最初の頃に、影丸茂樹氏、河井マモル氏、榊原伊織氏が私のアパートに訪ねてきた際に、3人の中の誰かが本棚に並べてあった他の特撮作品の全集や写真集を見ながら言った「俺たちもこんな本が出るのかなぁ」という不安と責任の入り混じった言葉が忘れられません。
眼の前にある過去の写真集の一員となって行くであろう自分は、今は若手役者がレギュラーを掴んで一歩を踏み入れたばかりなのだと思う、不安と責任と期待があったのでしょう。
少なくとも私にはそう感じました。
出演者やスタッフにとっては、大切な思い出の光景の記録であり、自分達の想いの記録でもあるのが全集や写真集なのだと、今となっては思うようになりました。
●あとがき
今回は映像作品は加えていません。
映画業界を扱った映像作品は、以前は少なからずありました。
現在でも「バイプレイヤーズ」が筆頭の如く描かれています。
しかし、書籍となると激減します。
映像業界の裏側を描くマンガやエッセイや小説等は、コンプライアンスや守秘義務といった制約を受けやすいというのが現状だからです。
確かにありきたりな撮影の裏側や撮影の方法に関する書籍は増えましたが、殆どはSNSの中の「動画」という文明の利器が詳しく優しく解析して下さる時代にもなっています。
私のこの発信も商業ベース( 有料 )での発信ではありませんから、お咎めを受けるのは一般的なコンプライアンスと、辞めても付き纏う守秘義務とでしかありません。
しかし、電子媒体での発信は、世界に向けて発信され、何年間も漂い続けて、何処でどう変貌するかも未知数ですから、注意が必要な事も確かです。
そんな多少危なっかしい媒体であっても私が「映像作品の裏側」を語って行こうとするのは、私が「知りたい」と思った学生時代に「情報」の量が余りにも少なかったという過去があった事が大きいのです。
そして、その少なかった「情報」である書籍達が私の背中を押し、興味を引っ張り出してくれたからという感謝の気持ちもあり、おこがましくも私がその中の一員となり少しの助けになればと考えたからでもあります。




