余り語られない撮影所のあれこれ(110)「終了作品の遺物はどこへ行く?」
★余り語られない撮影所のあれこれ(110)
「終了作品の遺物はどこへ行く?」
●断捨離
作品は、映画であってもテレビ作品であっても、シリーズ作品であっても単発スペシャル作品であっても、いつかは終了してしまいます。
そして、終了した作品には多くの「後に遺されたモノ=遺物」が存在します。
「台本」「資料」「キグルミ」「小道具」等などの「捨てる」のか「残す」のかが迫られる「遺物」達はどうしているのでしょうか?
今回は、これらの「遺物」の「廃棄」と「保存」のお話です。
尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますww
その点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。
東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。
●お片付け
シリーズ作品で無い限りは、作品の撮影が全て終われば撮影に関わったスタッフは解散しますし、スタッフルームも明け渡さなければなりませんでした。
明け渡すといっても、机やイス等の備品類はそのままでしたが……
スタッフの私物は持ち帰らせますし、忘れ物は連絡を取って制作部まで引き取りに来てもらいます。
それでも置いて行かれたモノは廃棄でした。
ですから、本来であればオールアップ(=撮影終了)数日後のスタッフルームには、個人的な小さな忘れ物と机やイスやコーヒーメーカーという様な次の撮影隊(=組)も使用する共用設備とゴミだけが遺される訳です。
本来であれば……
●台本
台本は、基本的にスタッフやキャストに一人一冊配られます。
撮影する作品の情報の殆どが記入されていて、撮影中にも書き足されていく大切な本です。
そして、その作品の為だけに印刷されて撮影関係者にしか配られないという貴重品でもあります。
どんな本屋に行っても売っていません。
それでも失くす、破れる、水に濡れる、様々な要因で欠損する場合はあります。
だからこそ、予備の部数も印刷されています。
しかし、撮影中では余程のことが無い限りは追加印刷はしませんし、撮影が終了してしまえば改めて印刷する事もありませんから、台本は基本的に初版しか存在しないという事になります。
さて、撮影が終了した後はと言うと、各人に配られた台本は各人が自分で持ち帰ります。
問題は予備の台本です。
この予備の台本達は一時的には保管されます。
しかし、保管と言っても冊数が溜まってくれば置き場も無くなり、廃棄となります。
年間で数百本以上の作品が撮影され、同じ数だけの台本が印刷されているのですから、その予備の台本だけでも大変な冊数になるのは想像に難くないでしょう。
更に、予備の台本はスタッフやキャストの数が多かった作品では数十冊単位で余ってしまっていましたから、年に一度位には廃棄されないと保管場所(階段下とか制作部の部屋の隅とか)に入り切らない程の冊数の廃棄台本があった訳です。
30年前には東映動画(=現:東映アニメーション)では年に一度バザーが開催されていて、その際に在庫になっているセル画や台本や設定資料などを販売していました。
バザーのお客様は、スマホやネットオークションどころかインターネットも無い時代でしたから、チラシ、貼り紙、口コミでの参加でしたが、それでも毎回盛況でした。
残った台本は、今では表に出てくることは殆どない状態ですので、きちんと廃棄されているのだと思われます。
たまにネットオークションなどで見かけることもありますが、個人所有の台本だと思われます。
ただし、個人所有の台本ではキャストはキャストとしてスタッフは部署によって何かの書き込みがされている台本というのが殆どですから、綺麗な折り曲げてもいない書き込みのない台本が出回ることは、余程仕事をしていなかったスタッフかキャストか、記念でもらった台本か、廃棄された新品台本が流出したものかと思われます。
私は30年前に、東映東京撮影所本館の階段下のスペースに置いてあった大量の台本の束を廃棄する手伝いをしました。
「興味がある本(=台本)があったら持って行って良いよ」とは言われていましたから、数冊お駄賃代わりに頂きました。
その際にも同じ台本が数十冊単位で束にされているモノもありましたし、一冊や二冊程度の台本を十冊や二十冊単位で束ねているモノもありました。
テレビプロの台本ならば「はぐれ刑事」「スーパー戦隊」「メタルヒーロー」などのシリーズモノの台本でしょうが、本館の階段下には「ドラマスペシャル」「土曜ワイド」「火曜サスペンス」といった単発ドラマの台本が大半でした。
保存されていた台本の大部分は廃棄する為に、撮影所内に置いてあるリヤカーに一時的に集められ、古紙回収等の業者に引き取りに出されていました。
しかし、それは大量に廃棄に出される場合であって、1冊や2冊程度の廃棄ならば、破り捨てる制作部さんもいました。
台本自体を保存して置くというのは、制作部の仕事でしたし、台本が製本された際に保存用は制作部によって取り置かれていた様ですから、撮影後に遺された台本は、基本的に廃棄という事になる訳なのです。
●資料
作品作りには、台本だけが資料ではありませんでした。
「イメージイラスト」「設定集」「絵コンテ」などの台本には入らないコピー用紙の資料が配付されることがありましたから、それが作品の撮影終了とともにスタッフルームに遺される場合もありました。
枚数のある資料はホッチキス止めされたものでしたし、一枚物の資料は折り畳まれているほどの大きさのB4やA3の用紙でしたから、数があれば容積的もかさ張りました。
そんな資料の殆どは、台本などのように個人名を記入しているわけでもありませんでしたから、仮に書き込みが残っているような資料でも個人を特定しにくい状態でした。
これら忘れ物の紙資料は、過剰在庫になってしまったモノも含めて廃棄処分が通常でした。
但し、台本と違い古紙回収等に回される場合は殆ど無く、紙ゴミとしての廃棄処分をしていました。
資料達は基本がコピーでしたから、撮影途中でも追加印刷がされていました。
ですから、余剰の資料は普通に存在しましたし、台本以上に過剰在庫になってしまう資料も大量に存在していました。
この紙媒体の資料の保存に関しては、どうされていたかは定かではありません。
「イメージイラスト」や「設定集」は、番組が始まる前や新たに登場した車輌や武器等があった場合に制作部より配布されていましたから、原本となるモノは制作部が所持していたと思います。
ですから、原本の保存という形で保管されていたと思います。
「絵コンテ」は、現在では絵コンテを切る専門のスタッフが居る程ですが、30年前の場合は監督自らが切ったり助監督が監督の指示で切ったりもしていました。
ですが、アニメーション製作の様に必ず切るというモノでもありませんでした。
そして、切られるのであれば大量でした。
それだけに、廃棄も多かった紙資料の筆頭でした。
ですから、イメージが伝わりにくいシーンに対してだけ「絵コンテ」を切るという監督もいました。
●キャラクターとプロップ
ドラマの撮影では余り存在しませんが、作品中に登場する番組固有のアイテムというのも存在します。
刑事ドラマでも捜査チームが特殊であればお揃いのジャケットを作成したりしていますし、ヒーロー番組ではヒーローキャラクターそのもののスーツや武器といったモノ、ヴィランのスーツやアイテム、また、バイクや車輌なんていう大きなモノも存在します。
そんな番組固有のモノも基本的には廃棄対象です。
しかし、番組がシリーズ化しているのであれば、少なくとも次のシリーズが撮影開始されるまでは保管ということになっていました。
私が撮影所に居た30年前は、「仮面ライダー」はシリーズではなくて、「スーパー戦隊」シリーズと「メタルヒーロー」シリーズが制作されていましたし、刑事ドラマでは「はぐれ刑事」がシリーズ化していました。
基本的には刑事ドラマのシリーズの方は、番組固有のアイテムである主人公やその周囲のレギュラー登場人物の服や持ち物を対象として、撮影が終了したとしても廃棄することはありませんでした。むしろ、分けられて保管されていました。
コレは主人公や他のレギュラー登場人物が次のシリーズ作品でも同一人物である場合が殆どである為に、前作からの「繋がり」を重視していたからに他なりません。
それに対して「スーパー戦隊」シリーズには、当時は明確な繋がりは無く、作品が撮影終了前に次の番組と映画等で共演するぐらいでしたが、撮影が終了すればヒーロースーツや武器等は保管となりました。しかし、ヴィランにおいては廃棄対象であったと思います。
ましてや、作品中にゲスト出演しただけのアイテム等は、流石に同じ作品中では保管されていますが、撮影終了後には今後に必要になるアイテムやプロップ(=小道具。特に偽物・造りモノの小道具)のベースとなって改造されたり、流用されたりしていました。
特殊なアイテムやプロップは、作成や購入に費用がかかってしまっているモノも多く、「使い捨て」では勿体無いからでもありました。
「スーパー戦隊」シリーズよりももっと作品間の「繋がり」があったりなかったりと曖昧な状態であったのが「メタルヒーロー」シリーズでした。
「メタルヒーロー」という呼称のない時代の「宇宙刑事シリーズ」の3部作や「特警ウインスペクター」から始まる「レスキューポリスシリーズ」と呼称される3部作、そして「重甲ビーファイター」「ビーファイターカブト」の2作品には続編としての「繋がり」が存在していましたが、その連作を除いた他の作品間には作品としての「繋がり」は皆無でした。
ですから、次の作品の製作内容が決定して、本式に撮影に取り掛かる際に現在製作中の作品と「繋がり」が有るとされると衣装や小道具は念の為に残されました。
しかし、余り多くのモノは再利用されず、新規に作成されたモノに変更になるのが通例でした。
●記念品
シリーズ作品の主役を含むレギュラーキャストは、大抵の場合は最終回まで出演していますし、いくら次回作に「繋がり」があっても作品としてはオールアップ(=撮影終了)と共に一度区切りがつけられます。
次回作が続編であったとしても再利用される訳もない事が明白なアイテムやプロップや装飾品は、レギュラーキャストへ「記念品」としてプレゼントされる場合が、30年前には往々にしてありました。
大抵は、思い入れが残りながらも余りかさ張らないモノを1点選んで小道具さんが渡していました。
レギュラーキャストがお揃いで持っている銃や電子手帳等が選ばれるのが通常でした。
撮影終了迄の長丁場をレギュラーキャストと同じ様に駆け抜け、キズや塗装剥がれもあるプロップ達は、それだけで作品の撮影終了に対する「記念品」でした。
特殊なプロップを持たないレギュラーキャストには、メガネや装飾品といった身に付けていた小道具が対象になる場合もありました。
現在はどうしているのかもわかりません。
特殊なプロップは、それだけに製作費は高額でしたし、表立って「記念品」といって渡せる訳ではなくて小道具さんの御厚意という名のナイショの様な行為でした。
どうせ廃棄となる可能性が高いモノならば、若いレギュラーキャスト陣に思い出として渡して、明日からの糧にして貰おうという気持ちであったと思います。
現在では特殊なプロップを含めて管理しているキャラクター管理のお仕事が独立して存在していますので、そんな事は無くなってしまっていると思っています。
但し、コレらは「特撮作品」で行われていた行為であって、他のドラマではレギュラーキャストからのオネダリでも無い限りは、余り行われていませんでした。
●あとがき
基本的に「台本」「資料」「プロップ」は、どれを含めても製作会社の「機密」に属するモノです。
ですから、世間一般に公開されたりするモノではないのです。
30年前では、そこら辺の「機密情報」や「個人情報」等の「コンプライアンス」が希薄であったこともあり、流出してしまっているモノも存在します。
何せ「台本」の中にはスタッフやキャストの連絡先と称して自宅の電話番号が印刷されていたモノもたまに存在していましたから、個人情報も何も無い時代でもありました。
だからこそ現在では様々な「コンプライアンス」の基に、「保管」と「廃棄」が徹底され、遺すべきモノは残し、廃棄したりリサイクルしたり出来るモノは、そこで役目を終えるという区切りが持たされていると思っています。
作品は「撮影終了」と共に完成に向けて編集され、世間へ公開されるという空へと飛び立って行くものです。
そして、「飛ぶ鳥跡を濁さず」の言葉にあるように「整理」し「分別」し「保管」と「廃棄」と「リサイクル」へと「遺された」モノは散って行くのも又必然なのです。




