表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
100/195

余り語られない撮影所のあれこれ(99)参加作品のメイキングvol.1「女バトルコップ」

★参加作品のメイキングvol.1「女バトルコップ」


●メイキング

「女バトルコップ」は、1990年に発売されたVシネマの1本で、特撮モノをVシネマのシリーズに加えた初めての作品でもありました。

今でもデザイン性や女性ヒーローが主役という設定等の斬新さで、一部に根強い人気がある作品です。

しかし、その「女バトルコップ」ってメイキングを語ったスタッフやキャストが殆どいない作品らしいのです。

語っても、一部のシーンぐらい。

誰も語らないから、いつまでも伝わらない事があるのは、特撮ファンとして悲しい事です。

では、サード助監督というペーペーで申し訳ありませんが、当時のスタッフとしてその殆どの撮影に参加した私が、僭越ながらメイキングを語らせて頂きます。


●作品データ

タイトル「女バトルコップ(LADY BATTLE COP)」

1990年11月 東映制作

オリジナルビデオ作品(Vシネマ作品)

収録時間81分。

主演 中村あずさ

助演 山下規介

監督 岡本明久


尚、例によって情報のほとんどが約30年前ですw

特に今回は、正に31年前の作品です。

記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。

そして、ここでの意見は、あくまでも個人的な意見です。

東映をはじめとした各社や映像業界の直接的な意見ではありません。その点を予めご理解ご了承下さい。


●企画

企画段階では私は参加していないので定かではありませんが、「宇宙刑事シリーズ」がアメリカでインスパイアされて出来た1988年日本公開の「ロボコップ」が、日本に逆輸入状態で凱旋帰国し、絶大な興行収入を叩き出しました。

この内容に、インスパイア元の東映は「機動刑事ジバン」という和のテイストを入れた「和製ロボコップ」を作りましたが、満足していませんでした。

しかし、「アレは、フィルムのコマひとつひとつにドル紙幣を貼り付けて創った映画。日本で創っている予算にしてみりゃ天と地程……」と東映スタッフにも揶揄されていた予算の違いは如何ともし難かったのです。

ならばと、Vシネマという年齢層を上に取れて、ハードなアクションやセクシーシーンも可能な作品造りが出来る土壌を選んだのだと思います。


デザインも女性的ではあるにしても口元を生身で見せて、警官ではないがバトルコップになった経緯も似ている。

作品としても、ストーリーの間にニュースを挟む脚本や近未来設定は、「ロボコップ」に対して再インスパイアされたモノだと言えるでしょう。

そこに、「ロボコップ」と同じ年に公開されて、全世界に今でも根強い人気を持つアニメ映画「AKIRA」のサイキックやビームバズーカ等の要素を絡めて企画されたのだと「個人的」には考えています。


尚、当時の「Vシネマ」の興行的には、全国のレンタルビデオ店での受注見込みとして予算回収は可能であったので、追加注文が何処まで伸びるかが勝負でした。

発売の2年後の1992年にはレーザーディスクへ変換発売され、25周年の2015年にはDVDとなって再登場しています。

劇場公開もなくテレビ放送も無い作品で、今でも観て頂けるのは有難い限りです。

とりあえずは、東映としては悪過ぎる評価は与えていないようです。


●BAR~メインタイトルまで

最初のBARは、実際のBARを貸し切っての撮影でした。

白いスーツの人達は、後でアクションシーンになる為に当時のJAC(現JAE)の現役アクション俳優さんの面々が演じています。

菊地さんや横山さんの顔も見られます。

この冒頭シーンで特筆すべきは、カメラです。

当時、まだまだ使用例の無かったジャイロハンディカメラを使用していました。

現在の様な軽々しいいモノとは違いとても重く、肩と腰でカメラとジャイロフレームの重さを支える形でした。勿論、手振れを極限まで抑えられるという特徴は現在と変わりないというか少し劣っているかなという程度でした。

BAR全体を写し、キラー・カーンさんのミドルショットまでをワンカットで、高低差のあるロケセットの中を撮影しています。

キラー・カーンさんのフレームインのきっかけは、私の合図ですw


カルテルの乗るチープな古い型のハイエースは、マットブラックの車体色が、いかにも塗りました感があったのを覚えています。

車の止まり位置は、何度もリハーサルをしていましたが、ドライバーがカメラ側に近付く事に苦労していました。

また、車が止まって即降車にはキャスト3人共に苦労していました。

スライドが直ぐに開かない、開いても全員下りない内にしまってしまう等などがNGの原因でした。


BAR内部へ戻って射撃シーン。

チームファントムの初登場です。

混成部隊との設定ですから男女や人種も混じっています。

紅一点の真理アンヌさんの存在は、当時でも年配であった男性スタッフも興奮気味でした。

射撃自体は撮影用の銃を使用した空砲ですが、人が撃たれたカットとカウンター内の酒瓶の割れるカットは操演さんによる弾着で、ロケセットではなくて撮影所内にBARの一部をセットに組んで撮影されました。

石橋さんのセリフ回しは、特撮好きな私にとってはトリハダモノでしたw


そして、タイトル。

タイトルのパトランプ(回転赤色灯)は、タイトルバックの為に別に撮影しました。


●ニュース〜過去の事件

ニュースのタイトルも活字をパネルにしたものを別撮影して合成加工して貰いました。

ニュースキャスターが映る前の人工衛星から地球のアンテナへランプが走るカットは、この後に爆破される研究所の外観に使用させて頂いた施設内に展示されていたパネルを撮影させて頂いて挿入しています。

ニュースキャスターの内、女性キャスターは吉川プロデューサーの実の娘さんで、当時は女優さんとしてお仕事をされていました。

キャスターの居る場所は、東映東京撮影所の本館を利用しています。


ビル街でのインタビュー。

このカットはビル風が強すぎてセリフをアフレコせざる得ない程の状況でした。

髪型を担当するメイクさんと録音部さん泣かせのカットでした。


挿入される「チームファントム」のメンバーの顔写真と銃を並べた画像は、簡易カメラ「写ルンです」で撮って現像した写真を使って作成したパネルをビデオ撮影した、チープな手作り感満載な小道具でした。

この写真のネガは、何故だか我が家にあったりしますw


「御子柴かおる=中村あずさ」さんの初カット。

実際、このテニスウェアがビデオ撮影での初ショットでした。

本当の中村あずささんの初カットは、バイク前でバトルスーツを身に着けてヘルメットを脇に抱える番宣用スチルで、撮影所内で撮られたモノが最初だったと思います。

バイクは、たまたまそこにあったモノでしたから劇中使用バイクとは違うモノだった筈です。

テニスをしている首から下のカットや足元カットも御本人カットです。


クルーザーでの撮影も大変でした。

セリフがあるのに風が凄いので録音部さんは大変でしたし、更には中村さんが海へ入るカットまでありましたが、クルーザー上と撮影用に借りた漁船の上は狭くて、何かとてんやわんやでした。


カルテル日本支部。

ヘンリー大場=佐野史郎さんの登場です。

佐野さんの上手で回っている地球儀は、今では珍しくないマグネット浮遊の地球儀でしたが、当時は珍しくてメーカーさんからの売込み用のタイアップ品、つまりは借り物でした。

「こういったタイアップの品物は、ちゃんと触れてあげたいよね」

と、心優しい佐野さんの心遣いで、この後の佐野さんの登場カットでは、この地球儀とよく絡んでくれています。


アマデウス登場!

アマデウス=松田優さんの全裸バックショット!

勿論、前は「前バリ」で隠しての撮影です。

この振り向き方と筋肉のひかり具合で、何テイクか撮り直した記憶があります。

アマデウスがいる場所は、通称「大谷石」の中です。

因みに、胸のマークは型を創って同じ場所に同じ大きさで手早く書けるようにメイクさんが準備していました。

こんなマークひとつでもデザイナーに頼んでいたり、監督や助監督が決めていました。

この作品ではデザイナーが入っていました。

ガラスの花瓶の爆破は、勿論撮影所内のセットでの別撮りカットです。


車の走りは、「引っ張り撮影」です。

「引っ張り」撮影は、カメラのピントも合わせ易いですし、照明も当て易い、更には役者は演技に専念できます。

その代わり、自動車を牽引するので長くて広い直線道路が必要となってしまいます。

オープンカーなのは、撮影し易いからという理由だけです。


国立科学研究所。

遠景と、この後のチームファントムが乗り付ける玄関部分は借り物ですが、近景は爆発させる関係上、特撮研究所での作り物になっていまさす。

内部の殆どは、撮影所内の施設やセットです。

火を使う、爆破させるなんて事を建物内部で行う事を許して貰える場所は、当たり前ですが外部のロケセットでは多くはなくて、撮影所内のセットで代替えする事が普通となっていました。

チームファントムが歩く最初の廊下と階段は、撮影所の本館ですね。


門扉の処で銃弾に倒れる警備員は、難波歩きになっている様にも見えますが、若かりし頃の福沢アクション監督です。

その後に倒される警備員達も当時のJAC(現JAE)の若手の面々です。

但し、アクションカットとしての出番が終了すると、倒れているだけのカットでは別の人間が代役をしていたりします。

この後の中村さんが研究室へ入ってくる際と、襲われているカットに被せる様に写る警備員の遺体の1体は私だったりしますw


因みに中村さんがレイプされているカットというのも存在しますが、R指定の関係から編集カットされてしまいました。

因みに何処まで露出したらとか、腰は何回振ったらとかでR指定は変わってくるのだそうです。


スキを見て逃げる仲村さん達。

背中に刺さるナイフは、勿論最初から仕込んであるのですが、カメラアングル的に大成功でした。

廊下に出て、アマデウスのサイキック攻撃。

カメラ前に歪めた透明アクリル板を入れて動かすという古典的かつ効果的な方法で、サイキック画像を作りました。


扉のガラス割れ爆破と、その奥で揺らめく炎は操演さんのお仕事。

横向き画像の方はまだマシでした。

正面の画角は、カメラに向かってガラスを飛ばす。しかも仕掛けが見えない様に…

まだ、ガラスを割ってしまう対象がカメラに映るのならば少しは楽ですし、当時バカ高い費用だったCGで映り込みを消せるのであれば、めちゃくちゃ楽でした。

サイキック攻撃ならばカメラには映りませんから…

仕掛けの方法は、操演さんに悪いので細かく書きませんが、想像してみるのも一興かと思います。


アマデウスが実働参加。

足元のタイル飛ばしは、迫力があり流石に特撮研究所の仕事と思いきや、最初のアマデウスの足元の床飛ばしは操演さんの仕事で、その後の連続床飛ばしは特撮研究所(通称:矢島特撮)さんのお仕事です。

そして、前途した様に国立科学研究所の近景の爆破も特撮研究所のお仕事です。

研究所の外観資料と予算の乏しさから、ご苦労をかけた様でした。


●6months later

最初のBARの6ヶ月後設定。

英字新聞は今見てもチープで、原稿出しした私の顔から火が出そうですw

そして、大変だったのがジャイロハンディカメラを駆使した5分近い長回しワンカット!

監督が最後の女の子の捨て台詞が気に入らないと言って、NGにしてテイクを重ねていたが、彼女もどう抑揚を付ければ良いのかも理解出来ずに、変な芝居になってしまっていました。

私は、彼女の芝居やセリフ回しに対してのNGではなくて、カメラの微妙な偶発的なアングルがNGの原因だったのでは?と撮影後に思っていました。

スケープゴートにさせられた彼女には気の毒だが、長回しを最初からもう一度と言わなければならない小心者の監督を恨んで下さい。

スミマセン。羽田圭子さん。

でも、私でも思ったのだから周りは気が付いていたのだと思います。


若者の溜まり場=スラム街。

バックの高層ビル群は合成です。

スラム街は、今は無き東映東京撮影所の北側の駐車スペース(昔はウインスペクターの第1話で使用されたオープンセットがあった場所で、現在ではマンションの敷地内)に簡易オープンセットを建て込んで夜間撮影を敢行しました。

エキストラも多数出演。

ここでもジャイロハンディカメラを使用。


チームファントムの登場。

そして、石橋さんの「Mr.ポリースメン」があっての井上さんの狂喜に満ちた顔に対して「井上、素だろ?」と金田アクション監督に言われていたのが印象に残っています。


友人のピンチに現れる「女バトルコップ」登場!

実は作品中で「名指し」する部分が無く呼称も定まっていません。

それにしてもスーツアクトレスの関さんの立ち姿に余裕ある歩きは、ゾクゾクします。

口元の紅い口紅の色っぽさが、マスクが閉まって戦闘モードに移行します。

このマスクの口元が閉まるカットは、関さんの膝下の足元で寝転がりながらマスクの口元を閉めるワイヤーを手動で牽いて操作していました。

操演カットじゃないけれど、何故か操演の國米さんがワイヤーを引っ張っていた様に記憶しています。私じゃ無かったハズw

本来ならば、スーツを管理する小道具さん(現在ではスーツ管理の専門職がいらっしゃいます)か助監督あたりが操作していましたから、國米さんが「このカットで、このカメラアングルで、カメラに映らない様にマスクのワイヤーを操作する方法」を考えて実行できる数少ない方だったからに他ならなかったと記憶しているのです。

國米修市氏は、当時は操演さんでしたが小道具さん出身でもあり、手先も器用で画面創りにも意欲的でアイデアも豊富で実績もありましたから、金田アクション監督から御指名を受けて(本意か不本意かは知りませんがw)タッグを組まれる場合が多くありました。


カット変わって倉庫街。

撮影所内のステージとステージの間の道に、木箱やらドラム缶やら鉄筋に似せた大道具等を並べて戦闘空間を作り出しました。

井上さんをアッサリ倒してサムズアップ。

御子柴かおるとの動作的類似点としてのサムズアップ。

そして、アマデウスvsバトルコップの初戦。

足元の缶が潰れるカットの仕掛けも操演の國米さんのアイデア。

横に潰れる缶と縦に縮んで潰れる缶。

CGではないので、仕掛けを考えてみるのも面白いかもしれません。

缶自体は、潰れ易いアルミ缶です。

配電ボックスが開きショート。車のドアが外れる。

どちらも操演カットです。

尚、缶と配電ボックスの撮影は、後日に纏めて撮影する「小物撮り」の際に撮影しています。

アマデウス登場後の松田さんの額から頬にかけての筋肉描写は、勿論特殊メイクでチューブで空気を入れたり出したりして表現しています。

後に血が出るのもチューブに血糊を入れて撮影しています。

空調配管のヘコみと壁の爆破は、大掛かりなこともあり特撮研究所さんの特撮カットとなりました。迫力があります。

倒れている鉄骨は木製の偽物です。

ピアノ線による鉄骨の飛び。

木製で硬いとはいえ、偽物の鉄骨を本物のフロントガラスに突き立てるのは容易ではありませんから、カメラアングルの外でフロントガラスの隅を鉄骨の突っ込みと同時に割って表現しています。

2本目と3本目の鉄骨は、鉄骨の最後の止め位置も重要でしたので、逆転撮影だった様な気もします。

バトルコップの腕のミサイルが発射。

アマデウスに弾かれて、タワーに当たり崩壊。

色々な合成がエフェクトとして加えられています。

燃える倒壊物に埋まるアマデウス。

松田さんに火の着いた倒壊物を落とす訳にいきませんから、カメラと松田さんの間に双方の安全マージンをとって火の着いた倒壊物を落としています。

撮影の真横から見ると、松田さんの数メートル離れた場所にスタッフが火をつけて倒したり投げたりする倒壊物。何にも当たっていないのに倒壊物のタイミングで倒れる松田さん。

それをカメラの被写体深度を駆使して撮影するのです。

倒れた松田さんがゆっくり立ち上がると、アマデウスが生きていた!となる訳です。


●射撃訓練場

この射撃訓練場は、今はOZスタジオ・シティが建っている場所にあった2階建ての駐車場を利用して夜間に撮影されました。

射撃に合わせて標的から炭酸ガスのエアーを出してエフェクトを作りました。コレも操演カット。

アマデウスのICPOの資料は、写真が白黒コピーした際に潰れてしまって「アマデウスです!」と一瞬で分かる様なモノにならずに苦労しました。


さて、この作品で一部に物議を醸していた中村あずささんのシャワールームカットですw

勿論、代役ですw

ヌードモデルでショートカットの方をオファーしたそうです。

ちゃんとキャストに名前も載っています。

シャワールーム外からのスモークガラスのカットは、女性の身体のラインだろうなぁと思わせながらも顔は良く分からないという状況を作り出す為に、本来近付く筈のないスモークガラスに近付いて貰って撮影しています。

まぁ、シャワールーム内部のカットを間近で撮影参加出来たのはカメラマンとカメラ助手と監督ぐらいでした。

人体から覗くメカも、ヌードモデルさんの心臓下ぐらいの位置に特殊メイクで装着して貰いました。

因みに、乳房迄と乳輪の露出ではR指定が変わってくるのだそうですw


バトルコップのスーツ装置。

最後のマスク=ヘルメットの装着は失敗ですねw

中村さんの髪が見えちゃっています。

岡本監督はウインスペクターは経験していませんから、伝え聞くマスク装着ってこんな感じ?っていう感じのカットだったのかもしれませんねぇ…

カメラマンも、このヘルメットの装着プロセスの撮影は初めてでしたし、記録さんも同様でした。

経験者は私だけだったのかもしれませんが、でも金田アクション監督もいらっしゃった筈ですし、岡本監督に「OK」だと言われれば、首を傾げる仕草で抵抗しても「NG」だとは言えない弱い立場の私でしたw

一番に悔やまれるカットです。


大栄興業=寄居採石場のチームファントム。

ビームバズーカは、「AKIRA」の影響かな?

爆発が派手ではないのは、合成予定だからかと思われます。


フォーマルな姿のチームファントム。

石橋さんは格好良く、真理アンヌさんはお綺麗なマダムです。

真理アンヌさんの魅力は、こういった衣装の方が際立ちます。

それにしても毒ガス発生装置の缶コーヒーにザルのフォルムはチープ。

ビルの中のロケセットの殆どは、東映東京撮影所の本館でした。


やっと半分w


高崎金属。

子供達が持つ銃は、当時流行っていた光線銃のオモチャで、こめかみの装置と連動していて撃たれれば振動するオモチャ。

たまたま若いスタッフの間で流行っていたのを「一目でオモチャと分かる銃のオモチャ」という小道具のオーダーに利用したのだ。


ところで、バトルコップが毒ガスの缶を摘み上げるカットで思い出しました。

メタルヒーロー等にデザインされているプラスチック製の指先は、物を摘み上げる事に適していません。

指先に摩擦力が無いためにツルツルと滑り、摘むという行為が出来ないのです。

ですから、指先に小さく切った両面テープ等を貼って摩擦力を作りました。

因みに掴む事は可能です。


チームファントムvsバトルコップの2回戦目。

爆発からの内部へ。

足かせが飛んできて足にハマるカットは、判りやすい逆回転撮影によるカットです。

太モモの装甲に穴が開くのは、それ専用の仕掛けが可能なプロテクターが別に作成されていました。

そして、左耳のイヤリングを引っ張り出して鋼鉄の太いチェーンも纏めて焼き切れる熱線になる部分は、部分的に発泡スチロールで造ったチェーンをニクロム線で焼き切る映像を挿入しようとしていましたが、あまりにもバレバレなので、光学合成で処理しています。


辛くも逃げたバトルコップ。

下水道の様な場所は、東映東京撮影所の北側に架かる東映橋側の白子川です。

ある意味、定番な撮影場所です。


追跡されているバトルコップ。

ハイエースの中に映るモニター映像は、全て光学合成です。

しかもモニターは、青色LEDが開発されていませんから全てブラウン管式です。

「AKIRA」の世界観と同じ名前を持つ「ネオTOKYO」ならば、カラーの液晶モニターがあっても良いのでしょうが、制作された1990年の当時の液晶モニターは白黒だけでしたw


バトルコップの秘密基地は、国立科学研究所の地下の設定です。

撮影場所は撮影所内のステージセットです。

バトルコップが修理に使った椅子は、歯科用の専用椅子の流用品ですから、使ったホース状の部分も本来は歯科技工用で、炭酸ガスなんて出ません。

無理やり出る様にチューブホースに変えたり、先も散水用のモノに手を加えて変更していました。

そして、炭酸ガスを吹き付けると、あら不思議。簡単に治りました。


チームファントムの追撃戦。

バトルコップの秘密基地内部の狭い空間での戦闘シーン。

狭いからこその一瞬の逆転劇。

光学合成と銃撃とナイフという基本のオンパレードです。

秘密基地から表に出ると、何故か出発した場所である高崎金属に帰ってしまっています。

そして、エキストラによる車の部品泥棒達。

更には、タイヤの穴越しの石橋さんへの精密射撃。

このタイヤの穴の位置を多少は動かしたいのですが、持っているのは細かな演技をされた事の無いエキストラさんですから、演技も不自然で動きも大きく、それにつられて穴の位置も大きく動き過ぎてしまいます。

この穴の位置を調整するのが大変でした。


●カルテル日本支部

ヘンリー大場=佐野史郎さんが、地球儀を殴って飛ばします。

地球儀がマグネットで浮いている事を利用して、ヘンリー大場の怒りを表現するという演技プランは、佐野史郎自身がこの地球儀を見て急遽作られたモノで、岡本監督も納得されていました。


アマデウス強化。

大谷石採石場内部のロケセットに建て込まれたピラミッド型のアマデウスの瞑想装置。

敵としてのバトルコップの映像が合成バリバリで、ファイヤーマンかアイアンキングかウルトラマンAのヤプールかと思える多重合成でした。


横須賀基地。

本当の横須賀基地のフェンス前での撮影。

トラックへの武器の積み込みは別場所のロケ先。

トラックを追う山下さん。

でも、「追跡していますよ」と云わんばかりのトラックの直ぐ後ろを付いて行きます。

相手もカルテルですから、直ぐに1台ぐらいは手を回して来ます。

山下さんの車は蜂の巣になって、車からの転がり落ちとその車の爆発は大栄興業=寄居採石場。

それでも追われる山下さんが逃げ込むのは高崎金属。

車から降りたカルテルの構成員に追われる山下さん。

構成員4人の顔ぶれにはJAC(現JAE)の横山さんや菊池さんの姿もあります。

追い詰められる山下さんの前に、バイクに乗って登場するバトルコップ。

1回目の銃撃で吹っ飛ばされたのは、当時ウインスペクターでアップ用ファイヤーのスーツアクターを務めていた横山さんでした。


4人共を撃ち倒したバトルコップの前に現れるアマデウス。

アマデウスの最初のサイキック攻撃の際に、ピアノ線がキラッと光ってしまっているのは私のポスカ塗り不足が招いたミス以外何モノでもありません。

バトルコップのヒール部分が火花を出しているのは、弾着と同じ仕掛けをヒール部分に仕込んであって、引き摺られて火花を出してみせるという操演さんの演出によるものでした。


壁に押さえつけられたバトルコップに、鉄骨が飛んで行き、グニャりと曲がりながらバトルコップを巻き込んで行く。

この鉄骨は、前半に出てきた木製鉄骨でピアノ線による飛びを行い、バトルコップの身体で曲がる鉄骨はウレタン製でした。


アマデウスのサイキック攻撃によって地面を引っ張って来られる山下さんは、ワイヤーワークによる滑りです。

服の中にダンボール等のクッション材になるモノを詰めて怪我をしない様にしてあります。

フォークリフトは、本来は高崎金属には置いてありませんから、東映からアクションに使用する大道具として運び込んだのでしょう。

カメラアングルを駆使して無人のフォークリフトに見せています。


二度目のイヤリング使用。

鋼鉄を瞬時に焼き切れるイヤリングも、アマデウスのと言うより松田さんの太い腕は焼き切れなかった様で、火傷程度でしたw


鉄の杭。

実際は木製の偽物なのですが、コレを飛ばす方法を格好良く見せたいと、操演の國米さんは頭を捻りました。

結果、ピアノ線の親綱を張ったところにロープウェイ方式で杭を吊り下げて、別のピアノ線で引っ張って画面方向へ引き寄せる事で、飛んで来るように見せるという方法で撮影しました。

従来に無い飛ばし方になるのは間違いないのですが、ピアノ線が長くて多くて、でも画面上は短く見えるという状況で、労力だけはかかる作業であるポスカを塗って画面から手動で消す作業が大変でしたw


刺さる杭。

血糊をベッタリつけた杭で、ウレタンの擬似アマデウス胴体を貫いています。

この血糊。ストロベリーの濃いニオイなんですよね。今でも臭いは記憶から消えないですw

刺さった杭は、頭に矢を刺さっている様に見せるのと同様に、カチューシャ状態の半円の両端に杭の頭と鋭い先を取り付けて表現しています。古典的ですが、効果的です。


腕からミサイルの予備動作。

本来は腕からミサイルを撃つ際には、衝撃から身体を固定する為にヒール部分をアンカーとして打ち出してストッパーとするという設定からの一連の予備動作です。

このヒール出しは私の仕事でした。

一度地面に打たれたヒールアンカーに、直ぐに少し縮む動きを入れて固定された感を出す。

更に、操演さんがエアーを入れて土埃が舞う。

という数秒の中に細かなコダワリがあります。

腕のミサイルのギミックは、ギミックされたプロップを照明さんの使っている照明の脚等を利用して固定して撮影するのですが、ギミックの操作が固くて、撮影された画像として少し揺れてしまっているのが残念です。

この腕のギミックもミサイルが上にあがる部分の方を私が担当していたと思います。

アマデウスの爆発。

普通ならば死んでいますw


大谷石採石場。

2トントラックであっても大谷石採石場は搬入可能です。

大谷石採石場の内部に車両などが入るシーンが撮影されている作品は、あまり無かったと思います。

西沢さんの良いお声が、大谷石採石場特有の共鳴で、更に良く聞こえます。


カルテル日本支部。

佐野史郎さんは、先程殴って飛ばした地球儀を撫でる様にしています。

佐野さん曰く「さっき酷いことしちゃったから(地球儀の)メーカーさんに悪いから、地球儀を撫でてゴメンネという感じなんです」だそうです。

でも地球儀をもてあそぶヘンリー大場の「日本支部長では収まらないぞ、地球=世界を目指すのだ」といった不気味さが幸か不幸か自然と出ちゃっていますw


バイクの走りとカルテル施設。

バイクの走りは色々な場所で走らせました。

流石にバイクの運転は関さんではなくて、タケシレーシングのテルさんだったと思います。

細くて女性用のスーツもサイズ変更無しに着用して貰えるテルさんは、バイクやカースタントも一流でした。

途中で寄居採石場を走るバイクにマットペイントのカルテルの施設が写し出されます。


そして、カルテル施設への潜入というか突入!

ロケセットとしては、前年に開館したばかりの「幕張メッセ」です。

銃撃と言っても爆発も無く、建物への弾着もありませんからアクションシーンのロケセットとしても借用が出来たのだと思います。

JAC(現JAE)の若手が、先輩である関誉枝恵さんと直接絡むアクションシーンです。

JAC(現JAE)を含めて顔出しのアクションシーンの撮影の際は、殺されたら同じシーンでは登場しません。

スーツアクター等や仮面等を着けてのアクションシーンならば、その限りではありません。

カルテル施設突入アクションシーンで、最初に殺されるのは、後にミスター仮面ライダーと呼ばれる高岩さんだったと思います。

若手が絡むアクションシーンでは、高岩さんや福沢アクション監督等の様に、注目の若手が正面顔出しに抜擢されるのです。


エレベーターで地下へ。

狭いエレベーター内部で弾着も使えず、一瞬で倒すアクションカットのカメラポジションと編集が面白いです。

大谷石採石場の内部に、ベニヤ板の建込みでエレベーターの出口を作り出しました。

勿論、エレベーターの扉は手動でしたw

激しいガンアクション。

難しい事はしていなかったと思いますが、発砲のジャムや不発でのリテイクは何回か有りました。

これだけの弾数ですから、出て来ても仕方ないといった感はありました。

大事なカットの時に不発じゃ無ければ……

西沢さんの最後。

血糊弾着は、御自身にタイミングを測って押して貰うスイッチというモノもありましたが、この場合は西沢さんの背後のバトルコップが撃った弾が突き抜けるという、後ろを向けないのにタイミング勝負といった処がありましたので、西沢さんの左足のズボンの中に線を通して、操演さんの方でスイッチを押していたと記憶しています。

芝居にも専念して頂けますからね。


あっさり死んだと思っていた支部長の側近の石川武さんが、ビームバズーカを持って最終決戦へ本格参戦。

最初のビームバズーカの着弾の爆発は、色々な要素が効果的に揃って効果的な画像となりました。

石川さんの最後。

撃たれた後に高所からの落下。勿論、下にはエアークッションが敷かれて万全の準備がされていました。

石川さんの立っている場所は手摺もなくて、怖い場所でした。俯瞰カットで同じ場所にカメラが上がりますが、カメラマンも本気で怖がっていました。

こういったアクションシーンの際には、役が付いていなくともJAC(現JAE)の若手の人達が「補助」として付き添っていて、スーツアクター・アクトレスさん達のスーツの着脱の補助やアクションシーンで人手のいる場合の補助等を行っていました。

このエアークッションの際も、落下のショックでクッションの位置がズレない様に、クッション自体に張り付いていました。しかもカメラに映らない様にした無理な姿勢でである。

因みに、一緒に投げられたビームバズーカも、毛布一枚を持って待機している小道具さんによってキャッチされて回収されています。

この投げた小道具のキャッチは、基本的には管理責任者である小道具さんの仕事ですが、助監督が助けに入る場合もありました。


バトルコップのマスク外し。

中村あずささん登場。

このマスク外しは上手くいっていますが、編集の妙ですね。

流石に香川竜馬の様な「汗飛ばし」はありませんでしたw


アマデウス復活。

というか、驚異の生命力w

アマデウスが言葉にならない声しか発しないのは、設定上で超能力兵器としてしか育てられていず言葉を教えられていないという事でした。

「素手で倒した方が早いくらいの筋肉」「肉弾戦もイケる筈」といった声が付いてくるアマデウスですが、演じている松田優さんも最終兵器という役処と聞いていたので素手のアクションや絡みは?と思っていたそうです。

アマデウスのサイキック攻撃。

最初のきっかけは炭酸ガスの噴射です。

二人同時のピアノ線吊りは、大谷石採石場内部にクレーン車を入れての撮影でした。

流石に、二人共吹き替えです。

壁に当たる時には、山下さんは本人ですが中村さんはまだ吹き替えです。


再びマスク装着。

腕を頭の上まで挙げないとファイヤーのマスクの装着の様にはならないし、画角や撮り方にも工夫が必要でしたから、このカットの様に顔の前でマスクを止めて装着後の起き上がりの姿に重ねる方法は、簡易的で効果的で当時としては何とか納得がいくものとなりました。


アマデウスのサイキック攻撃による吊り。

殴った方が効果的だよ。と言いたくなるシーンですが、関さんを吊って松田さんはそれを追いかける感じになりました。

首を掴まれるカットの前に、アマデウスに向かって降りていく画像は、カメラマンを吊って撮影されました。

首を掴んだままで弾着。

できるだけ松田さんが怪我をしない場所に仕掛けをしています。

はーい、スパイクハイヒールは私の操作です。

操演さんは炭酸エアーです。

脚の振りやタイミングは、アクション監督と操演さんのこだわりで話し合われて決められていましたから、いくら操作しているとは言え私の意見はありませんでした。

アマデウスの身体に突き立てるハイヒールですが、マネキンに衣装を着せたモノに対して行っています。

抜く杭。流れる大量の血糊。

最終的には脚に這わせたホースを使ってドボドボ血糊を流していました。ですから、歩きながらの血糊出しも数歩ならば大丈夫でした。

顔の特殊メイクの時の血糊の放出の際には、松田さんも目が痛かったとおっしゃっていました。血糊自体は洗えば大丈夫なモノです。

ビームバズーカによるアマデウスの最後。

流石にアニメーションです。そして、流石にアマデウスもお亡くなりになりました。


日本支部。

ヘンリー大場vsバトルコップ。

武器が運び込まれ、山下さんが捕まっていたカルテル施設からヘンリー大場の居る日本支部までバイクでひとっ飛び。

しかし、そこには既に「死刑」処理されたヘンリー大場達。

佐野さんのこだわりは、銃を持つ手がテーブルを滑り落ちる。それを追って行くと佐野さんの額には弾痕。カメラは佐野さんの手に下がって行き、手から銃が落ちるとそこには秘書の死体があるという一連の流れをワンカットで撮るという演技プランでした。

岡本監督は、それをそのまま受け入れました。

この撮影の後に、特撮好きな佐野史郎さんは早速バトルコップとのツーショットを私に所望され「プリント出来たら、事務所に送ってね」とウキウキしていました。

当時はまだデジカメは無く、スマホはおろか携帯すらも世間に広まっていない時代でしたから、ツーショットの撮影もフィルム式のカメラでした。

ツーショットだけじゃなくて、単独のバトルコップの姿も撮影して欲しいと言った時には、本当に好きなんだなぁと特撮ファンとしての私は共感したものでした。


エンディング。

歩くのは「幕張メッセ」の長い廊下。

ロングカットのワンカットを、カメラは五徳脚以外にしてカメラマンはフロアに寝そべり、歩きにくく滑るフロアタイルの上を滑るアップスーツの靴で「真っ直ぐ歩いて」という視界の悪いマスクで注文を受け、更に周りに映り込むからと補助もスタッフも最小限。

長い長い時間をかけて長い長い距離を歩いて、それをリテイクして……

関さん。お疲れ様でした。


●あとがき

今回は、二分割しようかと思う程に長編となりました。

私にとっては、「メイキング」を私自身が語るなどとは、何ておこがましいと思うくらいの行為なのですが、最初に書きました様に「誰も語らないから、いつまでも伝わらない事があるのは、特撮ファンとして悲しい事」ということから、金銭的に左右されずに語る事のできる立場だからこそ語っても良いのではと考えて語らせて頂きました。


でも、本当に言ってはいけないことは言っていません。

そんな事があるのかどうかは別として……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読みながらもう一度観直してみたくなりました。 田舎の友人がビデオを持ってた筈……。
[良い点] 女バトルコップのメイキング的裏話をありがとうございます。細かい所まで書かれていて、興味を持って拝見させていただきました。 [気になる点] 映像のメイキングも存在しているのですが、まだまだ素…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ