最後のタバコ
「あ、あれは!?」
アーデルハイト邸へ向かっているルシウスが、上空に打ち上がった何かを確認した。
垂直に打ち上げられたアーデルハイトである。
アーデルハイトはそのまま頭から自分の屋敷に突き刺さった。
「……物凄く嫌な予感がします。」
「……奇遇ね。アタシもよ。」
この時2人はそのあまりの変貌ぶりに、それがアーデルハイトとは認識できていなかった。
「あー痛てぇ。」
「無茶しおって。それにしても、随分と上手いハッタリだったな。それともただの痩せ我慢か?」
アーデルハイトを打ち上げた時、俺の全身の骨はまだ殆ど治っていなかった。
打ち上げたのが全力だったというのもあり、更に悪化。
気付いた時には腕の関節では無い場所が、あらぬ方向に曲がっていた。
「まぁでも、かなりスッキリしたな。まだまだ足りねぇけど。」
その台詞を聞いて安堵したのか、ノブナガが口を開いた。
「一成。あまり無茶はしてくれるなよ?」
「どうした改まって。」
「我はこれ以上手助けは出来んからな。言いたいことは言っておく。」
「どういう事だ?」
いつでも出てこれるんじゃないのか?
まだまだ聞きたいことが沢山あるし、言いたいことも沢山ある。
「今回の入れ替わりはレインの強い意志があったから成立したのだ。レインにとってあまり良い事ではない。」
「レインがゴーサイン出せば良いだけじゃないか?」
ノブナガはジェスチャーを交えながら説明してくれた。
「本来人は1つの肉体に対して1つの精神が入っているのが正常だ。だがレインの場合、周りの魔力を手当たり次第に吸収する。その結果レインは、常に魔力という名の別人の精神を内包していることになるのだ。」
「だがレインは常にレインだろ?」
「その通り。これは肉体の主導権がレインにあるから成り立っておる。主導権以外の精神は数多の精神の塊となり、やがて1つとなってレインの魔力へと変換される。」
「んじゃあ今の様にノブナガが表に出ちまうとどうなるんだ?」
「本来変換されるはずだった我の精神がそのまま主導権を握り、レインの精神が魔力に変換されるのだ。つまり、レインという人格がそのまま消え去ってしまうという訳だ。」
「早く主導権をレインに戻せ。」
「ハッハッハ!!流石、レインのことになると全く見境がないな!!安心しろ。直ぐに戻る。だがその前に、例のヤツを1本くれないか?」
そう言ってノブナガは俺に指を2本突き出した。
その体ではあんまり吸って欲しくないんだけどな。
俺が出し渋っていると、ノブナガは寂しそうに言った。
「先も言った通り、レインに人格を移せば我という人格はレインの魔力として吸収され、消え去る。その前の後生の頼みだ。また主と、同じ所作がしたい。」
「……分かったよ。ほれ。」
1人の人間にそこまで言われて断れるほど、俺は落ちちゃいない。
俺はポッケからゆっくりとタバコの箱を取り出し、2本取ると、1本をノブナガに渡し、もう1本を口に咥え、2本のタバコにライターで火をつけた。
ノブナガはむせることはなく、ゆっくりタバコの煙を肺まで入れ、それを口から吐く。
見た目はレインなので正直かなり違和感があるが、胡座をかき地面に座る姿は間違いなくノブナガである。
俺達はアーデルハイトの屋敷の地下、天井まで突き破られた穴から射す光を濁らせながら、本当の最後のタバコを吸い始めた。
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