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プレゼント

「だ、大丈夫なの!?」


「黙ってろマーリン。俺は至って正気だし笑ってなどいない。」


「っ!!……そ、そう。分かったわ。」


「早く行け。」


 俺の命令に従い、マーリンは大人しく中の女達を連れて俺が来た道を駆け抜けて行った。

 その時マーリンが俺を見る目は明らかに怯えていた。

 生きてきた中で最も邪悪な者を見るかのように。


 こんな状況で俺が笑っているだと?

 怒りはタバコで抑えた。

 女達はほぼ救出している。

 上の連中もブルとランスに任せていれば大丈夫だろう。

 あとはレインを助け出してアーデルハイトから全てを奪うだけ。



「君は今、精神の限界を迎えようとしている。」


 奥の扉に手をかけた時、真後ろから何者かに声をかけられた。

 振り返るとそこには、いつか死にかけた時、夢の中で現れた人間がたっていた。


「とうとう幻覚が見えるほどには限界かもな?」


「今まで向こうの世界で平穏無事に生きてきた君にとって、この惨劇はあまりに負荷が大きすぎた。」


 ただ淡々と説明してくる人間に、俺は少々苛立つ。


「もう良いか?早くしないとレインが。」


「君自身も分かっているはずだ。この建物に入る前、果てはグール達と戦わされていた時からずっと、抑圧された怒りと憎しみの感情が、君の今の歪な表情を作り上げていることに。」


「さっきマーリンが言ってた笑ってるってやつか?」


「そう。君は今、この状況では起こり得ない表情をしている。人間としての精神が壊れかかった時に、正気を保つ為の防衛本能といった所か。」


「すまんが鏡がない。確認のしようがないな。」


 そう言うと、まるで言われることが分かっていたかのように人間は手鏡を取り出し、俺に向ける。

 そこに写った俺の顔は邪悪に満ちた笑顔を浮かべ、俺自身ですら恐怖を覚えるような表情だった。

 必死に戻そうにも表情は全く変わらない。


「な、何だこれは?」


「それが今の君だ。このまま行くと君の精神は壊れ、この世のあらゆる物を手にかける悪魔へと姿を変えるだろう。だから僕は、君にプレゼントを用意した。」


「プレゼント?」


「扉の向こうにそれはある。今の君を助けることができるのは人であり、友であり、その怒りや憎しみを共有できる仲間だ。足止めして悪かったね。君の幸運を祈っているよ。」


 そう言い残したあと、その人間は煙のように消えていった。


「なんなんだアイツは。」


 つくづく分からん。

 俺を助けるならそもそもこんな目に合わせないでくれ。

 レインをこれ以上傷つけないでくれ。

 ここに居た女達のような人間を生まないでくれ。

 そう思う程に俺の心は疲弊していた。

 少しずつ心が壊されていることに気付いていなかった訳では無い。

 ただ、この世界に頼れる人間がいる訳でもない。

 俺の思いを、俺自身の辛い気持ちを伝えられる人間が、この世界に来てたった数週間の間に見つかるはずなんてない。


 手をかけたドアノブに力が入る。

 この先でレインがこれ以上辛い目にあっていたら、俺は問答無用でアーデルハイトを殺すだろう。

 ほぼ確信に似た何かがある。

 今の俺を保っているのは冒険者2人との、誰も殺さないという約束。

 か細く弱いその糸の上を綱渡りしている状態。

 回すドアノブが酷く重く感じる。



 覚悟を決め、ノブを回して扉を勢いよく開き、中に飛び込んだ俺の目の前に立っていたのは、アーデルハイトでは無く、腕を組み、堂々立つレインの方だった。


「レイン!!大丈夫か!?」


「はっはっは!!その声は一成か?久しいな!!」


「お前、レインじゃ……ない?」


「久しくもないか。時間で言えば昨日戦って以来だからな。」


「まさかお前!!」


「お前とはなんだお前とは。元ではあるが、我は一国の王であった男だぞ?」

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