巫女として
「どっちにしても旅の道中でエルフ族の所には行かなきゃいけないし、その時にでも会ってみたら?」
ソールはそう言ったあと立ち上がり、本を持って部屋を出ていこうとする。
「流石に夜遅いし送っていくぞ?」
「大丈夫よ。ここは大きい通りに面してるし、アタシを襲うような身の程知らずはこの国には居ないでしょ。」
「いや、お前に何かあってドヤされるのは俺なんでな。」
俺も立ち上がり、ソールを城に送るために上着を羽織る。ソールはやれやれといった表情でそれ以上俺を止めることはしなかった。
「一成さんが行くなら……」
レインも着いてこようとしたが、今日は色々あったしさすがに疲れていると思い、レインを置いて部屋を後にした。
「あんたレインの事どう思ってるの?」
帰り道、ソールが唐突に質問してくる。
「命の恩人で、その恩に報いたいと思ってるが?」
俺がそう言うとソールはさっきまでとは打って変わって怒ったようにこちらに振り向き、
「そういう事じゃなくて人として、女としてどうかってことよ!」
と、声を荒らげた。何にそんなにムキになるのか。
「多分このくらいの距離ならお前の今の声レインに聞こえてるぞ。」
「え、そ、そう?少し声のトーン落とすわ……」
俺は腕を組み、少し考える。
今までレインをそういう対象として見ていなかったし、この旅が終わるまでそんなこと考えることもないだろう。
何より今の俺は今生きるのに精一杯であり、はっきり言って周りに頼りながら流されるしか選択肢がない。
腕組みしながらタバコに火をつけ考え込んでいる俺に、ソールが少し先を歩きながら語りだす。
「アタシはね。あんた達には幸せになって欲しいのよ。普通に結婚して、普通に子供が生まれて、普通に歳をとって死んでいく。そういう幸せな未来を考えて欲しいと思ってるわ。」
「わかってるだろ?俺は最初から普通じゃない。レインも他の人間とは違う部分も多い。」
「それでも最後には人並みの幸せを感じていて欲しいのよ。あんた達だけじゃなくて、この世界のみんなにね。」
初めてソールの中の巫女としての部分を見た気がした。
そしてそれはソールの本心であり、最も根底にある信念のような物だということが分かった。
「そんなにお前にとってこの世界は大切なのか?」
「城の人達やこの街の人達の温かさ。綺麗な街並みとそれを囲う豊かな自然。アタシはこの世界が好きよ。自分の手で守ることが出来るのなら迷いなんてないわ。」
「そうか。」
俺の口からはとてもじゃないが言えなかった。
俺より若く、もっと人生を謳歌して人並みの幸せを誰よりも望んでいるのは多分ソールだ。
だが彼女は生まれた時から巫女として世界を救うことを強制させられている。
それはこの世界でただ1人、ソールにしか出来ないことでもある。
もっと自由に生きて良い。お前にはお前の人生がある。そんな簡単な言葉では彼女が救われるはずがない。
「もしもアタシが世界を救うことが出来たらあんた達はアタシが救った世界で幸せになりなさいよ。」
「ああ。この旅が終わったら考えておくよ。」
俺がそう返すと、ソールは少し悔しそうな笑顔でこちらに振り向きながら「うん。」と答えた。




