チェーンスモーク
「やはり乗ってきましたね一成さん。」
「手を合わせた時お前から一切魔力を感じなかったからな。まずは純粋な力比べがしたいんだろう?」
試合が始まっておよそ1分間、俺とルシウスは互いに魔力を一切使わず、単純な筋力だけの勝負をしていた。
状況はほんの少しだけ俺が優勢。
流石のルシウスもレインに筋力を上げてもらった俺の肉体では分が悪いようだ。
「そろそろ魔力を使ったらどうだ?」
「それもそうですねぇ。では、1秒ごとに1パーセントずつ上げていきますか。」
そう言ってルシウスが少しだけ魔力を込める。
その瞬間に俺の優勢は崩された。
「うぉっと!!」
俺も堪らず魔力を込める。
たった1パーセントの魔力でここまで変わるとは思っていなかったが、押してくる力が倍以上になっている。
「あの一瞬でも持ち堪えるとは流石ですね。4、5……。」
1秒ごとにズシン、ズシンと重さが増していく。
なら俺は一気に魔力を込めて、一気に潰してやろう。
ルシウスの魔力が10パーセント程になったタイミングで俺は半分程度の力を一気に解放する。
「うっく……!!」
ルシウスから声が漏れる。
さっきまでのゆっくりの魔力ペースから俺の魔力に合わせて30パーセント程まで出力を上げたようだ。
しかし顔は常に笑顔を保っており、どこまでもこの戦いを楽しんでいるようだった。
「そちらがその気なら、私ももう少しペースを上げますか。」
「全力で来いよ。受け止めてやる。」
「ははっ!!なら、後悔しないでくださいね?」
ルシウスの魔力が跳ね上がり、周囲が小刻みに揺れだした。
それに返答するかのように俺も魔力を全開にする。
「け、結界の1段目が既に崩れそうです!!お近くの観客の皆さんは後方へお下がりください!!」
「アイツらなんちゅう魔力してんのよ!!外からもう1段結界を貼り直しなさい!!」
司会が観客へ注意喚起をし、ソールが結界の補充を支持している。
すると横からミラとジークが現れ、結界を上から更に3重に一瞬で組み直した。
「無茶するじゃないあの2人。でも、アタシ達の昔を思い出すわぁ。」
「俺達が本気だった時は結界10枚は破ってたがな。だがやはり若いのの魔力は活きがよくないとな。」
「準備は良いですか、一成さん。」
「てめぇこそ、あっさり負けんじゃねぇぞ?」
互いに示し合わせたように、息を合わせて全開の魔力を腕に込め、ぶつかり合う。
爆発のような衝撃が腕を伝い、少しでも気を抜くと腕ごと消し飛びそうな力である。
それはどうやらルシウスも同じようで、さっきまでの笑顔が少しだけ真剣な表情に変わっていた。
「ぬぉぉおお!!」
「まだまだぁぁああ!!」
俺たちは声を張り上げながら力をぶつけ合う。
まるで釣り合った天秤のようにその全力は均衡していた。
だが、ほんの少しの緩みがあれば一瞬で勝敗が決まってしまうほど危うい。
「い、一成さん。そろそろ限界なんじゃないですか?」
「そう見えるならお前も随分余裕がねぇってことだな。」
しかしルシウスには確信があった。
ルシウスは俺の口元を小さく指さし、少しにやける。
思ったよりもタバコの火が進んでいる。
まだ火をつけてから3分も経っていないはずだが、かなりフィルターが近くなっていた。
「それが切れたら、一成さんの負けですよ?」
「切らさなきゃ良いんだろう?」
そう言って俺は懐から新しいタバコを取り出した。
だが、そんなこと分かっていると言わんばかりにルシウスは首を振る。
「一成さん。火をつけるそのひと吸いの間に決着は着きますよ。」
「それは……どうかな?」
正直これはあまりやりたくない。
できなくは無いという程度の方法だがこの場面、成功させるしかない。
俺は新しいタバコを今のタバコと口の逆側で咥え、素早く火をつけ一気に吸う。
その手際の良さにルシウスは驚いていたが、問題はここからだ。
両のタバコに火がついたことで入ってくる煙が倍になる。
つまり、めっちゃむせる。
咳をしたら終わり咳をしたら終わり咳をしたら終わり。
込み上げてきた異物を排除せんとする身体の反射。
それを無理矢理飲み込み、古いタバコを吐き捨て、新しいタバコに切り替えた。
「はぁはぁはぁ……。これぞ奥義、チェーンスモークだ……。」
「い、今のでとんでもなく疲れてますけど大丈夫ですか?」
「残念だが、まだまだここからだぞ……。」
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