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死神少女とメイドとポトト  作者: misaka
●ディフェールルにて

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○これが私の覚悟よ

 まず、目の前にいるイチさんね。本音を言えば真っ先に力を使いたい相手がいるけれど、〈光線〉を撃たれては危険だもの。


「こんな再開になってしまって、ごめんなさい」


 痛みと苦しみ。その両方で涙を流しながら暴れているイチさん。彼がこうして苦しむことになったのは、私が地下室にいた時にケーナさんを殺す決断を出来なかったから。その事実はきちんと受け止めて、謝らなければならない。他にも。


「私のせいで、お花をダメにしてしまったわ。……ごめんなさい」

『――――!』

「おい、いくら完全なホムンクルスだからって、ボクの位置に手を出すな!」


 外野から何か聞こえてくるけれど、無視ね。私はイチさんの緑色の肌に触れる。火傷しそうなくらいに熱くて脈打つ皮膚は、イチさんがまだ生きていることの証拠でもあった。


「それから、私はこれからあなたの大切な人を殺すの。……だから、ごめんなさい」

「やめろ、それは塔にボクの研究の正しさを示すための証拠なんだ!」


 暴れたせいで私に振り下ろされそうになったイチさんの太い腕を、背後に居たメイドさんが手を頭上で交叉する姿勢で受け止める。微笑んで大丈夫であることを示してくれたメイドさんに目でお礼を言って、もう一度、私はイチさんに向き直る。


「一緒に働いてくれて、ありがとう。イチさんの真面目なところ、笑顔、声、花が好きなところ、何よりも――」


 涙を流して私を見つめている目を見つめて、言う。


「いつも“私”を見て話してくれたこのきれいな瞳。イチさんの全部、大好きだったわ」

『――――……』


 そこで動きを止めたイチさん。もう暴れる様子も、〈光線〉を撃つ気配も無い。ただ茫然ぼうぜんと、綺麗な涙を流している。


「イチ! そいつを殺すんだ! じゃないと殺されるぞ! 早く、早く――ぅん?!」


 さっきからうるさかった()()の口を押えて、メイドさんが黙らせてくれる。おかげで、


『―カ―――ト――ン……。ア―――ウ……』


 最後にお腹にある大きな口を動かしたイチさんの言葉を聞き取ることが出来た。


「さようなら、イチさん。すぐに、あなたの大好きな人と再会させてあげるから。それまで少しだけ、待っていてね」


 イチさんの身体を抱き締めて、私は使命を果たす。同時に、イチさんの身体から拍動が無くなり、瞳孔が開いていく。力が抜けてゆっくりと倒れていく身体がやけにゆっくり見えた。

 雪が舞う冷たい外気に晒されて冷えていくイチさんの身体。冷たくなった涙が、力なく横たわったイチさんの脇を伝った。


「さて」


 本当は、イチさんとの別れの余韻に浸りたいけれど。


「それじゃあ――あなたの番ね、ケーナさん」

「おい、どうしたイチ! 動いて……動けよ! おい、ボクのイチに何をした?!」


 黒いぼさぼさの髪を揺らしながら激昂した様子で、私を問い詰めるケーナさん。彼女自身は、あくまでも非力な人間族。私からすれば、言葉の通じるはずの人間族かも怪しいけれど。いずれにしても、油断は禁物ね。


「私は死滅神スカーレット。フォルテンシアに代わって、あなたを殺しに来たわ」

「スカーレットちゃんが、死神……? いや、そんなことよりどうしてくれるんだ! イチには300,000n以上もかかって……いや、失敗作たちも数えるともっと――」


 独りで何かを呟き始めたケーナさん。私を死滅神だと知ってこの態度。やっぱり、人間じゃないのかも。……もうどうでもいいわね。

 職業衝動を果たした余韻が残る緋色の瞳で、私は最後に確認する。


「あなたの職業ジョブに課せられた使命、魔法技術の向上。そのために生まれる犠牲をかえりみない姿勢。命を軽視する態度。……改めるつもりはない?」

「犠牲? ボクは命をないがしろにしたつもりはないよ?」


 そう……。やっぱりケーナさんにとって、奴隷の子も、イチさんでさえも。命あるものでは無かったみたい。

 私にはその答えだけで十分だった。ここまでしても、職業衝動は襲ってこないのね。だったら私が、ケーナさんのような考え方を、その存在を否定する。

 今日は、その決意表明の日。例え世界が許しても、私があなたを許さない。


 ――だって私は誰もが恐れる、死神だから。


「そもそも技術の発展には犠牲がつきもの! いつかは人間も素体にして、いつかは完璧な命の創造を――」

「さようなら」


 自分の考えに浸るケーナさんの手を取ることは容易だった。そして、また1つ。フォルテンシアから命が消え去る。

 何故かしら。イチさんの時と違って。もっと言うと、召喚者たちを殺した時以上に、何も感じないわ。達成感も、無力感も、怒りも、虚無感すらも感じない。それでも、人を殺してレベルが上がった高揚感だけが、私の頬にほんのりと残っていた。

※ここまでご覧頂いてありがとうございます!

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