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死神少女とメイドとポトト  作者: misaka
●ディフェールルにて

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○side:S・S (ディフェールルにて)

 冒険者(プロフェッショナル)であるわたしの朝は、遅い……なんちゃって。


「それじゃあ、行ってくるわ」

「うん、研究所のバイト頑張って!」


 そう言ってバイト先へ向かうひぃちゃんを見送って、


「それではサクラ様。わたくしも席を外します」

「はい、行ってらっしゃい!」


 多分、今日もひぃちゃんを見守りに行っただろうメイドさんも見送って。私の1日は始まる。いつまでもひぃちゃんに養ってもらうわけにもいかないし、しずくが心配して待っている以上、地球に帰る手段も探さなくちゃいけない。

 それに、運よく私には1人で戦うことが出来るスキルがある。だから、わたしが選んだ仕事は冒険者だった。リリフォンで冒険者登録もしてたし、ディフェールルではギルドに行って依頼を受けるだけで良かった。

 服装は動きやすさを重視するんだけど、最近寒くなって来たしインナーを重ね着することで対応する。お日様みたいな温かさと優しい匂いがわたしを包む。洗濯をしてくれているメイドさんには感謝だね。

 丈夫そうなジーンズ素材のズボンとダッフルコートみたいな厚手の上着を着て、準備オッケー。


「それじゃ行こっか」

『クルッ!』


 冒険者としての私の相棒――ポトトちゃんを連れて、わたしはディフェールルの町へと繰り出す。昨日降った雪に濡れる石畳は、パンフレットとか旅番組とかで見たフランスの風景に似てる気もする。

 ギルドへの道中。ちょっと入った裏通りとかを見ると、時折、怪しげな雰囲気の人たちがたむろしている。見た目で判断しちゃダメなんだろうけど、そういうのも含めて、海外っぽいと思ってしまった。

 だけど、ここがただの海外じゃないこと……少し価値観の違う異世界だってことをこの前思い知った。


「奴隷、かぁ……」


 命を大切にするひぃちゃんが奴隷を当たり前だって思ってたことが何よりショックだった。だけど、あの時のひぃちゃんの言葉を思い出してみると、ちょっと違和感があった。


「多分、ひぃちゃんは奴隷が良いことだって思ってるよね?」


 わたしの知ってる奴隷は、こき使われたり、恥ずかしいことをさせられたりして、最後にはポイされる。そんなイメージだった。




 ひぃちゃんと仲直りする前。宿に戻ったわたしを迎えてくれたメイドさん。あの人に聞いた話だと、この世界でも奴隷はわたしのイメージと同じような扱いだと聞いた。


『だったらなんで、()()ひぃちゃんが奴隷を良しとするんですか?』

『お嬢様は物事を良い方へ考えがちです。大方おおかた、売られた子供が幸せになる手段だと考えているのでしょう』


 そう言って、やれやれと頭を抱えるメイドさん。なるほど、それならわたしも納得できる気がする。ひぃちゃん、ちょっとアh……頭がお花畑なところがあるもんね。自分を殺そうとした人にすら、温情を与えようとする。それはきっと“優しさ”なんかじゃなくて、もっと別の何か。……そう思うとある意味、神様っぽいのかも?

 だけどメイドさんもわたしも、それがひぃちゃんの良いところだと知っている。だからお互いに、苦笑することしかできない。


『いずれ近いうちに真実を知ることになるでしょう。それを知ってなお、お嬢様が同じことを言うのなら、また考えましょう。それまで、待って頂けませんか?』

『分かりました。……でも、わたし、信じます! ひぃちゃんが奴隷を「良くない」って言ってくれること』


 今は、ひぃちゃんの性格を信じることにする。そのためにはまず、ケンカ別れになっているひぃちゃんとの関係をどうにかしないと。このままなんて、嫌だ。それで、まだまだお子様なひぃちゃんと仲直りするには、年上であるわたしが先に謝らないと。


『メイドさん。お願いがあるんです』

『なんでしょうか?』

『今回は、ひぃちゃんから逃げ出したわたしが全面的に悪いんです。だから、わたしから謝りたくて……』


 協力してほしい。もじもじと指を弄りながら言ったわたしを、エメラルドみたいにきれいな目で見るメイドさん。やっぱりひぃちゃんと同じで、この人も綺麗な人だ。きっと、外見だけじゃない。内面からにじみ出る物もあると思う。


『かしこまりました。では――』


 そこから少しの間、メイドさんと作戦を練っていると、


『サクラさん。話をしましょう……です』


 気を遣ったのか、慣れない敬語を使って宿に帰って来たひぃちゃん。その汗できれいな黒髪を張り付かせたその顔は必死そのもので、わたしと仲直りしようとしてくれているんだとすぐわかる。それが嬉しくて、可愛くて。わたしは思わず笑ってしまった。




「あの後は仲直りして、メイドさんのマッサージを受けて……。そう、聞いてポトトちゃん。メイドさんのマッサージ、ヤバいんだ~」

『クゥルル? クルルル クックルルルクルルー』


 痛みを超えた気持ちよさ。肩も股関節もこんなに動くのかって驚いた。昨日も無理を言ってやってもらったから、今は体が嘘みたいに軽い。どんな依頼だってこなせちゃいそう。……正直、クセになってる。

 折角、体を整えてもらったんだし、宿代と食費、どっちもひぃちゃんに甘えていられない。ただでさえ、死滅神って言う難しい仕事? をしてるんだもん。年上おねえちゃんであるわたしが頑張って、支えてあげないと。ついでに、地球に戻る手段についての情報も、集めたいな。


「今日もお仕事、頑張ろ~」

『クルルルゥー!』


 掛け声とともに、石造りの冒険者ギルドの門をくぐる。と、金髪ロブのこれまたキレイな女の人が目に留まった。身長はわたしよりちょっと低いくらい。白のワイシャツに紺の上下を合わせた、ギルド職員さんだった。少し大きな荷物を持っていて、


「スカーレットちゃんって言う黒髪の女の子、知りませんか?」


 他のギルド職員さんに聞いている。ひぃちゃんの名前が挙がっていたし、困ってるみたい。声をかけ――ようとして、わたしは思いとどまる。知らない人に死滅神であるひぃちゃんの居場所を教えて良いのかな? この前も、ひぃちゃんを追って男の人たちが襲ってきたところだし……。


「メイドさんと話してから、だよね?」


 居候させてもらっているわたしが、ひぃちゃんたちに迷惑をかけるわけにはいかない。わたしは金髪碧眼の美人さんを無視することにする。むやみに人を信頼しない。メイドさんから聞いてるもんね。


「うんっ、冷静! よく我慢した、わたし!」


 そんなこんなで今日も今日とて、わたしは狩猟系の依頼を受けて、生活費を稼ぐ……はずだったのに。

 午前の分の依頼を終えて帰ってくると、ディフェールルの町には異常を知らせる鐘の音が鳴り響いていた。

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