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死神少女とメイドとポトト  作者: misaka
●ディフェールルにて

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○魔法道具の町

 リリフォンと同じような丸い石が敷き詰められた地面の上を行き交う鉄の塊を見て、


「く、車だ……!」


 サクラさんが驚いたような声を漏らした。


「魔法道具の中でも、魔動車まどうしゃと呼ばれるものですね」

「あっ、魔法道具は魔素で動く道具のことよ」


 サクラさんに説明したメイドさんの言葉を、私が補足する。

 魔法道具。これまで旅で見て来たものであれば、ライザ屋さんにあった熱石ねっせき、聞いた話だと飛空艇なんかがそうね。魔石から魔素を取り出して、道具に付与されたスキルを使用する。熱石であれば、〈発熱〉のようにね。どうやって作られているのかを含めて、詳しい仕組みまでは知らないけれど。

 ついでに、魔石そのものが輝く魔石灯は魔法道具とは言えないみたい。機会と時間があれば、その辺りを調べてみるのも面白そうね。


「これ使えば、旅も楽になるんじゃ?」

「そうね。私もそう思うわ。どうなの、メイドさん」


 目の前を高速で行き交う魔動車を指しながら、サクラさんが漏らす。私も存在自体は知っていたけれど、こうして目にするのは初めて。運送・移動を考えれば魔動車に勝るものはないような気もする。

 だけど、栄えていたウルでも見かけなかった。何か理由があるんじゃないかしら。そう思って、メイドさんに聞いてみた。


「そうできない理由があるのです。代表的なものであれば、運用にかかる魔石の効率が悪いなどでしょうか」


 白い手袋に包まれた指を立てて、説明してくれたメイドさんの言葉をまとめるとこうだった。

 いわく、まずは魔動車の量産が難しいこと。さすがに専門的な知識過ぎてメイドさんも知らないみたいだけど、魔動車はたくさん作ることが出来ないらしい。それから、運用に必要な魔石の確保が難しいこと。

 そもそも魔石は、フォルテンシア全土にあふれる魔素が時間をかけて鉱物の中にしみこんだもの。私達が使っているエヌ貨幣の原料にもなっているわ。純度によって色が変わって、価値も変わる。エヌ貨幣それ自体が、同じ価値を持つ魔石でもあるわけね。


「例えば、こちら……フォルテンシアで最も価値ある10,000n貨幣ですが」


 そう言ってメイドさんが前掛けのポケットからさりげなく取り出したのは透き通った黒色をしたエヌ貨幣。私が1日中、身をにして働いてようやく手に入るかどうかのそれを、軽く取り出す。その衝撃に固まる私を気に留めた様子もなく、メイドさんが続ける。


「これを魔動車の動力炉に入れても、良くて1時間ほどしか走れないと聞きます。そうして移動できる距離は、人1人を乗せて40㎞ほど。積載したものの重さによっては半分以下にもなるようです」

「それが輸送費に加わると……。決して効率がいいとは言えないわね」

「はい。であれば、例えばポトトやブルに500n程度の粗末な餌を与えて1日中移動させる方が、時間はかかりますがかなり安く済むわけですね」


 量産と運用にかかる費用のせいで、普及していないみたい。実際、しばらく見ていると馬車や牛車の方が、圧倒的に数が多かった。もちろん、技術開発は日々進んでいるでしょうから、いつかは身近な物になるだろう。そう言って、メイドさんは説明を終えた。

 一度人通りの少ない路地に入って、人目が無いことを確認してから鳥車をメイドさんに〈収納〉してもらう。100,000nもしたんだもの。1週間そこらでこれを手放すのは、もったいない。……決して貧乏根性なんかじゃなくて、節約術よ。

 ポトトには小さくなってもらって、ここからまずは宿探し。商店が立ち並ぶ大通り沿いの歩道を歩きながら、


「ガソリンとか軽油とか。わたしじゃ無理だけど、賢い召喚者が実用化してないんですか?」

「チキュウの燃料や技術の話でしょうか。召喚者やその子孫が多く住むナグウェ大陸であれば、あるかもしれませんね」


 サクラさんとメイドさんがそんな話をしている。

 魔石とスキルを中心に発展したフォルテンシアと違って、チキュウは科学技術が発達したところだと聞く。今は普通になりつつある学校の仕組みなんかも、召喚者からもたらされた物。つまりチキュウの教育はかなり進んでいるのでしょう。ひょっとして。


「召喚者の多くは10代のコウコウセイだと聞くけれど、チキュウだとコウコウセイでも車を作ることが出来るものなの?」

「う~ん……居るにはいるかもしれないけど。そんな天才みたいな人が運よくフォルテンシアに召喚されてるとも思えないような……」


 期待を込めた私の問いに、サクラさんが苦笑して答える。残念と思う反面、サクラさんが言った『運よく』という部分が地味に嬉しい。だって、フォルテンシアに召喚されることを、少なくともサクラさんが悪いことだと思っていないということでしょうから。


『クゥルルル?』


 思わず頬が緩んでしまう私を、胸元で抱えていたポトトが不思議そうに見上げていた。

 観光も兼ねて宿を探しながら練り歩くこと、半日。少しずつ見えて来たディフェールルの印象は、“魔法道具の町”だった。


 そして、この町に滞在する過程で、私は魔法道具と自分自身ホムンクルスについて詳しく知ることになる――。

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