明日のない日めくりカレンダー
なろうラジオ大賞6参加作品です。
人生の日めくりカレンダーは突然に次の日がなくなるものだ。
「ペンギン!」
「あんまり急ぐなよ」
「へーきへーき!」
躓いて転びやしないかと焦る。
「かわいー」
手すりから覗き込む姿は昔のまま。
幼馴染みだった頃によく来た水族館に、今は恋人として来ているのだから不思議だ。
「圭介、見て!」
振り返って笑う愛香が愛らしい。
頭のニット帽が脱げないか心配になるが。
大学時代に告白。
やっと言ったかと言われて恋人に。
そこから数年。
そろそろ結婚かなと思っていた矢先。
「ふぅ」
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと疲れただけ」
「座ろう。
薬の時間だ」
「うん、ありがと」
末期だった。
余命宣告をされた。
泣いた。
皆で泣いた。
「ごめんねー」
愛香は笑った。
泣き腫らした目で。
別れていーよと言われた。
絶対イヤだと答えた。
愛香はまた笑った。
「そろそろだな」
そのあとも思い出の地を巡った。
途中から車イスを押した。
看護師がずっと帯同してくれている。
多くの書類にサインをした。
愛香のご両親も許してくれた。
「着いたぞ」
「……」
結婚式場に着いたが愛香は眠そうだった。
「眠いか?」
「うん、ちょっとね」
分かってる。
これはきっと最期の眠りだ。
「でも嬉しいから平気」
愛香が笑う。
嬉しいのに悲しい。
「キレー」
チャペルへ。
ニット帽の上にベールだけを被らせてもらい、俺は愛香の前にひざまずいた。
「愛香。俺は生涯をかけて君を愛することを誓う」
「誓わなくてもいいんだよ」
愛香は笑った。
「いや、誓う。
昔も今も、この先も。
俺はずっと世界で一番愛香を愛してる」
「……私はそれを果たすわ」
「え?」
「私も生涯をかけて貴方を愛することを誓う。
で、もうすぐそれが証明されるの」
「……」
「私は、生涯をかけて、貴方を愛した……」
泣きそうな笑顔。
「愛香……」
ベールを上げる。
「……ん」
愛香が目を閉じる。
誓いのキスは、俺の涙のせいでしょっぱかった。
俺たちの夫婦としての時間はほんの数分で幕を閉じた。
一人の部屋で壁の日めくりカレンダーを見つめる。
これをめくれば、愛香がいた世界が過去になる。
きっと俺の人生はまだ続く。
でもいつ終わるか分からない。
だから悔いのないように。
「……今は、まだ無理だけど」
声が震える。
勝手に涙が出る。
これからどうしていけばいいのか分からない。
それでも今日を終え、次の日を迎えなければならない。
「……愛香。ありがとう。愛してるよ」
俺は滲む視界の中で、今日のカレンダーをめくってちぎった。
たんばりん様作




