第三十五話 うめがつぼ の たたかい
いつもお読み頂き、感想と評価もありがとうございます。
そういえば先週はヨンレンキュウなるイベントがあったらしいですね。
みなさん気分転換はされたでしょうか?
私の本業は祝日が関係ないので、ガッツリお仕事でした。土日以外の休みは次は年末年始。早く来ないかなぁ、お休み。
その前にPS5の発売日があるのでそっちの方が楽しみですけどね!(なおヨドバシの抽選は外れた模様
信長が美濃侵攻を開始してから3ヶ月が経ち、織田軍は墨俣砦を落として帰還した。
織田軍1,500、斎藤軍6,000がぶつかったこの戦いで織田方は斎藤方の多くの武将を討ち取った。特に利家くんが"首取り足立"との異名を持つ足立六兵衛を討ち取ったことで清洲への帰参が許されたのだ。
なんでもこの御仁、素手で相手の首を引っこ抜く怪力の持ち主と名高かったが、利家くん曰く「日頃から藤十郎と手合わせしていたのだ。怪力だけが取り柄の相手に遅れは取らんよ」とのことだ。
他にも遊撃隊の面々もかなりの活躍を見せたらしい。俺という人間離れした存在との鍛錬によって、地力が上がっているのか、今回の戦での戦功上位者に何名かが名を連ねていた。
特に論功行賞の場で利定くんが呼ばれた時に他の武将たちが「あれが"壺撃ち"」、「柳に隠れた化け物」と、ざわついていた。
信長からは「一発必中のその腕前でいくつかの首級を挙げた」としか語られず、詳細は不明のままだ。
うーん気になる、後で問い詰めようそうしよう。
信長帰還の数日後、鍛錬場で熟練度上げに勤しんでいた俺の元に恒興さんがやってきた。
「松平蔵人佐(徳川家康)が攻め込んできた?」
「えぇ、今川義元の弔い合戦のつもりですかね」
徳川家康と今川義元ってそんな関係だったっけ?
俺の記憶だと小さい頃から人質として捕らえられていた関係で仲が悪くて、義元の死後はすぐに信長と同盟を結んだんじゃなかったか?
「既に横根城が攻め込まれており、三郎様は報復として三河の梅ヶ坪城を攻め落とされるつもりです」
「横根城の救援には向かわないのですか?」
「近くには水野藤四郎信元殿が守る緒川城があります。あの方は松平蔵人佐とよく小競り合いをしているので手の内をよく知っています。早々簡単には落ちないでしょう」
「なるほど。それで、この話を俺にしたということは…」
「ええ、今回は藤十郎殿にも出陣して頂きます。私や又左衛門殿は留守を任されているのでお市様のことはお気になさらず」
「ありがたい」
僅か3ヶ月とは、利家くんに比べたら短い謹慎期間だった!これで晴れて自由の身かな?
「ただし、今回はあなたには遊撃隊大将ではなく、三郎様のお側に控えていただくことになります。基本的に三郎様の命がない限りは前線には出ません」
「え?」
俺が開放感に浸っていたところ、恒興さんから冷や水を浴びせられた。間抜けな顔をしているだろう俺に恒興さんは言葉を続ける。
「今回は戦場には連れて行くが大人しくしていろ、とのことです」
なんじゃそりゃ。単騎突貫、敵の戦線をガタガタにするのが役目の俺を後ろに置いておくなんて、何の為に俺を連れて行くというのだろう?
「はぁ、承知しました」
「それでは明朝出発しますので、出陣の準備に取り掛かって下さい」
明日!?またエラい急だな!
色々聞きたい事はあるものの、これ以上話すことはありませんと表情だけで雄弁に語る恒興さんの様子に、俺は釈然としないながらも準備に走るのであった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
地響きのような雄叫びを挙げながら織田軍と松平軍がぶつかり合う中、俺は事前に通達されたように信長の側に控えていた。
「三郎様、そろそろ俺を連れて来た理由を教えていただけますか?」
「ふむ、いざという時の為だ」
「いざという時?」
「左様。ま、此度の戦でお主の役目が回ってくるかはまだわからぬがな。全ては彼奴次第、というところだ」
そう言って信長は呵呵と笑う。
思いっ切りはぐらかそうとしてるな。
「はぁ、ではその"彼奴"殿の動向次第では俺は無駄足ということですか」
「そう気を落とされるな、藤十郎殿。私の見立てではちゃんと出番はあると思いますよ」
深くため息をつく俺を見て、恒興さんが苦笑しながらフォローしてくる。
恒興さんは織田軍の諜報方のトップだ。尾張のみならず国外まで広がる情報網を束ねる彼が言うならば何某かの出番はあるんだろう。
そうこうしているうちに敵陣の方から陣太鼓の音が聞こえてきた。
その音を聞いた信長が采配を振るうと、それに合わせて織田軍も陣太鼓を打ち鳴らす。その音が意味するところは戦闘中断。
本陣から戦場を見渡すと松平軍も戦闘を中断し兵を引いている。
すると松平軍から一人の武将が進み出てきた。
全身朱塗の具足に、金色の鹿角の兜。歴史物の作品で、見た事がある。彼は、徳川四天王筆頭、酒井忠次か!
〜ステータス〜
名前:酒井小五郎忠次
レベル:20
年齢:34
所属:松平家
職業:家老
称号:なし
状態:健康
体力:70/70
気力:56/65
妖力:-
力 :27(26+1)
頑強:38(21+17)
敏捷:14
器用:16
知力:16
精神:18
幸運:14
忠誠:90(松平元康)
技術:槍術、剣術(太刀)
〜装備〜
主武器:長槍・三条吉広"甕通槍"(攻撃力5+1)
副武器:太刀・千子正真"猪切"(攻撃力4+1)
頭:金箔鹿角の筋兜(力+1、頑強+3)
胴:朱塗黒糸威の二枚胴(頑強+4)
腕:朱塗の籠手(頑強+3)
腰:朱塗のの佩楯(頑強+3)
脚:朱塗の脛当て(頑強+4)
装飾品1:なし
装飾品2:なし
強っ!勝家のおっさんと同じレベルじゃないか!
さすが徳川四天王。てか徳川四天王って本多忠勝が最強なんだろ?これより強いってマジモンの化け物じゃないか。
「我が名は松平家が家臣、酒井左衛門尉忠次!松平家随一の武勇を誇る者である!織田家で儂と相対するに相応しき武勇を誇る者がいれば、一騎討ちを所望する!」
一騎討ちとな。実際の合戦で見るのは初めてかもしれないなぁ。てか武勇を誇る者ってもしかして…
俺が信長の方を見るとニヤリとした、良い笑顔をしていらっしゃる。
恒興さんは顔を背けて目を合わせない。だがあれは申し訳ないとかは微塵も思っていない。ちょっと肩が震えたのを俺は見逃さなかったぞ!
「ほれ藤十郎、ご指名だ。出番がしっかりとあって良かったな」
「三郎様、勝三郎殿、こうなることをご存知だったのですか?」
「いや、確証はなかった。だが横根城への攻め方を見ていると本気で落とそうとしているのではなく、儂を誘い出そうとするような動きでな。主家である今川の援軍なしで松平が儂を誘い出すとなると、何かしら内密の会談を持ちたいか、ただの阿呆かのどちらかだな」
「松平が今川に内密に我が方と話をするなら戦場が一番です。捕虜を取るなりしてその交渉と名打ってくる可能性が高いだろうと踏んだ訳です。とは言え、それに乗るにしても相手側に優位に立たれるのは面白くない。そうなるとなるべく被害を抑えつつ、確実に相手を下せるのは貴方が最適です。まさか一騎討ちなんて古臭い手法を取ってくるとは思いませんでしたけどね」
信長と恒興さんにそう説明されるも、何か釈然としない。が、確かに勝家のおっさんに匹敵するレベルの相手を取り押さえるなら俺しかないよなぁ。
一騎討ちならある程度作法に則るように、という忠言を受け俺は槍を手に戦場へと向かう。
俺が本陣から出ると、道を開けるように織田軍が割れて行った。通り過ぎ様に兵士たちの顔を見るとあからさまに安堵した表情を浮かべている者が多い。
おいおい、まだ戦は終わってないのに勝った!と言わんばかりの顔をするのはやめとけよ。
酒井忠次の元に辿り着き対峙すると、歴戦の武将の貫禄か、実際の体格よりも大きく見える。
まぁ元々の体格差もあってか、勝家のおっさん程の威圧感はないけどね。
「酒井殿、待たせたな」
「お主が相手が。名を名乗れ!」
「俺は織田家遊撃隊隊長、柳藤十郎信晃だ」
そこで俺は一旦言葉を切り、目を閉じる。
普段やらない事をやるにあたって心を落ち着かせる。
そして再び目を開け、言葉を続ける。
「鬼柳の名に聞き覚えがあるか?その名を恐れないのであれば、かかってくるといい。三河武士に尾張の鬼が胸を貸してやる」
「よう言った!その傲り、死んで後悔せい!うつけの前に首を晒してくれる!」
真剣勝負で相手を貶めるような言い方は本来好きではない。が、言葉で一当てするのも戦の内だ。
俺の狙い通り忠次は激昂し、槍を突き出してくる。
突き出された槍は一番避けにくい胴の正中線を狙ってきている。
その一撃を俺は半身になり、上体を仰け反り倒す事で回避する。所謂マト◯ックス避けだ。
鎧武者では通常あり得ない動きに、忠次が唖然とした表情を見せる。
その隙に俺は自らの槍を支えに倒立しつつ、相手の槍を蹴飛ばし、勢いそのまま一回転しつつ槍を振り上げる。
忠次は何とか槍で受けると、追撃を恐れて大きく飛びすさり、槍を構え直していた。この辺りは流石に松平家随一を名乗るだけはある。
「お主、その動きは、何だ…?」
「こんな事で驚いていてもらっては困るな。まだまだ本領を発揮してはいないぞ?」
そう言うと今度は俺から飛びかかる。
俺の槍術は突きよりも回転する動きを中心としている。それも横回転だけでなく縦回転も盛り込んでいて、自分で言うのも何だが変幻自在の槍捌きだ。
突きの方が攻撃が速いので、回転運動を主流にする者は少ない。が、俺の場合はステータスによる圧倒的な攻撃速度がある為、派生行動の多い回転運動を主体としているのだ。
3mある大身槍を持ち手の位置を変える事で回転半径を変化させ、攻撃速度に緩急をつけていく。
穂先での首払いを受けた槍ごと体を持っていかれ、流れるような石突きでの足払いは崩れた体勢では避けきれず、あっさりと忠次の体が宙に浮く。
そこからの打ち下ろしを忠次は何とか柄で受けるが地面に叩きつけられ、突きの連撃は決死の思いで転がり、難を逃れていた。
突きが主体の線の攻撃であれば軸をずらす事で捌くことが出来る。だが俺の攻撃は面の攻撃だ。避けるのは容易ではなく、また受けるにも力が段違い過ぎてどうしても体勢を崩されてしまう。
今も横なぎの一撃を受け体勢が崩れたところに俺の回し蹴りを受け、砲弾のように吹き飛んでいた。
一騎討ちが始まってから僅か15分ほどで忠次は見るも無残な有り様で、雄々しく天を衝いていた鹿角は片角が折れ、朱塗りの具足は泥に塗れていた。
「よく持つな」
「ぐっ、化け物か…!」
重傷を与えない程度には手を抜いているとは言え、まだ立ち上がる気力がある事は感嘆に値する。ここまで持つのは織田家でも利家くんや勝家のおっさんを始めとした僅か数名だけだ。
「ここで降っても誰も責めはしないだろう。自ら降るか、力尽くで降るかは選ばせてやる」
「三河武士をなめるな!せめて一矢報いてくれる!」
そう言って力を振り絞ったのか、今までで一番の突きが繰り出される。
並の兵士なら一溜りもないだろう。一廉の武将でも捌き切る事は難しいだろう。
そんな渾身の一撃だが、俺は槍を合わせ絡みとるように巻き上げて忠次の槍を弾き飛ばし、槍の切っ先を忠次の喉元に突きつけた。
「これで終わりだな。一騎討ちの結果だ。大人しく捕まってもらうぞ、酒井殿」
俺が宣言すると同時に、天高く弾き飛ばされた忠次の槍が大地へと深々と突き刺さり、ここに梅ヶ坪での闘争は集結した。
ちなみにこの時にはまだ徳川四天王という呼び方はされていません。本多忠勝はまだ13歳ですしね。
次回、松平元康初登場。
この作品だと脇役ですけど。




