第三十話 いぬやまじょう げきしん(改稿版)
1週間前に第三十話を更新したはずが、きちんと更新されていなかったようです。
活動報告も同じく更新されていなかったようなので、この後更新します。
投稿エラーに気付いておらず、お楽しみにされていた方も、ご心配おかけした方も申し訳ございません。
さて、修正前のものですが、内容が完全にローファンタジーに振れてしまった為、改稿しました。
果心居士版であった内容は別作品としていつか書きたいと思います。
それでは改稿版をお楽しみください。
松倉城に帰ってきた俺は、利定くんを始めとした城にいた家臣団の中核メンバーを集めて今後の対応を伝える事にした。
「以上の通り、俺は単身犬山城へと向かう。お前らはこちらへと向かってくる権六郎殿に従い、美濃攻めを行え」
「単身ですか!?いえ、藤十郎様ご自身については心配しておりませんが、お市様の救出となると手勢がいるのでは…?」
「そうです!我らも是非お連れ下さい!」
「だめだ。今回は俺も手加減ができん。お前らがいては巻き込んで殺してしまう」
俺の言葉に家臣団が俄かに騒ぎ出すが、ここは俺も譲れない。
「ならばせめて後詰めとしてお連れ下さい!藤十郎様とて全ての敵を潰す時間はないはず!撃ち漏らした敵は我らが引き受けます故!」
「我らがおらずとも何とかなるとは、そんな余裕があるとお思いですか!?」
「余裕だと…?」
聞き捨てならない言葉を吐いた輩に目の前が真っ赤になる。
「市を拐われて、俺が余裕を見せていると…?」
「と、藤十郎様…!落ち着いて下さい…!」
「俺はな、自分の大切な存在が危ない目に合っているかもしれない状況下で落ち着けるほど大人ではないぞ?」
俺が立ち上がり家臣団の方に足を向けると、皆一様に下を向き、全身を震わせ始める。中には袴が湿っている者もいた。
「おい、お前たちには俺に余裕がある様に見えるのか?」
「い、いえっ…滅相も…」
「ならば黙って聞いていろ。今回は殲滅戦じゃない。あくまでも市の救出が最優先だ。だが帰り道で賊に遭って市の目を汚すのも考えものだな…よし、喜太郎。50名を連れてこい。俺はこの後全力で犬山城へと向かう。その間、道中を掃除しておけ」
「ぎょ、御意に…!」
「話はこれで終いだ。俺はすぐに出る。お前たちも出るなら早く準備に向かえ」
そう言って俺が部屋を出て行くと、部屋の中から安堵の声と何かが倒れる様な音が続くのであった。
〜side 市 犬山城〜
義兄である十郎左衛門殿に捕らえられた私は、両手を縛られた状態で犬山城天守に連れてこられていた。
「十郎左衛門殿!何故こんな事を!」
「何故ですと?決まっている、儂が織田家の頭領となるためだ!信長のうつけは柳という駒を運良く手に入れただけで、やつ自身は昔から何も変わっておらぬ!柳さえいなければ、儂の方が頭領の器に相応しい」
十郎左衛門殿は兄上を貶める言葉を吐き、陶酔したように言葉を続ける。
「伊勢守家も達成も、全ては柳藤十郎を知らなかったが為に信長に敗れた。儂は彼奴の二の轍を踏むことはせん。お主という縄をつけられた今の柳であれば対処は簡単だ。お主を一度国外に出せば、柳もそれを追う。その隙に信長に不満を覚えている家臣たちをまとめ、信長を討つ!儂こそが織田家をまとめ、尾張を統一する者となるのだ!」
「馬鹿げたことを!兄上がうつけだとまだ思っているのですか!それにそんな事、姉上が許すはずがありません!」
「あの女は当然反対したわ!あまりにも煩かったので今は牢にいるがな」
「なんてことを!」
姉上は元々非常に活発なお方だ。まだうつけを演じていた時代だったとは言え三郎兄上を頭から叱り飛ばす様な姉上だ。大人しく捕まるとは考えにくい。
「無事、なのね…?」
「ふん、あまりにも煩いので小突いてやったら静かになったわ」
「………兄上は、そして私も貴方を決して許さない。貴方が織田家を乗っ取るなど出来はしない。それに…」
そこで言葉を切った私に十郎左衛門殿、いや、信清は興味深そうにこちらを見る。
「貴方は最もしてはいけない事をした。私に手を出した以上、藤十郎は決して貴方を許しはしない。その時点で貴方に未来はない」
「ははは、だが奴が来る頃にはお主は既に美濃国だ。人間離れした武勇が真実だとしても、美濃国から人一人、いやもしかしたらそれ以上を救出し、清洲で信長に謁見。その後松倉にとって返して犬山に向かったとしても間に合いはせん。そうすればやつはこの尾張を離れる。最大にして最強の敵がいなくなるのだ!」
勝利を確信したように高笑いをする信清だが、彼はまだ藤十郎の真価を理解していない。
「十郎左衛門殿、貴方はまだ藤十郎のことを過小評価をしているようね。第一、私の夫は私の危機に間に合わない男ではないわ」
私がそう言い切ると、信清は馬鹿にしたような顔でこちらを見てくる。
「ふん、戯言を。もう暫くすれば美濃国から迎えが来る。それまで大人しく…」
「織田十郎左衛門信清おおぉぉぉ!市は、市はどこだあああぁぁぁ!」
「何だ!?」
待ち望んだその声が響き、信清が天守から声の主を探す。
その隙を逃さず、私は声に応える為に、天守から身を乗り出す。
「藤十郎おおぉぉ!」
「なっ、やめなさい!」
十郎左衛門が私を抑えてくるが構わない!私の声が届いてくれれば!少しでも私に気付いてくれれば!
「市いいぃぃぃ!必ず助けるからなああぁぁぁ!!」
天守閣に押し込まれる直前、藤十郎の声が聞こえた。大丈夫、藤十郎なら絶対助けに来てくれる。
待ってるからね、藤十郎!
〜side 藤十郎〜
市がいた。
俺の声に応える様に、天守から姿を現した市は不埒者によって引き込まれてしまったが、そこに無事でいる事がわかっただけでも一安心だ。
『クエスト「退路を確保せよ」がアンロックされました。
クエスト名:退路を確保せよ
市を救い出した後も敵兵からの追撃が続く。市の安全を確実にする為、敵兵を事前に排除せよ』
なるほど。確かに俺自身は矢を打たれようが、火縄銃で撃たれようが、防いだり避けたりする手立てはあるが、市はそうじゃないもんな。
もちろん仮に撃たれても市を怖がらせるわけにもいかんな。
それに途中で門を閉められたり、バリケードのようなものを配置されて、時間がかかっても市のような女性には負担だろう。
「そうと決まればやる事はひとつだな」
やるべき事が明確になったと、思案の海から戻ってくると城門が開き、部隊が出てきて展開される。
「柳藤十郎殿とお見受けする!ここは織田十郎左衛門様の城である!先程の音が何かは分からぬが、大人しく帰られたまえ!」
城門から出てきた部隊の指揮官らしき武者が警告をしてくる。
先程の音というのはたまたま出会った見回りの部隊に岩を投げつけた時の音のことだろう。
一撃で部隊を壊滅させるだけの威力は地面にクレーターを作り出していた。
「ここには俺の妻、市が捕われている。何人たりとも取り戻す邪魔は許さん。もし立ち塞がるのだとしたら、その者の命はないと思え!」
「戯けた事を!さしもの鬼柳とは言え、この人数が相手…で……は………?」
強行突破を宣言した俺は、道端に生えていた巨樹を蹴り倒し、それを肩に担ぎ上げる。
俺の宣言にいきり立った敵兵たちも、その様子を見て一斉に黙りこんだ。
「いいか?もう一度だけ言うぞ……そこを退け」
肩に担いだ巨樹を部隊に向けると、俺の目の前にいた兵がいなくなり道が出来上がる。いや、指揮官だけが俺の前に立ち塞がっていた。
「門を開けろ」
「そ、そんな事ができるかぁ!」
俺の命令に辛うじて指揮官が反論をする。その意気は買うが、無駄な抵抗だな。
「そうか、ならばこじ開けるまでだ」
俺は半身になると、身体を引き絞るように右手で掴んだ巨樹を後ろに引く。
ギチギチと筋肉が軋む音がして、引き絞りきったところで、力を解き放つ。
巨樹が槍のように空を切り裂き
轟音と共に門が弾けた。
舞い散った土埃と木屑が落ち着くと、指揮官と門扉は跡形もなく、奥の地面に巨樹が突き刺さっているのが見える。
「よし。では俺は行くぞ?」
そうしてもう一本、巨樹を蹴り倒して担いだところで、部隊は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
逃げ惑う敵兵を尻目に俺は悠々と犬山城内へと歩を進めて行くのであった。
犬山城も他の城の例に漏れず城内は迷路のように土壁が張り巡らされ城内に侵入した敵が天守に到達するまでの時間を稼ぐようになっている。
だがそれは一般的な軍が相手の場合だ。俺には関係ない。
天守は見えている。ならば一直線に進むのみ。
俺は巨樹を振り回して壁を壊し、巨樹が折れたのであれば近場の屋敷から大黒柱を引っこ抜き、また壁を壊す。
表門から天守まで一直線に続く道が出来上がっていた。
そんな俺に近接戦を仕掛ける敵はおらず、遠距離から矢や火縄銃で俺を迎え撃つ者がほとんどであった。
だが俺もそれに対してやられっぱなしではない。
屋根の上から矢を射掛けられれば武器の一振りで建物を破壊し、遠目の櫓から火縄銃を撃たれれば手持ちの武器を盾にした後、櫓目掛けて武器をそのまま投擲する。
それを繰り返しているうちに敵からの反撃はなくなり、ただただ道を拓く為に俺が城内を破壊する音だけが響いていた。
そうして天守へと辿り着いた俺は、狭い天守では邪魔になる武器を捨て、愛刀を抜いて内部へと侵入するのであった。
犬山城荒城戦です。
実際丸太を持って攻め込むような敵が来たらどうやったら防げるんでしょうね。




