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第二十九話 ゆうかい

ブクマが気付いたら1万件を超えていました。

お読み頂いている方々、いつも本当にありがとうございます!

また感想や誤字報告もありがとうございます<(_ _)>

俺たちが常在寺(じょうざいじ)に着くと、寺は燃えていた。

轟々と立ち登る炎が夜空を照らし、そこかしこで喧騒が聞こえる。


これはもう間に合わないかもしれないな…だがその首が挙げられると確認するまでは諦めるわけにもいかないよなぁ。


「いいか!俺たちはこれから一色(いっしき)左京大夫(さきょうだゆう)(斎藤(さいとう)義龍(よしたつ))殿を助け出す!今回の目的は救出だ!欲を出して敵の首を狙って命を落とすなよ!」


俺が遊撃隊の面々に指示を飛ばすと5人単位で皆散っていく。それを見届けてから、俺は利定くんたちを引き連れて駆け出した。


敷地に入るとそこには地獄絵図とも言える景色が広がっていた。

あちこちで木が爆ぜる音が聞こえる。 

建物は崩れ、庭園は血に染まっている。


俺は本堂があるであろう場所に向かって歩を進める。

途中燃え崩れた建物が道を塞ぐが、俺は飯綱砲(いずなほう)で瓦礫を吹き飛ばしながら一直線に目的地を目指していく。




そうして辿り着いた本堂では何人かの兵が閉じられた扉を壊そうとしていた。

破城槌(はじょうつい)を叩きつける音が鈍い音を立てる。


「早うこの扉を壊せ!義龍(よしたつ)の首はこの中ぞ!」


「そうされちゃあ困るんだよなぁ」


「何っ!?貴様何やつぁ!?」


指揮官らしき武将に裏拳を放つと吹き飛んでいく。

それを見て破城槌を抱えていた兵たちが驚いた顔でこちらを見ている。

戦場で敵を前にして呆けたら死ぬぞ?

俺は破城槌の端に手を置くと力一杯握り締める。

指がめり込み、ガッチリと固定されたのがわかる。



道具名 :破城槌

要求値 :力80

耐久値 :70/100



全ての物には力の要求値が存在する。これはステータスを使い続けた事で新たに開放された項目だ。

槍であれば大体が力12〜15が要求される。これを満たさないと持ち上げるのに一苦労したり、満足に扱えなかったりする。

逆に要求値を満たしてさえいれば、簡単に持ち上げて扱うことが可能だ。


今の俺の力は89ある。6人がかりで持ち上げる破城槌でも1人で振り回せるって訳だ。

しっかりと掴んだ破城槌を振り抜くと、今までそれを抱えていた兵たちが吹き飛んでいく。


他の敵兵たちも槍を構えて向かってくるが、破城槌の一振りで木の葉のように吹き飛んでいく。


そして敵兵がいなくなると俺は破城槌を捨て、本堂の扉を叩いた。


「一色左京大夫殿!中におられますか?私は織田家遊撃隊隊長、松倉城主の柳藤十郎です!竹中(たけなか)半兵衛(はんべえ)殿の助けに応じてやって参りました。ここをお開け下さい!」


その声に応えるように扉が開くと、中には僅かな兵と血みどろの武将がいた。


「お、鬼柳が救援とは、ありがたいことだな…」


「と、殿、傷が開きます!」


起き上がろうとする義龍に対し、家臣の兵が押し留めている。


「左京大夫殿、お辛いでしょうが簡単な治療をしたら私と共に来ていただきます。尾張までの活路は開きますので、どうかご辛抱を」


「願ってもない。道中、お頼み申す」




義龍の応急措置を終える頃には遊撃隊の面々も本堂へと集い、俺たちは常在寺を脱出し、尾張へと急ぐこととなる。


義龍を逃すまいと龍興(たつおき)の兵が襲ってくるが、その尽くを撃退していく。

単身敵陣へと飛び込むことが多い俺の部隊は、その状況下でも生き残れるようにと訓練の激しさは尋常ではない。

日頃俺を相手に鍛錬を積むことも多いのだ。並の兵士相手に早々負けることもない。


俺たちは無事に美濃を抜け、尾張へと戻ることができた。


だが、松倉城まで戻って来た俺たちの目に映ったのは、黒煙を上げる城の姿だった。




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




「市が……拐われた……?」


「も、申し訳ございません!織田(おだ)十郎左衛門(じゅうろうざえもん)(織田信清(のぶきよ))殿が兵を率いて急襲、応戦しましたが多勢に無勢で打ち破られ、お市様が…」


城に戻った俺に知らされたのは最悪の報告だった。

市は拐われ、城で奮戦した利家くんは重傷。その他城で守備に着いていた兵たちは多かれ少なかれ負傷していた。


このタイミングで攻めて来たということは斎藤龍興と織田信清は繋がっていると見ていいだろう。

だがどこでその情報を手に入れた?俺が城にいる限り落とせないのはわかっているはずだ。

それでもこの城を攻めて来たという事は、俺がここにいないと確信していたからに他ならない。


俺がここを離れる事を知っていた人間、それは救援を求めた竹中半兵衛以外にいるのか?

だが仮にそうだとしても、半兵衛が松倉城にたどり着いてから俺が出立するまでの短い時間でどうやって信清に知らせると言うんだ!


ちくしょう!頭がぐちゃぐちゃで考えがまとまらねぇ!


「藤十郎様、いかがなされますか?」


苛立つ俺に対し、利定くんが声をかけてくる。

その声で俺は強制的に現実へと引き戻されることになった。


「………左京大夫殿の傷のこともある。一度清洲へ向かおう。いずれにせよ三郎様には知らせねばならん」


「御意」




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




〜清洲城 信長の自室〜


「藤十郎、よくもまぁのこのこと俺の前に顔を出せたな」


「面目次第もございません」


今までで一番の怒気を孕んでいるであろう信長は答えを一つでも間違えたら首をはねんばかりの勢いだ。

俺もまんまと市を拐われた手前、頭を下げるしかない。


「で、俺の前に出て来たという事は、何か申し開きがあるのだろうな?」


「はっ、私に、いや俺に市を取り返す許可を。またその際に犬山城がどうなろうと構わないという許可が欲しい」


「どうなっても、とな?」


「あぁ、今回俺は市を取り戻す為に全力を出す。その結果、犬山城は瓦礫と化すかも知れない」


「ほう」


そこで初めて信長が怒気を収め、興味深そうな雰囲気を纏った。


「今までも鬼神の如き働きだったが、それを上回ると?」


「あぁ。俺はな、三郎や恒興さんに言われた通り、他の武将や兵たちの功を奪わないようにしてきた。だが今回は違う。他人の功などに構っていられるか!俺は全力で市を救う!」


「ほう?どうやって市を救うというのだ?」


「今回は俺単騎で攻める。俺が全力を出すなら周囲に味方がいない方がいい。それに今俺は不甲斐ない自分にも、市を拐った信清にも腸が煮えくりかえっているんだ。抑えが効かず、まとめて殺してしまう」


「だがその言葉、どうして信じられる?」


「喜太郎を呼んで頂ければ。あいつは俺が常在寺で破城槌を振り回す姿を見ているからな」


俺がそう言うと信長は一瞬呆けた顔をした後、笑い出す。


「破城槌を振り回すか!良いだろう、やってみろ。だが市にこれ以上何かあってみろ?そっ首はねてくれるわ!」


「御意に」






そうして俺が織田信清と市がいる犬山城を攻める傍ら、美濃の斎藤龍興を牽制する為、柴田勝家が松倉城の留守を預かる事となった。


そしてその中には元長屋仲間の木下藤吉郎秀吉も武者大将の一人として同行していた。


「藤吉郎」


「藤十郎か、久方ぶりだな!お主のいない間、柴田様の元でしっかり留守を務めてやるからな!」


実は藤吉郎とは市との祝言以来の再会だった。

こちらは城主になる準備で、藤吉郎は様々な奉行を歴任していて、お互いに忙しくて会えなかったのだ。


「それは頼もしいな。頼もしいついでなんだが、松倉城に入ったら蜂須賀小六にこの書状を渡してくれ。何かあった時に藤吉郎の指示に従うように書いてある」


「何故俺に?柴田様じゃなくていいのか?」


「小六たち川並衆の気性じゃ権六郎殿とは衝突しそうでな。お前ならうまくやってくれるだろう?」


「うへぇ、気性が荒いって事か。まぁ良いさ、その信頼に応えて見せるさ」


そう言って鼻を擦りながらも藤吉郎は書状を懐に入れる。

これで松倉城の心配事は取り敢えずオッケーかな…あ、ひとつ忘れていた。


「そういえば松倉城では又左が療養してるからな、気にかけてやってくれ」


「はぁ!?あいつ出奔したと思っていたら藤十郎のところに転がり込んでいたのかよ!」


「そう言うことだ。じゃあ、頼んだぞ。俺はもう出る」


「あっ、おい!」




声をかける藤吉郎を振り切って俺は清州城を飛び出し、市を救う準備を整える為、一足先に松倉城へと向かうのであった。


さぁ、虎の尾どころか龍の逆鱗に触れてしまった信清の運命やいかに!(すっとぼけ



ところで最近iPhoneの予測変換がおかしいです。

「恒興さん」と打とうとすると「ドパァンさん」と出たり、「信清」と打とうとすると「PSP」と出たり。何が引っかかっているのやら…

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 修正中なのですかね? 読んでたはずの36話と37話が消えています。 なので、初めから読み直します。
[一言] 信清・・・チリ一つ残さず消滅してしまうん?
[一言] この世界竹中十六騎の逸話が鬼柳の単騎攻城を前に完全に霞むなこれ
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