閑話 まつくらじょう
1週間ぶりの投稿です。
体調不良と本業が多忙だった事からこれだけ時間が空いてしまいました…。
本業はまだまだ多忙なので、しばらく2〜3日に1度の更新になります。
あと過去の話で入れていた地図の方が、みてみんの規約の問題で削除対象になったとのことですので、こちらも対応を考えます。
頭が痛い。
昨日の藤十郎様とお市様の祝言の宴で酒を飲みすぎたと言うのもあるが、それは良い。なんと言っても祝い事だ。家人や友人の集まる宴で浴びる様に酒を飲み、一人、また一人と倒れていく者を肴に更に飲む。初日の宴とはまた違った楽しみに止まることなく飲み続け、日が高く昇った今でも起き上がれない者も多い。
かくいう私もまだ頭が痛い。まぁ私の場合はそれ以外にも頭の痛いことがあるのだが。
むしろ最後まで飲み続けてもケロリとした顔で朝から鍛錬をしている藤十郎様がおかしいのだ。実は酒呑童子だったと言われても誰も驚くまい。
「お、喜太郎か。体調はどうだ?」
「まだ頭が痛いですよ。藤十郎様はお元気ですね」
「はは、酒には強い体質らしくてな」
「強いという一言で済ませられるのですか、あれは?」
鍛錬を終えられたのか、藤十郎様が手拭いを片手にこちらへやってくる。
かなり激しい鍛錬なのだが、藤十郎様はいつもそれ程汗をかいているようには見えない。
「うーん、元々ここまで強くはなかったんだけどな」
「まぁそれはいいです。ところで藤十郎様にお聞きしたいことがあるのですが」
「ん?」
「先ほどの訓練の中で空中を踏み台にして飛ぶような動きがありましたが、どういう理屈ですか?」
いつもの舞のような動きだけでなく、途中途中で空中で急激に方向転換していたのだ。
「あぁ、雪…管狐に文字通り踏み台になってもらったんだ。ただ撃ち出すだけじゃ芸がないなと思ってな。まとめて敵を倒すなら飯綱砲でいいんだが」
「あ、あぁそういえば管狐がいるんでしたね。私には見えないのですが…」
そう、京都から帰ってきてから藤十郎様は管狐を見る事ができる者を探していたのだが、生憎まだ出会えていないようだ。
何人かは「何かいる」ということが分かるものはいたらしいが、目視までは至っていないらしい。
「こんなに可愛いのになぁ」
そういいながら藤十郎様は虚空を撫でる。ここまではいつも通りの不思議な時間であった。
だが、今日は違った。
「かっ!」
「「かっ?」」
「かわいいいいい!!!」
突然お市様が走ってきたと思ったら、そのまま虚空を抱きしめて頬擦りするように顔を振っている。
お市様も、それを見つめる藤十郎様も余所には見せられない顔をしている
これは果たして私が見ていいものだろうか…?
「え…?市、雪が見えるのか?」
「この子が前に藤十郎が言っていた雪なの!?こんなにかわいいなんて、今まで見えなかったのが口惜しい!」
今までお市様には管狐が見えていなかったし、感じ取る事もできていなかった。それが突然見えるようになったのは……これ以上はやめよう、何か大きな力が働きそうな気がする。
「市、雪がびっくりしているからもうちょっと力を緩めてやってくれ」
「はぁい」
藤十郎様がそう言うとお市様は少し力を緩めるような仕草を見せたが、手を下ろすことはなかった。
「藤十郎はこんなかわいい子と一年間も一緒だったんだ。いいなぁ、いいなぁ」
「これからは俺とずっと一緒なんだから、少なくとも松倉城の御館にいる間は雪も一緒だぞ?」
「そっかぁ!雪ちゃん、よろしくね!」
朗らかに笑うお市様を見ると、初めてお見かけした時を彷彿とさせるようだった。
はっ、思い出に浸っている場合ではなかった。
私の頭を痛めている案件を解決しなければ。
「藤十郎様、ひとつご相談があるのですが」
「ん?どうした?」
「この度藤十郎様が入ることになった松倉城ですが、少々周囲の状況に問題がありまして…」
「問題?」
「はい。実は松倉城の脇を流れる木曽川には川並衆を自称する国人衆がいまして、この者たちがまた一癖も二癖もあるのです」
そう。この者たちは気性が荒く、国人衆とは言うものの賊とは紙一重だ。自分たちが気に入らない者は例え城主であっても言うことは聞かず、隙を見て反旗を翻そうとする者たちだ。
「そいつらって拳で会話で納得する?」
「拳で…あぁ、まぁ腕っ節が強いことにこしたことはないですね。最悪の場合、その手段しかないでしょうね」
というか藤十郎様が物理的に押さえ付けられない者などいないだろう。織田家だろうとこの方が本気になれば一夜にして陥落することは想像に難くない。
「とはいえ力で押さえ付けてもいつか反発されそうだからなぁ。喜太郎、その川並衆と渡をつけることはできるか?」
「はい、元々松倉城は我が坪内家が治めていた城です。私も面識はあるので、無碍にはされないと思います。それに確か川並衆の蜂須賀小六正勝は兵衛殿に仕えていたと聞きます。兵衛殿にも来ていただければ、より確実性は増すかと」
「よし、じゃあまずは二人に頼もうかな。いつ頃向かえる?」
「兵衛殿が無事に動けるようになってからなので、明日の朝には出立しようかと」
「あー、まだ潰れてるのか。わかった、無理はしないようにな」
「ははっ」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そうして私と兵衛殿は藤十郎様に先駆けて松倉城へと入り、蜂須賀小六殿の屋敷で川並衆の面々と顔を合わせていた。
そこには蜂須賀小六正勝殿、青山新七昌起、松原内匠殿、稲田大炊助貞祐そして兄の前野将右衛門長康がいた。
「喜太郎、お主がわざわざやってきたと言うから何かと思ったら、その柳何某という者に仕えろというのか。いきなりその様な事を言われて我らが承諾すると思っているのか?」
「兄上、仰ることはわかりますが、これは織田上総介様のご意向でもあります」
「だとしても我らにその柳殿に仕える理由はないぞ。今川との戦いで鬼神の如き武功を立てたというが、噂には尾鰭がつく者だ。元々上総介殿の小姓だというではないか。大方その筋で松倉城主を任されたのではないか?」
「おのれ!言わせておけば!」
「稲田殿!言葉が過ぎますぞ!」
余りの言い分に兵衛殿が立ち上がり刀を抜こうとする。私もここまで言われて止めるつもりはないが、藤十郎殿の城主としての最初の仕事が国人衆の討伐になってしまうのは残念でならない。
「兵衛様、ひとつお聞かせ願いたい」
既のところで小六殿が兵衛殿に問い掛ける。
「なんだ!?」
「柳殿というのは、下津の戦いの時の、あの"矢薙ぎ"でありますか?」
「そうだ」
兵衛殿が答えると小六殿は何かを考える素振りを見せた後、居住まいを正してこちらに向き直る。
「この蜂須賀小六正勝、委細承知した。柳藤十郎様に仕える事としよう」
「小六殿!?何を言っているのだ!」
「稲田殿、前野殿、儂は柳殿の武威を目の当たりにしたことがあってな。正直震えたものよ。人にあれ程の動きができるのか、とな。今ここで阿らなかったとして、結局犠牲を伴った上で従うことになる。それならば最初から従う方が賢いというものだ」
「しかし…!」
「お主らがどう動くかは知らぬ。だが儂の心は変わらぬよ。死にたければ刃向かえばいい。それに兵衛様の様子を見る限り、柳殿は決して悪い人間でもなさそうだ。」
そう小六殿が言うと他の国人衆は、それぞれの身の振り方を考えているのか、黙り込んで思案している。
最終的に蜂須賀小六殿、青山新七殿、松原内匠殿は藤十郎様に仕える事を決めた。
稲田殿と兄上は直接会って決めるとのことだった。
この会談の一月後、藤十郎様とお市様は松倉城に入ることとなる。
そして稲田殿と兄上は藤十郎様に謁見し、手合わせを挑んだ結果、仕えることになった。
こうして藤十郎様の松倉城入りは恙無く行われた。
この時の私は、この松倉城から始まる動乱に自らが大きく関わっていくなど知る由もなかった。
それが良い事だったのか、そうでなかったのか、後の私は大きく悩むことになるのだが、それはまた別の話である。
書いている途中で致命的なミスを見つけてしまったので書き直しが入りました。
その為、少々短いです。
後程修正するかもしれません。




