第二十四話 おけはざま の たたかい 1
ジャンル別歴史(文芸)の四半期ランキングでも1位を頂きました。
いつも拙作をお読み頂き、また評価や感想もありがとうございます。
今後も精進していきますので、今後ともよろしくお願い致します。
夜中途半端な時間に寝てしまったので、この時間の投稿になりました…俺、投稿が終わったら寝るんだ_(:3」 ∠)_
前話では再び年代を間違えました。2回目ですね。
昭和じゃありません…かなり基礎的な間違いで申し訳ないです。
次やったら腹切ってお詫びいたします…
「今川を討つぞ」
上洛から1年が経った頃、信長はついに今川との戦を決意した。
上洛した時にわかったのは足利幕府の権勢が地に落ちている事、これからは大名たちが鎬を削り合う更なる戦の時代が来る事、大きな力を持つ諸大名は朝廷を祀り上げて大義名分を得る事で更なる権勢を得ようとする事。
特に今川義元は朝廷寄りの人間であり、密偵からの報告でもいよいよ上洛という状況らしい。
「まずは義元を釣り出さねばならん。その為には、そうだな…吉良の地を焼き払うか。あそこは駿河国の西側の糧食の要だ。そこを潰せば今後の俺たちの戦にも有利になろう」
「ですが三郎様、吉良の地に向かうには途中に大高城や鳴海城などの今川の城があります」
「それらの城の周囲に砦を建てよ。その砦を囮としている間に本隊は吉良の地へ向かう」
とんでもない事を言い出す信長に家臣団は悲鳴のような声を上げる。
「無茶です!相手は腐っても城、砦なんぞ攻め込まれたら数日も持ちませんぞ!」
「それでもやらねばならんのだ!今川は後手に回っては勝てん相手だ。義元が上洛に前掛りになっている今、我らの手できっかけを与え、この戦の流れを掴まねばならん」
まぁ数に差がある状態じゃせめて戦況をコントロールしないと勝ち目がないのはわかる。
だけど無茶するなぁ。
「吉良の地へは俺と各母衣衆と遊撃隊で向かう!大高城を抑える鷲津砦には七郎大叔父(秀敏)、丸根砦には佐久間大学介盛重、鳴海城を抑える丹下砦には水野帯刀忠光、善照寺砦には佐久間半羽介信盛、中島砦には梶川平左衛門高秀に指揮を任せる!攻めんで良い。城の目を引きつければ良いのだ。此度の働きが今後の織田家の趨勢を占うものになる。期待しておるぞ」
「「「ははぁっ!」」」
この作戦は目論見通り、吉良の地を焼き払う形で幕を閉じる。
火を放ち、長閑な農村だった吉良の地は草一本生えない焼け野原へと変わった。
何の罪もない民草を焼き払うことに抵抗があり、自分の手の届く範囲で逃すことも考えた。
だが土地も家も、家族さえも失った人間がこの時代に生きていけるかと問われれば、答えはほぼ否だろう。この戦乱の世の中では赤の他人を養ってやれるほどの余裕をもつ人間はいない。
それに逃したところで憎しみを以て敵として現れる可能性が圧倒的に高い。
ここで生かすことは逆に残酷な事になるのだ、と自分を納得させて吉良の地を焼き払うのであった。
この動きに今川義元は激怒した。
吉良襲撃の14日後には沓掛城に入り、本隊は桶狭間山の麓に、別働隊が大高城まで押し寄せ、信長へ攻勢をかけることになる。
夜も更け、草木も眠りに着こうかという頃に、清洲城に交戦の報せが飛び込んできた。
「三郎様!鷲津砦と丸根砦が松平軍によって攻められております!鷲津砦は織田七郎様400に対し、朝比奈左京亮泰朝2000!丸根砦は佐久間大学介様700に対し、松平次郎三郎元康2000!急ぎ救援を求められております!」
「三郎様、遊撃隊に出陣の許可を!俺なら先んじて敵陣に切り込み、戦況を一変させられます!」
「我らにも出陣の許可を!必ずや砦を死守して見せましょう!」
いきり立つ家臣団に対し、信長は一瞥をくれると大きな欠伸を返した。
「なんじゃ、夜も更けたというのに。やつらも一端の武人、一晩二晩くらいは耐えられるだろう。今晩は休んで、その後考えるぞ」
「三郎様!」
「なんて事を仰るのか!」
「ええい、もう決めたことじゃ。下がらんか!俺はもう寝る…いや藤十郎、貴様は来い。酌に付き合え」
信長の台詞に殆どの者たちは落胆の声を溢すが、俺を含めた幾人かは反応を示す。"酌に付き合え"。これは事前に決めておいた符号だ。
「藤十郎か、入れ」
部屋に入ると"気配察知"で周囲を探る。
俺たち以外には人っこ一人どころか、動物や虫の一匹もいない。
「この部屋に密偵はおらんだろう?勝三郎めもよく働く」
気配を探る俺を見て信長は笑う。
まぁ恒興さんも忍者の端くれ。その辺のガードは完璧なんだろう。
「三郎様、本当に鷲津にも丸根にも救援を出さないつもりですか?」
「出さん」
「大叔父上殿と佐久間殿が死にますよ!?」
「わかっておる!だが彼奴らの死は無駄にはせん。必ずや義元めの首を取る。その為に今宵お主を呼んだのだ」
信長は脇息に置いた拳を強く握り込む。力が入りすぎ、白くなったその拳を見たら俺にはもう何も言えなかった。
「明朝俺が城を出たらお主は遊撃隊を連れて、総大将の権六郎と共に善照寺砦に入れ。そこから今川本隊に向かい、陽動をかけるのだ。俺はその隙に少数を引き連れて今川軍の後方に回り込み、本陣を急襲、義元の首を取る」
「また無茶苦茶な戦略ですね。遊撃隊は俺以外は普通の人間ですよ?俺以外には壊滅せよ、ということですか?」
「そうは言わん。遊撃隊の動かし方はお主に任せる。突撃させるも、後方で待機させるもお主次第だ」
さいですか。
「では、私はこれで。明日は大変な1日になりそうなので。そういえば、又左と内蔵助がソワソワしていましたけど、何か伝えることはあります?」
「ない。真意を知るものは少ない方が良い。権六郎には儂から言っておく。他になければお前も今日は休め」
そう言うと信長は徳利をこちらに向けてくる。
話は終わり、一杯飲んで戻れということだ。
俺は杯を手にして、信長の酌を受ける。
「藤十郎」
「はい?」
「死ぬなよ?」
「えぇ、任務は全うしますよ。三郎様もご無事で」
俺の言葉に信長がニヤリと笑うと、俺は杯を空にして自宅へと戻るのであった。
翌日。
早朝上知我麻神社(熱田神宮)へと戦勝祈願に訪れた信長は、清洲城に戻るや否や戦支度を終えて飛び出していった。
赤母衣衆と黒母衣衆を含めた僅か50騎ほどがそれに追従したらしい。
今回の総大将・柴田権六郎勝家が2,300の兵を引き連れて清洲城を出立した。俺も自身の直属の25名を含めた遊撃隊130名の兵を引き連れている。その後織田軍は善照寺砦で兵を拾い上げて中島砦へと入った。
中島砦からは鷲津砦と丸根砦の方角に立ち上る黒煙を見ることができた。二つの砦陥落の報せは既に入っている。砦に詰めていた者たちは全滅だろう。
助けに行けなかったことを詫び、俺は砦の方へ黙礼をして出陣の準備へと戻る。
信長の指令をこなす為、出陣に向けて遊撃隊とこの後の話を詰めようと陣内を歩いていると、騎馬隊が駆け出すのが見えた。
「おい待て、まだ出陣の号令は出ていないだろう?」
「何だお主は!?邪魔立てをするな!」
「これは失礼。俺は遊撃隊大将の柳藤十郎信晃だ。佐々正吉政次殿、千秋四郎季忠殿、改めてどうしてこの様な真似を?」
成政の兄と上知我麻神社の宮司なんだが、この二人、血気盛んすぎて前のめりになりすぎなんだよ。
「知れたこと!権六郎は動きが遅すぎる!今川は既に尾張国に入り込んで来ているというのに、何をぐずぐずしておるのか!」
そりゃ4,000の軍を率いているんだ。そうそう簡単に動けてたまるか。
「はぁ、それで勝手に動こうと?お二人は何人の手勢で飛び出すおつもりで?」
「儂が180、四郎が120よ」
「たった300じゃ無駄死にもいいところですね。敵は20,000ですよ?」
俺がため息混じりにかぶりを振ると千秋李忠が激昂する。
「我らを愚弄するか!?」
「では証明していただけますか?1人で80人以上倒す手段があると?」
「そんなもの儂らが死兵となれば良い!小豆坂七本槍の妙技、味わわせてくれる!」
脳筋かよ!
「話にならないですね。そんなに飛び出したいなら、せめて我々と共に出て下さい。我々も猫の手も借りたいくらい人手が足りなくてね」
「何故儂らが貴様などの言うことを聞かね…ば…」
佐々政次は最後まで言葉を発することが出来ない。
俺の刀が喉元に突きつけられているからだ。
脳筋には力で分からせるしかない。
「私の言うことを聞いていただけますね?安心して下さい。私も権六郎殿の出立を待つつもりはありませんので、そんなに待つことはありませんよ?」
努めてにこやかに話す俺に、佐々政次は唾を飲み込むと頷くしかなかった。
「では、これより遊撃隊を集めて軍議を行いますのであなた方も来て下さい。いいですね?」
刀を収めた俺に、顔を顰めた佐々政次と顔を青くした千秋季忠は大人しくついてくるのであった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
その後俺は遊撃隊130、佐々政次隊180、千秋季忠隊120を引き連れ、中島砦を出立した。
勝家のおっさんには話を通したよ?信長から確りと話は行っていたようで、特に引き止められるでもなく、「儂の分も残しておけ」との言葉をもらってきた。
一応俺の役割は陽動だから、殲滅戦にはならないと思うんだけどね。
「おい、柳殿!」
「ん?なんだ、佐々殿?」
今川軍に向かって走っていると佐々政次が話しかけてくる。
「なぜお主は馬に乗らず走っておるのだ?」
「いや、馬には色々運んでもらわなければならないので、自分の足で走っているのですよ」
「いや、そういうことではなくてな…質問を変えよう。何故馬と同じ速さで駆け続けているのだ?」
「佐々殿、藤十郎様について、これしきの事で驚いていてはキリがないですよ?」
訳がわからないと言った顔の佐々政次に対し、利定くんと信賢が優しく諭している。
ちなみに利定くんも信賢も俺の直属の部下で、利定くんは普段は鉄砲大将、信賢は騎馬大将を務めているが、今回は物量差があり過ぎるのと地の利もないので鉄砲隊は全員馬に騎乗して槍を備えている。
「お前らなぁ、俺をなんだと思っているんだ?」
「んー、鬼神の如く、常人には計り知れないお方ですかね?」
「うんうん。我々矮小な人間で藤十郎殿を推し量ろうなど、烏滸がましいにも程があるな」
「それ、褒めているようで実は褒めてないよな?」
そんな与太話をしていると進行方向に軍勢が見えてきた。
2km弱で接敵か案外近いな。
「いいか、今回俺たちは寡兵だ。矢合わせなどやっていたら数の暴力に負けるだけだろう。なので、このまま突っ込むぞ!敵の鉄砲隊は俺が先陣を切って殲滅する!遊撃隊、佐々殿、千秋殿は俺の切り開いた戦線を維持、または押し広げても良い!暫くすれば権六郎殿率いる本隊も来る!まずはそこまで持たせろ!」
柴田のおっさんは一刻ほどで準備が整うと言っていた、そこまで俺たちの隊が残っていれば4,000の数でも押し戻せるくらいにはなっているだろう。
「この戦いは織田家が世に羽ばたく為の最初の戦だ!これより先の躍進を見たい奴は絶対に死ぬな!首を挙げようと死んでしまえばその先はない!遊撃隊は石に齧り付いてでも生き延び、三郎様の覇道に付き従うのだ!行くぞっ!!」
「「「うおおおおぉぉぉおおぉおっ!!!」」」
俺の号令に遊撃隊だけでなく、佐々隊、千秋隊からも鬨の声が上がる。
さて、いっちょ働きますか!
いまがわぐん が あらわれた!
〜ステータス〜
名前:柳藤十郎信晃
レベル:25 (948/2500)
年齢:26
種族:人間
所属:織田家
職業:側仕え/遊撃隊大将
称号:急成長
状態:健康
体力:240/240
気力:240/240
妖力:79(78+1)
力 :80(64+16)
頑強:71(59+12)
敏捷:60(59+1)
器用:65(57+7+1)
知力:60
精神:65(62+3)
幸運:50(44+6)
技術:剣術(全般)、槍術、無手格闘術、忍術(刀)、斧術、体術、急所突き、投擲術、解体、隠密、気配察知、夜目、飯綱の法、抵抗
必殺技:剣術 / 二連撃 ★★★★★、回転斬り ★★★★★、圧し切り ★★★★★
槍術 / 二連突き ★★★★☆
無手格闘術 / 正拳突き ★★★★☆、回し蹴り ★★★★★、後回し蹴り★★★★★
忍術 / 鎧貫き ★★★☆☆
斧術 / 兜割り ★★★☆☆
〜装備〜
主武器:無銘・直江志津兼近(攻撃力4+2)
副武器:忍刀・無銘(攻撃力2+1)
頭:鬼面前立の兜(頑強+3)
胴:仏胴(頑強+3)
腕:竹筒備えの玉滑りの籠手・仮(頑強+2、器用+1、妖力+1)
腰:佩楯(頑強+2)
脚:脛当て(頑強+2)
装飾品1:市のお守り(幸運+5)
装飾品2:ウサギの後ろ脚(幸運+1)
史実では死んでしまうこの2人、果たして生き残ることができるのか。
ちなみに本作では桶狭間の戦いは旧説と新説のミックスでお送り致します。
なんのこっちゃって人は是非調べてみて下さい。
恐らく20代後半より上の方は学校で習ったこととは大分違った展開になっているかと思います。
ジャンル別歴史(文芸)の小説を読みに来られている方々には釈迦に説法でしたかね…?
今回の舞台の地図を載せておきますので、ご参考まで。
桶狭間の戦い編 全体版
https://33376.mitemin.net/i474547/
桶狭間の戦い編 拡大版
https://33376.mitemin.net/i474548/
青字 →信長方
赤字 →敵方
家マーク →城
焚き火マーク→合戦場
使用ツール:GMapTools, Phonto




