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第二十一話 ゆき

いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

また誤字脱字報告ありがとうございます。


前話の九条禅閤のステータスで、陰陽術と飯綱の法を分けました。


織田市にするか、単に市とするか表現は悩みましたが、織田家の市ちゃんなのでこのまま行きます。

当時女性が家名を名乗ることはほとんどなかったですけどね。

デカい。


九条家を訪れた俺が抱いた感想はその一言に尽きる。


清洲城の御館の倍近い広さがある公家屋敷は圧巻の一言に尽きた。

屋敷の造りから、庭園の形式まで何から何まで違う。

また当然ではあるが、屋敷内で働く人々の服装も全く違うものになっている。


その中で俺の小袖に肩衣、袴姿の俺は著しく浮いていた。

まさか自分が公卿の家を訪れると思っていなかったので、当然(おう)の様な正装は持っていない。

だが京都に滞在する日程的に仕立てるのは無理だという旨を伝える為に九条家に使いを出したが、「いつもの格好で良いので来い」とのお達しがあり、馬鹿正直にその通りに来たのだった。


しかしそれは完全に失敗だった。悪目立ちした俺を態々控えの間に見に来る者さえいる始末だ。


視線に耐えながら暫く待っているとようやく準備が整ったのか、対面室に通されることとなった。

対面所に移動する途中もすれ違う人全てがこちらを見ている。初めて清洲城に行った時とも違う、完全に珍獣を見る目だ。


たがこれも妖力開放イベントの為、耐えろ、俺!




部屋に着くと九条(くじょう)禅閤(ぜんこう)は既に部屋にいて俺を見るなり笑い出す。


「ほほほ。本当にそのまま来るとは相も変わらず面白い男よの」


おめーが言ったんだよ。この狸親父!


「いえ、無精者で襖も用意できず申し訳ありません」


「よい、よい。端からそんなことは期待しておらぬ」


そーかい、そーかい。ならこっちだって開き直ってやらぁ。俺はズカズカと部屋に入り、九条禅閤の対面に座り込む。


「して、儂の誘いに応じたということは、儂の秘術を知りたいということでよいかの?」


早速か。だがその前に確認しなければならないことがある。


「その前に、何故私にその秘術を伝えようと思ったので?九条禅閤様ほどのお方であれば、私の様などこの馬の骨とも知れぬ者に秘術を伝える必要はないでしょう?」


「ふむ、すぐに食いついてくるかと思うたが。何故その様なことを?」


「失礼ながら申し上げますが、貴方様が纏う気と言いますか、それが以前我が主人の御館に忍び込んだ何かに似ております。得体の知れないものが善きものか悪しきものかも判らぬうちに、それを身に付けることは、私の大切な方を傷付ける事になりかねません。しからばまずはその正体を明かすのが第一かと」


妖力開放イベントを達成!デデーン、市は不幸になりました!なんてオチは絶対に認めない。俺はハッピーエンド信者なんだ。仮にこれで妖力が手に入らなかったとしても、一番大切なところだけは譲れないのだ。


「ほ。物の道理は弁えておるようだの。何、儂も誰彼構わずという訳ではないぞよ?

お主を選んだ理由じゃったか。簡単なこと、お主の感じる力の強さに興味があっての。今までに息子や弟子たちにもこやつら(・・・・)を見せてきたが、あそこまで劇的な反応を示したのはお主だけじゃ。

儂ももう50を超えて、いつ彼岸に呼ばれるかもわからん。じゃというのに儂が修めた術理を引き継ぐに足る者はおらず、泡沫(うたかた)の術となるかと思ったところに、ようやく見つけた素質を持つ者がお主じゃ。これで納得するかの?」


なるほど。後継者不足で断絶するかと思ったところに候補が現れたらそりゃ声をかけるな。


「私に声をかけた理由は承知致しました。それで、その術は善きものですか?悪しきものですか?」


「ほほほ、そんなものお主次第じゃ。術理とはな、お主ら武士(もののふ)の刀と同じじゃ。使い方次第で己も周りも幸にも不幸にもできる。それに儂を見よ、何事もなかろう?」


術理は道具と同じか。まぁ自分を見て何事もないと判断しろってのは信用の問題だが、少なくとも健康であることは間違いないし、九条家がなにか不幸そうな様にも見えないから、一先ず信用するしかないか。


「では最後に。仮に貴方様の術理を修めたとて、私は織田家を離れることはありませぬ。それでもよろしいでしょうか?」


「ふむ。それはお主の言っていた大切な方というのに関係しておるのかの?まぁよい、構わぬ。この際術理を継いでさえくれればそれで良い」


これで一応の問題はクリアか。

俺が不安に思っていたことは杞憂だった。それであれば妖力開放イベントを全力で進めるまでだ!


「であれば、不肖、柳藤十郎信晃。この身に九条禅閤様の秘術を受け賜りたく。よろしくお願い申し上げます」


「うむ、励めよ」




・・・・・・・・・




・・・・・・




・・・




「さて、まずはお主が感じている気だがの、これは古来より通力などとも言われておるものじゃ。通力には大きく五種に分けられる。道通(どうつう)神通(じんつう)依通(いつう)報通(ほうつう)妖通(ようつう)とある。儂が使うのはそのうち依通にあたるものじゃ」


それぞれ説明を聞くと、

道通・・・苦行快楽のどちらに傾くことなく中道の理を悟ることで、物事の本質を捉える力

神通・・・瞑想などにより宿命を知る通力

依通・・・護符や薬などの道具や呪文を用いることで得る通力

報通・・・業の果報として得る通力

妖通・・・妖怪や人ならざる者のもつ通力

ということらしい。

九条禅閤は竹筒を使ったり、符術を用いるから依通ってことね。


「でも護符や薬を用いたからといって誰にでも通力が使える訳ではないんですね?」


「然り。だが気を付けねばならぬのは、それらの物の中には通力を使ううちに物自体に力が宿り、誰が用いても通力が発現することがあるでな」


「道具の管理はしっかりしろってことか…」


「ちなみにそれらの物を用いたからといって、術者に通力が宿ることはない。あくまでも通力は当人の資質に拠るものであるからな」


「では資質があって通力を得ていない者が、力の宿った道具を用いた場合、通力を得ることはあるのですか?」


「ふむ、それは試したことがないのでわからぬな。そもそもお主の様に明らかな資質を持つ者に()うたことがないからの。どれ、試してみよ」


そういうと九条禅閤は懐から例の竹筒を取り出し、俺に渡してくる。相変わらずゾワゾワする雰囲気を醸し出している。


「ほれ、腰が引けておるぞ。それをそうじゃな、庭の木に向けて"出ろ"と念ずるのじゃ」


言われるがまま、俺は障子を開け、庭の木に向けて"出ろ"と念ずる。すると身体からズルリと何かが抜ける感触がした。





ドバァンッ!





次の瞬間には木の幹が弾け、メキメキと音を立てて倒れていく。


その有り様に俺も九条禅閤も絶句する。俄かに屋敷内が騒がしくなり、刀を持った侍たちがやってきた。敵意たっぷりでこちらに刀を向けてくる。

ステイステイ!俺悪クナイ!


それを見て正気に戻った九条禅閤は侍たちを下がらせ、俺と共に部屋へと戻る。


一応ステータスを確認してみると気力が減っていた。あの持っていかれる感触は気力だったんだな。

竹筒から何かを撃ってから5分ほど経つので、消費気力は50ってとこか。



〜ステータス〜

名前:柳藤十郎信晃

レベル:19 (1048/1900)

年齢:22

所属:織田家

職業:側仕え/遊撃隊大将

称号:急成長

状態:健康

体力:180/180

気力:160/180

妖力:-

力 :68(52+16)

頑強:50(46+5)

敏捷:48(47+1)

器用:53(46+7+1)

知力:48

精神:52(49+3)

幸運:41(35+6)

忠誠:100(織田市)

   90(織田三郎信長)



残念ながら妖力はまだ解放されていない。

ただ九条禅閤のステータスから想像するに、妖力はいわゆる魔力のようなもので、術を使う為には気力を消費する。今後術が使えるようになると、より一層の気力管理が必要ってことだな。


俺がステータス検証をしていると、九条禅閤は愉快そうに俺を見てくる。


「まさかあれほどの事態になるとは、ほんにお主は儂を飽きさせんの」


「私の意図したことではないのですが。ちなみにあの竹筒はなんなのですか?」


「ほ。あれは管狐といってな。細い筒の中に潜む狐の妖よ」


ん?妖?

違和感を覚えたが九条禅閤は話を続ける。


「しかしお主は其奴に懐かれたようじゃの」


「懐かれた?私の目には何も見えませんが」


「名を与えることで、見えるようになるのではないかの」


名前か。とはいえ俺に名付けのセンスはないんだよな。

うんうん悩んでいると、ふと庭の景色が目に入る。


「九条禅閤様、狐というからには毛皮がありますよね?この管狐の毛皮は何色ですか?」


「白いの」


この季節に出会った白い管狐か。


「ではお前の名前は"雪"にしよう」


そういうと俺の目の前にぼんやりとした影が浮かび、だんだんと輪郭がハッキリとしてくると、そこには小さな白い管狐がいた。


「キューッ!」


「お、中々可愛い顔しているじゃないか。これからよろしくな、雪」


そういうと雪は細い身体を俺の指に巻きつけ、顔を擦り付けてくる。はは、かわいいやつめ。


「ほほ。これでお主も飯綱の法を修めたの。なんの修行もなしとは、お主生得(しょうとく)の力があるのかもしれぬな。どれ、この竹筒は祝いにくれてやろう」


そう言って九条禅閤は俺に竹筒を渡して来た。

すると雪は竹筒の中に入り込んで行ったので、俺はその筒を懐に仕舞い込んだ。




「さて、まさかこんなに早く後継出来るとは思わなんだ。これでお主は飯綱の法の正統な後継者となった…「お待ち下さい」」


これで終わりにしてもらっては困る。

何故なら俺はまだ妖力に目覚めていないからだ。


「私はまだ通力に目覚めたわけではありません。貴方様は先程五種の通力があると仰いました。道具を用いる通力は依通とも仰いました。ですが先程、管狐は妖と仰いました。飯綱の法は依通ではなく、妖通なのではないですか?その為、私は飯綱の法を修めてもそれは管狐の妖通を借りているだけで、自身で通力を得られてないのではないでしょうか?」


「なんと、そんなことが…」


九条禅閤が驚きに目を見開き、心なしか声も震えている。

そうか、ひょっとしてこの手の術理は陰陽道などで通力を得てから、調伏なのか契約なのかで術を修めるのが一般的で、そこに考えが至らなかったのかもな。


「このままでは私は貴方様から受け賜った飯綱の法を正しく後継できませぬ。私はたまたま資質が高かったので、このやり方で修めることができたのかもしれませぬが、そうでない者は先に依通を修め、通力を受けた後でないと飯綱の法を修められないかも知れません。どうか、私に依通を授けて頂けないでしょうか?」


ステータスであんたが符術を使えるのは割れてるんだ。ここは強気に攻める時!


「お主の言う事にも一理ある…ここでお主に繋いでも先がないのであれば意味はないか…」


そう言うと九条禅閤は頷き、何かを決意したようにこちらを強く見つめてくる。


「仕方あるまい。我が秘術を正しく後世に残す為、陰陽道の術理を授けよう。但し、通常は長い時をかけて修める理じゃ。お主が後どれだけ京におるのか分からぬが、それで修めきれない場合、上総殿とは帰らず、ここに残ってもらう。良いな?」


げっ、それは困る。というか信長が俺を残していくわけがない。下手すりゃ刃傷沙汰だぞ。


「兎にも角にも今日は一度滞在先に戻るが良い。明朝また来やれ。そうじゃ、毎日その格好ではここでは落ち着くまい。明日までに襖を用立てておくでの。次からはそれを着て参れ。誰かある!客人の身丈を調べ、襖を用立てよ!」


そう言うと何名かの女中がやって来て俺の身体のサイズを測っていく。

俺はこの時代ではかなり背が高いはずなんだけど、そんなに早く用意できるもんなのかな?




何はともあれ今日のところは飯綱の法を修めることが出来た。

肝心の妖力は解放されなかったが、それは明日以降だな。


しかし明日以降の事をどう信長に説明したことか、と考えを巡らせながら、俺は織田家屋敷へと足を向けるのだった。

一話で終わらなかった_(:3」 ∠)_


説明パートになると長くなっちゃいますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 管狐を押し付けスパイにするのが真の目的でなければ良いが…… 妖力もまだ九条のおっさんが使役中でパス的なのが繋がらない結果に見える (表向き)解放に至らないのも本家本元が気付かない訳がないのに…
[一言] 修めきるまで織田家に返してあげないんだからね!って言われたと信長に報告するん? 完全に取り込まれていると判断されても仕方ないw
[良い点] テンポ良くてすき
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