第二十話 みえない なにか
大変遅くなりました。
本業都合ではありますが、来週から水曜日は更新しないかもしれません。
さて、今回の京都への上洛の目的は、尾張統一を果たした信長がその旨を幕府に報告し、統治を正式に認めてもらうということだ。
これを怠ると、万が一正式な任を受けている者が決起したときに大義名分が敵方に出来てしまうからだ。
と、いうことで現在信長は室町幕府第13代将軍 足利義輝への謁見に臨んでいる。
俺は護衛として足利将軍家の屋敷まで帯同し、今は控えの間でお留守番である。
花の御所と言われる足利将軍家の屋敷ではあるが、今は雪に覆われていて美しい花々は見れなかった。しかしよく手入れがされた庭園は雪を被っていても美しい様相を示していた。
降り続ける雪は音すらも覆い隠す様に庭に降り積もり、一面の銀世界をそこに作り出していた。
さて、足跡ひとつない雪面を見ると、そこに足を踏み入れたくなるのは人間の性だろうか。
「庭に出るな、とは言われてないしな」
そうして庭に出て、しばらく雪の庭園を楽しんでいた俺だが、唐突にその時間は終わりを迎えた。
ゾワッ
気温の低さから来るものではない寒気。
"気配察知"ではそこにいないことになっているのに、間違いなく何かがいる感覚。
以前市の部屋の前で感じたあの感覚に、俺は即座に飛びすさり、何が起きても対応が出来る様に警戒態勢を取る。
その感覚の方向に視線を向けると一人の老僧がいた。
「ほう、お主、これが見えておるのか?」
愉快そうにこちらを見る老僧に対し、俺は警戒しながら"ステータスオープン"をかける。
〜ステータス〜
名前:九条禅閤恵空
レベル:24
年齢:51
所属:九条家
職業:公卿、陰陽師
称号:九条家元当主
状態:健康
体力:80/80
気力:90/90
妖力:42(39+3)
力 :18
頑強:27(20+7)
敏捷:28
器用:21
知力:30
精神:24
幸運:22
忠誠:98(正親町天皇)
技術:陰陽術(符術)飯綱の法
〜装備〜
主武器:鉄扇(攻撃力2)
副武器:なし
頭:なし
胴:陰陽僧の直裰(頑強+3, 妖力+1)
腕:(陰陽僧の直裰)
腰:陰陽僧の五条袈裟(頑強+2, 妖力+1)
脚:陰陽僧の切袴(頑強+2, 妖力+1)
装飾品1:竹の小筒
装飾品2:なし
うおっ、妖力持ち!?初めて見たぞ!
しかしこのおっさんのレベルめちゃくちゃ高いぞ?勝家のおっさんより高いって何事だ?
ようやく出会えた妖力開放の手掛かりではあるが、相手が纏う雰囲気に素直に喜べない。
陰陽術はやはり魔法みたいなものか?
符術は想像がつくが、飯綱はなんだ?この寒気がその正体なのか?
ぐるぐると思考が回るが、必要なピースが足りなさすぎて答えが出ない。
まずは情報を集めないことには判断もつかないと考えた俺は会話を成立させることにした。
「いえ、見えてはいません。ただ何かがいる、と」
「ふむ」
そういうと九条禅閤は懐から親指ほどの太さの竹筒を出し、それをこちらへと向ける。
その瞬間、あの寒気が一際強くなった。
俺が竹筒の射線から飛び退くと、俺がいた場所に小さな穴が開く。
「見えてはいないというが、ここまではっきりとこやつらを認知しているとは、面白いやつじゃ!」
そうして笑う九条禅閤に対し、俺は警戒を緩めない。
得体の知れない攻撃だ。今回はたまたま避けれたが、射線が直線だけとは決まっていない。喰らって無事でいられる保証もない。
俺はどんな違和感も見逃さないように、一層緊張を高める。
そうして向かいあってどれだけ時間が経っただろうか。極度の緊張から時間の感覚は既に失われている。
最早相手が公卿とか関係なく、こちらから仕掛けるかと一歩踏み出そうとしたところで、新たな人物がこの場にやってきた。
「九条禅閤様、我が家の家臣に何用ですかな?」
「ほ、上総殿か。腕力だけの田舎大名かと思ったら中々面白い者を飼っているではないか」
田舎大名と言われた信長の額に青筋が浮かぶ。いや、声をかけた時から既にぶち切れモードだったかもしれない。いつもなら叩っ斬るくらいしそうな有り様だが、流石に公卿相手だとそうも行かないらしい。
「九条禅閤様にも此奴の価値がわかりますか。中々に得難い者です。某に惚れ込んで我が家に臣従するとは見る目もあるようで」
「ほほほ、意外と愉快なことも言えるのだな」
うん、バッチバチに火花飛ばしてやがる。
俺を出汁にして喧嘩すんのやめて!いつ飛び火するかわかんねーじゃん!
それに出来れば相手の手の内がわかるまではやめて頂きたいものだ。
「九条禅閤様も態々こちらに参られたからには火急の用があるでしょう。某の用は終わった故、我らはお暇致します。では、行くぞ」
俺の情報はなるべく出さない方向で行くらしく、家名も字も呼ばずに催促してくる信長に歩み寄ろうとした俺は、九条禅閤の言葉に足を止めざるを得なくなる。
「お主、中々に見所がある。もし望むならこの力、儂自ら手ほどきをしてやっても良いぞ?」
何?それってつまり符術と、さっきの謎の術の取得イベントってことだよな?これを逃す手はない!
「儂は暫くは九条家の屋敷におる。番所には話を通しておくでの。気が向いたらくると良い」
そう言うと九条禅閤は踵を返し、屋敷の奥へと消えていった。
それを見送り、俺たちは今度こそ帰り支度をすることにした。
だが、先ほどの九条禅閤の言葉が気になって帰り支度にも身が入らない。
気になるもんはしょうがない。俺は腹を括って信長にお伺いを立てることにした。
「三郎様」
「ならん」
一刀両断かよ!
「公卿の戯言よ。彼奴らは言葉巧みに人を弄ぶ。我ら武家の者とは相容れぬ者よ」
「しかし得体の知れない技を使うのも事実。以前市の寝所で夜更に物音がすると騒ぎがあったのを覚えておられますか?九条様からはあの時と同種の雰囲気がします。得体の知れないものに対して、何も知らないままでは次も守れるかわかりません!どうか、俺に再び九条様に会う許しを下さい!」
俺は土下座をして信長に許しを乞う。
信長が公卿を嫌っていようが、それはそれ、これはこれ。この機会を逃すと次はマジで10年後だろう。こっちも必死なんじゃい!
「そうか、市の為か」
「あぁ」
せっかくの妖力開放イベントを逃したくないという気持ちも勿論ある。ただこの機会に妖力の正体が知れれば、市を守る為により良く立ち回れるに違いないという気持ちも本当だ。
暫くそうしていると、信長はついに折れ、ため息をつきながらも許しを出すのだった。
「好きにせい。だがお主の都合で帰り路の日取りは変えぬ。公卿に取り込まれることも許さぬ。いいな?」
「ありがとうございます!」
『クエスト「陰陽術を学べ」がアンロックされました』
こうして信長の許しを得た俺はまだ見ぬ新しい力への期待に胸を膨らませるのであった。
イズナ…竹筒…もう答えはわかりますね?笑
若い女の子ってのも一瞬頭をよぎりましたが、流石に世界観ぶち壊しどころじゃないだろうということで自重しました。




