閑話 やなぎ とうじゅうろう という おとこ
昨日は急遽投稿をお休みさせて頂きました。
投稿をお休みする際は、可能な限り事前に活動報告にてお知らせするようにします。
今後とも拙作をよろしくお願いします。
昨日休んでおいてなんですが、ちょっと短めです
_(:3」 ∠)_
・所属を作中の表現に合わせました。
織田家→織田弾正忠家
・利定くんの忠誠心の値が間違っていたので修正しました。
私の名前は坪内喜太郎利定だ。
元は織田伊勢守家に仕える坪内家の次男であったが、徒士頭として出兵した下津の戦いが私の運命を大きく変えた。
柳藤十郎信晃殿、鬼柳とも矢薙ぎの藤十郎とも言われるこの方は、私の心を完膚なきまでにへし折ったのだ。
400の軍勢を前にたった一人で立ち向かったかと思ったら、刀の一振りで幾人もの首を飛ばし、矢の雨を無傷で切り抜ける。立ちはだかる鎧武者は文字通り一刀両断、ひと蹴りで何人もの兵をなぎ倒す。まさしく鬼だ。
逃げ出した総大将を責めることが果たしてできるだろうか。あれを見たら逃げ出したくなる気持ちはわかる。
だが自分たちを見捨てて逃げ出した者と、鬼を召し抱える者のどちらに従うべきかなど、悩むまでもない。
私を含めた残された者はほとんどが三郎様に帰順し、新たな主君のために働くこととなった。
織田弾正忠家に仕えた私はその柳殿の補佐役として勘十郎達成との戦、稲生の合戦に出陣する事になった。
藤十郎殿の飛び抜けた能力は弾正忠家でも受け入れにくいのか、その武威を目の当たりにした私が新参者ながら補佐として抜擢されたのだ。
通常は戦前の軍議で任命される武者大将だが、今回は異例の三月前に内々に任命されていた。
戦場でのあの方の印象が強すぎて当初は目の前に立つだけで冷や汗が止まらなかったものだが、いざ話してみるととても気さくで、私の事も気にかけて下さる方だった。
三郎様が提案した鉄砲隊について運用を任された藤十郎殿はあろうことか鉄砲大将を私に任せると三郎様に掛け合い、三郎様の師匠である橋本伊賀守一巴様に渡りをつけ、鉄砲隊の指導をしてもらう約束を取り付けた。
今でもなぜ私を鉄砲大将に任じたのかは分からない。一度藤十郎殿に聞いてみた時には「砲術すきるが…」と仰っていたが、その後は「性に合っている気がした」と言葉を濁され真実はわからないままだ。
また藤十郎殿は火縄銃の連射ができないという欠点を即座に見抜き、瞬く間にそれを解決する戦術を打ち立ててしまった。
当初は隣の者とぶつかることで転んでしまったり、弾込めの熟練度の違いから一斉射撃にならず、中々上手くいかなかった。
それを見た藤十郎殿と伊賀守様が話し込んでいたが、伊賀守様の子供みたいなはしゃぎ方が印象的だった。
その後の地獄のような鍛錬は思い出すだけで気が遠くなる。特に最初の一月を丸々使って行われた団体行動。一歩の幅から腕の振りまで揃えさせられ、一人でも他の者と違う動きをすると、連帯責任で全員追加の鍛錬が課せられる。
自分が間違えても鍛錬、他人が間違えても鍛錬。
最初は他人が間違えると、その者に対して怒りの視線を向けていたが、一度も間違えない完璧な人間などいない。多かれ少なかれ己のせいで鍛錬が起きるのだ。連帯責任が五十を数える頃には、皆悟りを開いたかのような顔をしてお互いに意見を言いながら動きを揃えていくのであった。
その後の稲生の合戦では鍛錬の結果を万全に発揮し、200近い先鋒を僅か60の鉄砲隊が殲滅するという大戦果を上げることができた。しかしその戦果に勢いづいて白兵戦に挑んだものの、藤十郎殿が途中で「三郎様の元に戻るからここは一旦任せる。すぐ戻る」と言って本陣に向かわれた時はどうしてくれようかと思ったものだ。
敵兵が藤十郎殿がいなくなった事で息を吹き返したかのように勢い付き、戦線が膠着状態になってしまったのだ。
だが我々も各兵科の大将を任された身。まだ人数差があるとは言え、藤十郎殿がいなくなったから負けましたなど情けないことは口にしたくない。
何とか膠着状態を保ち、帰ってきた藤十郎殿にあっという間に林通具が討たれたことで、柳隊の戦は終了となった。
というのも三郎様の窮地を救い、林通具を討ち取ったことで藤十郎殿がこの戦で挙げる戦果が飛び抜けたものになってしまい、各武将との調和を保つために前線に出ない、というとんでもない理由があったのだ。
武者大将を討ち取られた佐々成経殿の隊を、森三左衛門殿と、佐々成経殿の弟である佐々内蔵助殿が、そして我々柳隊を織田造酒丞殿と前田又左衛門殿が率いて、他の三隊と共に末森城へと攻め込む事になったのだ。
結果的に稲生・末森城の合戦では鎌田助丞、富野左京進、山口又次郎、橋本十蔵、角田新五、大脇虎蔵、神戸平四郎、津々木蔵人といった勘十郎達成方の主だった武将が討ち取られた。そのうち津々木蔵人は私が首をあげた者だ。
この戦いにより藤十郎殿は常設の武者大将に任じられ、平時は小姓と、お市様の側仕えを兼任するという異例の職責を持つことになった。
それにより藤十郎殿は長屋から屋敷に居を移すことになり、私は藤十郎殿の補佐役として屋敷の一室を与えられることになった。
当初は衆道の意味もあるのかと思っていたが、あくまでも身の回りの世話役といった意味合いが主なようだ。というのも藤十郎殿は複数の職責を担っている事により、その職務も多岐に渡る。その為関連する書類も莫大な量になり、整理が追いつかないのだ。重要な書類も多く、素性の知れない者に任せるわけにもいかないという事で、何故か信頼を得ている私に白羽の矢が立ったというわけだ。
ちなみに藤十郎殿に衆道の気はなかった。そういうつもりで近寄るのであれば叩っ斬る、と殺気と共に言われた時は本気で死を覚悟してしまった…。
さてそんな私の上司であるが、時たま常人には理解のできない事を言うことがある。
本日申し付けられたのは、火縄銃で藤十郎殿を撃てとのことだ。
最初は頭でもおかしくなったかと思って理由を聞いてみれば、「今回の戦いで鉄砲隊が大戦果を挙げたのだから、敵方にも鉄砲隊を配備する家が出てくる可能性がある。ならばその時に弾を斬れるようになっておかないと身を守れないだろう?」とのこと。
うむ、頭がおかしかった。
火縄銃の弾を斬る?目にも留まらぬ速さで飛ぶ物を斬ることなど出来るわけがないだろう!
藤十郎殿が織田弾正忠家にとってどれだけ重要な人間なのか、それ故に馬鹿げたことをやめるよう強く申し上げたが藤十郎殿は頑として譲らず、結果として私が藤十郎殿の横に置いた的を撃ち、それを藤十郎殿が斬り払うというやり方を取ることになった。
結論から言おう。
斬りやがった。しかも三発連続で失敗することなく全て真っ二つだ。
しかし斬り払えるが弾が止まるわけではなく、真っ二つになった弾がそのまま的に命中することになった。
それを見た藤十郎殿は「まんがやあにめのようにはいかないかー」とよくわからない感想を述べていたが、戦場で実行するのは諦めて頂けたようだ。心の底から良かった。
だがそれで終わらないのがこの方である。
「よし、斬るのが無理なら弾く方向で行こう。正面から受けるのは現実的じゃないから、滑らせながら軌跡を変えるのが一番いいかな。早速具足奉行に行って…いや、もう具足師に直接相談に行く方がいいか!その前に伊賀守殿にも意見を聞いてみて…」
そう言って心底楽しげに語り始める藤十郎殿を見て、改めて思うのだった。
やはりこの方、頭がおかしい!
ちなみに信晃が利定くんを信用しているのはステータスで所属や忠誠心が見えているからです。
基本的に忠誠が80超えていれば問題なし!の判定。
勝家のステータスみて、判断基準どうするべきかが藤十郎の最近の悩み。




