第十四話 はじめて の ろんこうこうしょう
いつも拙作をお読み頂きありがとうございます!
今回はちょっと短め。
「此度の働き、大儀であった」
信長と共に無事に清洲城に帰還した翌日、俺は下津の戦いでの褒美をもらうことになった。
首実検により俺は林某と福田某等、馬廻を含む6名の首を討ち取っていたことがわかった。
今回の戦いでは信安軍(大将は信賢)は83名の戦死者、18名の重傷者を出し、そして徒士頭を筆頭に284名が降伏している。控えめに言っても大敗である。
それがたった一人で行われた事は、織田弾正忠家家臣団には驚愕と畏怖を以て伝えられた。
そんな馬鹿な、と信じない者もいたが、兵を率いて出て行った馬廻衆・前田又左衛門と佐々内蔵助両名に加え、徒士頭・森三左衛門の証言により、事実として受け入れられた。
「柳藤十郎には感状と俸禄を与える。またこの先の戦働きを期待して軍議への参加も認めよう」
「ありがたく受け賜ります」
今回は攻め込まれたのを撃退しただけなので、弾正忠家に身入りはない。むしろ降伏した者を受け入れている関係で財政は厳しくなる方向だ。そんな状態で運営するだけの知識も手腕もない俺が土地を貰ったところで意味はない。
まぁぶっちゃけ感謝状をもらっても箔はつくだろうけどただの紙だし、毎食2品増える方が嬉しいよね。
それに朝一で市に会いに行った時は緊張の糸が解けたのかワンワン泣かれたけど、最終的にはとびきりの笑顔とお褒めの言葉を頂けたので、今回はこれで満足です。
「ではこれにて論功行賞の議を終わりとする。これより、織田勘十郎達成との戦についての軍議を始める」
今回は俺が最後の戦功褒賞授受者ということで、続け様に達成との戦に向けての会議が始まる。司会進行はいつもの如く恒興さんだ。
恒興さんからは信光に続き道三が死んだ事で達成が攻め入ってくるであろうこと、それにすぐ呼応して対応できるように備えをしておくことがその場で命じられた。その際の注意点としては兵は集めず資材のみを集めておくことが厳命された。
まぁ戦に動員するような数の人の動きを完全に隠すのは無理だからな。清洲城の中だけに限定しても遅かれ早かれ情報は漏れるだろうが、なるべくギリギリまで水面下で動きたい、ということだ。
会議が終わって俺も準備に向かおうとすると、弾正忠家の重臣である佐久間半羽介信盛と成政の父である佐々大内蔵助成宗が声をかけてきた。
「柳殿、此度の戦働き、誠に見事にございました」
「いやはや儂の息子も急ぎ出立しましたが、戦場に辿り着く前に終わっていたと漏らしておりましたよ。しかし三郎様の元にこれほどの剛の者がいたとは、頼もしいものですな」
「ありがとうございます」
「本来であれば知行を与えられてもおかしくない働きでしたが、此度は残念でございましたな」
「いえ、私にはまだまだ学ばねばならないことがありますので。今知行を頂いても持て余してしまうだけですよ。軍議に参加させて頂けるだけでも大出世です。これ以上は望みませんよ」
そういうと今度こそ俺はその場を立ち去った。
信晃が立ち去った後、信盛と成宗は密談を交わす。
「して半羽介殿、どう見ます?」
「400の軍勢に対して無傷とは最早人ではない。その働きに対して戦功褒賞がかなり少ないと感じたので突いてみたが、特に不満は見られなかった。あれが勘十郎様に靡くことはないな」
「然り。一人で戦局をひっくり返せる存在など敵対するべきではないですな。それに三郎様の周囲には勝三郎殿や又左衛門殿など優秀な若手も多い。勘十郎様に彼らが臣従するとも思ませぬし、ここは三郎様について将来に期待する方にかけますか」
信晃の働きによって二人の武将が信長方に付くことを決めた瞬間だった。
さて、下津の戦いでレベルは上がらなかったが、あたらしい称号が手に入っていたので、道すがら確認をする。
称号:一騎当千
備考:一対多の戦いに勝利した証。複数の敵を相手取るとき、全能力が5上昇。
称号:矢薙ぎの藤十郎
備考:矢の雨を無傷で切り抜けたことから敵兵に恐れを以て付けられた名。敵の矢が逸れ、当たりにくくなる。
称号:鬼柳
備考:敵兵から悪鬼羅刹と恐れられた証。敵が恐慌状態に陥りやすくなる。
一騎当千は便利なセット効果があるな。ただ今の俺のステータスで+5されてどれくらい効果があるのかが微妙なところだ。
矢薙ぎの藤十郎については完全に死に称号だな。だって矢くらい自分で避けれるし、なんなら掴めるし。というか柳に矢薙ぎって誰が上手いことを言えと?
鬼柳に関しては文句を言いたい。何だよ悪鬼羅刹って!風評の改善を要求する!
ただこれでわかったのは称号はシステムが決めているものの他に、世の中で広まったものも適用されるらしい。今回は効果が微妙だったけどいつかいい称号がくるといいなぁ。
結局暫くは"織田家の姫君の救世主"と"急成長"の2つで運用する事になるんだろうな。
家に帰り着くと具足の整備を始める。とは言え無傷だったのでやる事はそんなに多くない。構成部品をつなぐ紐がほつれていないかを確認し、内側の当て布を張り替える。具足奉行に任せるのが一番楽ではあるんだが、痒いところには手が届かないので結局自分で手入れをすることになっていた。
ぶっちゃけ当て布の張り替えをしているのは俺くらいだろう。だけどいくら攻撃を喰らわなくても、汗はかくのですごく臭うのだ。
他の人たちは気にならないと言っていたけど現代人の俺には考えられないんだよなぁ。
具足の整備が終わる頃、まつちゃんがやってきて夕飯のお誘いをしてくれた。
なんでも戦の準備のため馬廻衆は集められており、利家くんは今日は夜遅くまで帰ってこないとのこと。
俺?俺は小姓の中でも特殊な業務体系なので、早く帰れる時は本当に帰りが早いのだ。
ご飯をよそってもらっていると、まつちゃんが具足の整備について訪ねてくる。
「そういえば藤十郎様はご自身で武具の整備をされているのですね?」
「ん?あぁ、ちょっと色々具足奉行じゃやってくれない事があってね。ほら、内側の当て布って洗ったり変えてくれないだろ?臭ってしょうがないし、何より汚くてね。気にしすぎかな?」
俺がそう言うとまつちゃんは眼から鱗が落ちたと言わんばかりに力強く賛同してくる。
「いえ!藤十郎様は身嗜みにとても気を使われているのですね!確かに又左衛門様が鎧を着込まれた時は、その、ちょっと臭いが気になるので…」
「ははは、又左衛門殿が聞いたら気を落としそうだな!金物の手入れは具足奉行がやってくれるから、布物だけ自分でやるのはいいと思うよ?手慣れてくればまつちゃんでも出来ると思うし。今度又左衛門殿がいる時に聞いてみようか?」
「はい!是非お願い致します!藤十郎様、ありがとうございます!」
ふんす!と自分も利家くんの役に立つんだと意気込むまつちゃんを微笑ましく思いながら、まつちゃんの料理に舌鼓を打つのであった。
そうして戦の準備が始まって三ヶ月が経った頃、達成が挙兵したとの報せが清洲城に飛び込んで来たのだ。後の世に言う、稲生の戦いの始まりである。
佐々成宗の字は作者の創作です。内蔵助の父だから大内蔵助。適当とか言わんでください_(:3」 ∠)_
柳と矢薙ぎは最初から狙っていたわけではありません。完全に偶然の賜物です。
あと本業の方が忙しくなってきたので、明日からは更新は1日1話になります。投稿時間は考え中です。




