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その5 カレンがまた歌ってくれた


 ボクたちはタンポポの謎行動で危機に陥り、そしてまたその謎行動で危機を脱した。


 巻き込まれた側はカエルも含めていい迷惑なのである。


 目の前で倒されたモンスターが、光り輝いて自身をアピールしている。

 光るカエルの外灯として置いとけば、暗い夜道も安心そうな輝きだけど、モンスターは倒されてしばらくしたら消滅するんだっけか。


「凄いよ! こんな方法があったなんて! タンポポちゃん天才! あーでもこれじゃお肉にはできないかー」


 すみません、天才ではなくただの酔っ払いです。どちらかというと天災ですね。


 確かにこんな光ったお肉を食べたがる奇特な人はいないだろう、食べたら自分がポックリいきそうだし。


 感心したり残念がったり忙しそうなカレンは、その辺をキョロキョロと何かを探していたかと思うと、探し物を発見して拾う。


「見つけた、さっき落としてたんだね。だからカエルが寄って来ちゃったんだよ、ゴメンね」


 それはカエル避けの『アカネラッコの皮』である。


 落とした途端にこの有様では先行き不安で仕方無い、いっそお財布の中に入れちゃえばいいのに。


 腰のベルトに『アカネラッコの皮』を取り付けているカレンを見ていたら、先ほど抱きついた彼女の腰の感覚が蘇ってきた。


 柔らかかった……


 そう思った瞬間足の力が抜けて、ボクは気がついたら洞窟に横たわっていた。

 カエルの『ベロオオオオオ!』攻撃と、カレンの腰でヒットポイントがガックリ減っていたのを思い出したのだ。


 タンポポが心配そうに近づいてきた。

 って踏んでる踏んでるボクの足踏んでる、ちゃんと下見て歩いてください。


 ちゃんと下を確認してから何でボクの顔を踏もうとしてるんですか、さてはこの前のタンポポオジサンの顔を踏んだ事への仕返しですね?

 あれはあなたがやれと言ったんですよ、せめてそのローファーは脱いでください。


 タンポポは足を大きく上げて、片方の自分の足を踏んだ。

 もうワケがわかりませんこの酔っ払い。『キャッキャ』じゃないですよ。


「待ってて、今回復薬出すから」


 カレンが慌ててポーチから薬を取り出す横で、タンポポもボクを覗き込んでいる。


 タンポポさん、その苔は回復薬じゃないから捨ててください。

 ボクが冒険者の町でスターとして光り輝くのはもう少し後でいいですから。

 

 回復薬を飲まそうとしてカレンがボクの頭を抱き締めて膝に乗せた。

 これが決定的な一撃となったようで、ボクはカレンの膝の上でカクンとなったのである。



 ふわふわとした感覚がある。ボクは寝ていたのか。


 何か聞こえてくる……

 これは日本の歌……

 懐かしい歌だ、昔よくテレビで流れていたっけ。


 なんだ……

 結局ボクは転生した夢を見ていたのか。起きたらもう夏休みか。


 ゆっくり目を開けると、カレンがボクを膝枕して頭を撫でて歌っているところだった。

 大慌てで起きる。


 さっきまで冒険者ギルドでオジサンを膝枕するイベントをやっていたボクが、今度は膝枕をされるイベント発生である。

 今回は膝枕だらけである。


「あ、起きた。回復薬飲ませたけどまだ寝てたから、そのままにしてた。だってみのりんの寝顔可愛いんだもん」


 カレンが笑う。

 緑の光の中の笑顔に思わず見とれてしまった。ああ、やっぱりカレンは可愛い。


「どしたの?」

「あう……」


 顔が真っ赤だ、緑光のせいで気が付かれないからいいけど、何か話題を、そうだ。

 今の歌を前にもカレンが歌っていたよね。どうして彼女が日本の歌を知っているんだろう。


「今の歌……」

「歌? ああ、さっき歌ってたやつだね、師匠に教えて貰ったんだ」


「師匠?」

「うん、私の冒険者の師匠。私のスキルを見出してくれて伸ばしてくれた。師匠が鍛えてくれたから今の私がいるんだよ、私の目標だよ」


 カレンの師匠は前から気になってたんだよね、どんな人なんだろう、今度会ってみたいな。


「私この歌好き」


 そう言って笑うカレン。

 ボクはカレンの笑顔が好きだ。


 カレンがまた歌い出した。


『どこまでも二人で行こう、ずっといつまでも一緒だよ……』


 彼女の歌声をボクは隣に座って目を閉じて聞いた。カレンの歌声が響く幻想的な緑の光の中で、壁を背にして二人で座っている。


 いつかこのシーンを思い出して懐かしくなったりするんだろうか、その時はカレンは傍らで笑ってくれているだろうか。

 もしその時、彼女が傍らにいなかったら……余計な想像をして泣きそうになってしまった。


 別にタンポポを記憶から除外したわけじゃないぞ、彼女は何故か向こうで苔に挨拶をしているので、ボクの記憶の画像フレームから見切れてしまっているだけだ。



「もう少し進むよ、この先はここより広くなっててね、カエルの遊園地みたいになってるんだけど、そこにある窪みが目的地だよ」


 カエルの遊園地と聞いて可愛いものをつい想像してしまうが、なにしろあの図体である。

 あんなものがひしめき合う遊園地、想像しただけで腰がひける。


「〝とんねるケロケロ〟はね、あちこちで拾ってきたものをそこの窪みに集める習性があるんだよ。たまにお宝が入ってたりするんだよ」


 なるほど、わざわざアイテム『アカネラッコの皮』まで買ってやって来た理由はそれですか。

 いよいよボクたちパーティは、強盗団から盗賊団にチェンジするんですね。


「カエルが居る所に押し入るんだから強盗団は変わらないよ!」


 そろそろ行こうか、と立ち上がりながらカレンは楽しそうに笑った。


 お宝と聞いてタンポポが少し大人しくなったので、仕事がやりやすくなって助かります。

 洞窟の中を探検するボクたち、時々枝分かれする細い道があり、ダンジョン感満載だ。


「らおー」


 タンポポがその都度フラフラと進みそうになり引き戻す。

 腰にリードでも付けとかないとその内迷子になるぞこの人、どこかに紐でも落ちてませんか。


 アイテムの効果でなんとかカエルにも遭遇せずにしばらく進むと、入り口のような場所に出た。

 そこから先は大きな空洞になっているようだ。


「着いた、ここがカエルの遊園地だよ」

「ゆうえんちで遊ぶろ~。まずはジェットコースターら~」


「みのりん、ジェットコースターって何?」


 いえ、酔っ払いの言葉はスルーしててくださいねカレン。


「みのりん、ジェットコースターってなんら?」


 あんたが言ったんでしょうが!


 ああ、頭が痛くなってきた。


 次回 「カエルの遊園地でお宝ゲット」


 みのりん、危険物を発掘して埋めなおす

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