その3 探検について来る気まんまんの酔っ払い
『ぐうーぐうー』
こんな時にボクのお腹が鳴ったと思ったら、タンポポオジサンの寝息だ。
「まったく……完全に寝ちゃったんですかタンポポ」
頭を再び撫でてやる。
「申し訳ないんだよ」
「うわあ!」
突然の横からの声にボクはビックリして十センチくらい飛び上がった、タンポポオジサンの首がゴキっとなった気がするが、取りあえず気にしないでおこう。
気がついたらセーラー服のタンポポが、反対側のボクの隣の床に座っていたのだ。
「いつの間に外にこぼれちゃってたんですか。まあよく考えたら、本体が寝ちゃったんだから中身も出て来ますよね」
「お酒がこんなにヤバイものだとは思わなかったもん」
タンポポは真っ直ぐ前を向いたまま座っている、何となくだが自分がやってしまった失敗に呆れているようだ。
「あなたは酔っ払ってないんですか?」
さすがに霊体だからねーと思っていると、タンポポは旋回砲塔のように首だけをこちらに向けてきて。
「酔ってなんかないんらもーん」
ときた。
ダメだこりゃタンポポも酔ってるわ、動きが変だし。
それでも倒れてるオジサンよりは少しは強いという事かな、外側も中身も一緒に倒れられたらボクの膝一つでは足らないからね。
「出てきたんならこれ交代しましょうよ。そろそろ足が痺れてきたんですけど」
「絶対やら、オッサンを膝枕なんてありえないんらもん。そういう汚れ仕事はみのりんにまかせるんらもん」
「これあなたの身体でしょうが、せめて首の位置をいい加減反対に向けてもらえませんか、痛いんですよヒゲが」
タンポポは旋回砲塔のように首を向こう側に向けた。そっちの首じゃないというつっこみ待ちなのか、断固拒否の意思表示なのか。
二人で漫才をやっているとカレンが帰ってきた、何かの飲み薬を持ってきたようだ。
「あれ? タンポポちゃんも来てたんだ。お肉屋のオジサンから楽になるヤツ貰って来たよ、あの人もよく酔って倒れてるからね、よいしょっと」
ゴキ。
カレンがタンポ男君の首を反対のこちら側に向けた音である。
セーラー服のタンポポの首もこちらを向いていた、まさか連動してるんじゃあるまいな。
「あーこの人、しっかり歯を食いしばって飲ませる隙間がないよ、どうしよう」
一生懸命薬を飲ませようとしているカレンを、タンポポが人事のように眺めている。
ボクはタンポポの耳元で囁いた。
「どうですカレンは優しいでしょ、友達になろうよ」
「いやら~」
とりあえずオジサンタンポポを床に寝かせて、膝の代わりにボクの枕に頭を乗せタオルケットを掛けた。
「これでいいのかな、じゃみのりん、もうそろそろ討伐行こっか。タンポポちゃんも一緒に行こう」
いや、この酔っ払いはやめた方がいいと思……
「行くろ~」
あーあ、二人で行っちゃいましたよ、カレンは受け付けのお姉さんと何か話している。
ボクもタンポポ本体を寝かせている事を受付のお姉さんに告げて、三人でギルドを出た。
門に到着した時、カレンが外に出る前にこのお店に用事があると指差したのは、鑑定屋さんの商店だ。
転生して二日目にボクの足と『木の棒』を鑑定してもらったお店だ、今度はカレンの足でも鑑定するのだろうか。
三人で中に入ると、相変わらず様々な不可思議な商品が売られているのが見える。
冒険者が外から持ち帰った品物をここで買い取って売っているというだけに、一体何に使うのかサッパリわからないものだらけだ。
例えばこの『アカネラッコの皮』である、長方形に切り取られた短冊みたいな皮をどうするんだろう、ヘビの皮みたいにお財布に入れるんだろうか。
「あ、みのりんさすがだね! これを買いに来たんだ。見つけてくれてありがとう」
カレンは『アカネラッコの皮』を取ると奥の店主の所でお金を払い戻ってきた。
「それ……何」
「これはね、身体のどこかに結び付けて使うんだけど、カエルのモンちゃんが嫌がるんだよ。だから今から行く洞窟の〝とんねるケロケロ〟避けになるんだ」
腰の剣のベルトに付けながら説明してくれるカレンは凄く楽しそう。
「今日は少しは探索したいからね、このアイテムとみのりんのスキル。どっちが強力か勝負だね!」
勝っても負けても嬉しくない勝負なんですけど、それ。
「ホントはね、こっちのアイテムと悩んだんだけどさ、こっちは高価だし今回はカエル限定だからね、安いのにしたんだ」
そう言ってカレンが手にしたのはモンスター避けと説明が書かれたネグリジェだ、二百ゴールドの値札が付いていた。
思わずブっと鼻水を噴出してしまったが、まだ売ってたんだそのナイトウェア。
ボクがこの町に来て二日目に出会ったそれを売りに来たオジサン冒険者、まだ奥さんに殺されずに元気にしているだろうか。
ところで、店の中で酔っ払ったタンポポが何か一騒動起こすのではないかと、最初は危惧していたが取り越し苦労に終わった。
何故なら、タンポポは店の商品の一つのネギを見て怯えていたからだ。
ネギ屋さんの恩恵をこんな形で受けるとは、さすがのボクも想定外だった。
まだ冒険にも出撃していないのに、こんな場所でドタバタやっている場合ではないのだ。
門のところでいつものパーティセレモニーをする。タンポポは適当にれろれろ言っていたが、それでも青い光が三人を包み込みパーティは成立した。
儀式の宣言文句は、実は何でもいいんじゃないだろうかという気さえしてきたぞ。
なんだか門の外が騒がしい、いつもと少し様子が違うのだ。
不思議に思いつつ門の外に出ると、そこに意外なモノがボクたちを出迎えてくれた。
実は、門でパーティ成立の儀式をやっている時も、周囲の町人がザワザワしていたのだが、これが原因だったか。
ボクたちが遭遇したのは、門のすぐ前でドヤ顔で立つやんばるトントン。
ど、どうするんですか。ここの所出番が無かったから、テリトリーを越えて門まで迎えに来ちゃってますけど……
カレンにオロオロした視線を向けると、彼女はすまなそうにトントンの前まで進み出た。
「ごめんね、今日は洞窟に行こうと思ってるんだ、装備も買っちゃったしまた今度ね」
やんばるトントンが帰っていく。
こんなんでいいのか、ここのモンスター。
次回 「苔でポックリ、光り輝け光り苔」
みのりん、早速カエルにベロオオされる




