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その6 激闘! トロール討伐戦


 注意しながら草原を進むと、やがて前方にモンスターの姿が見えてきた。


 こん棒を持った緑色のモンスターで、あれが目的の〝おいはぎトロール〟か……


 人間の倍くらいある大きさで腕がやたらでかくて、あの腕のこん棒で叩き潰されたらたまったものではない。


 トロールはせっせと何かの作業をしている様子で、いったい何をしているんだろうかと気になる。


「あれ何をしているかわかります?」

「さあ? 何かしら。随分真剣そうに見えるけど」


 ボクの質問にミーシアも不思議そうに眺めている。


 そこにいるモンスターは一体。

 四体中一体はアルクルミに倒されたという話なので残りは三体のはずだけど、他の二体はどこに行ったのだろうか。


「警戒してね、おいはぎトロールは草原に隠れるスキルがあって、気配も消すからやっかいなんだ。何もいないと思っている獲物に突然襲い掛かってくるんだよ」


 カレンの言葉でパーティに緊張が走る。


 どこだ、どこにいる? 辺りを見回すが居ないようにしか見えない。

 どこを見ても草原と空しか無いのだ、穴の中に隠れているのだろうか、ここからでは穴もよく見えない。


「とりあえずあの一体は私が掌握してくるかな」


 タンポポはそう言うとトロールに向かっていった。トロールに乗り移って倒そうというのだ。


「タンポポちゃん迂闊に動いちゃダメ!」


 カレンが止めようとしたその瞬間、タンポポの真横にゆらあっと立ち上がった緑色の草のカタマリ、それが瞬時にモンスターに代わったのだ。

 なんと、トロールは草原に擬態していたのである。


「ほへ?」


 タンポポは驚いて足を止め、真横にいる大きな怪物を見上げた。

 モンスターは横にいるタンポポを一瞬どうしようか悩んだみたいだが、こん棒を真横にフルスイングした。


 服を脱がせるでもなく、叩き潰すでもなく、オジサンだか少女だか何だかわからない存在を、めんどくさいのでぶっ飛ばしたのだ。見事なホームランだ。


 タンポポはピューっと草原の彼方に飛んでいった。

 草原にタンポポ散る!


 ボクは敬礼で小さく飛んでいくタンポポを見送ったが、彼女の身体の事情を知らないカレンはそうはいかなかったようだ。


 呆然としていた彼女はやがて震えだし『よくもタンポポちゃんを……!』という声を絞り出した。

 ロングソードに手をかけ飛びかかろうとトロールを睨んでいる。


「カレンおさえて、迂闊に動いちゃ罠にかかるわ、このままだと全滅する」


 ミーシアの冷静な声がキレそうなカレンを押し止める。

 ミーシアも少し震えているが、仲間をいきなり失ったのだから仕方が無い。目尻に涙も浮かんでいる。


「タンポポのカタキは私がとる。どこに隠れていようと、草原に変化していようと関係無い。全て焼き払うまで――」




 大地より火炎来たれり――

 天より火炎来たれり――




 ミーシアが呪文を唱えだした。

 これはミーシアが正しい、周りを全て吹き飛ばしてしまえばかくれんぼなんかやったって無駄なのだ。


 一体のトロールがミーシアの呪文を邪魔しようと突進してきた、タンポポを場外ホームランしたやつだ。

 さすがに邪魔されるわけにはいかないのでカレンが動く。


 と、その時だった。


 ミーシアの真後ろの草原が突然立ち上がり、巨大なその腕で驚愕の顔で振り返った彼女を捕らえたのだ。


 トロールは捕まえたミーシアを見つめている。やばいぞこれはやばい!

 男の子だとばれた瞬間にミーシアは叩き潰されてしまう!


 ちょっと悩んだ後でモンスターはミーシアの服を脱がせ始めた。


「勝ったわ!」


 ミーシアはVサインを出しながらそのまま気絶。


 巨大な腕に握り締められていたのだから仕方が無い、トロールが判断を下すまでよく耐えたよ。モンスターが自分をどう見るのかを何が何でも見届ける、凄い執念だ。


 カレンはミーシアの危機を知ると目の前のトロールの相手をやめて、ミーシアの方に走り出した。


「スパイクトルネード!」


 カレン必殺の一撃スキルの登場だ!


 いくつもの風の精霊を纏った剣が下から草原ごとトロールを切り裂いた!


 トロールはある程度の怪我ならすぐに回復してしまうらしいが、真っ二つにされてはどうしようもないのだろう、そのまま崩れ落ちる。


 カレンはすぐに回復薬をミーシアに飲ませようとするが、間に割って入ったトロールの一体に阻まれて近づけない。

 その間ボクは遊んでいたのかって? ちゃんと『木の棒』を握り締めてもう一体を惹き付けてましたよ失礼な。


 二体のモンスターにジリジリ寄られ後退するボクとカレンの二人は、やがて背中合わせになる。

 つまりお互いにこれ以上下がる場所が無いという事だ。


「ごめんねみのりん、こんな事ならちゃんと師匠にトロールの退治方法を聞いておくんだったよ」


 このままだとボクもカレンも服を毟り取られて持ち去られてしまうだろう。

 多分その時点でボクのヒットポイントは0になりそうだし、ミーシアが剥かれてからどうなるかわからない。


 カレンだけが身体は無事で帰れそうだけど、自分の責任でパーティが全滅したと考えた時にカレンがどうなるのかが怖い。

 恐らくカレンは壊れてしまうだろう……カレンとミーシアを守る為にも全滅だけは避けなければいけない、どうすれば……


 策がない、もうどうしようもないのか……


 その時だ、ボクは何かを感じてある方向に首を向けた。

 希望の予感がしたのだ。


 この時ボクは見たんだ――

 この絶体絶命の中で見た――


 ボクの目線の先、少し丘になっている草原の上、一人の勇者が現れたのを。


 丘の上からボクたちを見下ろすその勇者の姿は、逆光を浴び神話の世界を切り取ったように見えた。


 次回 「丘の上に現れた勇者」


 ついに勇者登場

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