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その5 まじないの秘密とカレンのパンツ


 四人は門でパーティになると、町の外に出撃した。サクサクがいないのは残念だけど、なんというかいつものメンバーは安心します。


 草原は、トロールが出現した情報が行き渡っているのか、一切人影が無かった。今までは所々に歩いてる人が見えたのだ。


 今回は当面の問題という事でトロール討伐に出てきたけど、休火山こと魔王の事も気になります。

 その事は他のみんなも同じようだ。


「とうとう魔王が来ちゃったわね、いつかはと恐れていたけど現実になっちゃったのね」


「そうだねミーシア、出会った時は私はもう死んだと思ったよ。会議中にも話が出たけど、勇者なんていたら本当に楽なんだけど」


「勇者って伝説なんだっけ、確か〝ドラゴンスレイヤーソードファイヤーライトニング〟って名前よね」


「そうそう確かそんな名前。ドラゴンファイヤースッタモンダ」


 全然違いますよカレン。


「勇者ってこの世界で生まれたのかな、それとも他の世界からやって来た?」


「さあ、案外異世界からの転生者だったりしてね。そして実はもうこの世界のどこかに転生してたりするのかも知れないわ」


 そこで会話をしていたカレンとミーシアが、振り向いて後ろに続くボクを見て、目を伏せた。

 失礼な反応ですよあなたたち。


 ボクは今メキメキと力を付けていっている(ハズ)ですからね。

 この世界に来た当初レベルマイナス1だったこのボクですが、現在、もレベルマイナス1……ナンデスケド……ネ。


「ほ、ほら今回は私たちがトロールを倒す勇者パーティみたいなもんだから、みのりんも勇者の一人だよ、あはは」


 遠い目になっているボクを励まし始めたカレン。

 そうか! ボクもやっぱり勇者の一人だったんだね! つい喜んでしまった。カレンの励ましは成功だ。ボクがチョロ……さすがはカレンである。


「ねえ、ところでカレン。さっき私の責任って言ってたけど、どういう事?」


 草原を進みながらミーシアが問い詰め始めた、確かになんだろうと思う。トロールとカレンは何の関係もなさそうなのに。


「うーん……あんまり見せたくないんだけど、仕方無いか」


 顔が真っ赤になるカレン。


「森にかけられてた〝まじない〟って、多分これなんじゃないかなって……」


 そう言ってカレンが懐から出してきたのは一枚の白い下着。あ、木に引っかかってたヤツだ。


「これ、私のパンツなんだよ」


 カレンの言葉にミーシア、ボク、タンポポが綺麗に斜めに首をかしげた。


「ああ、待って待って引かないで、ちゃんと説明するから」


 カレンが慌てて顔を真っ赤にしてパンツをぶんぶん振りだした。

 他の三人はそのパンツの動きに合わせて首をカクンカクン動かしている。

 

「子供の頃の話なんだけどさ」


 一呼吸置いて事の真相を語り始めたカレン。


「数年前に幼馴染たちと木に登って木の実を取ってたんだよ。その時に私は落っこちてパンツだけ枝にひっかかった大事件があったの」


 なんでそんな恐ろしい事態に。むしろ奇跡の業ですよ。


「すぐ取ろうとしたんだけどモンスターが現れて慌てて皆で逃げてね、その後で何回か探したんだけど全然見つからなかったんだよ。でもこの前魔王ちゃんに出会う直前に、これを偶然見つけたから回収したんだ」


 ミーシアが不思議そうにパンツをカレンから受け取る。


「ただのショーツに見えるんだけど、カレンの責任というからには、これがもしかして森のまじないって事?」


「あんまり見ないで欲しいよミーシア。多分そう、パンツ引っ掛けて帰った時に占い婆によくやったって褒められた。その時は何の事だかわからなかったけど、そういう事だったんだね」


「なるほどね、占い婆がそう言うなら信じるしかないわね」


 誰なんですかその占い婆って。


「私の田舎でも占い婆の言葉は信じられたもん」


 タンポポまで、なんだろうこの疎外感。って、え? 日本にもいるの?

 彼女の田舎が謎すぎて、あなた本当に日本に住んでたんでしょうね?


 気を取り直してボクもミーシアに、魔王 (ちゃん)が言っていた、カレンが回収した直後に森のまじないが消えたという内容を伝える。

 ミーシアは静かに聞いていたが、やがて口を開いた。


「わかった、でも私はそれをカレンの責任だなんて思わないし思いたくないし、むしろ今までこのショーツが町を守ってくれてたって事なのよ。カレンのお手柄じゃないの。大丈夫安心して、このミーシアちゃんがトロール如き、灰燼と化してあげるわ」


「ありがとうミーシア、でもパンツを裏返すのはやめて」


 カレンはそそくさとパンツを回収して懐にしまいこんだ。

 パンツの謎も解き、ボクたちは歩く。


 因みにボクはカレンのパン的なものが視線にチラチラしたせいで、回復薬を一つ飲んだ。カレンはなんという危険物を所持しているんだろうか。


 周りにはひたすら草原が続いている。天気も良くて風が気持ちよかった、討伐じゃなかったらどんなに良かっただろうか。


「気をつけて、昨日行商人の一家が襲われたのはこの辺のはずよ」


 ミーシアがパーティに警戒を促す。

 こんな何にも無い見通しのよい所なのに。


「襲われた人がいるんですか?」

「うん、悲惨な話よ。昨日魚の行商をやってる家族が襲われたのよ、奥さんと娘さんが服を剥がされて持って行かれちゃって、旦那さんは……」


 つい聞いてしまったが、この話は嫌な予感がするよ……ミーシア。

 旦那さんはどうなったんだろう……聞きたい、でも怖い。


「旦那さんは家族を置いて速攻で逃げちゃって無事だったんだけどね、今町の中で家族会議が行われているわ」


 何て悲惨な話なのだろうか。


「家族がちょうど門の所に逃げて来た時に見かけてね、パパが無事だったのは本当に良かったんだけどーって娘さんが虫を見るような目で」


 やめて下さい、もう恐ろしい話の詳細はいいです。悪いモンスターめ、懲らしめてやらないといけない。


 それと、もう迂闊に何でも聞くのはやめようと思う。

 噂話に首をつっこんで、真実を知ってダメージを受けるのはこちらなのだ。


「私も聞いたんだもん、昨日カップル冒険者がトロールに襲われて」

「それでどうなったんです? タンポポ」


「女の子はやっぱり服を持ち逃げされて、彼氏の方は……」


 ごくり、またやってしまった。でも噂話がやめられない。

 彼氏は、彼氏はどうなったんだ。


「彼氏は彼女を置き去りにしてあっという間に逃亡しちゃって、現在も逃亡中かな。確か彼女はミっちゃんって言ってたかな」


 怒ったミっちゃんから無事逃げ切れますように、健闘を祈りますマーくん。


 以前カエルの洞窟に一緒に行った彼らに、ボクは心の中で敬礼をする。


 次回 「激闘! トロール討伐戦」


 みのりん、また敬礼する

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