その3 パーティも会議 トロール討伐に行くぞ
ボクたちは〝みのりんハウス〟で会議を始める、ボクもダンボール箱から出てきて会議に参加だ。
座る椅子が無いのでテーブルの横に立つと、まるで作戦の指揮を取る司令官みたいでカッコイイ。
なんと、指揮棒まであるじゃないか、さすがボクの初期装備だ、ふふん。
カレンが「ここに座る?」と彼女の膝をポンポンした、嬉しいけど遠慮しておきます。座った瞬間にカクンですから。
タンポポがそれを見て対抗心を燃やしたのか、自分の膝をポンポンしだした。
そっちも遠慮しておきます、オバケの上に座るのはちょっと……なによりオジサンの温もりをお尻で感じるとか、ないわーですから。
ミーシアがボクをじっと見て、膝を――叩かなくていいですから。
「そう? なんだかそんな流れなのかと思っちゃって」
どんな流れですか。
「ごめん、これ多分私の責任だから、私は討伐に行って来るよ」
会議が始まるとカレンがすまなそうに宣言する、決意は固いようだ。
カレンの責任というのがよくわからないけど、カレンが行くのならボクも当然参加だ、ボクは彼女の相棒なのだから。
「カレン……行くなら……ボク……行く」
「じゃ! 私も参加しよっかな! みのりんと一緒に戦っちゃうよ!」
そう言って親指を立てたのはサクサクだ!
おおー! サクサクが来てくれるのはとても心強いよ。あの華麗なレイピアならトロールなんて一撃かもしれない。
でもドヤ顔で膝をポンポンするのはやめてください、その流れはとっくに終りました。
十代の子たちの流行にさっそく乗り遅れてる悲しい所を見せないでください。
「えっとあなたは……」
カレンがサクサクを見つめる、そう言えばカレンとサクサクはお互いにまだ知らないんだっけ。
「私はサクサク、みのりんと同郷の転生者。十七歳の女子高生です! キラッ」
城南櫻子さん、恐らく二十七歳はそう挨拶した。女子高生って言ったってカレンには通じませんよ、たぶん。
それにカレンに十七歳だと言って信じてもらえるかもわかりません。
「私はカレン十六歳だよ! よろしくね! そっか私の一つ上だね。一緒に行ってくれるんだね、ありがとう」
相変わらず素直な子ですね、カレンって。
「何こいつ十六歳だったの。カレンのやつ私より一個下だったのかな。年下のくせにキイイ、ガルル」
タンポポがボクの横で吠え出した。
とにかく今は落ち着いてくださいタンポポ、どうどう。
それにセーラー服のスカーフを噛み締めて、シワになっても知りませんよ。いつの時代の悔しがり方ですかそれ。
「まあ、私も参加してもいいんだもん。同い年の櫻子ちゃんと一回遊んでみたかったし、転生者三人少女の実力をどこかのツインテールのバカに見せてやるんだもん」
ボクはそんな事を言い出したタンポポを少し離れた所に連行した。逮捕だ。
ここから先はひそひそ声で話す。
「大丈夫ですか、あなたオジサンですよ、トロールにペチーンって潰されますよ」
「この姿なら女子高生だし、大丈夫なんじゃないかなーって思うんだもん」
まあ、この前サムライに二つに折られても平気だったんだから、ペチャンコになるくらいは大丈夫なのかもしれない。
改めて席に戻ると今度はミーシアが。
「当然私も参加するわ、私が行かないと話にならないわよね」
などと言っているので、今度はミーシアを少し離れた所に連れ出した。
「やめましょうわかってるんですか、ペチーンですよ。男の子はペチャンコにされるんですよ」
「野生のモンスターに私が女の子に見えるか否かがはっきりするチャンスなのよ、これを逃すわけがないじゃない」
何言ってんの? という顔で見つめるのはやめて下さい、こっちが何言ってんのですから。
「叩き潰されるか服を剥ぎ取られるか、命を懸けた賭けをやる事に何の意味があるんですか。ボクから見たらどちらも負けにしか見えないんですけど」
「言ったでしょう、おしゃれは戦いなんだって。私は命を賭けて女の子してるのよ、女の子に見られないのなら潔く死ぬ、爆発して死ぬわ」
そういえばミーシアこんな子でした。
何とか無事に討伐が成功するのを祈るしかないみたいだ。
尤も、ミーシアが戦力として参加してくれるのはとてつもなくありがたいのだ。
なんなら彼女一人で、何もかもトロールごと吹き飛ばしてくれるのだから。
「みんなありがとう。私のミスに付き合わせてしまってごめんね、危なくなったらすぐに逃げるから、みんな無理はしないでね、みのりんも」
カレンが皆の顔を見つめる。
その彼女を見つめ返す皆の顔も晴れやかだ、約一名のオバケ以外。
一撃必殺のカレン、レイピア使いのサクサク、火炎の魔法使いミーシア、田舎の女子高生タンポポ、モンスターを惹きつけるボク。
結構頼もしい戦闘団ができたと思う。ドヤ顔のボクだけ戦闘力ゼロだけど。
では、早速出発! 五人の女の子(のように見える)戦士達が立ち上がった!
その時である。
「おーいサクサク、こっち来て一杯付き合えや~」
隣のテーブルの酔っ払い冒険者たちが絡んできた。
ボクたちが討伐会議をしている横で、さっきから歌って騒いでうるさかったんだこの人たち。
「だめだゾ! 私はこれからピチピチの十代少女隊メンバーとして冒険してくるんだから!」
「おう、それなら気付けに一杯いけやサクサク。俺の奢りだ」
「奢り? しょうがないなー。じゃ一杯だけ!」
でっかいジョッキでグビグビやりだしたサクサク、一杯がでかすぎやしませんかあなた。
「うーい、駆けつけ三杯!」
サクサクが何かおかしな事を言い出した!
彼女は右手と左手にそれぞれジョッキを持ちグビグビ飲み始める。
よく見たら、右手と左手のお酒を交互に飲んだ時に、サクサクの口から垂れるお酒の色が違うのだ。あーこりゃちゃんぽんというやつだ、どこまでもダメな酔っ払いだ。
とうとう『めんどくさい』と言い出して、両方を混ぜてジョッキを一個に纏めてしまった。どこのオッサンだよ。
グビグビ飲み干すサクサク、ポカーンとそれを見ているカレンを引っ張ってその場を離れた。
サクサクはもう諦めましょう、一人一人犠牲になっていくテンプレに繋がりそうな嫌な予感がするので、彼女は最初から居ないものと考えた方が良さそうです。
「ねえ、あれ美味しいのかな? 同い年の子が飲んでるって事は、私も飲んでいいんじゃないのかな?」
タンポポが指を咥えだした。
セーラー服姿では絵面が危険な香りがするので、今度オジサンを着た時にチャレンジしてください。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんだもん」
「今こんな初っ端のところで、二人も失うのはさすがに幸先が悪いのでやめてください!」
食い入るようにサクサクを見つめているタンポポのセーラーの襟を引っ張ったら、オバケは『ぐえ』と鳴いた。
なるほど、これがオバケの鳴き声か。
ひとつ勉強になった。
次回 「タヌキは友達じゃありませんよ」
ガールズパーティ、受付のお姉さんにとっ捕まる




