その2 冒険者会議、危機せまる
帰ったボクたち(主にカレン)の報告を聞いて、町は大騒ぎになった。
因みにボクは、その前にお風呂に叩き込まれて大騒ぎになったのは言うまでも無い。
町をあげての大避難が始まるのかと思ったらそうでもない、魔王が攻めて来るって言うんならどこに逃げても一緒だというのだ。
裏を返せばそれだけ圧倒的な力の差があるという事か。
因みにボクはお風呂屋さんから大避難を始めようとして逮捕された。
ネギ屋さんは我々は伝統と共に滅びる、とかかっこいい事言ってたけど、そんな価値ありますかね、あの伝統に。
でもそれだけ住民はこの町を愛しているんだろう、と少し感動してしまった。
死なば町ともろともなのだ。
そんな事よりも新しい問題が持ち上がっていた、どうしようもない魔王はこの際先送りにしたとも言える。めんどくさい事は全部先送りでいいのだ。
次やってくると言っても明日かもしれないし、十年後かもしれないし、百年後かもしれないのだ。
魔王ってそういう感じのアレなのね、まるで休火山の噴火みたいだ。
冒険者ギルドには沢山の冒険者が集まって会議をしていた。
当然ボクも冒険者の一員なので張り切って参加だ。
ただし〝みのりんハウス〟の下のダンボール箱の中で邪魔にならないように参加、捨て猫状態である。
同じ〝みのりんハウス〟のテーブルにはカレンやミーシア、サクサク、セーラー服タンポポが着席していた。
なんというか目のやり場に困るのだ、ボクの周りには太モモが四人分あるのだ。
それでもオジサンが座る地獄を考えれば、天国のような状態とも言える。
「では、最近森に出現したモンスターの件について報告いたします」
議長を務めるのは受付のお姉さん。凛としたお姉さんの声がギルド内によく通る。
「ここ暫らく姿を現さなかった〝おいはぎトロール〟が、また森を突破して草原に現れるようになりとても危険な状態です」
おいはぎトロールか、これは初めて聞く新しいモンスターの名前だ。その名前にギルド内もざわついている。
「最近数年間来なかったのにね、以前はちょくちょく現れて問題になってたよ。前は師匠がぶった斬ってた」
「知り合いのミミコお婆さんがそれでやられたわ」
カレンとミーシアの会話が聞こえてきた、師匠とかミミコお婆さんとか誰ですか。
魔王と新モンスター登場でも一杯一杯なのに、新キャラですか。
「女の子は服を剥ぎ取られて、それを持ち逃げされちゃうんだよね、悪質だよ。そして男性は……」
カレン、なにその恐ろしいモンスターは。男の人はどうなっちゃうんですか。
「男の人は容赦なく、こん棒で叩き潰されるのよね、ペチーンて」
なんですかミーシア、その極端すぎる違いは。内容は恐ろしいのに、その可愛い擬音もこれまた逆に恐ろしいです。
ほのぼのなのかシリアスなのか、サッパリわからないモンスターですね。まあ、服を剥ぎ取る行為の、どこがほのぼのだって話でもありますが。
ミミコお婆さんはどっちだったんですか、私気になります。とても気になります。
「しかも強いから犠牲者が結構出るんだよ。あいつらどこにいるかわからないから、奇襲されちゃうんだよね。師匠はどうやってたっけなあ」
そういえばカレンは以前、冒険者に育ててくれた人が居るって言ってたっけ、師匠ってその人なんだろうか。
「おいはぎトロールは四体がうろついている状態です。この前その中の一体は、冒険者でも何でもない町の少女によって倒されましたが」
受付のお姉さんの話でギルド内に『おおー』というどよめきが起こる。
おいおい誰ですかその少女。とんでもない子がいたものです。
「私の幼馴染のアルって子だよ、服を脱がされた瞬間にスキルが発動してぶっ飛ばしたみたい」
あー彼女か、アルクルミ。ボクの脳裏に、赤い髪をポニーテールにしたお肉屋の娘さんの姿が浮かぶ。
どこからどう見ても普通の町の娘さんだけど、セクハラされると自動でスキルが発動するんだっけ。歩く対セクハラ兵器。
なんならあの子に全部任せた方がいいんじゃないだろうか。
「何で今まで大人しかったのにまた活動を始めたんだ?」
冒険者の一人が質問すると、確かにという声が上がる。
彼の言う通り不思議な話である。
受付のお姉さんはこの疑問の答えを用意しているようだった。
「占い婆によりますと」
そんなのいたんだ、また新キャラですか、誰ですか。
「数年前から森にはある一種の〝まじない〟が偶然かけられていたという事です。それで魔族や一種のモンスターは近寄れなかったのですが、最近そのまじないが取り払われたみたいなのです」
「誰だよそんな事するヤツは」
「許せん」
ざわつきはじめるギルド内。
そういえば魔王ちゃんもそんな事言ってたっけ。
「こういう時に出てきてパパっと解決してくれる勇者はいないもんかね、魔王が出てきてるんなら勇者も出てきていいはずだが」
「勇者は今のところ伝説でしかありませんからね、冒険者ギルドとしてはそのようなあやふやなものに頼るわけにはいかないのです」
ふむ、魔王に勇者か。やっぱり魔王がいたら勇者もいなくてはいけないのだ。
ここは勇者〝みのりん〟の出番といきたいところだが、魔王の乗り物に舐められただけで死に掛ける勇者ではお話にならない。
ついでにそのせいでお風呂に放り込まれてトドメを刺されそうになってるようでは、違う伝説を作ってしまいそうだ。
町のみんなには悪いけど、ボクの出番はずっと後にしておこう。
「女性もそうですが、男性冒険者は特に危険なので、ギルドの対応が決まるまで動かないで下さい」
会議が終わると冒険者たちはぞろぞろと出て行く者、酒を飲み始める者に分かれた。
オジサンたちは、とにかく何かと理由を付けては飲んでる気がするのは気のせいだろうか。
女の子にとってはセクハラモンスターだけど、男の人にとってはガチの生死をかけた戦闘になるのか。
男の人の冒険者は、今回対応を見送った方が良さそうである。
さて、ボクたちはどうするか。
女の子 (のような)パーティとして、どう対応するべきか。
ふむ、考えてみるとこれはややこしい問題だ。
次回 「パーティも会議 トロール討伐に行くぞ」
見た目だけはガールズパーティなんですけど




