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その1 銀竜に酷い目にあった


 今目の前の銀髪の少女は冒険者の町を滅ぼしに来た、と言った。


 その言葉に瞬時に戦闘態勢に入るカレン。


 幸い今日はまだカレンの一撃必殺のスキル『スパイクトルネード』を放っていない、モンスターが全く出なかったので温存できていた。


 恐らくモンスターが出てこなかったのは、目の前の銀竜と魔王の出現の為だろう。


 特に銀竜、こんなくそでっかい怪獣がうろうろしていたら、誰だって部屋から出ずに引き篭もるのは当たり前。目を合わせたら間違いなく因縁をつけられそうだ。

 この森のモンスターは基本、怖がりなのでしょうがない。


 お陰で今のカレンはいつものポンコツではなく、モンスターを一撃で屠ってきた頼もしい状態の相棒なのだ。


 ただ、カレンの剣でこの銀竜と魔王を一撃で倒せるのかどうか……

 そもそもこの大きなドラゴンを倒せるのか。


「ほう……銀竜に戦いを挑むつもりか人間の小娘。面白い、やってみるが良いぞ。ただし失敗したらお前もそっちの娘も八つ裂きだがな」


 ビクっとなるカレン。彼女の額に汗が流れる。

 自分が八つ裂きになる事を恐れているんじゃない、間違いなくボクを巻き込む事を恐れているんだ。


 しょうがないじゃないか、ボクは相棒だぞ。


 木の棒を持ってカレンの横に立つ、以前も絶体絶命の危機でこんなシーンがあったっけ。

 まさかあれを超える危機が訪れようとは思ってなかった。


 カレンはこちらを見る、そしてこくんと頷くとまっすぐ銀竜に顔を向けた。

 背中の上の少女が指図すると、ドラゴンはゆっくりとこちらに大きな顔を近づけてくる、真正面だ。


「グゥウウウウウ」


 銀竜の吐息が身体全体に当たる、熱い。

 ボクの額の冷や汗が乾いていく。これドライヤーに使えるんじゃないか。


「この銀竜と一戦交えるかゆっくり考えるがよい、時間はくれてやるぞ。安心せい、わらわの命令が無い限り銀竜はピクリとも動か――」


『ベロオオオオオオ!』


 銀竜がボクを舐めた。


「「「なっ」」」


 驚いたのは三人、カレンとボクと魔王ちゃんだ。


「な、何をしておるか銀竜! そんな命令わらわは出しておらんぞ!」


『ベロオオオオオオ!』


 銀竜がまたボクを舐めた。


 次いで、『ペロペロペロペロペロペロペロペロ』

 あのやめて頂けませんかね、服が涎でベッチャベチャなんですけど。


「ちょっ! やめろって! 何でわらわの言う事聞かないかな、こんなの初めてだぞ! 何なんだお前は」


 何なんだお前はって言われても、あなたのペットにベロンベロン舐められた者ですけど? お陰でヒットポイントが半分くらいになっちゃいましたよ。


 服もどうしてくれるんですか、ボクは洗濯するのも大変なんですよ。


 臭いを嗅いでみる、くっさ!

 地獄の銭湯にまで行く羽目になっちゃったじゃないですか、お風呂ですよ? あなたなら耐えられまふかぶわっ。


『ペロペロペロペロペロペロペロペロ』


「おいこら銀竜! やめろって!」


 カレンがボクを自分の後ろに隠した。


 魔王も慌てて銀竜を後ろに下がらせて、銀竜の頭をポカポカしてる。

 銀竜がご主人様に怒られて何となくすまなそうな顔をした。


「お前……まさか」


 魔王がボクをまじまじと見つめている。何かに気付いたのだろうか。


「お風呂が嫌いなのか? オッサンならまだしも、ダメだぞ女の子は綺麗にしないと。お風呂に入って鼻歌、それが至福の時じゃろうに」


 やれやれといった感じの魔王、とても心外である。


 まるでボクがお風呂嫌いの小汚い娘みたいに言わないで欲しいんですけど。お風呂は好きなのです、その付属物の生命体が危険なんですよ。あと自分の身体も。

 何で女風呂には女の人しかいないんですか、ワケがわからないです。


「ワケがわからないのはお主の方じゃが……」


 魔王のグリーンアイがまたもボクを見つめる。

 やめて頂けませんかね、さてはその見つめる女の子の視線で、ボクの残り半分のヒットポイントを削り取る気ですね。怖い事を考えますね、さすが魔王です。


 彼女の緑の目がボクを突き刺し、ボクの緑の目が泳ぐ。

 代わりにカレンの黒い瞳が魔王を見つめ返している。


「何かとんでもない言いがかりをつけられているような気分じゃが。と、とにかく今回は見逃してやる、銀竜の調子が良くないみたいだからな、改めてまた訪れよう」


 銀竜がバサっと翼を広げた、なんという大きさか、周りの木を広げた翼がなぎ倒していく。


 そして宙へと飛び上がった!


 風圧で飛ばされそうになるのをカレンが必死に守ってくれた。


「お前たちの事は覚えておこう! そこの小娘、その時まで精々その剣を磨いておくがよい! 楽しみにしておくぞ!」


 そういい残し、魔王と銀竜は大空高く飛び立ちそのまま去っていった。

 どーせなら『木の棒』も磨いて置くように言って欲しかった、ボクだって隣で構えてたのに、差別反対。


 小さくなる点が消えるのを見送ってから、カレンがその場に崩れ落ちた。


 慌ててカレンを支えて助ける。焦っているので女の子に触ってもキョドらずに済んだ。

 カレンが小さく震えている。


「わかってたよ、今の私の実力じゃ、あの銀竜にはとても勝てない……あはは、命拾いしちゃったよみのりん」


 カレン……


「もっと、もっと強くならないと、私はみんなを、みのりんを守る事ができない……」


 ボクも頑張らないといけない、いつかカレンを守れるような強い男になって、ん、女の子だっけ。

 せめて一緒に背中を預けて戦えるくらいにはならないとだめなんだ。


「はやくこの事を町のみんな、ギルドに知らせないといけないね。今日はこのまま帰ろう」


 ボクたちは討伐を急遽取りやめて、急いで町に帰還したのである。

 カレンがお肉を諦めるなんて非常事態もいいところだ。


 魔王来襲、なんだかとんでもない事になってきた。


「でもその前にみのりんはお風呂だね!」


 本当にとんでもない事になった。


 次回 「冒険者会議、危機せまる」


 みのりん、冒険者の緊急会議に参加する、もちろんテーブルの下で

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