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その3 お魚屋の娘さんのスキルでピンチ?


 タンポポ牛に乗って草原を進んでいると、向こうから二人組の人影が見えた。


 近づくと見覚えのある顔、だが女の子だ。


『デフコン2! デフコン2!』


 ボクの危険センサーがアラームを鳴らし続けている。


 タンポポに全力で逃げてもらおうかと思ったが、ミルク缶が倒れるのでそれはできない、絶体絶命である。


「あらあなた、こんにちは」

「よー、この前ネギ屋で会った」


 それはカレンの友達のアルクルミと、今朝捕まえられなかった魚屋の子だ。

 二人とも知り合いだったんだね、そういえば同じ商店街のお肉屋の娘さんとお魚屋の娘さんだもの、知らないわけがない。


「えーと名前は……」


 アルクルミが一生懸命思い出そうとしている。


「絵で見たぞ金太郎だっけ」


 違います。


 キスは何でそんなの知ってるんですか、見たんですねあの絵を、見てしまったのは仕方無いけどさっさと忘れてください。

 変な誤解をこれ以上受けるのは嫌なのでタンポポ牛から降りる。


「みの……りん」

「そうそう、みのりんだ、この前はお世話になりました」


 ペコリと頭を下げるアルクルミ。

 彼女の赤い髪のポニーテールが揺れる。


「私は魚屋やってる――」

「キス……」


「何で名前知ってんだよ、そうかそうかそんなに有名か私は。あーでもキスって呼ぶな、恥ずかしいからな! 私はキスチスだ」


 お魚屋さんの娘は都合のいい解釈をして胸を張り出したが、キスチスって言いにくいなおい。


 それにお魚屋さんだから魚に関連した可愛い名前でとてもいいと思います。これがナマズとかチンアナゴとかだったら目もあてられません。大惨事です。


「そうだよね、キスでよかったよねキス!」

「うるさいな! それにしてもモンスターに跨ったお姫様に遭遇した時はびっくりしたぜ!」


 ボクは二人がべっちょべちょなのにびっくりしてますけど。


 このべちょベちょ感は見覚えありますよ。カエルと一戦やらかしましたね、あいつらのペロペロにはボクも散々やられ放題しましたから。


「ごめんね今日はカエルのお肉の仕入れに行ってたんだ。商店街のカエル同好会で使うんだって、少し臭うかな、生臭いよね」


 アルクルミは赤い髪のポニーテールを揺らして恥ずかしそうに笑った。


 普通の女の子なのにお肉の仕入れなんて、本当に大変ですね。

 ってスルーしそうになったんですけど、カエル同好会って何ですかそれは。うう、ちょっと興味がある。


「でも良かった、最初女の子が攫われてるって思ったよ。荷車が無かったら攻撃してたかも」


「まー冒険者じゃない私らだけじゃ何にもできねーけどな。アルのやつ、私が犠牲になる救出案ばっかり出してきて危なかったんだぞ」


 キスチスはカカカと笑った。

 そうか、お魚屋さんも普通の子なんだ。


「でもこの牛どこかで見た事あるんだよなあ、普通の〝のっぱらモーモー〟じゃないこの感じ」


 そりゃ、普通のと違って超ヤバイ、特殊部隊モーモーですからね、でも女の子が腰を抜かすのは可哀想なので黙っておこう。

 決してコミュ障だから女の子に説明ができないとかじゃないんだぞ、この子が可哀想だからだぞ。


「私のスキルはモンスターの気持ちがわかるってやつでさ、これがもう使えないの何のって、魚の気持ちがわかる方がよっぽど良かったぜ」


 モンスターの気持ちがわかるなんて面白そうだけど……ちょっと羨ましくてキスチス(の胸)を見る。この胸は……この子もアルクルミやカレンと同じ十六歳だ。


「どれ、この〝のっぱらモーモー〟の気持ちを見てみっか」


 ボクはサーっと青くなった。

 まずい、中身がタンポポだってバレてしまわないかこれ……


 じーっとタンポポ牛を見つめるキスチスは、やがて目を見開いて驚愕の表情になった。

 うわ、バレた。


「すげーよこの牛、何故か頭の中が魚の干物の事でいっぱいだ」


 どれだけ楽しみなんですかタンポポ、ボクですらこの二人に会うまででやめましたよ。ボクまですげーと感心しましたよ。


「それは珍しいの?」


 アルクルミが興味を持って聞いている。そりゃ珍しいでしょうよ。


「珍しいのなんのって、魚の干物も凄いけど、例えばあの牛なんか――」


 とキスチスが他のモンスターの心を読み取ろうとするが。

 おいまて。


 この場にいてはいけないモンスターがもう一体現れて、ボクを見て突っ込んで来てるじゃないか!

 突入してくるのっぱらモーモーに慌てて三人が戦闘態勢に入るが、役立たずの三人ではどうしようもない。


『モモォー!』


 雄たけびを上げたのはのっぱらモーモーだ。

 いや突っ込んで来るのっぱらモーモーではなくて、荷車を引いたのっぱらモーモーなのだが。


 タンポポモーモーは現れたのっぱらモーモーに激しくモーモー言っていた。

 もしかして会話してるんじゃないだろな……


 ちょっと苦笑していると、話が通じたのかそもそも会話なんか最初から成立していないのかわからないけど、普通ののっぱらモーモーは特殊部隊モーモーに追い払われて去っていった。

 のっぱらモーモーの世界にも力関係があるのだろうか。


「すげー! 追い払ったぞこの牛!」


 キスチスが興奮気味で感動しているが、やがて不思議そうな顔になる。


「でも変なんだよな、私が知ってるモンスターはどいつもこいつも『こいつ襲ってやろう』くらいしか考えて無いのに、さっきのヤツはこの子を見てただ興奮してるだけみたいな、攻撃とは違う私が見た事のないモンスターの感情だったよ。まあ、魚の干物よりはインパクト薄いけどさ」


 この子とはボクの事か。

〝モンスターを魅了する〟それがボクの男の娘のスキルなのだ。


 迷惑なスキルなのだ。



 帰り道、一緒に歩いているキスチスがこの牛はステーキ何枚分だろうか、と夢のようなじゃなかった、とんでもない事を言い出した。


 即座にボクのお腹が『ぐう』となる。


 タンポポ牛がジト目でボクを見ている。あ、これは抗議の目ですね。

 た、食べませんから、あなたは干物の事だけを考えていてください。


 ほらボクの目を見てください、信頼できる目でしょ?


 ボクの目を見ているタンポポ牛のジト目からは、信頼の文字は微塵も感じられなかった。


 心外である。


 次回 「いつもと森の様子が違うんですけど」


 カレン、木に引っかかった白い布を発見して慌てる


 今回のお話のアルクルミの勘違い目線は

 並走している作品「モンスターはお肉なのです!~」の

 第6話 「カエルケロケロまたケロケロ」で読む事ができます

 よろしかったらそちらも読んでみてください

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